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3章 龍王国
第85話 模擬戦の始まり
しおりを挟む体を解すようにナレアさんが肩や腰を回している。
武器は持っていないようだけど、使わないのかな?
いや、不思議な胸元から取り出す可能性があるか......。
「よし、準備はいいのじゃ。どこからでもかかってくるがよい。」
「ケイ、気を付けろよ!魔術師と戦う時はな......。」
「レギ殿!アドバイスは無しなのじゃ!」
「すまねぇ、了解だ。存分に楽しんでくれ!」
魔術師と戦う時はなんだろう......物凄く気になる所で切られた。
でもまぁ、初見の相手と戦う練習になるか......。
腰に差してあった訓練用のナイフを構える。
彼我の距離は結構ある。
一気に詰め寄ることも出来るけど......距離を詰めるべきなのか空けておくべきなのか......。
いや、空けておく意味はないな......俺には遠距離で攻撃する手段はない。
とりあえずナレアさんも遠距離から火やら雷やらで攻撃してくるってわけではないようだ......まさか銃みたいに何かを撃ってくるってことはないよね......?
「ケイ君慎重になってるね。」
「あぁ、様子見はいつもの事だが......今までならここまで距離を取ったままではいないな。接近戦で相手の対応を計りたがる。まぁ、このままじゃケイは打つ手がないからな。先に動くとは思うが......。」
強化した聴覚がレギさん達の会話を拾う。
ナレアさんの方は全く動きがないし、レギさんの言うようにこっちから前に出ないとダメだとは思うんだけど......でも物凄く待ち構えている感があって前に出にくいんだよね......。
この前のトカゲといい最近攻めあぐねることが多いな......やっぱり遠距離での攻撃手段は用意しておかないといけないようだ。
でもこのままじゃ埒が明かないな。
よし......徐に歩いてナレアさんとの距離を詰めていく。
普通に歩いて近づき始めた俺に一瞬驚きの表情をナレアさんは浮かべたがすぐに表情を引き締める。
後十メートル程の距離になった瞬間ナレアさんが右手をこちらに突き出した。
この動きはあの時の金髪にーちゃんと同じか?
その動きが見えた瞬間左斜め前方に向かって一気に加速する。
次の瞬間後方で何かが弾ける音が聞こえたが、やはり先ほどの距離がナレアさんの射程ということだろう。
このまま一気に距離を詰めようとしたがナレアさんが一気に後方へと跳ぶ。
ってナレアさん動きが速い!
強化を掛けた俺程ではないがその移動距離も速度もかなりのものだ。
このまま一気に距離を詰めようとしたのだが、ナレアさんがこちらに向かって手を振る。
また見えない何かを飛ばしてきているのか?
真横に飛んだが元居た場所に何かが着弾したような様子はない。
視線を元に戻すと体勢を立て直したナレアさんが少し笑っている気がする。
......体制を立て直すためのブラフだったか?
とりあえずナレアさんが後ろに飛んだおかげでまた距離が空いてしまっている。
先程ナレアさんは十メートル程の距離で攻撃を開始した。
仮にそれを最長射程と考えるならば後二、三歩前に出ればナレアさんの射程内に入る。
一先ずナレアさんに対して斜めに向かって移動して距離を詰めるか......でもその前に強化魔法を追加しておこう。
一気に踏み込んで再度接近を試みる。
ナレアさんが手をかざしてくるのが見えたので一気に加速して照準をずらす。
一気に速度を上げた俺にナレアさんは驚いた表情を向けた後、かざしていた手を下げた。
この速度だと狙いをつけるのが難しいって所かな......?
このまま狙いを絞らせず接近していく。
ナレアさんは距離を開けるように動いているが俺の近寄る速度の方が上回っている為逃げることが出来ない。
ナレアさんは距離を開けるのを諦めたのか足を止める。
距離を詰まったところでナレアさんが掌底を放ってきたので躱しながらナレアさんの背後にすれ違うように抜けた。
背後を取られたナレアさんは振り向きざまにバックハンドブローを放ってくる。
その場でしゃがんだ俺はナレアさんの軸足を手で払う。
「ぬぁ!?」
軸足を払われたナレアさんが短く悲鳴をあげるが体勢を崩しただけで踏みとどまられた。
体勢を崩したナレアさんの首を狙ってナイフを走らせる。
勿論刃は潰してあるし、当てるつもりもない。
しかしナイフが急所に届く前に目の前で強い光が発生して視界が塗りつぶされる。
「うわ!?」
今度は逆に俺が悲鳴を上げる羽目になる。
フラッシュバンって感じだろうか?音はなかったけど......。
視界が完全に潰された......目を開けられない。
とっさに距離を空けるが、後ろに下がって思い出した......この距離は不味い。
もっと距離を空けようと後ろに飛ぼうとしたがその前に何かに殴られたように吹き飛ばされる。
ナレアさんが近くにいる感じはしない、恐らく見えない何かを撃たれたんだと思うけど......さっき追加で掛けた魔力視の強化魔法も目を潰されていたら全く意味がない。
とりあえず立ち止まるのは不味い、目は見えないがとりあえず横っ飛びで逃げる。
ついでに治るかどうかわからないけど回復魔法を目にかけておく。
光量の調整がちゃんと出来るようになったのか、視界が元に戻る。
「む?もう見えるようになったのじゃ?」
少し離れた位置でこちらに手をかざしているナレアさん。
一度後ろに下がり距離を空けたいところだけど、ここは下がるべきじゃないと思う。
まっすぐの距離を詰めようと前に踏み出すとナレアさんから魔力の塊が撃ちだされるのが見えた。
魔力視を出来るようにしておいて正解だったようだ。
真正面から飛んでくる魔力弾を躱し一気に接近する。
最小の動きで攻撃を躱されたナレアさんの驚く顔が見えるが今度はこちらが掌底を放つ。
ナレアさんが俺の掌底を払いながら側面に回り込んでくる。
追いかけようと足を踏み込んだところで地面が小さく陥没して足を取られた。
「うぉっ!?」
前につんのめるような体制になった所を狙ってナレアさんの膝が俺の顔面に襲い掛かる。
「んがっ!」
強引に横に転がるように回転して膝蹴りを避けたが無防備になった腹に魔力弾が叩きつけられた。
一瞬息が止まったが一撃貰った勢いを使い崩れた体勢を立て直し、ナレアさんに一気に近づく!
ナレアさんの方も無理な体勢から魔力弾を撃ったせいか体勢を大きく崩している。
水面蹴りでナレアさんの足を狙ったが側転するように躱された。
曲芸か......!
でもまだ体勢は十分とは言えない、このまま一気に追撃を仕掛けようと足を踏み出したらまたも地面が陥没してこちらの体勢が崩れる。
この辺の地面おかしくない......いや、ナレアさんが何かやっているのだろう......これも魔道具の効果か?
追撃のチャンスを逃してしまった、ナレアさんは体勢を整えてしっかりと構えなおしている。
このまま距離を詰めてもさっきまでの焼き直しになるだけだろう、一度大きく飛びのき魔力弾の予想射程外まで下がる。
攻めている様だけど基本的に押されているな......。
魔力弾は威力を抑えているのか直撃されたもののダメージは全くない。
速度もあまりないので距離が空いて入れば特に問題はないだろう。
逆に地面が陥没するのとあの強烈な光はかなり嫌な攻撃だ。
あの速度の近接戦闘でも問題なく発動させられるようだったし有効な対抗策も思いつかない。
想像していた以上に魔術師相手の戦闘はきついな......普通に接近戦も出来るみたいだし......。
強化魔法に使う魔力を増やしてもっと身体能力を上げるか?
でもそうすると手加減が難しくなる。
今の時点で手加減をしながら動き回れる最大の効果だ......これ以上効果を上げると下手したら大怪我をさせかねない......。
他に何か方法は......俺に出来ること......。
そこまで考えたところで一つ思い出した......というか、なんで忘れていたのだろう。
自分の間抜けさ加減にちょっと呆れるね。
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