上 下
5 / 528
序章 狼の森

第4話 人里を目指して疾走!......シャルが

しおりを挟む


神域を抜けて2日が過ぎた。
その間俺はシャルの背中に乗せてもらって人里を目指している。
とはいっても、人里がどこにあるのか俺はもちろんのこと、母さんもシャルも知らなかったのでとりあえず東に向かって突き進んでいる。
東に向かっているのは母さんから最初に向かってもらいたい神域の場所を聞いているからだ。
まぁざっくりと東の方にある霊峰と言われた。
凄く高い山だから結構遠くからでも見える、とも。
残念ながら今いるのは森の中なので木々にさえぎられて遠くは見えない。
まぁそのうち森は途切れるだろう、ほぼまっすぐ進んでもらっているしね。
森の中でも迷わず一方向に進むことが出来るのは全てシャルのお蔭だが、この二日間、俺はシャルにおんぶに抱っこだった。
移動はシャルに乗せてもらっている。
食料はシャルが採ってきてくれた。
その他必要なものや母さんから譲ってもらったものはシャルが運んでくれている。
シャルを恐れてか危険な生き物が近寄ってくる気配はない。
母さんに頼りきりだった生活に別れを告げ、今度はシャルに頼り切りの生活だ。
ダメ人間だな。
いや、一応サバイバルスキルは色々と母さんから教わっているのだけど、俺が何かするよりも早くシャルがやってしまうのだ。
辛うじて出来たのはシャルが食料を取りに行っている間にやった薪拾いくらいだろうか......。
自分の情けなさを再確認したところで、これからの予定について考えよう。
当面の目標は魔力操作を覚えることだ。
このためには人里を見つけて誰かに教えを請う必要がある。
魔力操作が出来るようになって魔法が使えるようになるまでは神域に行ってはならないと母さんから強く言われている。
覚えるのにどのくらい時間がかかるかわからないけど、幸い時間はいくらでもある。
急ぎたいのは元の世界への連絡ぐらいだがこれに関しては慌ててもどうしようもない。
兎にも角にもまずは魔力操作だ。
というわけで東に向かいつつ人里、できれば人が多く集まる街がみつかるといいのだけど、森を抜けないことにはな......。

『神子様、空気が変わってきました、森を抜けられそうです。』

「おぉ、とうとう森も終わりかぁ。街道がすぐみつかればいいのだけど......。」

『そうですね。この森には人の手が入っている気配がないのでまだしばらくは人里は遠いかもしれませんが、街道くらいは早めに見つけたい所です。』

「でも街道についたらさすがにシャルに乗せてもらって走るのは危険かな......?」

『神子様に降りかかる危険は全て排除いたします!』

「あぁ、うん、ごめん。そういう事じゃなくて。街道をシャルが疾走していたらほかの人たちが驚くんじゃないかと。」

『そういうことでしたか。......畏まりました。では街道を発見したら私は姿を変えましょう。』

「姿を変える?」

『はい、体を少し小さくして神子様の横を歩く感じでどうでしょうか?』

「なるほど、魔法で体を小さくするのか......。うん、そうだね。これから街中に入るわけだしそうしてもらえると助かるな。」

『ではそのようにさせて頂きます。神子様。』

「あー、シャル。一つお願いがあるのだけど。」

『なんでしょうか?』

「俺の呼び方だけど、神子様はやめてくれないかな?」

『な、何故でしょうか?御不快でしたか!?』

「いや、そういうわけじゃないんだけど。ほら、俺はこの前母さんから新しい名前を貰っただろ?これから先その名前で呼ばれていくわけだけど、呼ばれ慣れていないととっさに反応できなさそうでさ。」

まぁ、これはこじつけで、様付けされるのがものすごくむず痒いからってのが一番だけど......。

『なるほど、承知いたしました。では、ケイ様とお呼びすればいいでしょうか?』

んっっ!様が取れない!

「ケイって呼び捨てにしてくれないかな?」

『そんな、恐れ多いです!』

まぁ、いきなりそれは無理だよね......。

「せめてさん付けくらいでどうかな?」

『......努力はいたしますが、申し訳ありません。しばらくはケイ様と呼ばせていただければ......何卒。』

思っていた以上に苦しそうだ、無理強いは出来ないな。

「わかった。無理はしなくていいよ。ごめんね、変なことを頼んで。これから一緒に旅をしていくんだ。あまり固くならずに気楽に行こう。」

『はい!ありがとうございます!』

......まぁ徐々に慣れていくよね......?

『ケイ様、そろそろ森を抜けます。街道が見えるまでは少しスピードを上げられると思いますが大丈夫でしょうか?』

「今でも木々の中を走り抜けているとは思えないほど早いけど、もっと早くなるんだね。うん、大丈夫だと思うよ。あまり揺れないように走ってくれているみたいだしね。」

鞍もつけてない狼の背中に乗せてもらっている......というかへばりついているって感じで乗せてもらっている割にほとんど揺れを感じないってどんな走り方なんだろう......これも魔法なのかしら......?

「そうだ、森を抜けたらそこで一回休憩してもらっていいかな?森を抜けた風景もみてみたいしね」

『承知いたしました。......森を、抜けます。』

次の瞬間生い茂っていた木々を抜け俺とシャルは草原へと飛び出していた。
おぉ、ちょっとまぶしいけど視界が広い。
進行方向のはるか先にうっすらと高い山が見えている。
きっとあれが神域のある山だろう。
しかし残念ながら街はおろか街道もみえないな......。
森から少し離れた位置で止まったシャルから降りて背伸びをすると心地いい痺れが体をめぐる。

『人里はまだ遠いようですね。』

「そうだねー。まぁそのうち何かしらみつかるだろうし、気楽に行こう。」

地面に腰を下ろしながら遠くに見える山に目を向ける。
あの山を目指して進んで一度も街道にぶつからないってことはないよね......?
もしそうなりそうだったら少し何か考えないといけないだろうけど、まぁ当分はいいよね。
情報収集しようがないしね。

「シャルも神域の外に出るのは初めてだし、二人で色々観光しながら神域をめぐるとしよう。母さんも急ぐ必要はないって言っていたしね。」

『......ケイ様、申し訳ありません。私の後ろに......。』

横で休んでいたシャルが立ち上がり森の方へ一歩踏み出す。

「どうしたの?シャル。」

『寄ってこないので捨て置いたのですが、どうやら思っていたよりも頭が悪かったようです。』

シャルの様子から察するに、何かがずっと俺たちを付けてきていたってことかな......?
って、相手がなんなのか分からないけどまずいんじゃないか?
母さんに体の動かし方なんかは指導されているけど、魔力操作が出来るようになるまでは絶対に戦闘は避けるように言われている。
相手になるとかならないとかそういうレベルじゃないらしい。
だから何があってもシャルから離れてはいけない、とも。
情けないとは思うが、シャルの背後で固唾をのんで森の出口を凝視する。
せめてシャルの邪魔にだけはならないようにしなければ......。
気配なんてものは全然わからないが、何かが森の暗闇の中、うごめいているような気がする。
それも一つや二つではない、いくつもの影だ。
そのまま森からにじみ出るようにいくつもの影、狼が姿を現す。
俺に見えているのは5匹だが、森の中にはまだ数匹は潜んでいそうな感じがする。
シャルは戦闘態勢に入るでもなく森から出てくる狼たちを見ている。
狼は俺とシャルを包囲するように回り込んでくる。
そちらに目線を向けようとした時だった、何か大きな影がのそりと森から姿を現した。

「......ぅぁ......。」

それは大きな灰色の狼だった。
シャルは2メートルくらいでかなり大きいと思うのだが、そのシャルよりも一回り以上でかい。
これが、外の世界......。
母さんに聞いていた通り、危険すぎる!
巨大な狼が今にも飛びかかろうと身を伏せた瞬間、俺の目の前にいたシャルが消えた。

「......え?」

消えたと思ったシャルは元の位置より5メートル程先にいた。
その前足で巨大な灰色の狼の頭を踏み砕いて。

「ガァァァァァァァァァァア!!」

シャルの咆哮が辺りに響き渡る。
......こっわ!?
一瞬頭真っ白になったし、心臓止まるかと思ったし!
恐れをなしたのは俺だけじゃなく周りにいた灰色の狼たちも同様のようで尻尾は力なく垂れ、耳は折れ体は伏せている。
いや直接敵意を向けられた彼らの恐怖は俺所じゃないか......。

『申し訳ありません、ケイ様。お耳障りだったかと』

「いや、ちょっとびっくりしたけど大丈夫だよ。ありがとう。」

『はい!申し訳ありません。もう少々お待ちいただけますか?少し躾をさせて頂きたく。』

「うん、それは構わないけど......えっと......お手柔らかにね......?」

『はい!柔らかく言い聞かせます!』

......柔らかく?
シャルが伏せている狼たちを睥睨するとめり込みそうなほど顔を地面に押し付けている。
これは躾をするまでもなく絶対服従って感じだけどな......。

「グルルルルルル......。」

シャルが唸ると少し離れた位置から狼が新たに一匹出てきた。
先ほどシャルに踏み殺された狼よりも少し小さかったがそれでもシャルより大きい。
その狼はシャルに頭を潰された狼の死体の横まで来ると腹を見せる。
これは服従......ってことだよね?

「..................。」

シャルは微動だにせず腹を見せた狼を見下ろしている。

「クゥーーン。」

腹を見せた狼が甘え鳴きをしている。
シャルは鼻を鳴らすと狼に興味を失くしたかのように振り返りこちらに近づいてくる。

『お待たせいたしました。少しケイ様に相談したいことがあるのですが......。』

「うん?なにかな?」

『はい、私たちは外の世界についての知識が乏しいので彼らから少し情報を得ようと思いまして。』

「おぉ!それは助かるね。是非お願いするよ。」

『承知いたしました。それと私の不手際で大変恐縮なのですが、ここは少し血の匂いがしますので離れようと思います。今出てきたものを私についてこさせるので走りながらでもよろしいでしょうか?』

確かに、血の匂いに誘われて他の肉食獣が寄ってこないとも限らないか。

「うん、分かった。お願いするね。」

こうしてシャルとの二人旅に新たなお供が加わった。
......ものすごいシャルにおびえている感じだけど......。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

好色一代勇者 〜ナンパ師勇者は、ハッタリと機転で窮地を切り抜ける!〜(アルファポリス版)

朽縄咲良
ファンタジー
【HJ小説大賞2020後期1次選考通過作品(ノベルアッププラスにて)】 バルサ王国首都チュプリの夜の街を闊歩する、自称「天下無敵の色事師」ジャスミンが、自分の下半身の不始末から招いたピンチ。その危地を救ってくれたラバッテリア教の大教主に誘われ、神殿の下働きとして身を隠す。 それと同じ頃、バルサ王国東端のダリア山では、最近メキメキと発展し、王国の平和を脅かすダリア傭兵団と、王国最強のワイマーレ騎士団が激突する。 ワイマーレ騎士団の圧勝かと思われたその時、ダリア傭兵団団長シュダと、謎の老女が戦場に現れ――。 ジャスミンは、口先とハッタリと機転で、一筋縄ではいかない状況を飄々と渡り歩いていく――! 天下無敵の色事師ジャスミン。 新米神官パーム。 傭兵ヒース。 ダリア傭兵団団長シュダ。 銀の死神ゼラ。 復讐者アザレア。 ………… 様々な人物が、徐々に絡まり、収束する…… 壮大(?)なハイファンタジー! *表紙イラストは、澄石アラン様から頂きました! ありがとうございます! ・小説家になろう、ノベルアッププラスにも掲載しております(一部加筆・補筆あり)。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

処理中です...