狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

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2章 ダンジョン

第44話 未探索領域へ

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ダンジョンに突入してから二日程かけて地図に描かれている範囲内を隈なく探索した。
成果と呼べるものは無かったがこれは予想通りだ。
地図に描かれている範囲に何か痕跡や手掛かりがあればとっくに誰かに見つかっているだろう。
今日は地図に描かれている範囲内の最下層に位置するレストポイントから未探索領域に赴く。
これから先は確実にレストポイントを発見できるとは限らない。
シャルのお蔭で発見しやすいとはいえ、ダンジョン全域が把握できるわけでもないし、そもそも都合のいい距離に存在するとは限らないのだ。
まぁだからと言って進まないという選択肢はないんだけどね。

「今日向かうのは未探索領域だ。マッピングは俺がするがあまり得意じゃないからな、距離や精度は期待するなよ......分かれ道くらいは分かるようにはするが。」

マッピングか、地図なんて書いたことないしこれはレギさんに任せるしかないな。
その分周囲を警戒と言いたいけれど、シャルの探知を掻い潜ってこれた相手は今の所いないしシャルが気付かない相手に俺が気付けたら奇跡じゃなかろうか......。
結局未探索領域にたどり着いたとしても俺の役割は変わらず、のんびりと探索をするしかない。
いや、警戒はしていますよ?ホント。

「すぐには見つからないと思いますけど、なるべく早めにレストポイントは見つけたいですね......今の所、魔物の数はそんなに多くない感じですけど......。」

「そうだな、気分的に拠点となる場所があるかどうかさえ分からないってのはかなりきついからな。まずは右手沿いに進みながらレストポイントを探す。レストポイントが見つかればそこを中心に探索範囲を広げる、その中でレストポイントが見つかれば問題ないが見つからなければまたレストポイントを求めて未探索領域を右手沿いに移動だ。」

地道だけど仕方ないか......。

『ケイ様、ダンジョンの把握について一つ案があるのですが......。』

「案?聞かせてもらってもいいかな?」

「どうした?ケイ。」

「シャルが探索するにあたって案があるそうです。少し時間をもらってもいいですか?」

「おぅ、問題ないぜ。」

俺はレギさんに一言断わりを入れてシャルと向き合う。

「よし、じゃぁシャル。聞かせてもらってもいいかな?」

『はい、私が普段やっている探知ですが、移動をせずに集中すればもう少し範囲を広げられます。ですが魔力の消費が激しいので戦闘までは手が回らなくなると思います。』

「なるほど......戦闘は俺達が何とかするとしても、いざって時にシャルが動けない可能性があるってことだね。」

『流石に身動きが取れなくなるほど疲弊することはありませんが、普段通りとはいかないですね......。』

「......シャルにはいつも負担をかけてごめんよ。」

『私の全てはケイ様をお助けするためにありますので。お力になれること、これ以上の喜びはありません。』

「それはとても嬉しいけど......シャルはもう少しわがままを言ってくれて良いんだからね?」

そう言いながらシャルの頭を撫でる。
本人はいつもそう言ってくれるけれど、やはりこちらも何かしてあげたくなるのは当然のことだと思う。

『へぅ!?そ、それはその!あの......!』

あ、まずい。
これはこの前の村の時のアレだ!
このままだとシャルがまたシャットダウンしちゃう!

「こ、今度!今度ね!ダンジョンは危険だからね!」

『し、失礼いたしました!えっと......それで......その......。』

「うん、探知だね!魔力の消耗が激しくて普段通りに動けないって所までは聞いたけど他に注意することは?」

『......いつものように移動しながら把握するのとは違い、集中して広い範囲を探知するので少し時間がかかります。それと途中で探知を止めるともう一度最初からやり直すことになるので魔力が無駄になってしまいます。』

「なるほど......探知をする場合は安全を確保してからだね。よし......レギさん、いいですか?」

「おう、いい方法があったか?」

レストポイントの出口付近でマナスと一緒に警戒していたレギさんがこちらに近づいてくる。

「はい、シャルが探知する範囲を広げてくれるそうです。その間シャルが無防備になるのといつものように移動しながらというわけにはいかないので僕たちはその間の安全確保ですね。」

「なるほど、どのくらいの時間動けないんだ?」

『五分程です。』

「五分程度かかります。」

「なるほど、シャルが普通に探知出来るのは大体歩いて三分程度の距離だったな。襲撃の可能性はゼロじゃないか。だが五分で今まで以上の範囲を探知できるのは助かるな、見つからなければ移動してまた探知、これを繰り返せば効率よく探索範囲を広げられそうだ。」

「じゃぁシャルの案で進めていきましょう。」

「おう、頼んだぜシャル!」

これからの探索の方針を決めた俺たちはレストポイントを出発して未探索領域へと向かった。



未探索領域に足を踏み込んで暫く進んだ後シャルに探知をしてもらった。
一度目の探索では見つけることが出来なかったレストポイントだが二度目の探索で発見することが出来た。
シャルが探知している間も魔物に襲われることはなく、シャルの広範囲探知にも魔物が引っかかることがなかった。

「未探索領域、というか中層に降りてから全然魔物が出てこないですね......。」

「あぁ、流石に少し......いやかなりおかしいな......このダンジョンはまだ本格的な攻略が始まっているわけでもない。まだ地図の範囲を広げたりする程度で、冒険者もあまりここには来ていない。普通は入り口付近の方が人の出入りがある分魔物は少ない傾向があるんだが未探索領域でこの魔物の少なさはおかしい......。」

「何かイレギュラーが起きている可能性があるってことですか......?」

「......そこまで記憶は鮮明じゃないが、俺がここから脱出した時は結構な数の魔物と戦った覚えがある......何かが起こっていると見ていいだろうな。」

ここまで魔物との遭遇も少なく順調に来ていると思っていたけど、順調さ自体がイレギュラーか......。

「一筋縄ではいかないとは考えていたが、ここに来て不気味さが増したな......。」

「シャルは何か不自然なものを感じたりはしてないかな?」

『いえ、魔物の反応がないということ以外は普通のダンジョンと違いは無いように思います。』

「シャルも違和感は特に感じていないか......ここにいないのなら下層に大量にいるってことですかね......?」

「それはそれで問題だな......本来アンデッドは目的もなく適当に徘徊する......と言われている。もし下層に何らかの原因があってアンデッドが集まっているようだったら......。」

アンデッドが集まる理由......アンデッドが意思を持って集まっているのか、アンデッドを操る術があるのか......それとも中層に発生したアンデッドが下層に閉じ込められているのか......何にせよロクでもない事態になりそうだ......。

「中層のアンデッドを殲滅している何者かがいるって可能性もありますね......。」

「......ダンジョンの魔物同士はたとえ種族が違っても同士討ちはしない......冒険者以外は考えられないが......今このダンジョンに潜る申請を出しているのは俺達だけのはずだ。俺たちの後から来たとしてもレストポイントで一度もすれ違わずに中層に来るのは難しいと思う。しかも俺達が中層に来るまでの一日二日で魔物を一掃出来るような冒険者のチームはそうそういないだろう......。」

「ギルドに申請せずに上級冒険者が来ている可能性はどうですか?」

「よほど緊急じゃない限り申請をせずにダンジョンに潜るメリットはないな......俺達がこの前潜った時みたいな場合以外は考えにくい。それにこの前のような状況であれば魔物なんか一掃せずに目的だけ果たすだろうしな。」

「厄介なことにならないといいですけど......。」

「言わぬが華だな......。」

こっちの世界でも嫌な予感は口に出したら実現するのか......。

『お話し中の所すみません。魔物の反応がありました、この先の広間に一体。こちらに向かってきているわけではなく、広間でじっとしているようです。距離は三分程です。』

「レギさん、魔物がいたみたいです。ここから三分ほどの距離です。」

「中層での初遭遇だな......確かめる意味もあるし、避けない方向でいいな?」

「えぇ、魔物に安心を求めるのもおかしな話ですが、会っておきたいですね。」

「......全くだ。」

シャルの先導で広間を目指す。
魔物に遭遇出来ないことで不安になるってことがあるんだな......。
ここに来て初めてダンジョンにプレッシャーを感じている。
心臓がざわつく感じだ。
嫌な予感を振り払うように俺たちは広間へと足を進めた。

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