83 / 528
3章 龍王国
第82話 覚悟を決める
しおりを挟む「どういうことじゃ!?どうやってここに来たのじゃ!?」
凄い剣幕で詰め寄ってくるナレアさん。
まぁ気持ちは分かるけど......。
「えっと......いつもよりちょっと急いで移動してきました。」
「答えになっていないのじゃ!どうやって来たのか聞いておるのじゃ!」
俺の事を掴んでがくがく揺さぶる。
シャルはしがみ付いて一緒に揺さぶられているが、マナスはタイミング良く肩の上で弾んで揺さぶりを避けている。
器用だな......。
「ナレアさん、落ち着いて下さい。注目を集めています。」
ナレアさんは手を離すと二歩程後ろに下がり半眼でこちらを見てくる。
「その落ち着き具合を見るに、本当に特別なことはしておらん様じゃな。レギ殿やリィリ殿ももう居るのかの?」
「えぇ、今は別行動中ですが一緒にこの街に来ていますよ。」
「何をどうやったら妾より早くこの街に着けるのじゃ......まだ出発前に会ったお主らが偽物じゃったと言われた方が信じられるぞ......。」
「ちゃんと本物でしたよ。」
「ならば今ここにおるのが偽物じゃな?」
「あの街に居ながらこの街に偽物を準備する方法が思いつかないんですが......。」
「偽物を昨日の夜の内に出発させていたとかじゃな......?」
「そもそも偽物を用意するほうが難しくないですか?」
「昨日の夜に出発して馬を使いつぶしながらリレーさせれば......。」
「偽物に加えて道中に替えの馬の用意も必要じゃないですか......出来たとしても、何のためにそこまでやるんですか......。」
「それはもちろん......。」
そこまで言ったところでナレアさんが顔を赤らめながらもじもじしだす。
「わ......妾に......い、いやらしいお願いをしようとしたのじゃろ......?」
「そ!そんなことしませんよ!?」
「次に会った時お前を食べたいと言っておったのじゃ!」
「天下の往来でこの人何言っちゃってるのかな!?」
物凄いことを結構な声量で言い放ったナレアさん。
なんかもう殆ど台詞の原型残ってないし......。
周りの人達からめっちゃ見られてます。
「と、とりあえずナレアさん!移動しましょう、というか移動してください!」
「ど、どこに連れて行くつもりじゃ?ま、まさか!?」
「いや、ほんと、謝るんで勘弁してください。そろそろ衛兵とか呼ばれそうなんです......。」
この人負けた腹いせにわざとこんなこと言っているよね?
まさか!?とか言いながら口元に手を当てていますけど、微妙ににやけているのが見えていますからね?
周りの人たちはチラチラとこちらを見ながらひそひそやっている。
まずい、本当に衛兵とか呼ばれたらシャレにならない。
「まぁ、とりあえずこのくらいにしておいてやるかのう。」
「......酷い目にあいました。」
「うむ、すまなかったのう。まぁ、そう拗ねるでない、これから宿に行くのじゃがケイはどうするのじゃ?」
にやにやとしながら謝ってくるナレアさんだが、一欠けらも誠意を感じない。
「はぁ......丁度宿に戻る所でした。ナレアさんは今到着したのですか?」
「うむ、まさか先を越されているとは思わなんだ。どうやってここに来たのか教えてもらえるかのう?」
「うーん、どうしましょうかねぇ?」
「なんじゃ、そのくらい教えてくれてもいいじゃろ?」
「さっき酷い目にあわされましたしねぇ......。」
「むう、心の狭いやつじゃな。」
「どんどん、教えたくなくなっていきますね。」
「ケチじゃ!」
ナレアさんは興奮すると言動が幼くなるのかな......。
「とりあえず、宿に行きましょうか。ここだと注目されていますし落ち着かないですよ。」
「ふむ、そうじゃな。つい、興奮してしまってのう。済まなかった。」
先程とは違いちゃんと謝っているナレアさん。
どうやら気持ちが落ち着いたようだ。
「いえ、大丈夫です。レギさん達は宿にいないと思いますが宿で話しますか?」
「ふむ、どうせなら皆が揃ってから話をしたい所じゃな。とりあえず荷物を置いたら外に出るとするか。ケイはこの後用事があるかの?」
「いえ、集めた情報を整理するくらいですね。」
急ぐ必要はないし、晩御飯の時に皆で情報を共有しながら整理しても問題はない。
「であれば、一緒に街を回らぬか?妾は何度か来たことがあるのでな、軽く案内してやろう。」
「いいんですか?」
「うむ、少し買いたいものがあるが、そこまで時間のかかる物ではないのじゃ。夜まで少し時間はあるし丁度よかろう。」
「じゃぁお言葉に甘えさせてもらいます。観光できるような場所や面白い場所はありますか?」
「そうじゃなぁ......。」
そんなことを話しながら俺たちは宿に向かう。
幸い部屋は空いていたようで部屋を取ったナレアさんは荷物を置いてすぐに戻ってきた。
戻ってきたナレアさんは先程と服装が変わっている。
「すまんのう、待たせた。」
「大丈夫ですよ。着替えられたのですね。」
「うむ、流石に旅装のままではのう。汗もかいたし砂埃も落としたかったのじゃ。」
「なるほど、あまりその辺は気にしたことがありませんでした。旅装も街着も殆ど同じですし。」
「身だしなみには気を付けるべきじゃ。少しの手間をかけるか否かで他人に与える印象はがらっと変わるのじゃ。」
「そうですね......気を付けます。」
「うむ。ケイのその素直さは美徳じゃの。」
今までのニヤニヤした感じの笑い方ではなく綺麗な笑顔を見せるナレアさん。
いつもそう言う風に笑ってくれるのならこちらも心穏やかでいられるんだけどな......。
「しかし、ケイはその服装で街の外を移動しているのか?随分と軽装のようだが。」
「一応埃避けにマントを被りますけどそのくらいですかね?」
「ちょっと買い物に出かけるといった感じの気楽さじゃのう。今までずっとそうしてきたのだから問題はないのかもしれぬが、気を付けるのじゃぞ?」
「はい、ありがとうございます。」
「うむ、では出かけるのじゃ。」
ナレアさんにが宿から出ていく。
続けて宿を出るとナレアさんが考え込むように顎に手を当てていた。
「どこから行くかのう。荷物になるし買い物は後回しがいいと思うが......。」
「何を買われるんですか?」
「少し旅装が痛んできたのでな。買いなおしておきたいのじゃ。」
繕うのではなく買いなおしなのか......ナレアさんは結構懐事情が良さそうだね。
「それと消耗品関係じゃな。前の街では色々あって準備する前に飛び出してしまったのじゃ。」
......それは随分な計画性で......本当に勢いで勝負を決めていたんですね。
「街の外に出るなら準備はしっかりするべきですよ。」
「ほほ、耳が痛いのじゃ。警告した直後にこれでは格好がつかんのう。」
そういったナレアさんはニッと笑う。
「まぁ僕が言っても説得力がないのかもしれないですけど......。」
「そうじゃな......まぁその件に関してはどっちもどっち。お相子って所じゃの。」
「あはは、そうですね。じゃぁ今後の為にもお店巡りにしましょうか。観光はまた今度案内してください。」
「ふむ、次のデートの約束か?」
「う......そういうつもりじゃなかったんですけど......。」
「つれないのう。もう少し女子を喜ばせるような言動はするべきじゃぞ?」
「そっち方面は......まぁ一応注意しておきます。」
あまり頑張るつもりはないけど......っていうかここ最近こんな話ばっかりだな......。
「それじゃぁ、買い物に行くとするかの。服は当然、お主が選んでくれるんじゃろ?」
「......いつの間にそんな話に?」
「女性の買い物に付き合うなら色々と覚悟しておくことじゃ。ダンジョンよりよっぽど危険と心得よ。」
どうやら知らないうちにダンジョンより危険な場所に足を踏み込んでいたらしい。
女性の買い物は長いってのは聞いたことあったけど......そこまで覚悟が必要な事だとは知りませんでした。
歩き出したナレアさんを追いかけながらこれから俺に襲い掛かる様々なことに戦慄を覚えるのだった。
2
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)
朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】
バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。
それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。
ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。
ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――!
天下無敵の色事師ジャスミン。
新米神官パーム。
傭兵ヒース。
ダリア傭兵団団長シュダ。
銀の死神ゼラ。
復讐者アザレア。
…………
様々な人物が、徐々に絡まり、収束する……
壮大(?)なハイファンタジー!
*表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます!
・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる