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2章 ダンジョン
第42話 これが魔力視
しおりを挟むView of レギ
時間はかかっちまったがこの場所にあいつらを迎えに来た。
少し体が震えている、体が強張っているのを感じる。
目の前が暗くなってきた気がする......目を瞑り深呼吸をする。
足はダンジョンの入り口に向かって動いている、目を開けて入り口を睨むがまた少し暗くなった気がする。
ダンジョンの手前で立ち止まる、もう一度、目を閉じて深呼吸。
そのまま一歩踏み出し、ダンジョンへ踏み込む。
大丈夫だ、意識ははっきりしている......俺が三人を、ヘイルをエリアをリィリをここから連れ出す!
ゆっくりと目を開けるとそこには闇が広がっていた......。
View of ケイ
「すみません!レギさん!」
「はは!いや!驚いたぜ!ダンジョンに入ったと思ったら何も見えねぇんだ。また気を失ったのかと思ったぜ!」
俺とレギさんは今、ダンジョンに入ってすぐの所にいた。
何故俺が平謝り状態かというと......。
「魔力視を出来るようにしたらダンジョンの中の魔力に視界が塗りつぶされるとは思わなくて!」
「いや、俺たちが慣れていないのが原因なんだろ?入ってすぐわかってよかったじゃねぇか。実戦中に掛けてたらパニクってたぜ。」
そう、魔力視が出来るように視力強化をしたところ、俺もレギさんもダンジョンそのものに蔓延する魔力以外何も見えなくなってしまったのだ。
いや、入り口に近づくにつれて薄暗くなっていくなぁとは思っていたんだけど......。
暗視も効かないし何事かと思ったらすぐ近くでレギさんも慌てていた。
シャルに言われて身体強化魔法を切ってようやく落ち着いたんだけど......やっぱりいきなり実戦投入は危険だね......。
辛うじて実戦手前って所で判明して良かったよ......。
『申し訳ありません!魔力視はピントの調整をしないとダンジョンでは周囲の魔力を先に拾ってしまうことを失念しておりました。ダンジョンの様な危険な地でこのようなことになってしまうとは......!』
「仕方ないよ。シャルにとっては普段から自然とやっていることなんだから。それにちょっとびっくりしただけで実害はなかったんだ、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。」
シャルが結構落ち込んでいるので、頭を撫でる。
『ですが......。』
「ちょうどいい機会だよ。魔力視の訓練をしてからダンジョンに挑んだ方がいい、ミーティングの時点でシャルが教えてくれたからこの事態に気づけたんだ。それにまだここは入り口だ、安全地帯で気付けて良かったよ。」
『......そうなのでしょうか?』
「そうなのですよ。よし、シャル俺達の練習に付き合ってよ。どうしたらいいかな?」
「おう!頼むぜシャル!ここでしっかりマスターしてから探索を始めたいからな!」
『......わかりました、全力で指導させていただきます!』
レギさんも乗ってくれてお蔭か、シャルが少し元気を取り戻したようだ。
まだダンジョン入り口、ここでしっかり新しい技術を身に着けておこう。
俺とレギさんはこの日、一日を費やして魔力視の特訓をした。
「よし、今度こそ突入だ。ケイ、魔力視の制御は大丈夫だな?」
「えぇ、ばっちりです。昨日涙が枯れるまで特訓しましたからね。レギさんは大丈夫ですか?」
「あぁ、目玉が飛び出すくらい練習したからな。制御は完璧だな。」
『まだ戦闘になると制御が甘くなる時があるので注意してください。昨日のように何も見えなくなるということはないと思いますが。』
「まだ、制御が甘くなる時があるから戦闘中は気を付けたほうがいいそうです。」
「おぅ、了解だぜ。それじゃぁそろそろ行くとするか。」
「はい!」
今日から、本格的な探索の始まりだ。
昨日はアクシデントがあったせいで探索は出来なかったけれど、レギさんの緊張もいい感じに解れた気がする。
一日二日を急ぐような状況ではない、かえっていいコンディションで突入できたことを喜ぶべきだろう。
シャルを撫でたいけど今は肩にいないからな、休憩の時にでもたっぷり撫でておこう。
そんなことを考えながら俺にとっての二度目のダンジョンに足を踏み入れる。
昨日も入ったじゃんとか言わないでね......。
ダンジョンの中は相変わらずピリピリしていた。
薄暗いけど行動するのに不都合がない程度に明るく、暗視が無くてもある程度遠くまで見える。
この辺の雰囲気、洞窟系ダンジョンの共通項なのかな?
さて......今回の魔物はアンデッドだ、シャルから弱点は教えてもらっているとはいえ......内臓でろっと出てたり、脳みそにゅるっとはみ出したりしてたら嫌だなぁ......。
『ケイ様、前方に魔物の反応があります。二体、徘徊しているだけのようですがこちらに向かってきているので2分もあれば遭遇します。』
「遭遇するのは通路だよね?二匹同時に相手をしないといけない感じかな?」
『ここから先、遭遇するまで通路の幅は狭いので戦闘となったら一匹ずつになります。ただ相手によってはむりやり同時に前に出ようとしてくる可能性があるので注意してください。』
相手によっては戦闘というよりのしかかってくる感じか......。
そういうタイプは苦手だな、相変わらず狭くて動きづらいし。
でもまぁ最初の戦闘は俺がやるって約束だしっかりやろう。
レギさんの話では下層の方は広くなっているらしいけど、そこに行くまではこういう場所での戦闘も多くなるはずだ。
「ありがとうシャル。レギさん、二分程で魔物二匹と遭遇します。昨日の打合せ通り最初は僕がいきます。」
「おぅ、頼むぜ。後ろからアンデッドの弱点が見えるか俺も試すからよ。」
「了解です。」
レギさんの顔色も普通だ。
前のダンジョンの時とは雲泥の差と言える。
後は俺がうまく立ち回れれば当面の問題はほぼない言える、この戦闘が試金石だね......。
魔力をナイフに流し魔道具として起動する。
そういえば、グルフの所に預けてある魔道具、レギさんは使えなかったな......。
どうやら起動するのに必要な魔力が足りないらしい。
起動させておくのに魔力を流し続ける必要があるし身体強化の魔法みたいに起動だけして渡すみたいには出来ない。
レギさんが使ったら面白そうな武器もあったんだけどな。
後は無限にものが入るバッグとか瞬間移動する指輪とか......あればよかったのになぁ......。
そんな妄想に浸っていると前方からずるずると引きずるような音が聞こえてきた......。
これはあれか......腐った系の魔物ですかね......これ足引きずる音ってことだよね......。
「魔法で耳もよくなったから分かるが......ケイは運が悪いみたいだな、初遭遇が死体系か......。嗅覚強化はやめとけよ......?」
「嗅覚は強化してませんよ......今回はこういう系も予想してたので......。」
「それが無難だな......まぁ、ここがダンジョンでよかったじゃねぇか。魔力に還せば腐臭も消えるぜ?」
そんなことを話していると曲がり角から姿を現した眼球のない顔がこちらを見ていた。
いや、全身出てきてるけど、やっぱり顔が怖すぎる。
ゾンビってやつは......。
瞼を開いているのに目がない、口は開いているが顎の筋肉が見えている。
内臓は出てなかった......よかった、脳みそもしっかり収まっている様だ、全部流れ落ちてなければ......。
こういうのは大抵、筋肉のリミッターがなくってってのが定番だよね......でもまぁ......シャルの言っていた弱点が......見えている。
「前の奴は首、後ろの奴は右肘かな?」
『はい、問題なく見えているようで何よりです。そこで間違いありません。』
よし、シャルからお墨付きをもらった。
後は相手に組み付かれないように一気にケリをつければいいだけだ。
コボルトのように雄たけびを上げることもなくゾンビ二体がこちらに向かってくる。
相手が伸ばしてくる手よりもこちらの方がリーチが長い。
半身になり引き絞った右手を突き出す!
狙いをたがわずにナイフの刃先が魔力核を貫く。
一瞬で魔力へと還った仲間に動揺することなく、二匹目のゾンビが組み付こうと両手を伸ばしてきたので、突き出したナイフを戻さずにそのまま右肘に叩きつける。
抵抗なく魔力核を断ち切ったナイフに魔力を流すのをやめて元のサイズに戻す。
その頃には二体のゾンビの痕跡はどこにも残されていなかった。
でも何となく......臭い残ってる気がするな......気のせいかもしれないけど......。
コボルトは血も残さず消えて......臭いはどうだったかな......覚えてないや。
とりあえず、初戦闘とアンデッドの魔力核の確認は出来た。
次はレギさんの戦闘、これが無事終われば本格的な探索のスタートだ!
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