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1章 初級冒険者

第23話 言い訳じゃないよ?必要な事なのだよ?

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レギさん達が警備している倉庫から離れ周囲の建物の配置や死角等を調べていく。
街灯の灯りが届かない部分や細い路地は結構多いが視覚強化により暗闇でも問題なく見えるようになっているので問題はない。

「視界は良好、不審な音も聞こえないっと。魔法はすごいねぇ。」

『はい、ですが魔力を使えるようになったのもここ数日の事ですのにここまで魔法を使いこなしているケイ様は本当に素晴らしいと思います!』

「シャルが使い方を教えてくれるからだよ。ありがとう、シャル。」

肩に掴まっているシャルの耳の後ろを掻くように撫でる。

『~~~~~~~~っ!い、いぇ!これからも誠心誠意お仕えさせて頂きます!』

尻尾をぶんぶん振りながら、シャルが改めて気合を入れたように叫ぶ。
いや念話だから叫ぶのとは違うのかな?
まぁでも気合が入ってるのは十分伝わってきます。

「この辺は倉庫街なのかな?ほとんど人気が感じられないけど......。」

『そうですね、どのように使われているのかはわかりませんが人はいないようです。』

「倉庫街なら俺たちのほかにも見張りがいても良さそうなもんだけど......。何か理由でもあるのかな?」

『あの人間に確認しておいたほうがいいかもしれませんね。』

「......レギさんのことかな?うん、そうだね。戻ったら聞いてみよう。」

結構警備対象の倉庫から離れたが特に風景に変わりはない。
道幅はそこそこ広く取られていて、荷物を馬車で運んだりしやすくしているという事だろうか?
建物は1階建てのようだが屋根が高く、2階建てくらいの高さはありそうな感じだ。
建物を見上げているとふと冒険心が湧き上がってくる。
脚力強化したらあの屋根まで跳べないかな......?

「ねぇ、シャル。脚力強化したらあの屋根まで跳べるかな?」

『問題なく跳べるとは思いますが、姿勢制御や飛び乗れなかった時の受け身の為に脚力だけではなく全身を強化したほうがいいかもしれません。』

「なるほど、了解。じゃぁ早速......。あ、シャルとマナスは降りておいてね。」

これは興味本位だけの行為じゃない。
高所から地形把握をするためにやらなければいけないことなのだ、だから仕事中に遊んでいるわけでも油断しているわけでもない!
そんなことを考えつつ強化魔法を発動、森で発動させた時よりも気持ち多めに魔力を込める。
この辺の感覚はどんどん使っていって掴まないとやりたい事に対する必要な魔力量って分からないよね。
だからこれは必要な事なのだ。

「せーのっ!」

力を込めて屋根に飛び上がる。
少し高く飛びすぎたけど問題なく屋根の上に着地、各種強化のお蔭でバランスを崩すこともなくほとんど音を立てることもなかった。
思わずにやにやしてしまう。

「いやぁ、飛び上がっちゃったよ......。しかも聴覚強化してる俺の耳にもかすかに聞こえる程度の静かさで......。これそのうち空を飛べたりしちゃうんじゃ......。」

人間の体を強化して空を飛べるかな......?
イメージがわかないけど......もっと自在に魔法が使えるようになったら挑戦してみよう。
夢が膨らむなぁ......。
そんなことを考えているとシャルが屋根に飛び上がってきた。
マナスも少し遅れて壁を登ってきた。
シャルは飛び上がってきたんだからともかくとして、マナスの壁上りも相当な速度だね......。

「こうして屋根に上ったものの、周りの建物も同じくらいの高さだから見晴らしはそんなに良くないね......。」

建物の配置や道の繋がりは分かるけど......護衛地点から死角になるような部分なんかは屋根の上を移動して確認しよう。

「よし、屋根の上をぐるっと回って元の倉庫に戻ろう。」

なるべく静かに屋根の上を飛び回る。
シャルはともかく、マナスも簡単についてくる。
鬼ごっこの時も思ったけど、やっぱりマナスの動きもすごいな。
ってかこの世界の生物はみんなすごいよね、レギさんも身体強化魔法を使っているわけでもないのに片手でクルストさんをぶら下げてたし......力を入れてる感じでもなさそうに......。
もっと訓練が必要だね......。

「また森で鬼ごっこでもしようかな......今度は魔法も使って。」

『それは楽しみです。次は是非私も鬼役をやりたいです!』

「じゃぁ最初の鬼はシャルにやってもらおうかな。」

少し後ろから付いてきていたマナスが体を伸ばし俺の肩に掴まってきた。
そのまま肩の上でぷるぷる震えている。

「うん、その次はマナスにお願いするよ。」

マナスは一度俺の肩の上で弾むとそのまま飛び降り俺に併走する。
ってかマナスも俺にあっさり追いついたね。
マナスは加護がないはずだから魔法は使えないと思うけど......スペック高いなぁ......。
そんなことを考えながら付近の建物の上をぐるっと巡った後元の倉庫に戻ってきた。
正確には倉庫の屋根だけど。
突然ここから飛び降りて二人を驚かすことは出来そうだけど、一瞬でレギさんにばっさりやられたらたまったものじゃないしな......。
隣の倉庫から飛び降りて近づこう。

「よっと......レギさん、クルストさん。ただ今戻りました。」

「......にーちゃん、今どこから戻ってきたんだ?飛び降りてきたように見えたんだが。」

驚かさないように、地面に降りてすぐ声をかけながらレギさん達に近づくとすぐに反応があった。

「隣の倉庫の屋根からです。高所から地形を把握しようと思って屋根の上を移動してました。」

話しているとシャルとマナスも飛び降りてくる。

「なんかそっちのちっこいのとスライムも飛び降りてきたように見えたっスけど、スライムはともかくちっこいのは犬だと思ってたっスけど猫だったっスか?」

「いえ、狼ですよ。」

「はーちっこいのに狼ってすごいんスねー。」

「いや、そっちもおかしいとは思うが、それより屋根から音もなく飛び降りたにーちゃんのほうがおかしくないか......?」

「そうですか?僕は金属鎧とかつけてるわけじゃないのでこんなものじゃないですか?」

「......まぁ、にーちゃんは身軽そうだし、そういうものなのかな......。」

なんとなく納得がいってなさそうな雰囲気のレギさん。
森でグルフの事を説明していた時にも見た気がするな......。

「ところで、僕がいない間なにかありましたか?」

「いやー静かなもんっス。不審者どころか、人っ子一人見かけなかったっス。」

「この辺はスラムからは少し離れているとはいえ北東よりだからな、夜は人気が無くなるんだ。」

「なるほど、前言っていた危険地域よりなんですね。」

「メインストリートを挟んで西側のほうに新しい倉庫街を作ってるらしいっスよ。この辺の倉庫も中身は向こうに移動してる所は多いんじゃないっスか?」

「どうりで人気が全然ないわけだ。ってことは価値が高い商品は既に移動済みで、依頼人が言ってたようにこの倉庫の中は価値の低い物ばかりなのかもな。」

人気がないのはそういう理由だったのか、レギさんに確認しようと思っていたけどクルストさんから教えてもらえるとは思わなかったな。

「しかしクルスト、色々情報を集めてるじゃないか。」

「うっス。情報は大事って何度も聞いているっス、街の噂レベルのものでも注意して聞くようにしているっスよ。」

「真面目にやってるようで何よりだ。」

情報収集か......確かに大事なことだけど、どうやったらいいんだろ?

『ケイ様、情報収集に関してですが。私に任せて頂けませんか?少し心当たりがあるので。』

それは助かるな......ここは全力で頼らせてもらおう。
俺の方を見上げているシャルを抱き上げながら小声でお礼を言う。

「ありがとう、シャル。お願いしていいかな?」

『ぜ、全力で頑張ります!』

「無理はしないでね。」

抱き上げたシャルを撫でながら注意はしておく。
放っておくと何日も休まずに働きそうだ。

『はい!早急に取り掛からせて頂きます!』

うん、休まなさそうだね......。
そんな話をしているうちにどうやら警備の方はレギさんが休憩するそうだ。
休憩と言っても腰を下ろして軽食を取るだけでこの場から離れるわけではない。
俺たちの監督をしないといけないとはいえ申し訳ない気もするが、レギさんが言うには本来一人でやる仕事なわけで休みなんか入れられねぇんだから楽なもんだ、との事だった。
夜明けまでは後5,6時間といったところかな?
何事もなく過ぎてくれるといいけど......。

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