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4章 召喚魔法使い、立つ
第157話 失敗
しおりを挟むセンの話を聞き終えたルデルゼンは大きくため息をついた。
「セン殿……一助どころではありませんよね?誇張も何もなく、全てがセン殿の仕掛けと言って間違いないじゃないですか」
「私は切っ掛けを与えたに過ぎませんよ。実際に動いたり、細かい部分を調整してくれたりしているのは実働してくれている方々です。あくまで提案で、仕掛けと呼べるほどの物ではありませんよ」
もしこの場にレイフェットがいたら、呆れたような顔を浮かべたに違いないだろう。勿論、ルデルゼンもセンの言葉を鵜呑みにする事は無く胡散臭げな表情を浮かべている。
「ですが、セン殿の狙い通り……セン殿の目指す地点に向けて動いているという事は確かなのですよね?次の展開はどう考えているのですか?」
「次……といいますか、今優先して動いているのは街全体の活性化……特に経済力ですね。この数か月、順調に右肩上がりといった感じになっていますし……外交カードとしてはかなり強力になってきています。贅沢を言えばその好景気に釣られて人口が増加してくれるとありがたいのですが……場所が場所ですからね……そっちはもう少し時間がかかりそうです。予測では次の冬が終わってから……山道の整備も済むのでそれからですね」
「国力を上げる取り組みは順調という事ですね……」
「最終的には大国も無視できない経済力、勢力になる必要があります。そこに辿り着けなければ、大国に同盟を考えさせることは出来ませんからね」
「この街でそこまで勢力を伸ばすことが出来ますか?富が集まれば……間違いなく攻め込まれると思いますが……」
「そうですね。ですが、この街は籠城には適していますからね。守り勝つことはそんなに難しくありません。それに攻め込む側としても、この街の機能を殺してしまうようなやり方は避けるでしょうしね。攻める意味がなくなってしまう」
センはそう前置きしてから周辺国の情勢を話し、レイフェットと何度か打ち合わせをしているこの街の防衛についての話を少しだけルデルゼンにも教える。
「……ダンジョン、それと私の能力を全力で活用するやり方ですけどね」
「セン殿の能力……?交渉とかですか?」
「違うにゃ、性格の悪い罠とかに違いないにゃ」
突然会話に入って来たニャルサーナルが、軽いジャブを放つくらいの気軽さでセンをディスる。しかし、言われた本人は何の事は無いという様に肩を竦めて見せる。
「そもそも性格の良い罠なんてないだろ?」
そう言って、ニャルサーナルをせせら笑うような表情を見せるセン。
「見たにゃ!?今の顔見たにゃ!?ルデルゼン!これにゃ!あー言えばこー言う奴にゃ!ほんと憎たらしい奴にゃ!ルデルゼン!手を貸すのを止めるなら今のうちにゃ!こんなのに雇われたら尻尾の先までしゃぶりつくされるにゃ!」
「突然口を挟んできたと思ったらどういう了見だ?」
流石にルデルゼンがニャルサーナルの意見を聞き入れるとは思っていないセンだったが、少し眉を顰めながら不満の声を上げる。
「だからルデルゼン、性悪のセンとこよーけーやくをするのは止めた方がいいにゃ!ん?こぞーけんやく?」
「えっと……ニャルサーナルさん?」
ニャルサーナルの言葉にルデルゼンも首を傾げる。センがルデルゼンに事情を打ち明けて味方に引き込もうとしている事は言うまでも無い事だ。
そしてニャルサーナルは口では文句を色々言っていても、センの不利に動く様な事は無いとルデルゼンは思っていた。だが、今の言動はどう聞いてもセンの有利になるとは思えないものだった。
「セン、それにルデルゼン。さっきから話が超回りくどいにゃ。センはルデルゼンを仲間にしたい。ルデルゼンはセンの事を信じたい。それだけの筈にゃ。お給料の話とかそんなのならともかく、前置きが長すぎるにゃ」
「「……」」
「セン。ルデルゼンを仲間にしたいなら、雇うとかなんとかは一回置いておくにゃ。まず最初に言う事があるにゃ」
「む……」
ニャルサーナルの言葉に、思わずセンは黙り込んでしまう。確かにセンは自分の目的や今どんなことをしているかという話ばかりしていて、まだルデルゼンに力を貸して欲しいとは一度も言っていなかった。それは勿論、目的や立場を明確にした上で協力してくれるかどうかの判断をして貰いたいという思いからではあったが、もっとシンプルに話を進めても良かったはずだとニャルサーナルに言われてセンは気づく。
「……」
黙り込んでしまったセンから視線を外したニャルサーナルが、今度はルデルゼンの方を向く。
「ルデルゼン。センが悪い奴じゃないと思っている筈にゃ。それに手を貸したいともにゃ。だから、もしセンが変な事をしそうになったら、傍に居て注意してあげればいいにゃ」
「確かにニャルさんのおっしゃる通りですね」
ルデルゼンは納得したように頷いて見せるが、ニャルサーナルは言葉を止めずに話を続ける。
「それと、ルデルゼンが戦闘に自信がないのは分かっているにゃ。だからと言って、ルデルゼンが自分に全く自信を持たないのはおかしいにゃ。ルデルゼンがそんなんだからセンも雇うとかけーやくとか言っちゃうにゃ」
「……」
今度はルデルゼンがニャルサーナルの言葉に黙り込んでしまう。
「ルデルゼンはニャルたちにはない技術や知識があるにゃ。それなのにルデルゼンが自分をひげしていたら、ニャルたちはそれ以下の存在って馬鹿にしているようなもんにゃ。ん?ほげ?」
最後の最後に締まらない感じになってしまったが、ニャルサーナルの言う事はもっともかも知れないとルデルゼンは考える。
(……そう言えばラグ達も最初からあんな感じではなかった。最初の探索の後は今までの苦労が嘘の様だったと喜ばれて……契約の延長をラグから言って来た。付き合いが長くなり、次第に当たりがきつくなっていったのは……私の態度が原因だったのだろうか?)
ルデルゼンは出会ったばかりの頃の『陽光』のメンバーの事を思い出す。戦闘への自信の無さや引け目から自ら壁を作り、自らを卑下し……同時に彼らに嫌な思いをさせていた。
その事に思い至ったルデルゼンは……もう一度ラグに会う必要があると考える。
「ありがとうございます、ニャルさん。それと、セン殿……雇用契約の件は一度白紙に戻させてください。けじめをつけたつもりでしたが……まだつけきれていなかったようです」
「……すみません、ルデルゼン殿。余計な契約を結ばせてしまったみたいですね」
ルデルゼンが何をするつもりなのか理解したセンは、申し訳なさそうに謝る。
「いえ、経緯はどうあれ……彼らともう一度組むことは不可能でしたから契約自体は問題ありません。これからしようとすることも、彼らからすれば全く必要のない事……唯、私の自己満足に過ぎません。寧ろいい迷惑でしょうね」
そう言って苦笑しながらルデルゼンは立ち上がる。
「話の続きはまた今度お願いします。それと、ニャルさん。明日予定していた探索ですが……」
「別にお休みでも構わないにゃ。ミナヅキと一緒に適当な階層で遊ぶとするにゃ」
「申し訳ありません」
「大丈夫にゃ、ダンジョンは逃げないからにゃ。次を楽しみにしとくにゃ」
そう言いながら手をひらひらと振るニャルサーナルと、申し訳なさそうにしているセンに向かってルデルゼンは深く頭を下げた後、センの家から出て行く。
その後ろ姿を見送ったセンは、小さくため息をつきつつ口を開いた。
「……失敗したな」
「センは回りくどすぎにゃ。ルデルゼンは元々センにいっぱい感謝しているんだから、手を貸して欲しいって素直に言えばいいにゃ。」
「……巻き込むのであれば説明は必要だからな。だがまぁ……少し迂遠過ぎた気はするな」
「ニャルは空気が読める女だからにゃ。あのまま喋ってても終わらない気がしたから割り込んだにゃ」
「そうか……」
突然自分の事をディスり始めた時は頭がどうかしたのかと思ったセンだったが、結果的には悪くない形で話を終えることが出来た事に若干感謝する。
(しかし……ルデルゼン殿は『陽光』と同意なしで関わり合いにならないという契約を交わしているからな……すんなりと会えるかどうか……)
ルデルゼンと『陽光』の後腐れなくする為に考えた契約とは言え、面倒な事をしてしまったとセンはため息をついた。
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