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2章 ダンジョン
第60話 ダンジョン攻略記念祭
しおりを挟む祭りの当日、俺とレギさんは天幕の中で準備をしていた。
これからダンジョン攻略者として紹介され、お偉方からお言葉を頂いて......式典ってどこの世界でも似たようなものなんだね。
まぁ礼儀作法みたいなのは要求されなかったからまだましなのかな?
王国とかだったら宮廷儀礼とか作法とか煩そうだよね......都市国家ってやつでよかったな。
街長っていうのも貴族ってわけじゃないらしいし。
というかこの世界に来て貴族とか王国とかって聞いたことないな。
レギさんに今度聞いてみよう。
厄介ごとからはなるべく遠ざかりたいしね、情報は大事だ。
まぁ、今まさに厄介ごとの真っただ中って感じだけど......。
「ケイ。もう準備はいいのか?」
「えぇ、大丈夫ですよ。というか準備するものがないんですよね。」
「ケイは軽装だからな。ダンジョンに挑むにしては軽装過ぎるとは思うが......。」
「レギさんも斧は背負ってますけど、鎧は部分鎧で結構軽装って言えるんじゃ?」
レギさんの装備は胸と肩、背中も守っているがそれ以外だと小手といったところかな?
下半身も動きやすいように腰と膝当てと靴くらいだろうか?
頭には特に被ったりしないようだ。
あ、被り物ってそういう意味じゃないですよ?
「......また余計なこと考えてるなぁ、にーちゃんよぉ。」
呼び方が昔に戻ってます、レギさん。
「気のせいですよ。」
「二人とも準備は良さそうね。もうそろそろ出番らしいわよ。」
俺の否定の言葉とほぼ同時にリィリさんが天幕に顔を出して進行状況を教えてくれる。
「ちっ、この話はまた後でだな。」
「この後の流れは打合せで聞いていますけど......まぁ、僕たちは特にやることはないですね。」
「そうだな、真面目な顔しとけば大丈夫だろう。」
「レギにぃ達の挨拶的なのはないの?」
「特に予定には入ってなかったな。突然やれってこともないだろうからな、しなくてもいいんだろうな。」
まぁ予定外のプログラムは普通組まれないよね、こういう大きなイベントでは。
それはそうと、少し緊張してきたな。
どのくらいの人が見に来ているのか知らないけど......大勢の人の前に立つなんて経験ないしな......。
レギさんは平気そうだけど......まぁ何か問題があった時はレギさんに任せよう。
「レギ殿、ケイ殿、準備はよろしいですかな?出番ですぞ!」
ハーネルさんが天幕に入ってきて出番を告げる。
さて、少しの辛抱だ。
ちゃんとお役目を果たしてきますか。
「いってらっしゃい、レギにぃ、ケイ君。シャルちゃん達と一緒に客席で見学しているからね。」
「おう。」
「行ってきます。」
『お気をつけてください。近くにおりますので何かあればすぐに駆け付けます。』
リィリさんとシャル、マナスに見送られ俺たちは式典会場へと向かった。
壇上に上がると眼下を埋め尽くす人々が広がる。
凄い人数だ、千や二千じゃ済まなそうだな。
俺達が壇上に上がることでざわめきが一際大きくなった気がする。
指定位置に着くと銅鑼の様なものが鳴らされ、ざわめきが次第に小さくなってく。
ある程度小さくなったところでハーネルさんがダンジョンが攻略されたことを発表してレギさんと俺の紹介を始める。
ハーネルさんは体格もよく声も大きいが......屋外でこの人数相手に肉声だけで式は進行していくのは大変そうだ。
これ後ろの方の人たちは俺達の姿も見えないし、声も聞こえないよね?
大型のモニターがあるわけでも無いし拡声器があるわけでもないようだ......。
魔道具とかで拡声器くらいはあるのかと思ったけど、こういう場で使われていないってことはないんだろうね......。
そんなことを考えていたらハーネルさんが俺とレギさんの名前を大声で言う。
それに合わせて俺とレギさんはそれぞれの武器を掲げる。
レギさんは両手斧だから格好つくけど、俺はナイフだからなぁ。
あまり見栄えは良くないような......。
しかし、次の瞬間歓声が音の塊となって叩きつけられた。
爆風のような圧力を伴って押し寄せてきた歓声に体が後ろへと押されたように感じる。
隣のレギさんを見ると流石に面喰ったように目を見開いていた。
圧倒されはしたがこれでこの場での俺たちの仕事はほぼ終わりだ。
後は場所を移して各所のお偉いさんからお褒めの言葉を貰って終わりと......。
そっちはそっちで気が重いんだけど、まぁ仕方ないよね。
何事も形式は大事ってことだ。
これが終わって祭りを楽しんだらいつもの街に戻って旅に出る準備を始めよう。
ダンジョンから帰ったらすぐ始めるつもりだったのに一月以上も足止めされてしまった。
まぁ別に急ぐ旅ではないんだけどね......。
そんなことを考えていたら式典は終わりを迎えていた。
つつがなく式典は終わり、お偉方とのやりとりも特に問題が起こることもなく終えることが出来た。
基本的にお偉方っていうのも商人の方ばかりで気さくというか腰が低いというか......まぁ緊張せずには済んだ。
ただ目がギラギラしていて迂闊なことを言わないようにだけは気を付けないといけなかったけど。
今はそういう面倒なことから解放されてみんなでお祭りの見学をしている所だ。
人込みが凄く、歩くのにも流れに沿って動かなければならないので中々前に進むことが出来ない。
「予想しちゃいたが、ここまでとはな。」
レギさんが辟易したように呟く。
「熱気が凄いですね......ところで催し物って何かやっているんですか?」
「南門から出てすぐの場所で闘技大会。東側の広場で料理大会、後は東門から南門にかけての通りで細々と色々とやっているみたいね。どちらも今日と明日の二日間に分けてやるみたい。今日は予選で明日は決勝ってところかしら?」
「へぇ、色々あるんですね。ってかリィリさん詳しいですね?」
「えぇ、ここで受けた仕事は全部会場の設営だったからね。闘技場も料理大会の会場も、その他細かい催しも一通り手伝ったんじゃないかしら?」
リィリさんとレギさんは適度に休みを挟みつつ仕事をこなし、リィリさんは見事下級冒険者に昇格したのだ。
ダンジョンから戻ってきてから一月ちょいで初級卒業か......もともと中級手前まで実績を積んでいたとはいえ......かなりのペースだ。
「随分手広くやったんですね......何か面白そうなものってありますか?」
「料理大会がいいと思うわ。審査員だけじゃなく一般からの投票も受け付けるらしいのよ。この街以外の場所からも大会に参加している人たちがいるらしいから色々な味が楽しめると思うわ。問題は、かなりの人出が予想される所ね......食べられない可能性も高いかも......。」
「食べるのは諦めて、よその街のおいしそうな店を探すだけを目的とするならありですかねぇ。」
「それはそれで悔しいが......今日は食えねぇだろうしな。」
「いつかお店のある街に行った時のお楽しみって所ですね。」
「じゃぁ今日は偵察だけね。急ぐ必要もないしのんびり行きましょう。」
俺達は人の流れにのって料理大会会場を目指す。
というか立ち止まることも出来ない感じだ......。
「のわぁぁぁぁぁ!ひ、紐が!紐が切れておるのじゃぁぁぁぁぁ!」
遥か後方から悲鳴が聞こえる。
......すみません、ナレアさん。
今日は助けられそうにないです。
人波に流されながら後方に消えていく悲鳴を俺は無力感に打ちひしがれながら聞いていた。
View of ナレア
折角タイミングよくダンジョンが攻略されたので攻略者の顔でも拝んでおこうと思ったのじゃが......まさかケイがそうだったとはのう。
一目見た時から只者ではない......いや、尋常ではないと思っておったが、まさかたった二人でダンジョンを攻略するほどとは......。
いや、二人とは限らぬか。
あの時ケイの肩に掴まっていた子犬とスライム、あやつらも相当な魔力を持っておった......主力と見て間違いなかろう。
いやぁ、世の中広いのう、まさかあそこまでの魔力量を持つものがいるとはのう。
まぁ心根の悪そうな奴じゃなくてよかったわい。
あの時は財布が無くて泣きそうじゃったからのう。
財布の奴め、妾を泣かそうなぞと大それた真似を......。
そう思いながら懐に手をやるが何故か財布の感触がない。
首元に手をやると切れた紐が手の中に残る......。
「のわぁぁぁぁぁ!ひ、紐が!紐が切れておるのじゃぁぁぁぁぁ!」
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