37 / 528
1章 初級冒険者
第36話 みっしょんこんぷりーと
しおりを挟む「レギさんですか!?」
コボルトジェネラルの体に隠れて見えないがさっき聞こえた雄たけびはレギさんのものだった。
「にーちゃん!まだ無事か!?」
「レギさん大丈夫ですか!?子供たちは!?」
「すまねぇ!心配かけた!ガキ共はダンジョンの外まで送り出した!村までの護衛はマナスに頼ませてもらった!」
「了解しました!こちらはリノちゃんを保護しました!」
コボルトジェネラルを挟んで俺たちは現状確認を続ける。
もちろんその間もコボルトジェネラルの攻撃は続いている。
しかし先ほどまでの焦りが俺の中から消えていた。
自分でも単純だとは思うがレギさんが来てくれたことで安心を覚えているのだと思う。
「本当か!?じゃぁ後は外に出るだけだな!しかしこのデブ犬はどうする!?」
「急いで片づけてここを離れないと、さっき仲間を呼んでいたんじゃないかと思います!」
「さっき吠えたやつか......まぁ一番に呼び込まれたのは俺だったわけだがな!」
反対側でレギさんが攻めているおかげでこちらへの注意も散漫になっている。
先程まで挟み撃ちにされることを恐れていたのが逆に相手を挟んで攻めているわけだ。
多少強引でもこの機に一気に押し切る!
相手はその巨体が災いして前後からの攻撃に対応出来ていない。
正面の俺が牽制して背後を取っているレギさんに押し切ってもらえばいい。
なるべく相手の間合いの中で相手の武器である手を中心に斬りつけ続ける。
「くたばりやがれ!」
一際大きな咆哮を上げたレギさんと響く轟音!
大きく仰け反るコボルトジェネラル、その無防備な喉元を狙ってナイフを突き込む。
次の瞬間、コボルトジェネラルは魔力へと還りその体を霧散した。
霧散した魔力の向こうには息を切らしながら斧を構えるレギさんの姿が見える。
「レギさん!大丈夫ですか!?」
「それはこっちの台詞だ!一人で駆け出しやがって......!」
「あー、あれです。今はここから移動しましょう。いつ増援が来るとも限りませんし!」
「......それはそうなんだが......ちっ、なんか狡賢くなりやがって......。」
「......リノちゃんを連れてくるので少し待っていてください。」
普通に話をしているように感じたけれどレギさんの顔色はかなり悪い。
恐らくまだ万全ではないんだ。
これ以上戦闘になるのは不味そうだ、急いで外に出よう。
「リノちゃん、お待たせ。レギさんも来てくれたよ。他のみんなは無事に外に出れたってさ。」
「レギー?」
「うん、助けに来てくれたんだ。さぁ早く村に帰ろう。」
「わかったー。」
「シャルも護衛ありがとう。」
『いえ、問題ありません。それより急ぎここから離れたほうがいいと思います。』
「うん、分かった。急いでダンジョンから出よう。」
「おはなしー?」
「うん、シャルが早くおうちに帰ろうってさ。」
「そっかー、シャルもいっしょにかえろー。」
リノちゃんをつれてレギさんの所へ連れていく。
レギさんの顔色は悪く息も荒かったがリノちゃんの無事な姿を見ると苦笑しているようだった。
「よし、急いで外に出るぞ。がきんちょは俺が抱いていく、にーちゃん悪いが周囲警戒を頼む。」
「分かりました。シャル、先行してくれ。」
『承知いたしました。』
シャルが前を走りそれを追いかけるレギさん、その後ろを俺が走る。
幸い脱出ルート上に魔物が現れることはなく、俺たちは無事にダンジョンの外に出ることができた。
無事にリノちゃんを連れて村に戻った俺たちは大声援をもって迎えられた。
村長は大号泣しながら俺とレギさんの手を掴みお礼を言い続け、その場に崩れ落ちんばかりであった。
色々な人からお礼を言われ挨拶をするのに疲れ始めた頃、子供たちの絶叫が聞こえてきた。
驚いたレギさんと二人そちらに向かうと、恐らく親御さん達に怒られて号泣する子供たちがいた。
他の大人たちは苦笑しているが親御さんからすればあの子たちは命を落としてもおかしくなかったのだ、あのくらいのお説教は仕方ないだろうね。
子供たちの泣き声を聞きながら空を見上げるともう日が沈み始めていた。
シャルとマナスをかなり頼らせてもらったからな、今夜は二人ともしっかりケアをしてお礼をしよう。
その夜、宿でマナスを丁寧に磨き魔力をたっぷりあげた後、シャルにブラシをかけていた。
「シャルはもともと毛並みが綺麗だったけどケアをするようになってから一層綺麗になったね。」
『そ、そうなのですか?自分ではあまり分からないのですが......。』
「うん、日に当たると艶があって濡れたように光って見えるし、触るとさらさらというかふわふわというか......。うん、撫でるとすごく気持ちがいいんだ。」
『あ、ありがとうございます......。』
「こちらこそ、シャルとマナスにはいつも助けてもらっているけど、今日は特に頼らせてもらったからね。このくらいしかお礼の方法が思いつかないんだけど、もし何かして欲しいことがあったら何でも言ってね。」
『私はケイ様の近習です。側に仕え万難を排しケイ様をお助けすることこそ自身の喜びでもあります。』
「それでも俺はシャルに感謝しているし、シャルの希望も出来る限り叶えてあげたいんだ。」
『......。』
「もちろんマナスのもね。」
マナスは機嫌がよさそうにぷるぷる震えている。
シャルは少し何かを考えるような様子ではあったがやがてこくりと頷くと俺から少し離れて俺と向き合う。
『ケイ様に危険が及ばぬ限り、ケイ様の希望は必ず叶えたいと思っております。ですので......。』
「あー、ごめんね、シャル。そんな真剣にならなくていいんだよ?もう少し軽い感じで考えてもらった方がいいなぁ。」
『......善処いたします。』
堅いよ......シャル。
マナスくらい柔らかくてもいいと思うけどなぁ。
ぶにぶにとマナスを手の中で揉むと嬉しそうにぷるぷる震えるマナス。
......これ喜んでるんだよね?嫌がってないよね?
止めると何となくこちらを見ながらアピールするように弾んでいる様な気がする。
あくまで何となくだけど......。
ぶにぶにを再開するとやはりぷるぷる震えるので喜んでるのかな......?
嫌なら逃げてね......?
......なんとなく、手の中でぶにぶにされているマナスをシャルがうらやましそうに見ている気がする。
シャルをじっと見つめると俺の視線に気づいたのかシャルと目が合ったのだがすっと逸らされた。
耳がぴくぴくしているところを見ると、こっちを気にしている様な気がする......。
とりあえずマナスを解放してからもう一度シャルの方を見てみる。
微妙にシャルの尻尾が揺れている。
アレは機嫌がいい時の尻尾だよな......。
でも今後もシャルが希望を自分から言うのは難しそうだなぁ......。
「シャル、こっちに来てくれないかな?まだブラシの途中だったからね。」
『はい......失礼します。』
シャルが俺の膝に上ってくる。
背中にブラシをかけて胸元、お腹と梳いていく。
いつもはブラシをかける時のシャルはもう少しリラックスしてくれるんだけど今日は少し緊張しているように感じる。
まぁ、さっきの話が原因なんだろうけど......。
シャルは真面目なんだから希望を言わせるんじゃなくて、こっちで察してあげられるように努力するべきだったな。
『......ケイ様......。』
「ん?なに?」
『......耳の後ろを撫でてもらうのも好きなのですが......。』
「うん。」
ブラシをかけるのを止め、シャルの話を聞きながら背中を向けているシャルの耳の後ろを指先で撫でる。
『ぁぅ......そのぉ......。』
俺はシャルを撫でる手は止めずにシャルの言葉を待つ。
『......ぉ......お腹......。』
お腹......?
『......私も......私のお腹を撫でてください!』
勢いよくそう言うとシャルは顔を隠すように蹲ってしまった。
これは相当恥ずかしいことを言わせてしまった感じなんでしょうか......。
蹲ってぷるぷる震えているシャルの背中を見ていると申し訳なくなる......けどなんかちょっと可愛い......。
「うん、じゃぁさっそく......」
『きょ......今日は!まだ!だいじょ......!大丈夫えふ!』
......念話でも噛むんだ......。
結局その日蹲ったままのシャルは、お腹を撫でさせてくれることはなかった。
2
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
異世界でトラック運送屋を始めました! ◆お手紙ひとつからベヒーモスまで、なんでもどこにでも安全に運びます! 多分!◆
八神 凪
ファンタジー
日野 玖虎(ひの ひさとら)は長距離トラック運転手で生計を立てる26歳。
そんな彼の学生時代は荒れており、父の居ない家庭でテンプレのように母親に苦労ばかりかけていたことがあった。
しかし母親が心労と働きづめで倒れてからは真面目になり、高校に通いながらバイトをして家計を助けると誓う。
高校を卒業後は母に償いをするため、自分に出来ることと言えば族時代にならした運転くらいだと長距離トラック運転手として仕事に励む。
確実かつ時間通りに荷物を届け、ミスをしない奇跡の配達員として異名を馳せるようになり、かつての荒れていた玖虎はもうどこにも居なかった。
だがある日、彼が夜の町を走っていると若者が飛び出してきたのだ。
まずいと思いブレーキを踏むが間に合わず、トラックは若者を跳ね飛ばす。
――はずだったが、気づけば見知らぬ森に囲まれた場所に、居た。
先ほどまで住宅街を走っていたはずなのにと困惑する中、備え付けのカーナビが光り出して画面にはとてつもない美人が映し出される。
そして女性は信じられないことを口にする。
ここはあなたの居た世界ではない、と――
かくして、異世界への扉を叩く羽目になった玖虎は気を取り直して異世界で生きていくことを決意。
そして今日も彼はトラックのアクセルを踏むのだった。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる