狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片

文字の大きさ
上 下
44 / 528
2章 ダンジョン

第43話 腐ってる系か乾いてる系か

しおりを挟む


「魔力核ってやつ確認は出来たが、ゾンビ相手だと俺にはあまり関係ないな......。」

俺の戦闘の後、暫くしてから一匹で姿を現したゾンビをレギさんは両手に構えた斧で叩き潰していた。
一応弱点は左太ももの位置に確認していたが頭から叩き潰してしまえばどこにあろうとあまり意味はない。

「戦える......な。問題ねぇ。体が軽いとは言わねぇが、動きに支障はない......少し緊張はあるみたいだが、直に慣れるだろう。」

レギさんは体の動きを試すように軽く動かしている。
傍から見た感じでは問題なさそうだったが、本人にはまだ違和感があるのだろう。

「それにしてもケイの掛けてくれた身体強化は凄いな、叩き潰すつもりで攻撃はしたが本当に原型を残さず叩き潰せるとは思わなかったぜ。」

「でも地面に武器を叩きつけずに止められてましたよね。僕は最初の頃力加減が全然うまく出来なくってえらいことになってましたよ?」

「その辺は今までの経験ってことだろうな。まぁいきなり地面に武器を叩きつけなくてよかったぜ。整備するにしても限界があるからな......。」

「今回は長丁場ですからね......装備や消耗品に気を付けて動くってのは初めてです......。」

「無駄遣いには気を付ける、だがいざって時に出し惜しみはしない。それが基本なんだが......ケイのお蔭で魔道具を戦闘中に使う必要が殆どないからな......傷薬関係も殆ど必要ない......物資的にはかなり楽なもんだぜ。気を付けるのは装備の消耗くらいだな。」

「僕の武器はかなり頑丈なのでしばらくは大丈夫です。レギさんの武器を整備されてたお店の人にも突き返されましたしね。」

「あぁ、あそこは気難しいからな......整備する必要がない物持ち込まれたって憤ったんだろうな......。腕はいいんだが、どこに沸点があるかわかんねぇんだよな......。」

「職人さんはこだわりがありますからね......。」

「まぁ、冒険者も変なこだわり持ってるやつは多いからな、人様の事は言えねぇな......まぁとりあえず俺たちに物資の心配はそこまでないってことだ。普通は装備や食料、医療品とか相当な量が必要になるからな、二人でダンジョンに長期間挑むのは得策とは言えないな。まぁ俺たちも一週間もすれば補給に戻る必要があるが、一週間も潜るなら五人は欲しい所だな。」

「僕らは四人いるので許容範囲じゃないですかね?」

「それはそうだが......シャルとマナスは殆ど物資を必要としてないじゃねぇか......特にマナスなんかケイの魔力があればいいんだろ?」

「まぁ、それもそうですね。」

およそダンジョンという危険地帯でする会話ではないと思うが、俺とレギさんはのんびりと会話をしながら歩を進めていた。
もちろん、俺もレギさんも警戒を緩めてはいない。
シャルという信頼のおける索敵能力を持っている仲間がいたとしても他が油断していい理由にはならない。

「他に類を見ない索敵能力に加え単独での戦闘力は最強クラス、食料どころか水さえ必要としない上、分裂可能で遠距離での意思の疎通が可能な戦闘員。失われた魔法を駆使して尽きることのない魔力を保有する前衛か......なんだこれ?上級冒険者のチームでももっと控えめだぞ。」

「言葉にするとシャルとマナスは凄いですねぇ。」

「お前もかなりおかしいからな?」

「僕は普通ですよ?シャルとマナスは凄いと思いますけど。」

「普通の基準がおかしいんだよ......。」

『ケイ様、この先の分かれ道の右手側三分ほどの距離から魔物が一体こちらに向かってきています。レストポイントは左手側になりますが、どうされますか?』

徘徊する魔物を全て倒す必要はないけれど......隅々探索をするのだから簡単に倒せるうちに倒しておいた方がいい気がする。

「レギさん、この先の分かれ道、レストポイントとは反対方向の通路から魔物が一体近づいて来ています。素通りも問題なく出来ると思いますが、どうしますか?」

「無駄な戦闘を避けるのは定石だが......戦わせてもらっていいか?もう少し強化魔法を受けた体を試しておきたい。」

「なるほど、わかりました。確かに実戦で慣れておいた方がいいですね。」

失念しがちだけどレギさんは身体強化魔法を受けての実戦は今日が初めてだ。
意識と体のずれは普段の体に慣れていれば慣れているほど大きくなる、俺は魔力を使えるようになっただけで歩行さえ危うくなったしね......。

「助かる。今度は一撃で終わらせずに少し動きを確かめながら戦うが心配しないでくれ。」

「了解です。鼻歌交じりに見学しておきます。」

「......そこはもう少し緊張感を出してくれ。」

俺達は軽口を叩きながら分かれ道で魔物が来るのを待ち構える。
やがてカラカラと軽い音が近づいてくるのが聞こえてきた。
今度は腐ってる系じゃなくって骨っぽい感じかな......?
始めてみるタイプの魔物だしよく観察しておこう......足だけ骨むき出しの腐ってる系ってことはないよね......?
通路の先に魔物の姿が見え始めた、理科室に標本としておいてあるアレが歩いてきた。
人体模型じゃないほうでよかった......。
動く骨はレギさんに気づいたようで足を速める、その右手には剣の様なものを握りしめていた。

「あれは、剣をもっているんですか?」

「あぁ、スケルトン系の魔物は武器を持っていることが殆どだ。基本的に骨の武器なんだが偶に落ちている武器を拾って使うやつもいる......っと続きはまた後でだな。」

軽快に走ってくる骸骨、スケルトンは先程戦ったゾンビとは違って機敏だった。
しかし何となく滑稽というか愛嬌を感じるのは俺の感性がおかしいんだろうか......?
スケルトンが大きく振りかぶった剣をレギさんに叩きつける。
剣で斬りつけるというよりもこん棒で叩きつけるといった感じの動きに感じられた。
レギさんは軽く打ち払うとそのまま相手の攻撃に備えるように武器を構えなおす。
身体強化魔法の効果も相まってか、レギさんはスケルトンの攻撃を払うのに殆ど力を込めている様子がない。
相手の弱点が右の大腿骨にあるのは見えているだろうし問題はなさそうだ。
暫く相手の好きに攻撃をさせてそれを防ぐだけだったレギさんが振り下ろされた右手を掴みスケルトンを壁へと叩きつける!
スケルトンに痛覚は無さそうだが壁に叩きつけられた反動で地面に倒れた。
その足をレギさんが踵で踏み砕く。
魔力核ごと足を砕かれたスケルトンは一瞬で魔力へと還る。
安定した動きに安心はできたけど、なんか戦い方が凄い悪役ぽかったです、レギさん。

「おし、問題はなさそうだ。待たせたな、レストポイントに向かうとしようぜ。」

「了解です。」

『この付近にはもう魔物の反応はありません。暫くは安全に進めそうです。』

「ありがとう、シャル。暫く魔物との遭遇は無さそうです。」

「助かるぜ、シャル。」

俺とレギさんにお礼を言われて少し機嫌がよさそうに尻尾を振るシャル。

「そういえば、アンデッドあまり群れないんですか?」

「そうだな、複数でいることが全くないとは言わないが本能......と言っていいのか分からねぇけど、無作為に動く奴が殆どだな。」

「なるほど、コボルトとは違いますね。」

「あいつらは集団でこそ真価を発揮するからな。アンデッドは......なんだろうな?目的がわからん。徘徊して襲い掛かってくるが、こちらを食うわけでも無いし......動いてるものに襲い掛かるってのも少し違う......同士討ちをしている所は見たことないしな......。」

「まぁ、死体の気持ちはちょっとわからないですよね......研究している人はいるんですかね......?」

「まぁどこかにはいるんじゃねぇか?研究者はおかしな奴が多いからな。」

「あはは、冒険者も職人も研究者もこだわりが強い人は多そうですよね。だからこそ、その分野で突き抜けられるんじゃないかと思いますけど。」

「そうだな。上級冒険者になるような連中はその傾向が強い気がするな。」

「上級冒険者ですか......お知り合いで上級の方がいるんですか?」

「あぁ、何人かいるぜ。あの街にはいないけどな。あそこは中級までしかいないから俺ごときが最強なんて言われちまうんだ。正直、上級冒険者はかなりの化け物だぜ?」

化け物か......俺は目標だった下級冒険者になったし、これ以上ランクを上げるつもりはないけどいつか会うことがあったら目を合わせないようにしようかな......。
俺はレストポイントへ向かいながらそんなことを考えていた。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

処理中です...