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3章 龍王国
第65話 油断良くない
しおりを挟む道中特に問題も起こらず、シャルが言っていたように昼時に村に到着した。
シャルは体を小さくして俺の肩に、グルフは申し訳ないけど村から少し離れた位置で待機してもらっている。
早くグルフに魔道具を作ってあげなきゃ......。
「今日はこの村で宿を取るんですよね?」
「そうなるな、次に休める場所の情報も必要だしな。まぁこの半日で三日分の距離を移動出来たんだ。旅程としては十分じゃないか?」
「えぇ、急ぐ旅ではないので。ゆっくり行きましょう。この村に何か名産とかあるといいですね、食べ物だと最高ですが。」
「そうだねぇ。とりあえず宿を決めちゃおう。この先の道筋とかおいしい物とかそこで聞いてみようよ。」
「そうですね、宿の場所をその辺の人に聞いてみましょうか。」
とはいえ、今はお昼時......村の入り口付近には人影が見えない。
「まぁ今の時間は店を構えているやつ以外は畑とかに出ているだろうな......もう少しすれば戻ってくるだろうが、まぁ適当にうろついてみようぜ。」
そう言ってレギさんが歩き出す。
「夜までは結構時間があるし、宿を決めて一息ついたら体動かしたいんだけど......二人とも付き合ってもらってもいいかな?」
「えぇ、構いませんよ。」
「俺もいいぜ。」
「ありがとう、よろしくね!」
村の中を歩きながら午後の予定を決める。
グルフもずっと外で一人だと可哀相だし丁度いいかな?
幸い、通りがかった人に聞いて宿はすぐに見つけることが出来た。
だが食事は夜のみの提供とのことで自分たちで用意した食事になった。
レギさんが言うには農村では一日二食、朝と夕方に食べるのが普通だそうだ。
まぁご飯は夜のお楽しみって所だね。
因みにこのまま北東方面に進むと街に着くらしい。
馬車で二日程の距離らしいので今から出ても夜までには着くと思うけど、予定通り今日はこの村で一泊することにした。
とりあえず戻ってきた時の為にお湯の準備だけお願いしてみんなで村の外まで出て来た。
いつも運動の時に使っていた森の広間のように視界を遮るようなものがないので村からかなり離れた位置に移動しないといけない。
グルフが見つかると大問題になりかねない......。
初めてグルフを見た時はレギさんも顔面蒼白になっていたもんね......。
「シャルこの辺でどうかな?」
村の施設の影すら見えないところまで移動してからシャルに問いかける。
この辺は見晴らしはいいが街道からも遠く人の気配は感じられない。
視界の先に森も無く、村の人たちは狩りとか出来なさそうだけど......お肉は貴重な感じかな?
『はい、この位置でしたら問題ないかと。誰かが近づいてくれば視界に入るより先に私が気付けます。』
「ありがとう、よろしくね。この辺で大丈夫そうです。」
「ありがとう、シャルちゃん。じゃぁレギにぃ一先ず相手してもらっていいかな?」
「おう。ケイ、魔法貰ってもいいか?前より少し強めで頼みたいんだが。」
「了解です......よし、前より強めにしました。いきなり全力出さないように気を付けてくださいね。」
魔法がしっかりかかったことを確認してからレギさんに告げる。
「おう、ありがとうよ。」
「いいなぁ、私も魔法かけてもらいたいなぁ。」
一つ一つの動作を丁寧に、確かめるように体を動かすレギさんを見ながらリィリさんが呟く。
「お前は無くても馬鹿力だろうが......。」
一回強化魔法無しの状態でリィリさんとレギさんが打ち合ったら、一合でレギさん吹っ飛んだからな......俺が受け止めてなかったら大怪我していたかもしれない。
バトル漫画みたいな吹っ飛び方だったもんな......。
「馬鹿力って失礼......。」
「......とりあえず今はこのままでいいだろ?ほら、かかってこい。」
「......うっかり当てちゃっても怒らないでね!」
仲いいなぁ......じゃれ合うって言うにはちょっと激しすぎるけど......。
二人が打ち合いだしたのを確認してから俺はグルフに話しかける。
「それじゃぁグルフ、強化魔法をかけてあげるから動く練習しようか。いつも通り鬼ごっこね。」
グルフが頷いたので身体強化魔法を掛ける。
ダンジョンに行く前、レギさんに強化魔法を掛ける練習をしてからグルフも強化魔法を掛けて運動するようにしたのだ。
まだ練習回数が少ないこともあり自在に動くとまではいかないが、もう少し慣れたら移動中も強化魔法を掛けていられるかもしれない。
流石に人を乗せて動くには安全が確保出来ているとは言い難いからね......。
魔法を掛けるとグルフは試すように軽く走り出す。
込めた魔力は少ないのだが元々の身体能力が高い為、現時点でもかなりの動きに見える。
因みにマナスにも掛けてみたけどあまりうまくかかっている気がしなかった。
筋肉とかがないからかな......こっちももう少し研究しないとな......。
......やりたいことが多すぎる。
優先するのはグルフ用の魔道具とデリータさんに開発してもらった魔術式の複製作業かな......。
そんなことを考えていると慣らし運転が終わったのかグルフが戻ってきた。
「よし、じゃぁ最初はグルフが鬼をやる?」
グルフが頷いたので最初の鬼は決まった。
でもいつもの森と違って範囲の指定が難しいな......。
「村の方に近づいちゃったら元も子もないから、ここより村に近づかず、街道方面にもいかないように。範囲は......あまり遠くまで行かないようにってことで......。」
考えるのが面倒になって自主性に任せることにした......まぁみんな賢いし大丈夫だよね......?
「制限時間はいつも通り、全員捕まえたらグルフの勝ちだよ。それじゃぁ......始め!」
俺の掛け声とともにグルフが俺に飛びかかってくる。
いつの間にかシャルもマナスも結構遠くに離れている。
ずるいぞ!
急いで横っ飛びに逃げるがその動きを読んでいたようでグルフが追い付いてくる。
そしてそのままグルフに押し倒された。
よほど嬉しかったのか大興奮中のグルフが俺の顔を舐めまくる。
「うわっぷ!ぐ、グルフまった!やめて!」
一瞬で顔中をでろでろにされてしまったがグルフの興奮は収まらない。
伸し掛かられたままグルフの首のあたりをわしゃわしゃ撫でるが寧ろテンションがどんどん上がっているような気がする。
しかし次の瞬間グルフが俺の上から飛びのいたので体を起こす。
「うぁー顔がねとねとする......。」
グルフの方をみると耳は萎れ尻尾も垂れ下がっている。
「見事に動きを読まれちゃったね。やられたよ。じゃぁグルフ後は二人だ、時間はたっぷりあるから頑張って。」
何故かちょっとテンションが落ちているグルフを応援する。
何か顔拭くものないかな......。
グルフがシャル達の方へ駆け出したのを見届けてから後ろを振り向くとリィリさんが近くに来ていた。
「あはは、大変な目にあったね。」
リィリさんが布を手渡してくれたのでそれで顔を拭く。
「ものの見事に先を読まれちゃいました。」
「ケイは相手の側面に回り込むことが多いからな。今回の場合は右手から迫ってくるグルフの側面に回ろうとして左に跳んだだろ?そこをグルフに捕まったわけだ。」
「誘われたわけですね......慌てて跳んだから体勢も不十分で狙っていたグルフに一気に追いつかれた......。」
「そうなるな。まぁ油断大敵ってやつだな。」
確かに、これは油断だ。
グルフには最近負けてなかったから慢心していたんだと思う。
「はぁ......反省が必要ですね。」
「訓練で気付けて良かったじゃねぇか!」
そう言って笑うレギさんの視線の先にはシャルとマナスに翻弄されてヘロヘロになったグルフがいる。
「マナスは変則的な動きで翻弄しているが......シャルは別格だな。全員が鬼になっても捕まえられないんじゃないか?」
「それ面白そうですね。今度やってみましょうか、連携の練習になるかな?」
シャルは今まで負けなし、一人でシャルを捕まえるのは至難どころか不可能なんじゃないかと思う。
惜しいと思えることさえないのだ。
偶には一本くらいとってみたいよね......。
「次は私たちも参加させてもらおうかな。」
リィリさんが肩を解しながら参加を表明するとレギさんも頷く。
「最初に掴まったのは僕なので次の鬼は僕です。もう油断はしませんよ。」
「精々翻弄してやるとするか。」
レギさんが首を鳴らしながらにやりと笑う。
とりあえず、最初のターゲットは決まったね。
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