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2章 ダンジョン
第43話 腐ってる系か乾いてる系か
しおりを挟む「魔力核ってやつ確認は出来たが、ゾンビ相手だと俺にはあまり関係ないな......。」
俺の戦闘の後、暫くしてから一匹で姿を現したゾンビをレギさんは両手に構えた斧で叩き潰していた。
一応弱点は左太ももの位置に確認していたが頭から叩き潰してしまえばどこにあろうとあまり意味はない。
「戦える......な。問題ねぇ。体が軽いとは言わねぇが、動きに支障はない......少し緊張はあるみたいだが、直に慣れるだろう。」
レギさんは体の動きを試すように軽く動かしている。
傍から見た感じでは問題なさそうだったが、本人にはまだ違和感があるのだろう。
「それにしてもケイの掛けてくれた身体強化は凄いな、叩き潰すつもりで攻撃はしたが本当に原型を残さず叩き潰せるとは思わなかったぜ。」
「でも地面に武器を叩きつけずに止められてましたよね。僕は最初の頃力加減が全然うまく出来なくってえらいことになってましたよ?」
「その辺は今までの経験ってことだろうな。まぁいきなり地面に武器を叩きつけなくてよかったぜ。整備するにしても限界があるからな......。」
「今回は長丁場ですからね......装備や消耗品に気を付けて動くってのは初めてです......。」
「無駄遣いには気を付ける、だがいざって時に出し惜しみはしない。それが基本なんだが......ケイのお蔭で魔道具を戦闘中に使う必要が殆どないからな......傷薬関係も殆ど必要ない......物資的にはかなり楽なもんだぜ。気を付けるのは装備の消耗くらいだな。」
「僕の武器はかなり頑丈なのでしばらくは大丈夫です。レギさんの武器を整備されてたお店の人にも突き返されましたしね。」
「あぁ、あそこは気難しいからな......整備する必要がない物持ち込まれたって憤ったんだろうな......。腕はいいんだが、どこに沸点があるかわかんねぇんだよな......。」
「職人さんはこだわりがありますからね......。」
「まぁ、冒険者も変なこだわり持ってるやつは多いからな、人様の事は言えねぇな......まぁとりあえず俺たちに物資の心配はそこまでないってことだ。普通は装備や食料、医療品とか相当な量が必要になるからな、二人でダンジョンに長期間挑むのは得策とは言えないな。まぁ俺たちも一週間もすれば補給に戻る必要があるが、一週間も潜るなら五人は欲しい所だな。」
「僕らは四人いるので許容範囲じゃないですかね?」
「それはそうだが......シャルとマナスは殆ど物資を必要としてないじゃねぇか......特にマナスなんかケイの魔力があればいいんだろ?」
「まぁ、それもそうですね。」
およそダンジョンという危険地帯でする会話ではないと思うが、俺とレギさんはのんびりと会話をしながら歩を進めていた。
もちろん、俺もレギさんも警戒を緩めてはいない。
シャルという信頼のおける索敵能力を持っている仲間がいたとしても他が油断していい理由にはならない。
「他に類を見ない索敵能力に加え単独での戦闘力は最強クラス、食料どころか水さえ必要としない上、分裂可能で遠距離での意思の疎通が可能な戦闘員。失われた魔法を駆使して尽きることのない魔力を保有する前衛か......なんだこれ?上級冒険者のチームでももっと控えめだぞ。」
「言葉にするとシャルとマナスは凄いですねぇ。」
「お前もかなりおかしいからな?」
「僕は普通ですよ?シャルとマナスは凄いと思いますけど。」
「普通の基準がおかしいんだよ......。」
『ケイ様、この先の分かれ道の右手側三分ほどの距離から魔物が一体こちらに向かってきています。レストポイントは左手側になりますが、どうされますか?』
徘徊する魔物を全て倒す必要はないけれど......隅々探索をするのだから簡単に倒せるうちに倒しておいた方がいい気がする。
「レギさん、この先の分かれ道、レストポイントとは反対方向の通路から魔物が一体近づいて来ています。素通りも問題なく出来ると思いますが、どうしますか?」
「無駄な戦闘を避けるのは定石だが......戦わせてもらっていいか?もう少し強化魔法を受けた体を試しておきたい。」
「なるほど、わかりました。確かに実戦で慣れておいた方がいいですね。」
失念しがちだけどレギさんは身体強化魔法を受けての実戦は今日が初めてだ。
意識と体のずれは普段の体に慣れていれば慣れているほど大きくなる、俺は魔力を使えるようになっただけで歩行さえ危うくなったしね......。
「助かる。今度は一撃で終わらせずに少し動きを確かめながら戦うが心配しないでくれ。」
「了解です。鼻歌交じりに見学しておきます。」
「......そこはもう少し緊張感を出してくれ。」
俺達は軽口を叩きながら分かれ道で魔物が来るのを待ち構える。
やがてカラカラと軽い音が近づいてくるのが聞こえてきた。
今度は腐ってる系じゃなくって骨っぽい感じかな......?
始めてみるタイプの魔物だしよく観察しておこう......足だけ骨むき出しの腐ってる系ってことはないよね......?
通路の先に魔物の姿が見え始めた、理科室に標本としておいてあるアレが歩いてきた。
人体模型じゃないほうでよかった......。
動く骨はレギさんに気づいたようで足を速める、その右手には剣の様なものを握りしめていた。
「あれは、剣をもっているんですか?」
「あぁ、スケルトン系の魔物は武器を持っていることが殆どだ。基本的に骨の武器なんだが偶に落ちている武器を拾って使うやつもいる......っと続きはまた後でだな。」
軽快に走ってくる骸骨、スケルトンは先程戦ったゾンビとは違って機敏だった。
しかし何となく滑稽というか愛嬌を感じるのは俺の感性がおかしいんだろうか......?
スケルトンが大きく振りかぶった剣をレギさんに叩きつける。
剣で斬りつけるというよりもこん棒で叩きつけるといった感じの動きに感じられた。
レギさんは軽く打ち払うとそのまま相手の攻撃に備えるように武器を構えなおす。
身体強化魔法の効果も相まってか、レギさんはスケルトンの攻撃を払うのに殆ど力を込めている様子がない。
相手の弱点が右の大腿骨にあるのは見えているだろうし問題はなさそうだ。
暫く相手の好きに攻撃をさせてそれを防ぐだけだったレギさんが振り下ろされた右手を掴みスケルトンを壁へと叩きつける!
スケルトンに痛覚は無さそうだが壁に叩きつけられた反動で地面に倒れた。
その足をレギさんが踵で踏み砕く。
魔力核ごと足を砕かれたスケルトンは一瞬で魔力へと還る。
安定した動きに安心はできたけど、なんか戦い方が凄い悪役ぽかったです、レギさん。
「おし、問題はなさそうだ。待たせたな、レストポイントに向かうとしようぜ。」
「了解です。」
『この付近にはもう魔物の反応はありません。暫くは安全に進めそうです。』
「ありがとう、シャル。暫く魔物との遭遇は無さそうです。」
「助かるぜ、シャル。」
俺とレギさんにお礼を言われて少し機嫌がよさそうに尻尾を振るシャル。
「そういえば、アンデッドあまり群れないんですか?」
「そうだな、複数でいることが全くないとは言わないが本能......と言っていいのか分からねぇけど、無作為に動く奴が殆どだな。」
「なるほど、コボルトとは違いますね。」
「あいつらは集団でこそ真価を発揮するからな。アンデッドは......なんだろうな?目的がわからん。徘徊して襲い掛かってくるが、こちらを食うわけでも無いし......動いてるものに襲い掛かるってのも少し違う......同士討ちをしている所は見たことないしな......。」
「まぁ、死体の気持ちはちょっとわからないですよね......研究している人はいるんですかね......?」
「まぁどこかにはいるんじゃねぇか?研究者はおかしな奴が多いからな。」
「あはは、冒険者も職人も研究者もこだわりが強い人は多そうですよね。だからこそ、その分野で突き抜けられるんじゃないかと思いますけど。」
「そうだな。上級冒険者になるような連中はその傾向が強い気がするな。」
「上級冒険者ですか......お知り合いで上級の方がいるんですか?」
「あぁ、何人かいるぜ。あの街にはいないけどな。あそこは中級までしかいないから俺ごときが最強なんて言われちまうんだ。正直、上級冒険者はかなりの化け物だぜ?」
化け物か......俺は目標だった下級冒険者になったし、これ以上ランクを上げるつもりはないけどいつか会うことがあったら目を合わせないようにしようかな......。
俺はレストポイントへ向かいながらそんなことを考えていた。
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