85 / 528
3章 龍王国
第84話 驚くのじゃ
しおりを挟むグルフと合流するために街道から離れた広場へとやってきた。
山も緑も多い龍王国は街道から逸れると簡単に隠れられる場所が多い。
その分街道の安全も確保しにくいんじゃないかな?
魔物とかよからぬことを考える人とかがいるみたいだしね。
「何もおらん様じゃがここでよいのか?」
ナレアさんがきょろきょろと辺りを見回しながら声をかけてくる。
「えぇ、僕たちがここに来たのは分かっていると思うのでしばらくしたら向こうからこっちに来ます。」
「ほう、随分と賢いのじゃな。」
「多分ここにいることは既に把握していると思うのでそんなに待たせないと思いますよ。」
「ふむ、では先に妾の移動手段をお見せするのじゃ。」
そういうとナレアさんは胸元に手を入れる。
財布......じゃないよな?
暫くして胸元から手を引き抜いたナレアさんの手には......。
「「「は!?」」」
ナレアさんの胸元から板のようなものがにゅにゅっと出てくる。
思わず出た俺たちの声が重なるのも無理はないだろう。
「どうしたのじゃ?斯様に驚いた顔を並べて。」
物凄くにやにやした顔でこちらを見ながら胸元から板を取り出すナレアさん。
してやったり感が半端ない。
でもこれにはびっくりだ。
胸元から取り出したのはサーフボードみたいな形でナレアさんの身長よりも大きい。
こんなものが一体どこから......。
「ほほ、こちらばかり驚かされておったからのう。実にいい気味じゃ。」
物凄く上機嫌なナレアさんは地面に板を置くと胸を張っている。
この板も気になるけどまずは......。
「これ......何処から出したんですか?」
「おなごの胸は不思議な魅力でいっぱいなのじゃ。このくらいのものは簡単に収納できるようになっておる!」
確かにそこには不思議な魅力が沢山あるのは否定しませんが......自分の身長よりも大きなものを収容できるような不思議はいくらなんでも兼ね備えていないと思いますが......。
「いくらなんでも無理だと思いますけど。」
「そんなにまじまじと胸を見つめるとは、いやらしいやつなのじゃ。」
ナレアさんが胸を隠すように両手を胸に当てる。
「そういう目線では一欠けらも見ていませんが......。」
しかし胸を見ていたのは事実なので視線をナレアさんの顔にあげる。
「まぁこっちについては後程教えてやろう。それより妾の移動手段のほうじゃな。」
そう言うとナレアさんはしゃがんで地面に置いた板をぽんぽんと叩く。
地面に置いた笹方のそれは先程も思ったがサーフボードのようにも見える......。
これはもしかしてあれか?
某タイムトラベル系映画に出てた......。
「もしかして......これ浮くんですか?」
俺がそう言うとナレアさんはびっくりしたように目を丸くしながらこちらを見つめる。
「なんじゃ?知っておったのか?」
「いえ、もしかしたらと思っただけです。なんとなく滑って移動しそうな形ですし。」
「ふむ、中々鋭いのう。これは妾が遺跡で発見した魔道具でな。原理はまだすべてが分かっているわけではないのだが......空中を滑るように移動することが出来るのじゃ。」
やはり、宙に浮くスケボー、いやサーフボードのようだ......。
「空を飛べるのか?」
レギさんが興味深そうに板に顔を近づける。
「いや、空を飛ぶと言う程ではないのう。拳二つ分程浮かび上がるといった感じじゃ。速度は中々のものでな、馬より速いのじゃ。」
そう言いながら板をひっくり返すナレアさん。
「ここにある魔晶石に魔力を流し込んで操作するのじゃが、見ての通り数が多い上に繊細な魔力操作が必要でのう。さらに必要な魔力もかなりのものでな、人族はおろか魔族であっても動かせるものはほとんどおらんじゃろうな。」
確かに魔晶石の数が多い......十個くらいか?
しかし魔力量か......ってことはもしかして......。
「ナレアさんは魔族なのですか?」
「うむ。まぁ妾の魔力量は魔族の中でも一番多いといっても過言ではないからのう。魔力量で妾に勝てるものなど......滅多にいないのじゃ。」
そう言いながらこちらをちらっと見るナレアさん。
これは煽てろってことかな......?
「へぇ、ナレアさんはそんなに凄い方だったんですね。」
「う、うむ......まぁ何事にも上には上がいるからのう。妾以上の魔力を持っているものも何人かは知っておる。」
反応が微妙......違ったみたいだ。
「なるほど、魔族の方以上に魔力を持っている人もいるんですね.....あ、こちらも来たみたいです。話の途中ですみませんが先に紹介してもいいですか?」
「うむ、これの動くところはまた後で見せてやろう。先に其方の騎獣を見せてもらうとするかの。」
そう言ってナレアさんは板を胸元にしまう。
本当に不思議な光景だ......。
「む?何か辺りの空気が変わったような......なんじゃ?妙に静かに......っ!?」
ナレアさんが何かを呟いていたが丁度その時近くの森からグルフが姿を現した。
「な、なんじゃと!?これは......いや、まさか......これがお主らの......?」
「えぇ、そうです。彼はグルフ。僕たちの仲間です。少し体が大きいので街中に連れていけなくて別行動が多いのですが、とても賢い子です。」
「戯け!少し所ではないわ!お主ら正気か!?このような強大な魔獣を使役するなど......!」
「気持ちはよく分かるぜ......俺も最初は決死の覚悟をしたもんだ。」
「あはは、グルフちゃんは見た目が怖いからねぇ。でも大人しくていい子だよ。」
そう言ってリィリさんはグルフに近づき手を伸ばす。
グルフは頭を下げてリィリさんに耳の付け根を撫でられると気持ちよさそうにしてリィリさんにすり寄っていく。
「ほら、こんなに甘えん坊なんだよ。」
そういえばリィリさんは初めてグルフと会った時も取り乱すことはなかったな。
ナレアさんもグルフの甘える姿を見て少し落ち着いたようだ。
ゆっくりとグルフに近づいていくナレアさん。
「確かにこの様子をみるに危険は感じられないが......妾も触って大丈夫かのう?」
「うん、いいよね?グルフちゃん。」
グルフは頷くとナレアさんに向かって頭を下げる。
ナレアさんはゆっくりと手を伸ばしそっとグルフに触れた。
「とても柔らかい毛並みじゃ。よく手入れされておる様じゃの。」
「ケイ君がいつも丁寧にブラシ掛けたり洗ったりしてるからねぇ。」
「ほぅ、ケイがやっておるのか。」
ナレアさんがグルフを撫でながらこっちを見る。
「しかしこやつに三人で乗ってさらに荷物も載せるのはいくら何でも狭くないか?」
「いえ、グルフにはレギさんとリィリさんの二人で乗ってもらっています。僕はシャルに......。」
「シャルと言うと......確かその子犬の名ではなかったか?」
「えぇ、僕はこの子に運んでもらっています。」
「それはいくら何でも無理じゃろ......。」
「えっと、シャル。戻ってもらっていいかな?」
『承知いたしました。』
シャルが返事をして元の姿に戻る。
「......。」
見上げる程の大きさに一瞬で変化したシャルをナレアさんが目を真ん丸に剥いて凝視している。
「これがシャルの本当の姿です。街中では目立つので小さくなってもらっているんですよ。」
「......もはや訳が分からぬ......妾、朝ちゃんと顔を洗って起きたつもりじゃったが......実はまだ夢の中なのでは......。」
「ナレアさん、大丈夫です。全て現実の出来事ですよ......。」
「......夢と言われた方が安心できたのじゃ......このようなことが出来るとは......ただの子犬ではないと思っていたのじゃが......これほどとは......。」
ナレアさんが考え込むように唸っている。
俺からしたらシャルは神域を出る時から一緒にいるし、グルフは神域の外で初めて会った魔獣だ。
シャルはともかくグルフくらいの魔獣は結構ごろごろいるのかと思っていたけど......やっぱりそうでもないみたいだね。
レギさんは灰王にやられたことがあったから大袈裟に言っているのかと思ってたよ......リィリさんは最初から普通に接してたしね......。
「とんでもない早さでここまでたどり着いていたからある程度は覚悟していたのじゃが、予想をはるかに上回るものが出て来たのう......正直ドヤ顔で懐からフロートボードを取り出したのが恥ずかしくなるレベルじゃ。」
あれフロートボードって言うのか。
「いえ、まだフロートボードの性能は見せてもらってないですけど、あれを懐から取り出した時点で物凄くびっくりしましたからお相子ですよ。」
「絶対にお相子ではないと思うのじゃが......まぁよいわ。フロートボードは手合わせの後でゆっくり見せてやるのじゃ。そろそろ手合わせを始めようではないか。今は思いっきり体を動かしたい、というかお主に一発かましてやりたいのじゃ!」
そういうとナレアさんはシャドーボクシングの真似事のような動きをする。
あれぇ?
なんか驚かされた仕返し的な雰囲気があるんだけど......。
俺悪く無くない......?
2
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる