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序章 狼の森
第4話 人里を目指して疾走!......シャルが
しおりを挟む神域を抜けて2日が過ぎた。
その間俺はシャルの背中に乗せてもらって人里を目指している。
とはいっても、人里がどこにあるのか俺はもちろんのこと、母さんもシャルも知らなかったのでとりあえず東に向かって突き進んでいる。
東に向かっているのは母さんから最初に向かってもらいたい神域の場所を聞いているからだ。
まぁざっくりと東の方にある霊峰と言われた。
凄く高い山だから結構遠くからでも見える、とも。
残念ながら今いるのは森の中なので木々にさえぎられて遠くは見えない。
まぁそのうち森は途切れるだろう、ほぼまっすぐ進んでもらっているしね。
森の中でも迷わず一方向に進むことが出来るのは全てシャルのお蔭だが、この二日間、俺はシャルにおんぶに抱っこだった。
移動はシャルに乗せてもらっている。
食料はシャルが採ってきてくれた。
その他必要なものや母さんから譲ってもらったものはシャルが運んでくれている。
シャルを恐れてか危険な生き物が近寄ってくる気配はない。
母さんに頼りきりだった生活に別れを告げ、今度はシャルに頼り切りの生活だ。
ダメ人間だな。
いや、一応サバイバルスキルは色々と母さんから教わっているのだけど、俺が何かするよりも早くシャルがやってしまうのだ。
辛うじて出来たのはシャルが食料を取りに行っている間にやった薪拾いくらいだろうか......。
自分の情けなさを再確認したところで、これからの予定について考えよう。
当面の目標は魔力操作を覚えることだ。
このためには人里を見つけて誰かに教えを請う必要がある。
魔力操作が出来るようになって魔法が使えるようになるまでは神域に行ってはならないと母さんから強く言われている。
覚えるのにどのくらい時間がかかるかわからないけど、幸い時間はいくらでもある。
急ぎたいのは元の世界への連絡ぐらいだがこれに関しては慌ててもどうしようもない。
兎にも角にもまずは魔力操作だ。
というわけで東に向かいつつ人里、できれば人が多く集まる街がみつかるといいのだけど、森を抜けないことにはな......。
『神子様、空気が変わってきました、森を抜けられそうです。』
「おぉ、とうとう森も終わりかぁ。街道がすぐみつかればいいのだけど......。」
『そうですね。この森には人の手が入っている気配がないのでまだしばらくは人里は遠いかもしれませんが、街道くらいは早めに見つけたい所です。』
「でも街道についたらさすがにシャルに乗せてもらって走るのは危険かな......?」
『神子様に降りかかる危険は全て排除いたします!』
「あぁ、うん、ごめん。そういう事じゃなくて。街道をシャルが疾走していたらほかの人たちが驚くんじゃないかと。」
『そういうことでしたか。......畏まりました。では街道を発見したら私は姿を変えましょう。』
「姿を変える?」
『はい、体を少し小さくして神子様の横を歩く感じでどうでしょうか?』
「なるほど、魔法で体を小さくするのか......。うん、そうだね。これから街中に入るわけだしそうしてもらえると助かるな。」
『ではそのようにさせて頂きます。神子様。』
「あー、シャル。一つお願いがあるのだけど。」
『なんでしょうか?』
「俺の呼び方だけど、神子様はやめてくれないかな?」
『な、何故でしょうか?御不快でしたか!?』
「いや、そういうわけじゃないんだけど。ほら、俺はこの前母さんから新しい名前を貰っただろ?これから先その名前で呼ばれていくわけだけど、呼ばれ慣れていないととっさに反応できなさそうでさ。」
まぁ、これはこじつけで、様付けされるのがものすごくむず痒いからってのが一番だけど......。
『なるほど、承知いたしました。では、ケイ様とお呼びすればいいでしょうか?』
んっっ!様が取れない!
「ケイって呼び捨てにしてくれないかな?」
『そんな、恐れ多いです!』
まぁ、いきなりそれは無理だよね......。
「せめてさん付けくらいでどうかな?」
『......努力はいたしますが、申し訳ありません。しばらくはケイ様と呼ばせていただければ......何卒。』
思っていた以上に苦しそうだ、無理強いは出来ないな。
「わかった。無理はしなくていいよ。ごめんね、変なことを頼んで。これから一緒に旅をしていくんだ。あまり固くならずに気楽に行こう。」
『はい!ありがとうございます!』
......まぁ徐々に慣れていくよね......?
『ケイ様、そろそろ森を抜けます。街道が見えるまでは少しスピードを上げられると思いますが大丈夫でしょうか?』
「今でも木々の中を走り抜けているとは思えないほど早いけど、もっと早くなるんだね。うん、大丈夫だと思うよ。あまり揺れないように走ってくれているみたいだしね。」
鞍もつけてない狼の背中に乗せてもらっている......というかへばりついているって感じで乗せてもらっている割にほとんど揺れを感じないってどんな走り方なんだろう......これも魔法なのかしら......?
「そうだ、森を抜けたらそこで一回休憩してもらっていいかな?森を抜けた風景もみてみたいしね」
『承知いたしました。......森を、抜けます。』
次の瞬間生い茂っていた木々を抜け俺とシャルは草原へと飛び出していた。
おぉ、ちょっとまぶしいけど視界が広い。
進行方向のはるか先にうっすらと高い山が見えている。
きっとあれが神域のある山だろう。
しかし残念ながら街はおろか街道もみえないな......。
森から少し離れた位置で止まったシャルから降りて背伸びをすると心地いい痺れが体をめぐる。
『人里はまだ遠いようですね。』
「そうだねー。まぁそのうち何かしらみつかるだろうし、気楽に行こう。」
地面に腰を下ろしながら遠くに見える山に目を向ける。
あの山を目指して進んで一度も街道にぶつからないってことはないよね......?
もしそうなりそうだったら少し何か考えないといけないだろうけど、まぁ当分はいいよね。
情報収集しようがないしね。
「シャルも神域の外に出るのは初めてだし、二人で色々観光しながら神域をめぐるとしよう。母さんも急ぐ必要はないって言っていたしね。」
『......ケイ様、申し訳ありません。私の後ろに......。』
横で休んでいたシャルが立ち上がり森の方へ一歩踏み出す。
「どうしたの?シャル。」
『寄ってこないので捨て置いたのですが、どうやら思っていたよりも頭が悪かったようです。』
シャルの様子から察するに、何かがずっと俺たちを付けてきていたってことかな......?
って、相手がなんなのか分からないけどまずいんじゃないか?
母さんに体の動かし方なんかは指導されているけど、魔力操作が出来るようになるまでは絶対に戦闘は避けるように言われている。
相手になるとかならないとかそういうレベルじゃないらしい。
だから何があってもシャルから離れてはいけない、とも。
情けないとは思うが、シャルの背後で固唾をのんで森の出口を凝視する。
せめてシャルの邪魔にだけはならないようにしなければ......。
気配なんてものは全然わからないが、何かが森の暗闇の中、うごめいているような気がする。
それも一つや二つではない、いくつもの影だ。
そのまま森からにじみ出るようにいくつもの影、狼が姿を現す。
俺に見えているのは5匹だが、森の中にはまだ数匹は潜んでいそうな感じがする。
シャルは戦闘態勢に入るでもなく森から出てくる狼たちを見ている。
狼は俺とシャルを包囲するように回り込んでくる。
そちらに目線を向けようとした時だった、何か大きな影がのそりと森から姿を現した。
「......ぅぁ......。」
それは大きな灰色の狼だった。
シャルは2メートルくらいでかなり大きいと思うのだが、そのシャルよりも一回り以上でかい。
これが、外の世界......。
母さんに聞いていた通り、危険すぎる!
巨大な狼が今にも飛びかかろうと身を伏せた瞬間、俺の目の前にいたシャルが消えた。
「......え?」
消えたと思ったシャルは元の位置より5メートル程先にいた。
その前足で巨大な灰色の狼の頭を踏み砕いて。
「ガァァァァァァァァァァア!!」
シャルの咆哮が辺りに響き渡る。
......こっわ!?
一瞬頭真っ白になったし、心臓止まるかと思ったし!
恐れをなしたのは俺だけじゃなく周りにいた灰色の狼たちも同様のようで尻尾は力なく垂れ、耳は折れ体は伏せている。
いや直接敵意を向けられた彼らの恐怖は俺所じゃないか......。
『申し訳ありません、ケイ様。お耳障りだったかと』
「いや、ちょっとびっくりしたけど大丈夫だよ。ありがとう。」
『はい!申し訳ありません。もう少々お待ちいただけますか?少し躾をさせて頂きたく。』
「うん、それは構わないけど......えっと......お手柔らかにね......?」
『はい!柔らかく言い聞かせます!』
......柔らかく?
シャルが伏せている狼たちを睥睨するとめり込みそうなほど顔を地面に押し付けている。
これは躾をするまでもなく絶対服従って感じだけどな......。
「グルルルルルル......。」
シャルが唸ると少し離れた位置から狼が新たに一匹出てきた。
先ほどシャルに踏み殺された狼よりも少し小さかったがそれでもシャルより大きい。
その狼はシャルに頭を潰された狼の死体の横まで来ると腹を見せる。
これは服従......ってことだよね?
「..................。」
シャルは微動だにせず腹を見せた狼を見下ろしている。
「クゥーーン。」
腹を見せた狼が甘え鳴きをしている。
シャルは鼻を鳴らすと狼に興味を失くしたかのように振り返りこちらに近づいてくる。
『お待たせいたしました。少しケイ様に相談したいことがあるのですが......。』
「うん?なにかな?」
『はい、私たちは外の世界についての知識が乏しいので彼らから少し情報を得ようと思いまして。』
「おぉ!それは助かるね。是非お願いするよ。」
『承知いたしました。それと私の不手際で大変恐縮なのですが、ここは少し血の匂いがしますので離れようと思います。今出てきたものを私についてこさせるので走りながらでもよろしいでしょうか?』
確かに、血の匂いに誘われて他の肉食獣が寄ってこないとも限らないか。
「うん、分かった。お願いするね。」
こうしてシャルとの二人旅に新たなお供が加わった。
......ものすごいシャルにおびえている感じだけど......。
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