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3章 龍王国
第90話 フロートボード
しおりを挟む「とりあえず、やって見せるのじゃ。」
昼食後、ナレアさんが再び胸元からフロートボードを取り出して上に乗る。
てっきり波乗り中のサーファーみたいな体勢で乗るのかと思ったら腕を組んでボードに対して横に仁王立ちしている。
もしかして進行方向こっち向きなんだろうか?
そう思っていると仁王立ちしたままのナレアさんが横向きにすーっと滑るように動いていく。
あ、やっぱり進行方向はそっちか。
仁王立ちポーズのまま横に滑っていく姿は物凄くシュールだ。
「中央に設置されている魔晶石に魔力を流し込めばその場に浮くのじゃ。後は進みたい方向とは逆の方向にある魔晶石に魔力を流せば進むのじゃ。普通の魔道具と違うのは魔力を流し続ける必要があるのと、込めた魔力量で速さが変化することじゃ。」
これは、神域にあった魔道具と同じタイプ?
そういえばさっき見た時、魔晶石の中に魔術式の光が見えなかったな。
遺跡で見つけたって言ってたけど、確かデリータさんは遺跡から理解できない魔術式の込められた魔道具が見つかるって言っていたような......でもこれはそもそも魔術式が無いタイプの魔道具だ。
「それと表側についてる魔晶石、これにも魔力を込めておかないと風やらなにやらで吹き飛ばされたり飛んできたものにぶつかったりと非常に危険じゃ。」
防護膜が張られるって感じなのかな?
「これは確かに操作が難しそうだな。しかも魔力を流し続ける必要があるってことは俺には無理そうだな。」
「うむ、かなりの魔力量に精密な魔力操作が必要になるのじゃ。妾も最初の頃は怪我が絶えなかったのじゃ。今では手足のように動かすことが出来るがのう。」
そう言いながら俺たちの周りをぐるっと回った後目の前で停止する。
宙に浮いていたフロートボードが地面に着地してナレアさんがボードを明け渡す。
「ではやってみるといいのじゃ。」
「じゃぁ、私からやってみもいいかな?」
「えぇ、いいですよ。」
リィリさんが嬉しそうにフロートボードに乗る。
「まずは裏側の中央の魔晶石にゆっくり魔力を込めるのじゃ。他の魔晶石に魔力を流さないように気を付けないとひっくり返るから注意じゃ。」
リィリさんが集中するように目を瞑りながら魔力をボードの裏にある魔晶石に魔力を流していく。
フロートボードがゆっくりと浮かび上がる。
「うむ、そのまま維持しながら今度は表側の魔晶石を起動するのじゃ。」
「......。」
リィリさんの表情が少し険しくなる。
それでも魔晶石が起動したのか淡く光を発する。
「うむ、素晴らしいのじゃ。ではさらに動きたい方向とは反対の魔晶石に魔力を流すのじゃ。ゆっくり流さないと一気に加速するから今まで以上に慎重にやるのじゃ。」
少ししてリィリさんの乗ったフロートボードが動き出し、その場でくるくる回りだす。
「あ、あれ?な、なんっ!?」
「む、落ち着くのじゃ!魔力の供給を止めるのじゃ!」
リィリさんが慌て、魔力供給が乱れる直前でナレアさんの注意が飛ぶ。
魔力供給が止まったフロートボードは地面に着地するがリィリさんは軽く投げ出された。
「こ、これ難しいね......あっちこっちに魔力流しながら魔力の量も慎重に調整しないといけないし......。」
「ほほ、いきなり自在に動かせたら妾の立つ瀬がないのじゃ。」
「まっすぐ動かしたかったのになんかその場で回っちゃうし......。」
「魔力を流す魔晶石を間違えていたようじゃな、曲がるための魔晶石に魔力を込めてしまったせいでその場で回ってしまったのじゃ。しかし初めてでそれだけ動かせれば中々筋がいいのじゃ。少し練習すれば動かせるようになると思うぞ。」
「かなりいっぱいいっぱいだったけどなぁ......。」
「練習あるのみじゃ。しかしリィリの魔力量なら動かすのは問題ないと思っておったがやはり見事な魔力量じゃな。」
「私の魔力量......?」
「うむ、妾はある程度魔力量が感じ取れるのでな。」
「へぇ、すごいねぇ。」
「まぁ、ざっくりしたものじゃがな。それで言うとケイも動かすのは問題ないじゃろうな。」
ナレアさんがこちらを見ながら言ってくる。
「そうなんですか?」
「うむ、見事な魔力量じゃ。」
俺は母さんから魔力量は保証されていたからなぁ。
唯一自信がある所じゃないだろうか......?
リィリさんも魔力量はダンジョン一つ分くらいはあるのかな?
「残念ながらレギ殿は厳しいじゃろうな。」
「あぁ、俺はこいつらと違って普通だからな。」
「......普通の人はあんな戦い方出来ないと思いますが......。」
普通ってなんだろうね......?
「とりあえず、ケイ乗ってみるといいのじゃ。」
「わかりました。」
俺はゆっくりフロートボードに乗ってみる。
日本にいた頃はサーフィンどころかスケボーすらやったことないんだよね......。
ボードの中心にある魔晶石に魔力をゆっくりと流して浮かび上がる、そこから表側の魔晶石っと......。
「随分器用じゃな。」
「ここまでは何とか......でもちょっと動かすのはきついかもしれないです......。」
後方の魔晶石に少しづつ魔力を流してみるがリィリさんと同じようにその場で回り始めてしまう。
後方に流す魔力を一度止めるとじわじわと回転がゆっくりになっていく。
「ふむ、もう少し気持ち後ろの方に魔力を流してみるといいのじゃ。慎重になりすぎて一つ手前の魔晶石に魔力が流れてしまっておる。」
「わかりました。」
後ろを意識して魔力を流してみる。
するとゆっくりと前方に向かってフロートボードが進みだした。
「うむ、ケイも筋がいいのう。」
日ごろから魔力操作の練習をしっかりやっているおかげかな?
でもこれ自在に動かすのはかなり難しいよね......?
なんとか進めるようになったけど......これブレーキかけたり方向を変えたり出来るかな......三カ所に魔力流すので精一杯だ。
魔力を流すのをやめてフロートボードを着地させる。
「これは難しいですね......これを日常的に使っているんですか?」
「うむ、お蔭で魔力操作がかなり上達したのう。」
たしかに練習にはかなり良さそうだ......ちょっと欲しいかもしれない......。
「このフロートボードって一つしかないんですか?」
「ん?なんじゃ欲しいのか?」
「えぇ、出来れば。魔力操作の練習に良さそうなんで。」
「ふむ、妾が見つけたのはこれだけじゃが......同じ年代の遺跡に行けばあるんじゃないかのう?」
「なるほど......遺跡の魔道具って売られていたりしないんですか?」
「遺跡の魔道具は貴重じゃから売りに出されることは殆どないのう......それに魔術式のない魔道具は魔道具と認識されておらんからのう。」
魔道具として認識されていない......?
「魔術式のない魔道具は魔族であっても起動できるものは殆どおらんのじゃ。魔力量が足りなくてのう。研究機関でもただの装飾品、もしくは魔術式が消えてしまった魔道具と認識されておるのじゃ。」
「そうだったんですか......。」
確かに起動させることが出来ない魔道具は魔道具って気づかないよね。
神域から持ってきている魔道具も華美なだけの普通の武具って見られているみたいだし。
まぁだからこそとっておきって感じでいいと思う......早い所レギさんでも使えるようにあの魔術式作れるようにして実験してみないとな......。
そんなことを考えていたらシャルが近づいてきた。
どうやらグルフへの扱きがひと段落したようだ。
「シャルはこのフロートボード乗れるかな?」
『試してみてもいいですか?』
「ナレアさん、シャルにフロートボード使わせてもらってもいいですか?」
「構わんが、大丈夫かの?」
ナレアさんの許可が出たのでシャルがフロートボードに乗る。
なんか昔動画でみたサーフボードに乗る犬みたいで可愛いな。
『動かします。』
シャルがそう言うとフロートボードが浮いて前に向かって進み始める。
どんどん加速してターン、さらに一気に加速してからのドリフトのような曲がり方を見せた後スピードを緩めていく。
最後に俺達の周りを一周したシャルはフロートボードを停止させてこちらに近づいてくる。
うん......物凄くあっさりと乗りこなしてたね。
『足を動かさずに移動するのは不思議な感覚ですね。』
「とんでもないのじゃ......。」
ナリアさんの呟きが妙に耳に残った。
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