狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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2章 ダンジョン

第46話 二度目の邂逅

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突入から四日目、昨日決めたように中層を隈なく探索する中、マントの魔物を監視していた。
まぁシャルの探知範囲内にマントの魔物と思しき魔物の気配を入れているだけだけど。

「今日は動き回ってるな。」

「そのようですね......まぁ動き回ってくれた方がこちらとしては都合がいいですけど。」

「そうだな。」

レギさんの言うように今日のマントの魔物は活発に動き回っている。
いや、スケルトンに対して活発っておかしいよな?
まぁそれはいい。
動き回ってくれているおかげでこちらも順調に探索範囲を広げることが出来た。
まだ昼前だというのに中層の三分の二程は探索が完了している。
この調子で行けば今日中に中層の探索を終えることが出来そうだ。

「しかし、予想してはいたが魔物がいないと探索は捗るな。」

「そうですね、レストポイントの位置も分かっているしかなり気が楽です。まぁ全てシャルのお蔭ですけど。」

『恐縮です。』

こちらを振り返りながら先頭を歩くシャルの尻尾が機嫌良さそうに揺れる。
今の所、魔物との遭遇はない。
アクシデントも何もない。
ダンジョンでありながら魔物との遭遇が一切ないということを除けば全て順調と言える。

「魔物に遭遇出来ないことがこんなに不気味なんておかしな話ですね......。」

「そうだな、ダンジョンの魔物なんて素材も取れないし遭遇するだけ損ってもんだ。そんなのに会いたいと思うなんてどうかしてるな。」

不安を拭うように軽口を叩くが、同じような事ばかり話している気がするな......。

『ケイ様。魔物の反応がありました。ずっと追いかけているものとは別で、今生み出されたところだと思います。』

「ありがとう、シャル。レギさん魔物が今生み出されたようです。」

「餌に食いつくようで少し引っかかるが......案内してもらえるか?」

『最短距離で向かうと途中で監視対象とぶつかってしまいます。回り込みますか?』

「回り込もう。レギさん最短ルートだとマントの魔物と先に遭遇してしまうので、回り込んで新しく生まれたほうに接触しようと思いますがいいですか?」

「あぁ、それで頼む。」

「シャル、お願い。」

『わかりました、回り込みま......っ!?ケイ様、監視対象が進行方向を変えて新しく生まれた魔物の方に向かい始めました。』

「なんだって......?レギさん、マントの魔物が新しく生まれた魔物の方に移動を開始したそうです。」

「先回りは無理そうか?」

『無理です、一分程で向こうは接触すると思います。こちらは回り込むと十分程度かかります。』

......どう考えても先に遭遇するのは無理だね。

「無理です、回り込めば十分はかかるそうです。」

「最短ルートで追いかけるぞ!何が起こるかを確認できれば御の字ってところだな。」

「了解です!シャル、最短ルートで頼む!」

『承知いたしました。』

魔物を目指して最短ルートを俺たちは駆け抜ける。
魔物同士の接触には間に合わない、せめて何が起こるのかだけでも確認出来れば!

『この速度ならすぐにたどり着けます。ただ向こうはもう遭遇しています。』

「魔物はもう遭遇してしまったみたいです!」

「ちっ......まぁ距離的に仕方ないが......間に合うか......?」

『都合がいいことに魔物が生まれたのは袋小路になっている広間です。仮に間に合わなかったとしても片方は確保できると思います。後十数秒で到着です!』

「止まってください、レギさん。目的地は袋小路になっているようです。もうすぐ着きます、ここからは気配を殺していきましょう。」

「了解だ。」

俺達は息を殺しながら広間へと近づく。
広間までの道は一直線で視力を強化している俺達には広間の様子が見える。
何が起きているのか、恐らくレギさんもはっきり見えているだろう。
恐らく新しく生まれた魔物が広間の真ん中で立ち尽くしている。
その魔物にゆっくりと近づくマントの魔物。
そして、マントの内側から突き出された剣が相手の腹部にある魔力核を貫く!
次の瞬間、魔力へと還る魔物。
生み出されて数分で魔力へと還ることになった魔物......なんとなく物悲しさを覚えるな......。
いや、今はそれどころじゃない......魔物が魔物を殺した......?

「魔物同士でやり合った......いや、一方的に殺したのか。相手は攻撃する素振りもなかったしな......この辺りに魔物がいないのはあいつの仕業か......?」

「どうします?放っておけば他の魔物を掃除してくれるみたいですが。」

「目的が分からないのは......いや、魔物にそんなものがあるのかどうかわからないが......だが放置したほうがいいか......?こちらはシャルのお蔭であいつと距離をとれる......。」

レギさんが悩んでいるとマントの魔物の方に動きがあった。
突き出した剣の血糊を振り払うように一閃すると恐らく鞘があるのだろう......マントの中に剣を納める。
ダンジョンの魔物を屠った後は血も残さず魔力へ還るはずだから血はつかないはずだけど......。

「とりあえず、少し下がりましょうレギさん。仕掛けないならもう一度距離を取らないとこの位置だとすぐに向こうにバレます......レギさん?」

レギさんに話しかけるが反応がない。

「どうしたんですか?レギさん?」

レギさんの顔を見ると顔が強張っている。

「レギさん?大丈夫ですか......っ!?」

次の瞬間、レギさんが一気にマントの魔物へと襲い掛かる!
大きく振りかぶった斧が唐竹に叩きつけられる。
だがレギさんの接近に気づいたマントの魔物は身を翻して攻撃を避けレギさんから距離をとる。
まっすぐに振り下ろされた斧は地面を砕き、小さな陥没を作っていた。
装備の消耗に気を付け、初めての身体強化ありの実戦でも地面に武器を当てなかったレギさんがだ。
距離を取ったマントの魔物はレギさんを見て、それから出口にいる俺をみるとゆっくりとマントの下から二本の剣を抜いた。
そして......レギさんから物凄い怒気が膨れ上がる!

「......の......は......。」

レギさんが何かを呟いたがはっきりとは聞き取れなかったが、動きははっきりと見える。
再びマントの魔物に接近したレギさんは横薙ぎに斧を振るう。
身体強化を受けたその一撃はおよそ大型の武器を振るうような速度とは思えないものだ。
マントの魔物は掻い潜るようにしゃがみながら手に持った剣でレギさんの攻撃を受け流す。
ただのスケルトンの動きじゃない。
レギさんは避けられたとみると勢いのまま一回転しながら斧を振りかぶり叩きつけるように追撃を仕掛ける。
マントの魔物は軽やかに追撃を躱すとまたレギさんから距離をとる。
俺とレギさんを交互に見るマントの魔物は恐らくここから逃げる隙を伺っているのだろう。
身体強化魔法をかけているとは言え今のレギさんの攻撃は大振りすぎてあの魔物にとっては捌けないものではないのだろう。
俺から見てもマントの魔物は反撃をする隙があったように思える。
だが攻撃をすることなく距離をとり、油断なく俺たちの様子を伺っている。
恐らく俺が広間の入り口から動けばすぐにでも逃げる算段だろう......。

「......の剣......その剣は!リィリの剣だろうが!」

レギさんは叫び声と同時に三度目の突撃を仕掛ける!
俺達の様子を伺っていたマントの魔物が弾かれたようにレギさんに顔を向ける。
大振りではあるものの先ほどよりも鋭い一撃をマントの魔物はいなしていく。
半端な技量じゃない......いや、それよりも気になるのはさっきのレギさんの叫びだ。
リィリさんの剣と言った。
あの魔物が使っている剣がリィリさんの剣......?
どうする......?
あの魔物は俺がここを動けば恐らく逃げる。
ならば......。

「シャル!マナス!レギさんの......。」

「まて!ケイ!......俺がやる。」

再度魔物との距離が空いたレギさんがシャル達をサポートに出そうとした俺に制止をかけてくる。
そうだな......それはそうだ。
ここは出る幕じゃない。

「すみません。レギさん。僕たちはここを固めておきます。」

一度だけ頷いたレギさんはまた武器を構える。
だが、そこに予想だにしていない声が響いた。

「おじさんは誰?なんで私の名前を知っているの?」

聞きなれない、女の人の声だ。

「......なん......だ......と?」

レギさんの掠れた声が聞こえてくる。
今この魔物は何と言った?

「私はリィリ。リィリ=ヘミュス。これは私の大切な愛剣よ。それで、あなた達は誰?」

レギさんの武器が地面に落ちる音が聞こえた。

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