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3章 龍王国
第87話 きちくのしょぎょう
しおりを挟む「おつかれさん。随分と派手な戦いだったな。」
「おつかれさまー。二人とも凄かったね。」
ナレアさんが落ち着いたのを見計らってレギさん達が労いの言葉と共に近づいてきた。
「結構思いっきり行ったのじゃが上をいかれてしもうた。ダンジョン攻略者は伊達ではないのう。」
思案タイムは終わったのかナレアさんが朗らかに言葉を返す。
「こっちは距離を空けられると手も足も出ないので必死でしたよ。近づいたら近づいたで地面が陥没したり目つぶしされたりと散々でしたけど......。」
「こちらだってとんでもない速さで動き回られて目が回りそうだったのじゃ。本来であれば距離を保ったまま戦うつもりじゃったというのに。」
「そう言えば最初は距離を取ろうとしてましたけど、かなり動きが速かったですね......あれも魔道具の効果ですか?」
「うむ、魔道具の効果で相違ないが......それ以上の速度で動いておいて何を言っておる。」
「まぁ僕の場合はそれが売りですから、そこで負けてたらもう勝ち目ないですよ。」
「普通は魔道具を使った動きに生身の人間は勝てないのじゃ。あれは一瞬で効果が切れるからこそ効果が大きく、だからこその切り札なんじゃからな。」
「なるほど......あれが魔道具を使った前衛の人達の切り札ってことですか。」
「うむ、冒険者連中に一番人気のある魔道具じゃな。まぁ妾にとっての切り札は目つぶしのほうだったんじゃがの。」
「あぁ、あの光ったやつですか......あれは強烈でしたね......。」
「アレだけで暫く行動不能にさせることも可能じゃ。今回はそこまで強く光らせなかったのじゃが......それでも回復するのが早すぎるのじゃ。もう少し嬲れると思っておったのに......。」
「なぶ......早く回復して良かったと心から思えますね......。」
不穏な台詞に背筋にヒヤッとしたものが走る。
「しかしアレだけ魔道具を連射するとは、魔力量に自信があるというのも頷けるな。」
「初めて見る効果の魔道具ばっかりだったね。ナレアちゃんのオリジナル?」
「全てではないがのう。そう言えばケイは途中から魔力視が使えるようになったみたいじゃったが......。」
「......なんか見えるようになりました。」
「戯け!もう少しマシ嘘をつくのじゃ!」
凄い怒られてしまった。
まぁ適当過ぎたし致し方ないか......。
「魔力視を使ったらナレアさんの攻撃が見えるようになるんじゃないかと思ってちょっと使ってみました。」
「真面目に答える気が無いのはよく分かったのじゃ。」
ナレアさんが半眼になってこちらを睨んでいる。
というか今にも殴りかかってきそうな雰囲気だ。
「じゃぁナレアちゃん、次は私とやろうか!」
「......うむ、ケイは随分とけち臭いようじゃからな。あんなのは放っておいて仲良くするのじゃ!」
そう言ってナレアさんとリィリさんは少し離れて向き合う。
レギさんと俺は邪魔にならないように後ろに下がった。
「怒らせちゃいましたか?」
「そんなことはないだろ。模擬戦でアレだけ手の内を晒したんだ、十分満足していると思うぞ。」
二人の手合わせを見ながらレギさんと雑談に耽る。
「でも手合わせが終わってからずっと不機嫌でしたが......。」
「そうか?俺には実に楽しそうに見えたが。」
ずっとぷりぷりしていたような気がするけどな......。
「うーん、そうなんでしょうか?」
「奥の手を全て教えろなんて本気で言うわけないだろ?寧ろ色々と見せすぎってもんだぜ?」
「それは確かに......。」
強化に回復、さらに弱体まで見せてしまっている。
「特に最後のアレはなんだ?俺も知らなかったんだが......。」
「あぁ、あれは弱体魔法です。強化の反対で身体能力を弱めるって感じですね。手足の力を弱めて立てなくしたんですよ。まぁ想定より効果が高かったんですけど。」
「立てなくしたって......そんな簡単に出来るのか?」
「出来ちゃいましたね......これからの練習次第ですけど......かなり使い勝手良さそうです。」
「前、ファラの配下で街を制圧できるって話をしたが......もうケイ一人で軍隊倒せるんじゃないか......?」
「いくら何でも無理だと思います......数には勝てないですよ......。」
俺の魔法は対個人って感じがする。
遠距離で戦うのは難しいし、相手が数人ならまだしも......数人相手なら何とかなるってのもどうかと思うけど......。
それにナレアさんみたいに魔道具を駆使されれば手も足も出ないままやられると思うしね。
ナレアさんの方に意識を向けると二人は接近戦に突入した所だった。
リィリさんの双剣をナレアさんが素手で捌いている。
「ナレアさんの体捌きというか体術ですかね?かなり戦いにくかったです。」
「魔術師は武器を持たない奴が多いからな、体術ってのも頷けるが......接近されてもあれだけ戦える魔術師は初めて見たな......素手で戦ったら負けるな。」
体術だけか......強化魔法無しなら間違いなく負ける......というか勝負にもならないだろうな......。
「多分ですけど、ナレアさんは一人で遺跡に行ったりしているらしいので近接戦闘も出来ないと危険なんでしょうね。」
「遺跡に一人で......?そりゃ尋常じゃないな......危険なんてもんじゃないと思うが......。」
同じことナレアさんに言われていましたけどね......。
やっぱりどっちもどっちってことか......。
そんなことを思いながら二人の戦いを見ていると決着がついた。
リィリさんが拳の間合いから一歩下がろうとしたところで地面を陥没させられて転ばされた。
そこにナレアさんの追撃が決まったのだ。
「くぅー!地面が凹むのはケイ君との戦いで見ていたから知ってたのに!いざやられると対応が難しい......!」
「いや、ギリギリだったのじゃ。あの流れるような剣捌きはとても捌き切れるものではなかったでな、辛うじて間合いを潰すことが出来なければそのまま負けていたのじゃ。」
「うーん、もう少し攻撃の繋がりを途切れさせないようにしないといけないけど......足元がおろそかになってるかな......ケイ君にもよく踏み込んだ足を狙われるんだよね。」
「ケイと戦うと疲れるっていうのはさっきの一戦でよく分かったのじゃ。あやつは戦い方がいやらしいのじゃ。」
「うんうん、ナレアちゃんは遠距離で攻撃できるけど私の場合はずっと接近戦だからね。張り付かれるようにうろちょろとされて......。」
「物凄く鬱陶しいのじゃ。」
「うんうん、大人しそうな顔して物凄く意地の悪い動き方をするんだよね。」
「いや、性格もひねくれておるのじゃ。妾なんか身動きが出来ないように地面に転がされた後に見下ろされて、『俺の勝ちだな』とか言われたのじゃ。」
「そんなこと言ったんだ?ひどいなぁ。」
言って......いや、似たようなことは言ったけど......でもそんな感じじゃなかったですよね?
って言うか途中まで反省会だったのに後半俺の悪口しか言ってなかったよね?
「すっかり弄られ役になっちまったな......。」
「何が悪かったんですかね......。」
「それはわからねぇな。」
「レギさんもすぐに裏切りますしね......。」
「それは仕方ねぇな。」
「......。」
俺の味方はシャル達だけのようだ。
そう言えばシャル達はどうしているんだろう?
模擬戦が始まってから少し離れているみたいだけど。
「レギ殿!お手合わせお願いするのじゃ!」
「そいつは構わねぇが、休憩しなくていいのか?ぶっ続けだぞ?」
「うむ、まだ問題ないのじゃ。レギ殿さえよければ直ぐにでもお願いしたいのじゃ。」
「あぁ、問題ないぜ。いっちょやらせてもらうか。」
そう言ってレギさんが背中に背負っていた斧に手を掛けたところで大きくて黒っぽい塊が俺たちの側に飛んできて盛大に砂埃を巻き上げる。
全員が臨戦態勢をとってそちらに身構えた。
砂埃が消え、現れたのはぐったりとしたグルフとその向こう側に子犬姿で悠然と佇むシャルの姿だった。
『申し訳ありません、ケイ様。少し飛ばし過ぎました。』
何とも言えない空気が辺りを包み込んだ。
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