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1章 初級冒険者

第30話 愛されているハ......人

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結局初日にビッグボアは現れなかった。
疲労もあったので少し助かったとも思ったけど、本来であればその辺も考慮するべきだったと思う。
次からはその辺も注意しないとね。
今日は昼過ぎまで宿で休んでいたので夜の間は問題なく動けるだろう。
今は朝食?後の腹ごなしに村の中を散歩している。
右肩にシャル、左肩にマナス、腰にナイフといういつものスタイルだ。

「この村は想像していたよりも大きいな。」

『そうなのですか?』

「うん、村って2,30人くらいかと思っていたんだけど。ここはもっと沢山人がいるよね。」

『そうですね、200人程でしょうか?』

「結構多いような気がするけどこれが普通なのかな?」

「2、30人程度しかいない村は生活が成り立たねぇと思うぞ?」

シャルと話しているとレギさんが突っ込みを入れてきた。

「あ、レギさん。おはようございます。」

「おう、もうすぐ夕方だけどな。しかしにーちゃん田舎の出っていうより人里離れた山奥の出だったのか?」

「あー、そうですね。どちらかと言えばそっちが正解です。」

「なるほどなぁ、田舎者より野生児よりだったか。」

『......馬鹿にしているわけではないようですが、少し不愉快です。』

レギさんの台詞にシャルが少しイラっとしたようなので頭を撫でる。
山奥から出て来たのは間違ってないからね。

「野生児ってほどではないと思いますけど......村の規模ってこんな感じなんですか?」

「まぁ特に大きくも小さくもない規模じゃないか?役割分担をしながら共同体を形成しているわけだからな、あまり人数が少ないと生活が立ち行かなくなると思うぜ?」

「なるほど、それはそうですね。」

「あー!レギじゃん!きてたのかよ!」

レギさんと他愛のない話をしていると横から甲高い声でレギさんの名が呼ばれる。

「ほんとーだー!こんにちはーレギさん!」

声がしたほうに目を向けると子供が数人レギさんを見て目を輝かせていた。

「おぅガキども、元気にしてたか?怪我や病気になったりしなかったか?」

「おーう!俺たちはみんな元気だぜー!」

元気いっぱいで返事をする子供。

「この前転んでケガしてたじゃーん。」

「うるせぇ!そういうのは良いんだよ!」

「この前お腹壊してたー!」

「あれってびょうきなのかー?」

「痛いから病気じゃない?」

「レギは相変わらず毛がねーなー!」

「レギあそんでー!」

「レギーこれあげるー、さっき捕まえたー。」

うん、なんかすごい数の子供が集まってきてレギさんが囲まれる。
五歳から十歳くらいの子達だろうか?
皆元気いっぱいの遊び盛りと言った感じだ。
それにしてもレギさん大人気だな。
しかしなんか罵倒が混ざっていた気もする。

「とりあえず落ち着けお前ら!後、誰だ!今悪口言ったのは!」

太い腕を振りかざし子供たちに迫るレギさん。
嬉しそうな悲鳴を上げながら蜘蛛の子を散らすように逃げる子供たち。
追いかけるレギさん。
子供に大人気だな......。
10分後両手、両足、肩に背中に頭にと体の至る所に子供を装備したレギさんが帰還した。

「凄いことになってますね......。」

「この村に来るたびにこうなるんだ。めんどくせぇったらねぇぜ......。」

そう言いながら子供にへばりつかれるレギさんに嫌そうな様子は全くない。
ツルデレか......。
優しげな表情から一変、悪鬼のごとき表情を向けてくるレギさん。
いや、ツンデレでした、ちょっと間違えました......。
というか今気づいたけど一人だけ力なく服を掴まれてぶら下げられてる子がいるような......あれってさっきあまりお勧めできない一言を言ってた男の子じゃぁ......。

「元気なのはいいことだが、俺はうまいこと剃ってるだけだ。そこを間違えると、泣いたり笑ったり出来なくなるから気を付けろ?」

そう言うとレギさんはぶら下げていた男の子を地面に下ろして両手でくすぐりだした。

「あははははは!やめ!やめろ!はげ!あはははははは!」

めっちゃ泣きながら笑ってます、レギさん。

「あぁん?今なんかいったかぁ?」

「ご、ごめんなさい!も、や、やめて!」

「まぁこれくらいで勘弁してやろう。」

そういうとレギさんは男の子を解放した。

「レギーおしごとおわったのー?」

「いや、まだだ。これからそっちのにーちゃんと一緒に仕事だ。」

「てつだうー。」

「あ、俺も手伝いてぇ!」

一番小さな子が手伝いをすると言うと、僕も!私も!と次々と参加表明をする子供たち。
元気だなー。

「そうか、でもまだお前らにはちょっと難しいなぁ。まずは家の仕事をしっかり出来るようになってからだな。」

「わかったー、レギーこれあげるー、がんばってー。」

「おう、サンキューな。よく食ってよく寝てしっかり家の手伝いしろよ。仕事が終わったらまた遊んでやるからな。今日の所は暗くなる前に家に帰っとけよ。」

そう言ってレギさんは一番小さな子から石を受け取りお返しなのか頭を撫でる。
何人かはぶーぶー文句を言っていたがやがて大人しく家路についた。
もうすぐ日暮れ時だ、街と違って街灯があるわけじゃない、日が沈み出せば暗くなるのはあっという間だろう。

「元気な子達でしたねー。」

「村に外から人が来るのは珍しいからな。めったに見ない人間をみてテンションが上がっちまったんだろう。」

「そうなんですかね?レギさんが物凄い懐かれているからだと思いますけど。」

「いかついおっさんに懐くもないと思うがなぁ。」

そういうレギさんの表情はまんざらでもなさそうだった。
まぁ面倒見のいいレギさんが子供に懐かれるのは別に不思議でも何でもないけど......。

「そんなことはないと思いますけど......これからどうしますか?僕は一度宿に戻って見張り中に食べられそうなもの作ってもらおうと思っているんですけど。」

「あぁ、それならもう俺が頼んでおいた、これから少し畑の周りを見回っておこうと思っているんだが......。」

「それでしたらご一緒してもいいですか?」

「おう、残ってるか分かんねぇが足跡でも見つけられたらどこから来たかとか体の大きさとか把握できるしな。地面に注意しといてくれ。」

「分かりました。」

それから夜の見張りまでの時間、畑の周りを調べてみたが残念ながら綺麗に均されていて痕跡は残っていなかった。
俺たちは早々に痕跡探しをあきらめて宿に戻り夜に備えることにした。



「昨日は現れなかったがすぐに来るだろうよ。」

見張り二日目、痕跡を見つけることは出来なかったがレギさんはそんな風に呟いた。

「そうなんですか?」

『私もそう思います。恐らく今日、遅くとも明日には来ると思います。』

レギさんと同様にシャルも近いうちにビッグボアが現れると予想している様だ。

「まぁな、ここに来れば飯にありつけることは理解しているんだ。量も栄養も豊富なやつがな。魔物は賢いからな、警戒されていることには気づいているかもしれない、それでも目の前にぶら下げられた食事には逆らえないってもんだ。まだ本人たちは痛い目にあったわけじゃないしな、腹が減れば必ず来る。」

「なるほど......。まぁ夜警をしている身としては早めに来てくれる方がありがたいですね。」

「そうだな、これでどこかで討伐されたりしてるとな......冒険者に討伐されて素材を回収さると痕跡もほとんど残らない。昔、討伐対象が通りすがりの冒険者に討伐されてて無駄に一月程探し続けたこともあったな。」

「それはなんか......徒労感が半端なさそうですね。」

「あぁ、討伐されたことを聞いたときに卒倒しそうになったぜ。」

一カ月探し続けたターゲットが実はすでに討伐されていました......いやぁクルストさん並みに崩れ落ちそうだ。
今回のビッグボアがそんなことにならないといいなぁ。

「数日様子を見て、もし現れない様ならこちらから探しに行く必要が出てくるな。」

「是非とも姿を現して欲しいですね。」

「追跡となるとかなり面倒だからな。ここでケリを付けたいが、いざ現れたとしても逃がしたら相当厄介なことになる。気を引き締めておけよ。」

「了解です。」

「戦闘は畑への被害をなるべく抑えるように動いてくれ。出来ればこの場所からは引き離して戦いたいが、逃がすわけにはいかないからな......その辺は注意しておいてくれ。」

「わかりました。なるべく畑を背にしないように立ちまわります。」

『......ケイ様。』

打合せをしているとシャルが声をかけてきた。
このパターンはあれだね......。

『魔物が近づいてきます。情報通り二体。西側から、警戒しつつ近づいてきています。』

「レギさん、来ました。西側から二体。ゆっくり近づいて来ています。」

シャルを撫でながらレギさんに魔物の接近を伝える。

「......ほんと、にーちゃんと仕事をすると助かるな......前みたいに回り込めそうか?相手は魔物だから感知も鋭い。無理そうならここで待ち伏せしたほうがいい。」

背負っていた斧を手に取りながらレギさんが提案してくる。
釣られて俺も自分の獲物に意識が行く。
最近いつも身に着けるようにしているナイフだ。
魔道具としての効果はしっかり確かめている、普通のナイフでイノシシを倒すのは大変だろうがこのナイフなら問題ない。

『大丈夫です、感知範囲外から回り込むように案内いたします。』

「大丈夫そうです......マナス、分裂して片方がレギさんの所に残ってくれるか?」

問いかけるとすぐにマナスは分裂してレギさんの傍に移動する。

「位置に着いたらマナスが飛び跳ねます、回り込むのに失敗して相手に気づかれたらマナスが震えだすのでそれで判断してください。」

「わかった、初手はこっちから仕掛けるからフォローを頼む。無理はするなよ。」

「了解です、それではまた後で。」

シャルが肩から降りて先導してくれる。
なるべく音を立てないようにシャルを追いかけていく。
逃がしたら厄介なことにしかならない、確実に仕留められるように慎重に回り込もう。

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