20 / 528
1章 初級冒険者
第19話 恥辱にまみれようとも
しおりを挟む森でレギさんに身体慣らしに付き合ってもらったのは昨日の事。
今日は再度冒険者ギルドに来ていた。
「よぉ!」
「あ、レギさん。おはようございます。今日は受注ですか?」
レギさんが受付のおねーさんに声をかけている。
一昨日対応してくれた人だ。
「いや、今日はツレをギルドに登録したくてな。」
「お知り合いの方の......?あれ、あなたは確かこの前の......。」
「先日はお世話になりました。改めて冒険者ギルドに登録したいのですが。」
そういってカウンターの前に進み出るとおねーさんは困ったような表情を浮かべる。
「えっと、ですが、その......。」
ちらっとレギさんに受付のおねーさんが視線を向ける。
あぁ、すみません......言いたいことはわかります......。
「魔力なら問題ねぇ。あの後デリータの所に相談に行ったらあっさり使えるようになりやがったよ。」
レギさんがニカッと笑いながら説明してカウンターから離れる。
「そうなのですか!?それはおめでとうございます!」
魔力が使えるようになったことを祝福してくれるおねーさんは凄く嬉しそうだ。
魔力を持たない人の事をデリータさんから聞いたため、あの時何故痛ましい物を見るような雰囲気だったのか、何故こんなにも祝福してくれるのかが分かる。
この人もまたとてもいい人なのだ。
「ありがとうございます!おかげ様で魔力操作が出来るようになりました。ですのでもう一度登録をお願いしたいのですが。」
「承知いたしました。では、申し訳ないのですけどもう一度こちらに記入をお願いします。それと身分証明書の提示もお願いします。」
「こちらこそ、お手数おかけします。えっと、証明書はこれですけど大丈夫ですか?」」
門で発行された魔力が使えないことの証である仮の仮の証明書を提示する。
この前は名前を書いた後に身分証明書を出してダメだったからな......。
まぁおかげでレギさんと知り合いになれて色々助かったわけだから良いか悪いで言えばとても良いって感じだけど。
「えぇ、魔力が使えるのであれば大丈夫ですよ。最後にギルドの登録証に魔力を込めてもらう必要があるのでそちらが出来れば問題ありません。」
手続き的にはそういうものか、レギさんは実務として魔力が使えないと話にならないって言っていたけど。
「わかりました。記入はこれで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。では次に......あっ。」
「ん?」
おねーさんが何かに気づいたように声を上げる。
何か記入おかしい所があったかな?
「おいおい、お前みたいな奴が冒険者になれると思ってんのか!?」
......えー?
目の前にいるおねーさんはあちゃーみたいな顔をしている。
「聞いてんのか、コラ?」
カウンターから離れていたレギさんの方を見るとものすごいにやにやしていた。
......楽しそうですね。
「こっちみろや!コラァ!?」
そろそろ振り返らないといけないかな......いけないのかなぁ......?
これは俺どういう顔して相手したらいいの......?
はぁ......とりあえず振り返ろう。
「えっと、何か御用でしょうか?」
ぶふぉ!っと誰かが噴き出したような音が聞こえる。
いや、まぁ、誰か確認するまでもないんだけど。
「御用でしょうかじゃねぇんだよ?舐めてんのかてめぇ!?」
ダメだめんどくさいを通り過ぎて、この人が何言っても面白い感じがする......。
申し訳なさもあるんだけど、なんかもそれも面白い。
「すみま......ぶふぅ!」
しまった、思わず噴き出しちゃった。
「てめっ!きったねぇな!ふざけんなよ!?」
いや、これは本当に申し訳ないです。
「すみません。真面目にお仕事をされているところ申し訳ないのですが、僕はこのギルドで登録をしようとするのが2回目でして......まさか2度も同じパターンで絡まれるとは思わず、うっかり笑ってしまいました。」
頭を下げて謝る。
あれ?この人ちょっと足震えてるような......?
「......え?」
「ちなみに二日前のことでしたが、その時絡んできたのはあそこでにやにやしながら見物している人でして......。」
目の前で俺に絡んでいた冒険者の方は顔を赤くしながらレギさんのほうを向く。
あ、レギさんがまた噴出してとどめさしてるし。
「うぁ......。」
もはや彼の顔は真っ赤だ。
物凄くいたたまれなくなってくる。
「クルストさん、すみません。言う暇がなかったのですが、今回は......その、それはいいです。」
......崩れ落ち、蹲ってしまった。
なんか3人がかりで虐めている様だ......でも今俺が何言ってもダメだよね......?
最初にぶち込んだの俺だし......せめて足が震えてたのに先に気づいてたら他に言いようがあったかもしれない。
「............っ。」
声かけられないなぁ......。
ある意味これも不測の事態に対応するテストになってるよね......?
「えっと......お仕事をされていただけですので、気にされることはないと思いますよ?」
「......仕事......。」
「そうですよ、あなたが恥じる所はどこにもなかったと思います。僕が二度目だったというイレギュラーだっただけで、普段であれば問題なかったわけですから。」
「......問題なかった......?」
ついでにあそこでニヤニヤしてる人も巻き込んでやろう。
「それに元々の原因である1回目に盛大にやらかしたのはあそこで見ている人ですし。あの時は登録がそもそも出来なかったのに絡んできて、完全に勇み足だったわけですし。」
ニヤニヤしていたレギさんの顔が少し歪む。
「......あの禿のせい......?」
「誰が禿だ!クルストてめぇ!引き抜くぞ!」
頭部の話題に対するヘイトが高すぎます、レギさん。
「ひぃ!すんませんっス!」
レギさんが脅したおかげでうずくまっていたクルストさん?が飛び起きた。
「ふぅ......恥ずかしかったっス。もうこれやめたほうがいいと思うっス。あんたも気を使わせて悪かったっスね。あまりの恥ずかしさに悶死する所だったっス。」
「落ち着いたようで何よりです。今日、冒険者登録したケイ=セレウスです。ケイと呼んでください。」
「俺はクルストっス。まだ初級冒険者っスけど、何か困ったことがあったら相談に乗るっスよ。」
「ありがとうございます、宜しくお願いします。」
クルストさんは初級冒険者か。
そういえばどうやってランクは上がっていくんだろう?
別にばりばり上げていくつもりはないけど、今度レギさんにでも聞いてみるか。
「ケイさん、すみません。登録の続きいいですか?」
「あ、すみません。分かりました。」
カウンターに向きなおるとプレートのようなものが用意されていた。
これが登録証なのかな?
「これがさっき言ってた登録証ですか?」
「えぇ、左上にある魔晶石に魔力を流し込んでください。」
ランプみたいに割らないように気を付けて......滲みだすように......。
一瞬魔晶石が光った、これでいいのかな?
なんか遠くの方で、クルストちょっとこっちにこい、ちょっと口が滑っただけっス、頭が滑ってるだぁ、ひどい被害妄想っス、みたいな会話が聞こえてくる。
向こうも興味深い事件が勃発しているようだけど今の俺は手続き中だ。
「これで大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。今後はそれを提示すれば身分証明が可能となります。再発行は可能ですが次からは銀貨15枚がかかります。ですのでなくさないように気を付けてください。」
「わかりました。」
銀貨15枚か、結構高い気がする。
なくさないように気を付けよう。
「ケイさんは現在初級冒険者となります。ギルドにある初級冒険者用の依頼を10個こなせば下級冒険者に昇格します。下級冒険者に上がらずに半年が立ちますとギルドから登録が削除され、登録が削除されると同じギルドで再度登録は出来なくなるのでご注意ください。」
「他の街の冒険者ギルドだったら大丈夫なんですか?」
「えぇ、昇格できなかった場合であれば問題ありません。犯罪等を犯して登録削除された場合は流石に他所のギルドに行っても登録は出来ないので、悪いことはしないでくださいね?」
にこっと笑いながら冗談っぽくおねーさんは説明してくれた。
受付には綺麗所がいるのはどこの世界でも一緒なんですね。
「あはは、一応気を付けておきます。」
「知り合いの方がお縄に着くのは見たくないので注意してくださいね。後は何か聞いておきたいことはありますか?」
「依頼を受けるにはどうしたらいいんですか?」
「依頼はあちらのボードに張り出しているものから選んで受けてもらうことも出来ますが、全ての依頼が張り出されているわけではありません。特に初級冒険者用の依頼はほとんど張り出すことがないので、受付で確認してもらってから受注してもらう事になります。」
「わかりました、ありがとうございます。後はやっていくうちに何か出てくるかもしれません。」
「承知いたしました。それではケイさん、冒険者ギルドへようこそ。これから宜しくお願いしますね。」
「宜しくお願いします!」
ギルド証を懐に入れてカウンターを離れる。
これで当面の目標はクリアかな?
でもこのままじゃ半年で失効しちゃうからな、次の目標は下級冒険者になることだな。
1
お気に入りに追加
1,720
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる