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3章 龍王国
第83話 じわじわとせめるタイプ
しおりを挟む買い物を終えて宿に戻ると、既にレギさん達は戻ってきていた。
ナレアさんがいることに二人は驚いていたが、それ以上に精魂尽き果てたような俺の様子に驚いていたような気がする。
今は皆で食事をとりながら雑談をしていた。
レギさんとリィリさんは相変わらず上品に食事を進めているのだが、ナレアさんもまたとても丁寧な、洗練された動きで食事をとっている。
この世界は食事のマナーが厳しいのかとも思ったが、このテーブル以外の人達は至って普通......どちらかというとマナーなんて気にしないって感じの食事風景だ。
まるでこのテーブルだけ別世界のような上品さだと言える。
間違いなく俺が一番浮いているだろうけど......。
後このテーブルだけ別世界に感じるのは料理が運ばれて皿が下げられるペースが凄く早いってのも原因の一つだと思う。
「しかし先に着いた俺たちが言うのもなんだが、随分早い到着だな。」
「うむ、まさか負けるとはかけらも思っていなかったのじゃ。」
話題がナレアさんとの勝負の話になる。
ナレアさんと俺が会ったのはお昼頃。
会って早々ナレアさんに詰め寄られてすっかり忘れていたけど、普通に考えればナレアさんよりも早く到着するのは無理だろう。
自信があったのも頷ける話だ。
「絶対負けない勝負と思って仕掛けたんだねー。」
「......そ、そんなことはないのじゃ?」
すっと目線を逸らしながらナレアさんが答える。
「でも負けちゃったねー。」
「......うむ、勝負は時の運とも言うしな。やはり勝ち負けが分からぬからこその勝負よ。」
顔を背けてなければ説得力のある言葉だと思います......。
ナレアさんをじっと見つめると、それ以上首は曲がらないというくらい顔を背けられる。
「そっかぁ、ナレアちゃんはそんなにケイ君におねだりしたいことがあったんだねぇ。」
「......そ、そういうわけではないのじゃ?」
「へぇ?」
にやにやしながらナレアさんを見つめるリィリさん。
おぉ、リィリさんがナレアさんを弄っている!
俺では何を言っても切り返されていたというのに......これが年の功......あ、いえ、すみません。
そういうあれじゃないです。
失礼な事を考えた俺に即座に鋭い目線を向けるリィリさん。
俺は目を瞑りコップに注がれている酒を一口呑む。
その際少し手が震えていたとしても致し方ないことだと思う。
「......ふぅ、まいったのじゃ。それで?ケイは妾に何をさせるつもりなのじゃ?」
ナレアさんの中でも俺がお願いするのは確定なのか......。
「お?何だ、ケイ。まだ何もしてなかったのか?二人で宿に戻ってきたからてっきり......。」
「そっかぁ、お楽しみはこれからってわけだね。あまりひどいことしちゃダメだよ?」
「むぅ、絶対に勝てると思っていた勝負から一転、妾の貞操の危機なのじゃ。」
一瞬にして俺に矛先が向けられる。
おかしい、さっきまでの事は前振りだったと言わんばかりに三人で畳みかけてくる。
見事な連携だ。
とりあえず膝の上で座っていたシャルを抱き上げて背中に顔をうずめる。
まぁ子犬サイズだからうずめるというかもふもふに顔を擦り付けるって感じだけど。
『......ぅ......っ!』
少しシャルが強張ったような感じがした。
急に抱き上げたからびっくりさせちゃったかな?
膝の上にシャルを下ろして優しく撫でる。
もふもふのおかげで少し気が落ち着いた。
「そんなことしませんよ......。とりあえず、お願いは考えておきます。」
「うぅ......時間をかけて嬲る気なのじゃ......。」
「うわぁ、ケイ君ってそういうタイプなんだ......人は見かけによらないって言うけど......。」
「いや、ケイは戦い方もそういう感じだろ。相手をじっくり観察して隙を伺い、死角を狙って削り、機を見つけたら一気に急所を取る。」
「でも突然強引に真正面から突破することもあるよね。」
「ケイと模擬戦をやるとすげぇ疲れるんだよな。一瞬も気を抜けないというか......。」
「とにかくこっちの体勢をを崩しにかかるよね。油断すると転ばしにかかってくるし、下手に手を出すと死角に移動されるし。」
「いやらしい戦い方なのじゃ。」
「模擬戦じゃなかったら速さに翻弄されている間に手足を削られ、無力化したところで首を掻き切られるって感じだな。」
「恐ろしいのじゃ......妾は一体どうなってしまうのじゃ......。」
なんで最終的にそういう話に戻るのだろう......いや最初からそういう話だったからか......。
「変なお願いは絶対にしません。」
「むぅ、言いきられるとつまらんのう。じゃが、戦い方に興味が湧いたのじゃ。もし良かったら明日手合わせせんかのう?」
「手合わせですか?」
「うむ、折角腕の立ちそうな者たちと知り合ったのじゃ。模擬戦でもいいからその実力を肌で感じてみたくてのう。ついでじゃから妾がどうやってこの街に来たかもお見せするのじゃ。」
「手合わせは別に構いませんが......移動手段を教えてもらってもいいんですか?」
「うむ、教えたところで誰にでもマネできることではないしのう。」
ここでナレアさんの移動方法を教えてもらうってことは俺達の方も教えないと不義理というものだろう......。
でも教えてもいいものだろうか?
そもそも教えたらいけない理由ってあったっけ?
グルフの事は他の人がみたら大騒ぎになるから人目につかないようにしているだけだ。
シャルについても似たような理由だが、シャルの場合は魔法の件もある。
でも体のサイズを変えるだけであれば問題ないか?
そういう生態ってことで納得してもらえないかな?
秘密にしておく必要があるのは魔法......特に回復魔法のことや神域産の魔晶石のことだろう。
うん、ナレアさんならグルフやシャルの事を見ても変なことにはならないと思う。
そう考えてレギさんの方をみると、軽く笑った後に頷いてくれた。
「分かりました、じゃぁ僕たちの方も移動方法を紹介しますね。」
「ふむ、よいのか?」
「ええ、僕らの場合は騎乗しているだけですから。ちょっと体が大きいので街から離れた位置に待機してもらっているんですよ。」
「ほう、と言うことはとんでもない速度で走る騎獣ということか......興味深いのう。」
そう呟いたナレアさんの雰囲気は、なんとなくマナスを見る時のデリータさんを彷彿とさせる。
あれ?ナレアさんってそっち系の人......?
肩にいたマナスも何かを感じ取ったのか、ゆっくりと俺の背中の方に移動している。
「うむ、明日は楽しみがいっぱいじゃの。レギ殿やリィリ殿も良ければ手合わせ願いたいのじゃがいいかのう?」
「うん、私はいいよ。」
「俺も構わないぜ。」
「では、よろしく頼むのじゃ。先に言っておくが、妾は魔術師じゃからの。色々な手を使うから覚悟しておくことじゃ。」
魔術師か......どんな戦い方をするんだろう?
ゲームとかで言うなら後衛だと思うけど......一人で戦えるのかな?
「模擬戦で魔道具を使うのか?」
「うむ、遠慮なくバンバンつかうぞ。」
「俺たちは構わねぇが......大丈夫なのか?」
レギさんが驚いたようにナレアさんに問いかける。
そうか、俺が使っているナイフと違って魔術式を起動させて使う魔道具は回数制限があるんだ。
普通は切り札的な使い方をするって前にレギさんが言っていたっけ。
それを模擬戦でバンバン使うって......。
「うむ。問題ないのじゃ。寧ろ練習で使いこなさないと実戦で使い物にはならんからのう。お主らも予め魔道具を使うと宣言しておけば心構えが出来よう?」
魔道具を使った戦闘か......初めて見るからちょっとワクワクするな。
今まで見た魔道具は生活用のものを除いても冒険のサポートに使うようなものばかりだ。
レギさんの言うような切り札みたいな魔道具は見たことがない。
「魔術師の方と手合わせ......いえ、そもそも戦い方を見るのも初めてなので楽しみです。」
「ほほ、それはいい事を聞いたのう。ならば、どうじゃ?負けた方は勝った方の言うことを何でも聞くというのは。」
「ま、またですか......?」
ニヤニヤしながらこちらを見てくるナレアさん。
「うむ、またじゃ。こういうのがあった方がより真剣に手合わせが出来るじゃろ?」
「そうですかねぇ......?」
凄く生き生きとしているナレアさん......俺に一体何をさせる気なんだろう......。
「まぁ、とは言え。今回は、前回程自信満々と言うわけではないのじゃ。何せ、かの有名な二人でダンジョンを攻略した冒険者じゃからな。胸を借りるつもりで挑ませてもらうのじゃ。」
そう言うとナレアさんはコップに入ったお酒を一気に飲み干した。
魔術師かぁ......攻撃方法も予想がつかないな......やっぱり遠距離から火の玉とか飛ばしてくるのかな......?
そういえば、神域で襲い掛かってきた金髪にーちゃんの見えない攻撃は魔道具によるものだったのかな......?
母さんに防がれていたようだけど。
いつか見つけてぶん殴る時の為に、ナレアさんに魔術師の戦い方をしっかりと経験させてもらおう。
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