狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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2章 ダンジョン

第45話 拭えない違和感

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たどり着いた広間はかなり広く、天井は低いものの体育館くらいの広さがある様に感じられた。
俺達は今通路から身を隠しつつ広間を覗いているのだが......。
広間の真ん中辺りに魔物の様なものがいる。
何故魔物と断言していないのかというと......それはマントの様なものを羽織っていた。

「シャル、あそこにいるのが魔物だよね......?」

『はい、間違いありません。』

「マントを羽織っているように見えるな......。」

「服を着ている魔物っているんですか......?」

「鎧の様な外郭ってのは聞いたことあるが、マントの様な外皮ってのは聞いたことがねぇ......ってかアレは外皮とかじゃなくてマントだろ?」

「あれがイレギュラーの元ですかね......?」

「そうとは限らねぇが、異質であることは間違いないな。」

見た感じ体に引っかかっているという感じではない、確実に羽織っている。
今は背を向けて頭まですっぽりと覆っているので相手の姿は殆ど窺えない。
こちらには気づいていないようでぼーっとしているだけのように見える、その感じはアンデッドっぽいかな?

「こちらから仕掛けますか?」

「そうだな......相手はアンデッドだろうし、下手したら数日はあのままって可能性もあるからな......前には俺が出る、他の魔物の気配はないみたいだが後方は任せる。」

「了解です。」

軽い打合せの後レギさんが広間に飛び込み、続けて俺が飛び込む。
部屋にいた魔物は俺たちに気づいたのか肩越しに俺たちの方に顔を向ける。
次の瞬間、こちらに向きなおすことなく一気に広間の反対側にある通路から逃げていった。

「......逃げましたね。」

「アンデッドが逃げ出しただと......?」

振り返った時にちらっと見えた顔は骸骨だった。
あれで冒険者ってことはないだろうね......骸骨マスクでも被っていなければだけど。

「スケルトンだったと思います。顔がちらっとだけ見えました。」

「あぁ、俺もそう見えた......アンデッドなのは間違いないと思うが......逃げた、のか?」

「こちらに気づいて姿を確認してから逃げたように見えましたね。」

「......アンデッドというか、ダンジョンの魔物が逃げるってのは聞いたことがないな......どうなってやがる......あのアンデッドは意思があるのか?」

不穏な空気を払拭するために会いに来た魔物だった。
魔物が全然現れないダンジョンに不気味さを覚え、普通の魔物がいるという安心を得ようとした結果遭遇したのはマントを羽織りこちらを確認したら脱兎のごとく逃げ出したスケルトンだ。
訳が分からない。

「どうしますか?さっきのスケルトンを追いますか?」

「......いや、確かにこの状況は気持ち悪いが俺達の目的は探索だ。探索をするという意味で魔物の気配が殆どないってのは悪くない状態ではある......だが、異変を感じたら引き上げるのは鉄則だ。」

「......そうですね......。」

危険は追い求めるものじゃない、避けるべきものだ。
冒険者に限ったことじゃ、いやこの世界に限った事じゃないと思う。
それでも......。

「だが、俺は今回引くべきじゃないと考えている。もちろん、決めた期間内での話ではあるがな。」

危険を冒してでも成し遂げないといけない場面はあるのだと思う。

「これは俺の意地だ。だからケイ達が付き合う必要はない。というかこの異変をギルドに知らせに行って欲しいと思っている。」

「......危険は避けて情報を伝えることを最優先にするべきだと?」

「あぁ。だが俺はここで引けば二度とこの場に戻ってこられないと思う。俺は引けない。」

レギさんにとってこの場所は引くことが出来ない場所。
当然だ、このダンジョンに来る前から分かっていたことだ......。

「分かりました。ギルドに伝えるべきだというレギさんの意見は理解しました。その上で、僕はレギさんとこのダンジョンの探索を続けようと思います。」

「......ケイ。」

「ギルドに報告する必要があるってことは十分理解しています。でもここでレギさんと別れて僕だけ戻ったとして、レギさんが何時までたっても帰って来なかったら迎えに来ないといけないじゃないですか?それって二度手間で面倒ですよ。それだったらレギさんの気の済むまで付き合って他の皆さんと一緒に帰った方が楽でいいです。」

「......はっ!新人が言うじゃねぇか。俺は『最強』だぞ?同じダンジョンに二度も負けるわけないだろ?」

「じゃぁレギさんの後ろをおっかなびっくり付いて行くんで後はお任せしますね。」

俺に出来ることは少ない。
それでもレギさんの傍で力になろうと思う。

「......とりあえずレストポイントに向かうぞ。さっきのマント付きのスケルトンは一旦保留だ。追いかけるには危険が多すぎる。」

レギさんは頭を掻きながら次の行動について話し始めた。
俺が戻らないことに納得してくれたってことかな......?

「誘いこまれるってことですか?」

「シャルが探知してくれている以上、大群に囲まれるってことはないだろうが......何かしらの罠があってもおかしくないからな。」

「わかりました、ひとまずあの魔物は保留ですね。レストポイントへ行きましょう。そこでシャルに探知をしてもらってこの後の方針を決めるのがいいと思います。」

「そうだな。正直予想外にもほどがあるって状況だ、周囲の情報は出来るだけ多く欲しい。」

その後、レストポイントへ向かった俺たちは探知の結果を聞いてため息をつくことになった。



「探知の範囲内にいた魔物は一匹だけか......状況からみてマントの奴だろうな。」

「恐らくそうでしょうね......今回シャルにはかなり無理をしてもらって探知の範囲を広げてもらいました。恐らく中層と呼べる範囲は全て調べられたそうです、レストポイントの位置は何か所か見つけることが出来ましたが魔物は一匹だけ......ダンジョンでの魔物の発生頻度ってどのくらいなんでしょう?」

「流石にそれはわからねぇな......大規模な攻略が始まれば一掃されることはあるって聞くが......それが一日二日で前と同じくらいの数の魔物になるって事はないはずだ。何匹かは新しく生み出されるだろうがな......。」

「......ここで考えていても埒が明かないですね......この後はどうしますか?」

「......シャルのお蔭で中層の構造がほぼ分かった。この範囲を虱潰しに探索する、今日はシャルに思いっきり探知で魔力を使ってもらったから明日からだな。魔物がいないのであれば探索自体はすぐに終わるだろう。」

「マントはどうしますか?避けますか?」

「いや、探知の範囲内にいたら向かいたいが、逃げるようなら追わない。出来れば相手が袋小路にいる時に仕掛けたいな。」

「だったら探索をしながら付かず離れず相手が都合のいい場所まで移動するまで監視するのはどうですか?あの魔物はこちらを視認していたように思います。まぁ、目はありませんでしたが......シャルよりも知覚範囲が広いということは無さそうです。」

「そうだな......そのほうが確実か。一度でケリをつけたほうがいいな。よしそれで行こう。」

「了解です。今日はレストポイントの近場の探索もしないで休みますか?」

「あぁ、今日はここまでにしよう。ここにいられるのは残り四日だが一回目の探索でここまで進むとは思ってなかったからな、感謝してるぜ。」

最初の予定では四回にわけてダンジョンに潜る予定だった。
まず今回の目標は上層の探索と中層で新しいレストポイントを探すこと、何か所かレストポイントを見つけておいて次回はそこを中心に探索をする。
三回目で下層に赴きレストポイントを探し、四回目で下層の探索を終える。
そんな感じでプランを立てていたのに、蓋を開けてみれば初回の探索四日目で中層の探索が終わりそうな感じだ。

「ほぼシャルのお蔭ですけどね。」

「そんなことはねぇよ。ケイにもマナスにも世話になっている。」

「そうですか?特に何かしているわけじゃないですけど。」

シャルはダンジョンに入ってから働きっぱなし、マナスは道中の警戒に加えてレストポイントで不寝番だ。
俺は警戒こそしているけれど、戦闘も殆どないしほぼ喋っているだけの様な......。

「ダンジョンで側に信頼できるやつらがいるってのは精神的にすげぇ助かるんだよ......。」

「そうですね......そうでした。」

あのコボルトのダンジョンで焦りだけが先行していた時、レギさんが助けに来てくれた。
あの時の安堵は信頼している相手だからこそ得られたものだと思う。
全然知らない人が来てくれたのであれば、チャンスだとは思っただろうがあそこまで戦闘中に安心は出来なかったんじゃないだろうか?
そんなことを思い出しながらダンジョン三日目を終えるのだった。

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