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3章 龍王国
第88話 実は……
しおりを挟む「ぐ、グルフ!大丈夫!?」
ぐったりと倒れているグルフに慌てて駆け寄る。
激しくお腹が上下しているから生きているのは間違いないが、物凄い勢いで飛んできたからな......。
『最近弛んでいるようだったので、少し強めに訓練をしただけです。問題ありません。』
問題......ないかなぁ......?
体力を回復してあげることは出来るけど、回復してあげたら即地獄の特訓再開だろう......。
しんどそうだから少しだけ回復してあげるか......?
いや、確実にその回復をシャルは見抜くだろう......そうなれば再開待ったなしだ。
とりあえずグルフのお腹を優しく撫でながらどうするのが一番いいのか考える。
グルフが甘えるように鳴くがいつものように甘えん坊というよりも必死な感じだ......。
『どうやら体力が回復したようですね。では休憩は終わりです。グルフ行きますよ。』
休憩みじかっ!?
せめて体力回復魔法を掛けてあげよう。
『ケイ様。回復魔法は必要ありません。疲れている状態での訓練を始めます、必要なのは気合と根性です。』
うん、色々と危険な台詞だ。
後、回復魔法発動する前にバレた。
シャル、こわっ!?
グルフの尻尾を咥えてずるずると引きずっていくシャルを俺たちは見送った......。
グルフ......ごめんよ......俺は無力だ。
「シャルは相変わらず容赦ないな......。」
「アレはどういう事じゃ?あの強大な魔獣よりシャルの方が格上なのか?」
「うーん、多分シャルちゃんの方が圧倒的に格上だと思うよ。私たちの中で一番強いのはシャルちゃんだね。」
「恐ろしい奴なのじゃ......。」
「まぁ、この状況だけを見たらそう思うかもしれませんけど。シャルもとても優しくていい子ですよ。とても頼りになりますし。」
「それは何となく、ケイに対してだけの様な気もするのじゃ。」
「そんなことはないよ。まぁケイ君に対しては特別そう言う所はあるけどね。」
ナレアさんの呟きにリィリさんがフォローを入れてくれる。
うん、俺が言うよりリィリさんが言う方が説得力あるよね。
「ふむ、まぁリィリ殿が言うならそうなのかもしれぬのう。」
「あはは、もう手合わせもしたことだしそろそろリィリって呼んでくれると嬉しいな!」
「む?それは済まなかった。宜しく頼むのじゃ、リィリ。」
「うん、よろしくね!ナレアちゃん。」
二人は笑いながら固い握手を交わす。
今はまだ午前中のはずだが二人の後ろに夕日の河原が見える気がする......。
後レギさんとの手合わせがすっかり忘れ去られていませんかね?
レギさんも武器を背中に納めようとしてるし......。
「む、あまりのことに忘れるところだったのじゃ。レギ殿済まぬ、相手をしてもらえるかの?」
「あぁ、いいぜ。」
レギさんは武器を構えながらナレアさんと距離をとる。
「レギにぃはナレアちゃんとは相性が悪いだろうねぇ。」
「レギさんはパワー系ですしねぇ、スピードも結構あって遠距離から近距離まで対応できるナレアさんとは戦いにくそうですね。」
レギさんの不利を二人で話していると手合わせが始まった。
そういえば今レギさんは魔力視の強化魔法がかかっていない。
身体強化はある程度のレベルではかかっているけど......。
「おおぉぉぉぉ!」
レギさんが雄たけびを上げながらナレアさんにまっすぐ突っ込んでいく。
ナレアさんは迎撃のために魔力弾を撃つがレギさんにはそれは見えていないはず。
そのままレギさんは魔力弾に突っ込み......何事もなかったかのように突進を続けた。
「「うわぁ......。」」
俺もリィリさんも魔力視で見ているため降り注ぐ魔力弾をものともせずに前進を続けるレギさんの姿にちょっと引く。
「あれ、結構凄い衝撃だったよね......?」
「そうですね、一発貰ったら数メートルは吹っ飛ばされるくらいには......。」
「それをアレだけの数貰って少しも怯んでないみたいだけど......。」
「あれがシャルの言う気合と根性ってやつなのかな......?」
「シャルちゃんそんなこと言ってたんだ?」
「えぇ、先ほどグルフを引っ張っていく直前に。」
「シャルちゃんは相変わらず苛烈だね......でも、レギにぃのアレはもしかしたら鈍感すぎて気付いてないだけかも......。」
「流石にそのレベルの攻撃ではないと思いますが......いや、気合と根性で耐えきれるものでもないと思いますが。」
レギさんの頑丈さについてアレコレ言っているとナレアさんが後ろに大きく跳びながら横薙ぎの一撃を放つ。
レギさんは前に構えた斧を盾にしてそのままその一撃に突っ込みさらに前進を続ける。
「嘘じゃろ!?」
ナレアさんの悲鳴がここまで届く。
まぁその気持ちはよく分かる。
揺らぎもせずに突っ込んでくるなんて想定外にもほどがあるだろう。
攻撃を意に介さず突き進んでくる相手は遠距離線を主軸にする者にとっては恐怖の対象だよね。
ナレアさんが横に走りながら魔力弾を連射しているがレギさんは相変わらずまっすぐ突っ込み距離を詰めていく。
地面の陥没も使っているようだが、多少体制を崩したところで追撃が意味をなさない。
俺に使ったような大きな陥没もしくはあの強烈な光を使えばレギさんを無力化出来るかもしれないけど......恐らくレギさんはその二つを警戒しているはずだ。
だとしたらレギさんは無策のままではないだろうし、ナレアさんはその策を一番警戒しているはずだ。
「レギにぃは強引に突破していくけど、やっぱりあの地面陥没はやりにくいね......あの突進は小技じゃ止められなさそうだけど......。」
「多分今までにない手札がない限り、ナレアさんの決め手はあの強い光じゃないですか?」
「あの光ってそんなにキツイの?遠くからだと眩しくはあったけどそこまで脅威には感じなかったけど......一瞬だったし。」
「あぁ......なるほど、確かに近距離で体験しないとアレの脅威は分かりにくいかもしれませんね......もしレギさんがリィリさんと同じ考えだったら不味いかも......。」
リィリさんと二人で予想し合っているうちにレギさんが弾幕を抜けて遂にナレアさんを間合いに捉える。
レギさんが大きく横薙ぎに攻撃をする......あれって刃を潰してても当たったら大怪我じゃ済まないような......。
そんな心配をよそにナレアさんはレギさんの攻撃をしゃがんで躱すとレギさんの顔めがけて光を放った。
そこそこ距離があったのと光量調整機能を強化していたので目が眩むほどの光には感じなかったが至近距離で浴びたレギさんは武器を投げ出してしまっていた。
無防備になったレギさんの鳩尾を目掛けてナレアさんの拳が叩きこまれ......ることはなく、その腕をレギさんが掴んで捻り上げ関節を極めていた。
「いだだだだだだ!!」
「お、すまねぇ。目が見えねぇもんで手加減に失敗しちまった。」
「ま、まいったのじゃ!」
ナレアさんの悲鳴と投降の叫びが響き渡る。
俺とリィリさんの予想を覆してレギさんの勝利に終わった。
レギさんはナレアさんを解放したが目元を抑えてその場に座り込んでしまっている。
リィリさんと戦闘態勢を解いた二人に近づくとレギさんの声が聞こえてきた。
「つぅ......ケイの奴がもろに光を浴びても意外とすぐに立ち直っていたから一瞬眩しいだけかと思ったが......これはきついな......。」
「本来はそんな感じで暫く行動不能になるような効果があるのじゃ。もっと強くすると暫くの間夜も寝られなくなるみたいじゃぞ。あんなに早く立ち直ったケイの奴がおかしいのじゃ。」
「くっそ、ケイの奴め......。」
「いや、なんで僕の文句になるんですか。今の流れ完全に八つ当たりですし。」
「ケイがレギ殿に欺瞞情報を流したのが悪いのじゃ!」
「欺瞞情報って......別に騙したわけじゃ......。」
「謝るのじゃ!レギ殿に偽情報流してごめんなさいと!妾に勝ってごめんなさいと!」
「レギさんには少し申し訳ないと思いますけどナレアさんのは違いますよね!?実はめちゃくちゃ悔しがってます!?」
「そんなことはないのじゃ!でもとりあえず謝るのじゃ!」
「お前ら人をダシに喧嘩始めるなよ。」
「本当に仲がいいねぇ。」
「とりあえず、俺は目を治してもらいたいんだがな......。」
レギさんとリィリさんが何かを言っているようだが、今の俺たちの耳には全く入って来なかった。
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