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4章 召喚魔法使い、立つ
第159話 新チーム始動
しおりを挟む「そんな感じで、今日は十一階層にゃ!」
「おー!」
テンションの高い二人の女性と一人の蜥蜴人族の男性がダンジョンの転送陣から現れる。
「元気があるのは良い事ですが、あまり油断しないように気を付けて下さいね。お二人に何かあったらセン殿に申し訳が立ちません」
「にゃはは!ルデルゼンは堅いにゃ。ダンジョンは楽しむ場所にゃ!」
「でもニャル、ルデルゼンさんの言う通り、気は引き締めて行こう。怪我とかしたらセンにダンジョン禁止って言われるかもしれないよ」
「……センなら言いかねないにゃ。じゃぁ、仕方ないから真面目にやるにゃ。今日はルデルゼンとの初めての探索だからにゃ。色々と確認しながら進むとするにゃ」
ニャルサーナルの言葉に、ミナヅキとルデルゼンが頷く。
本日三人はチームを組んで初めてダンジョンの探索をすることになったのだが、その目標は十一階層の攻略となっている。
「移動隊列は打ち合わせ通り、私が最前列、ミナヅキさんが中列で、ニャルさんは最後尾ですね」
「それで大丈夫にゃ。この階層は殆ど罠はないけど、これから先ルデルゼンに罠の対処をお願いすることになるからにゃ。これがニャルたちの基本移動隊列になる筈にゃ」
ニャルがそう言うと二人は力強く頷く。
「魔物との遭遇時に、そのまま私が前衛で戦闘が出来ればもっと安定すると思うのですが……」
「それは適材適所にゃ。まぁ、移動中の索敵はニャルがしっかりするから奇襲は殆ど無いにゃ。魔物との遭遇前に隊列を入れ替える余裕は十分あるはずにゃ」
ニャルが自信たっぷりにそう言うと、ルデルゼンは若干苦笑しながらよろしくお願いしますとニャルに告げた後、ゆっくりと足を踏み出す。
「十一階層はこの前きたばっかりだしねー。蟻と蜘蛛の魔物だよね」
「えぇ。蟻の魔物は数が多いところが注意点ですね。火に弱いので松明を使って焼くのが主流です。落とす素材は甲殻と蟻酸ですね。甲殻は重いので数を運ぶのが大変ですが売値はかなりいいです。蟻酸は甲殻に比べると落とす確率は低いですがこちらも良い金額になります。蜘蛛の魔物も蟻と同じく火に弱いですね。蟻と違って群れることはありませんが、糸を飛ばしてくるのでそこは注意が必要です。まぁ、その糸も火で簡単に焼ききれますが。落とす素材は蜘蛛毒と蜘蛛糸。毒は微妙ですが、糸は非常に高額で取引されていますね」
「へー、そうなんだー」
慎重に辺りを警戒しながら十一階層の魔物について説明をするルデルゼンの話を聞き、感心した様な声を出すミナヅキ。
「十一層が人気なのはこの糸のお陰……いや、せいですかね。十個も取れれば、金貨二十枚は下りませんし、蟻の甲殻と違って一度にたくさん運べますからね。だからこの階層は人気があって、一度中に入ることが出来ると、数日この階層に滞在して蜘蛛を狩り続けるチームもいるみたいですよ」
「ずっと同じところで飽きないのかにゃ?」
ルデルゼンの話を聞いてニャルサーナルが首を傾げる。ニャルサーナルがダンジョンに挑むのは見た事のない景色、見た事のない魔物……そういった物に出会えるからだ。
未知への挑戦……それが目的であるニャルサーナルにとって、既知の階層で既知の魔物と戦い続ける探索者達の気持ちは、欠片も理解出来ない物だった。
「新しい階層に挑戦するのにもお金はかかりますからね。ここでお金を貯めて装備や道具を揃え次に挑む……そういう探索者は少なくないですよ」
ルデルゼンはそう言ったが……この階層に挑む探索者の半数以上は自身の生活や将来の為……金を稼ぐ為だけにこの階層で蜘蛛を狩り続けている者達だった。
勿論、ルデルゼンはその事を知ってはいたが……純粋に探索そのものを楽しんでいるニャルサーナル達に、わざわざ伝える必要は無いだろうと考え口を噤んでいた。
「なるほどにゃー。あ、ミナヅキ前方から魔物が来るにゃ。数は一匹……多分蜘蛛だにゃ」
「はーい。ルデルゼンさん、ちょっと前開けて下さいねー」
「分かりました」
ルデルゼンは前方の暗闇に目を凝らしながら視線を向けるが……魔物の姿は全く見えない。
十一階層は洞窟型のダンジョンで、松明やランタンと言った光源ではあまり遠くまで照らすことが出来ず視界は良好とは言い難い。更に見づらい位置に横道があったり、天井に魔物が張り付いていたりして奇襲を受けやすく、けして攻略が容易な階層ではないのだ。
それにもかかわらず人気があるのは、十一階層付近で取れる素材に比べて蜘蛛の糸がずば抜けて取引価格が高い為である。
ルデルゼンは前方に注意を向けながら体を横にずらし、ミナヅキの射線を確保する。
「あ、ニャル正解。蜘蛛だね」
暗闇の向こうから姿を現した巨大な蜘蛛を見て、お気楽な声を上げるミナヅキ。
「にゃはは。ニャルの索敵は完璧にゃ」
「流石に洞窟型のダンジョンだと私には全然わからないなー」
そんな言葉と共に、ミナヅキは無造作に左手を横に振る。すると次の瞬間、巨大な岩の錐が地面から突然飛び出し蜘蛛を空中に縫い留めた。
「……は?」
その光景に、ルデルゼンは呆けた様な声を出す。
「う……やっぱり蜘蛛は気持ち悪いなぁ。なんかこう……足の動きがね……」
「ミナヅキは繊細だにゃー。でもここは洞窟だからにゃ。あんまり派手な魔法で吹き飛ばしたら崩落するかもしれないから我慢するにゃ」
嫌そうに顔を顰めるミナヅキに、ニャルサーナルが仕方ないと言うように笑う。
そんな緊張感のかけらもない二人を見て、ルデルゼンは戦慄を覚える。
(お二人の実力は何となく理解しているつもりでしたが……今の魔法……とんでもないですね)
ルデルゼンはその経歴上、多くの探索者とダンジョンを探索した経験がある。そして当然その中には魔法を使う探索者も少なくはなかった。
しかし、魔法を使う多くの探索者が、少なくない時間をかけて集中してから魔法を発動させていた。その致命的とも言える隙を守る為にどのチームも魔法使いの護衛役を置いていた。
魔法と言うのは撃てば強力だが、発動までに時間がかかるものというのが探索者の常識なのだが……先程のミナヅキは雑談をしながら徐に魔法を発動させている。
しかも十分な殺傷能力を持った魔法をだ。
(これだけの魔法の腕……他の探索者に知られたら、ミナヅキさんは引っ張りだこになりそうですね。その辺も注意しておかないと……)
センから二人の事を頼まれているルデルゼンは、気を付けるべきはダンジョンの罠や魔物だけではないと気持ちを新たにする。
そんなルデルゼンの決意と時を同じくして、胴体を貫かれジタバタと足を動かしていた蜘蛛の命が尽きその体が光となって消え……糸の束がその場に残された。
「あ、糸だ」
「おぉ、幸先がいいですね」
その場に残された糸を拾い上げたミナヅキにルデルゼンは声を掛ける。何故か糸を見ながら首を傾げているミナヅキの事は気になったが、ルデルゼンは背負っていたバックパックを下ろし、ミナヅキから糸を受け取ろうとした。
道具や素材の運搬はルデルゼンの仕事だからだ。
「ミナヅキ、それはこの前拾って持って帰ったにゃ」
「あ、やっぱりそうだよね?じゃぁこれはいいや」
そう言ってミナヅキは徐に手に持っていた糸の束をその辺に投げ捨てる。
「え!?ちょ!?……なんで捨てるのですか!?」
投げ捨てられた糸の束を慌てて拾いながら、ルデルゼンは声を上げた。
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