48 / 528
2章 ダンジョン
第47話 リィリ=ヘミュス
しおりを挟む「リ......リィリ=ヘミュス......だと?」
レギさんが絞り出すような声を上げる。
その様子からマントの魔物が名乗った名前は仲間であるリィリさんの名前と一致しているに違いないだろう......。
どうやって声を出しているのか分からないが、マントの魔物は言葉を続ける。
「それで、私のフルネームを呼ぶあなたはどちら様かしら?知り合いにはいなかったと思いますけど?」
「......俺......は......。」
レギさんの声は震え、うまく喋ることが出来ていない......。
だが俺が出しゃばるべき時じゃない......今俺に出来るのは警戒を緩めないこと、そしてこの魔物を何があっても逃がさないこと。
ここから先は何があろうとレギさんのものだ。
「......俺は......レギ=ロイグラントだ。お前が名乗った名前は......俺の仲間のものだ......どういうつもりだ!」
「どういうつもりも何も、私の名前は私のものだけど......っていうか、レギ=ロイグラントって......あなたみたいなオジサンがレギにぃなわけないでしょ?そっちこそ、ふざけているの?」
二人の怒気が膨れ上がるのを感じる。
だがどちらも飛び出すような素振りは見せていない。
「......その呼び方、お前が本当にリィリだと......?」
「そうよ、私は下級冒険者のリィリ。いえ、試験はちゃんと通ったのだから中級を名乗ってもいいんじゃないかしら?......でも家に帰るまでが冒険って言われたこともあるし、そういう意味ではまだ冒険途中だから中級を名乗るのは早いかしら......?うん、やっぱり下級冒険者のリィリだわ。」
「......その一人で勝手に納得する感じはリィリのそれだが......。」
「それよりも、何故あなたがレギ=ロイグラントを名乗っているのかしら?」
レギさんから怒気が消え失せた感じがするが、魔物の方はまだ何も納得していない。
しかしその怒気とは裏腹に手に持っていた双剣をマントの下に納める魔物。
少なくとも会話を優先する、ということだろうか?
「お前と同じ台詞を返すことになるが......それが俺の名前だからだ。ヘイルとエリア、リィリの仲間。下級冒険者のレギだ。」
「......本当に......レギにぃ......なの?」
「......あぁ、俺がレギだ......お前たち三人をここに迎えに来た......。」
レギさんは魔物......彼女をリィリさんと認めたようだ。
そしてリィリさんは怒気を霧散させ、今はうつむいてしまっている。
「......リィリ、なんだよな......?一体、何が......?」
「......そんな......なんで......レギにぃが......?」
怒気に代わり二人の困惑が大きくなっていく。
レギさんの困惑はわかるけど、リィリさんの方は......一体?
「......確かに、すごく時間は経っていると思っていたけれど......もう三十......いえ、四十年以上経っていたなんて!?」
「な......何を言っているんだ?確かにあれから、俺たちがこのダンジョンに飲み込まれてから時間はかなり経過したが、精々十年ってところだぞ。」
「う......嘘よ!だって、レギにぃが......!」
「俺が......どうした?何を言っている?」
「レギにぃが!頭ツルツルのおじさんになっちゃってるじゃない!」
「誰が頭ツルツルのおじさんだ!殺すぞ!」
「ぷふぅー!私もう死んでるしぃーこれ以上どうやって死ねばいいんですかぁー?ツルツルさーん!」
「うるせぇ!あぁ!間違いなくてめぇはリィリだ!この骨女!」
「......骨女......。」
「あの......レギさん......それは言い過ぎじゃぁ......リィリさん俯いちゃってますよ......?」
口を出すつもりはなかったが、売り言葉に買い言葉とは言えまずい気がする。
「す......すまねぇリィリ、言い過ぎた......。」
さっきまでの勢いが一気になくなり力なく項垂れているリィリさん。
ある意味とても緊張感のあるやり取りを聞いたおかげで、彼女がリィリさんであるということに俺も疑問はない。
色々と聞きたい事は多いがそれよりも今は......。
「......その......リィリ、すまなかった!」
レギさんが腰を九十度曲げて謝った。
初めてレギさんに会った時もあぁやって謝っていたな......。
「......今の私って......凄い色白で物凄いスリムボディの美少女と言えるんじゃないかしら......?ってレギにぃそんな光モノ突き出して何やってるの?目つぶしは効かないわよ?」
「てめぇは脳みそ腐ってんのか!?」
「何ですって!?」
頭を下げた時以上の速度で頭を上げたレギさんがリィリさんに食って掛かる。
当然のようにリィリさんもヒートアップする。
でもまぁ、レギさんの突っ込みももっともだろう。
落ち込んでると思ったら物凄い台詞が聞こえた。
骨系美少女っていうのは斬新すぎてちょっと俺には分からないな......。
「あ!違うわ!腐ってるどころか脳みそなかったわ!だから脊髄反射しか出来ねぇんだな!」
「はぁ!?理性派スケルトンの私に向かって何たる暴言!そういうレギにぃこそ筋肉に全部栄養吸われて脳みそまで栄養回ってないんじゃないの!?あ!頭に栄養行ってないから毛根がやせ細って全部抜け落ちちゃったんだね!」
「はぁ!?これは剃っているだけだ!そもそもお前だって毛どころか骨以外何も残ってねぇだろうが!」
「ちょ......!どこ見て言ってるのよ!変態!ヘンタイ!」
「あ!こいつ完全に頭空っぽだわ!どこ見て言ってるかって?その空っぽでつるっつるな頭だよ!」
「つるっつるはレギにぃの方でしょ!」
「「あ゛ぁん!?」」
一気に喧嘩が始まった。
レギさんは落とした武器を拾い、リィリさんは納めた剣を抜く。
えー流石にこれは不味いでしょ......。
口を挟むつもりはなかったけど流石に刃傷沙汰は......。
「あの......お二人とも、少し落ち着いて......。」
「「俺(私)は頗る冷静だ(よ)!!」」
言葉と同時に二人は武器を打ち付け合いだした。
......よし、これは放っておいたほうがいいね。
俺はシャル達と一緒に入り口付近で腰を下ろしながら二人のやりとりを見守ることにした。
「シャル、マナス警戒はお願い。俺は一応、万が一に備えておくから。」
『承知いたしました。後方の警戒はお任せください。』
シャルが返事をして、マナスも了解と言うように跳ぶ。
二人を軽く撫でた後、俺は喧嘩と呼ぶには激しすぎるやり取りをする二人へと意識を向けた。
「......死んでいた割に......昔より強くなってるじゃねぇか......。」
「レギにぃこそ......三十年くらい研鑽を積んでいるだけあるわね......。」
散々武器を振るい合った二人は今、広間の中央で武器を下ろして向かい合っている。
二人とも怪我をしていないのが不思議なくらいの凄い動きだった。
レギさんの大型の武器を振っているとは思えないコンビネーション。
リィリさんの舞うような剣捌き。
どちらも努力の末に身に着けた堅実な凄みを感じられた。
同時に交わされる口撃は小学生レベルのものだったけど......。
それも今は熱が引いたのか......。
「だから、あれから十年だって......言ってるだろ?」
「信じられないわ......十年って......レギにぃまだ三十にもなってないってことじゃない......。」
「......これは剃ってるだけだ。」
「ダンジョンで......?毎日剃ってるの......?本当に?」
そこはもう、そっとしておいてあげたほうがいいと思います、リィリさん......。
「......色々あったんだ。」
「......そう。」
「......迎えに来るのが遅くなってすまねぇ。」
「別に気にしていないよ、レギにぃ。またこうして再会できただけで私は嬉しい。」
万が一があってはいけないから身体強化魔法をかけておいたが、そろそろ切ってもいいかもしれない。
聴力の強化もされているので、結構離れている俺にも二人の会話が届いている。
少しだけここから離れて聴力強化も切っておこう。
離れる前に一度だけレギさん達の方を見ると片手で目元を覆うレギさんの姿が見えた。
3
お気に入りに追加
1,734
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。


無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜
長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる