召喚魔法の正しいつかいかた

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4章 召喚魔法使い、立つ

第155話 将来に向けて

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「なるほどな……だからアルフィンが俺に着いてきたいって話になったのか」

「色々勉強を始めたいらしくてな……」

 先日アルフィンと話した内容をセンが伝えると、レイフェットは納得したように頷きながら感慨深げな表情を浮かべる。

「だがな……次の予定は数日後のラーリッシュとの会談なんだよな。流石に他国との交渉の場に連れて行くには幼すぎるな……」

「そうだな……まずは身内の会議に出て、雰囲気を勉強してからってのがいいな」

「身内の会議か……今度ライオネル殿と打ち合わせがあるからその時に呼ぶか」

「それがいいだろうな。ライオネル殿は見た目の威圧感もたっぷりだしな」

 そういってセンがにやりと笑うと、レイフェットも釣られた様に苦笑するがすぐに何かに気付いたように口を開く。

「今ここに呼ぶってのもありじゃないか?」

「いや……それはどうだろうな。この場に呼んだところで、アルフィンからしたら友人同士が雑談をしているくらいしか思わないだろ?」

「セン相手じゃそうなるか……やはりライオネル殿が適任か?」

「その分内容は難しいかもしれないが……次の会合は何の話だ?」

「あー、次回は……確かギルド長の業務範囲についてのすり合わせだったかな?」

「レイフェットと二人でか?他の商人達もいた方が良いんじゃないか?」

「一応ギルド長の補佐役になる奴と、副ギルド長になる二人も同席だな」

 それを聞いたセンは、顔を顰めつつ呆れたような声を出す。

「それを身内の会議と言うには少し語弊がないか?レイフェット殿との二人ならともかく……」

「まぁ、そうかもしれんが……お前とライオネル殿の三人で打ち合わせでもするか?」

「それでも構わんが……何かあるか?」

「……今新しくお前から提案されたら、俺もライオネル殿も倒れるな」

「流石に俺も毎回提案がある訳じゃないが……そう言えば、以前話した仕事の斡旋業務はどうなったんだ?」

「……あーまだ正式にはまだ始まっているわけじゃないんだが、子供向けの清掃業務や公共事業の日雇いは斡旋を始めている。だがまだ一般からの人材募集の仲介は受け付けてないな」

「人材募集を仲介する機関の人材が欲しいところだからな……」

 センが若干笑みを浮かべながら言うと、レイフェットは嘆息しながら口を開いた。

「ほんの少し前からは考えられない様な事態だな。引退した探索者や貧民街の住人……仕事が無くてどうしようもなかったはずなのに……今はどこもかしこも人が足りないと喘いでいる……」

「一気に色々と展開したからな……少し性急過ぎたかもしれないが……今後の事を考えると、どれも必要なものだからな」

「まさかこんなに人手不足になるとは思わなかったがな……」

「それについてはライオネル商会のお陰だな。街に外貨が入ることで公共事業に回せる金が増えたからな。稼いだ金を開発や事業に回せば雇用が生まれる。仕事が増えることによって、今度は住民の財布が潤う。財布が潤えば暮らしに余裕が生まれ、その余裕で生活に必要な物以外にも金を使う様になる。そして金を使う場所が増えるという事は仕事が増える。仕事が増えれば税収が増えて……」

「理解していたつもりだったが……実際目の当たりにするとかなり凄い物があるよな」

 センの言葉にレイフェットは苦笑しながら感心する様な声音を出す。
 知識としてだけ知っていたものをいざ目の当たりにして、そこでレイフェットが受けた衝撃は筆舌に尽くしがたしと言った感じだった。

「そうだな……俺も理論では分かっていたが……ここまで綺麗に嵌ると怖い部分もあるな」

 センはそう言って口元に手を当てる。

「怖い部分?好景気を狙って入り込んでくる犯罪者とかか?」

「それも危険だが……金が溜まり過ぎない様にしないといけないからな。今は道路整備や宿場町の建設、街の拡張あたりでバンバン金を使えるが……その辺の開発が終わった時、どうやって金を使って行くかだな」

「街として使える土地には限りがあるしな……しかし、開発が終わって、それによってさらに金が増えるのは良い事じゃないか?その分職員や衛兵に多く給料を支払えばいいだろ?」

 レイフェットが気楽な口調で言うが、センは難しい顔になり首を横に振る。

「いや、それはマズい。まぁ軍事費を増やすってのは悪くないが……今の調子でいけば、数年後には今の数倍くらい税収が増えていてもおかしくない。とても給料くらいで使い切れる金額ではない。今みたいに新しい事業に投資出来るといいんだが……限界はある。結果、意味のない投資を始めて……そうなっていくと税金の使い道が不透明さを増していき、その不透明さを利用して更に訳の分からない投資を始め……行きつく先は癒着や腐敗。最終的には政権の崩壊だな」

「……お前が言うと洒落にならないんだが?」

 一転して渋い表情になったレイフェットが言うと、せせら笑う様にしながらセンは口を開く。

「金の流れを止めない事……これについては祭りの開催や公営の娯楽等を建設するって手もあるな。特に祭りは利益度外視でばら撒くのに適している。よっぽど金満でないとばら撒くのは良くないがな」

「祭りか……シアレンで祭りを開いた事は無いが……それも面白そうだな」

「まぁ……祭りの運営側は死ぬほど忙しいがな」

「祭りの開催は無期限延期だな」

 きっぱりと言い切るレイフェットにセンはため息をついて見せる。

「まぁ、今すぐ考えないといけない訳じゃないけどな。それよりも……アルフィンの話じゃなかったか?」

「……そうだったな。まぁ、商業ギルド関係が一番いいんじゃないか?何も、意見を言えって話じゃないしな。会議の内容的にも悪くないと思うんだが……」

「身内のって条件は満たせていないが……確かにレイフェットの言う様に内容は悪くないな。血生臭い話にはならないだろうが、重要度はかなり高い。街の事にも深く関わってくる内容だし、アルフィンとしては内容も、会議に参加している人物の顔を見る事も、そして彼らの会話も……全てがいい勉強になるはずだ」

「そうだよな?よし、アルフィンは今度の商業ギルド設立の為の会合に連れて行くことにする」

「アルフィンの前だからって張り切り過ぎるなよ?普段通りやればいいんだからな?」

「……おう」

 そこはかとなく不安を覚える返事をしたレイフェットに、センは苦笑してみせる。

「……まぁ、そっちの会合はいいとして……ラーリッシュとの会談は気が重いぜ……」

「隣接地の領主……ラグレイとか言ったか?そいつと会うのか?」

「そうなんだが……正直あの馬鹿とはまともな会話になるとは思えねぇんだよな。会うだけでこっちの精神をがっつり削っていくからな。そうだ!お前も……」

「その日は確か用事があったはずだ。すまないな」

 センはそう言って真面目な様子で頭を下げる。
 それを見たレイフェットが半眼になりながら口を開く。

「まだお前にいつ会談があるとは言ってない筈なんだがな?」

 そんなレイフェットの呟きを完全に無視したセンは、器に残っていた酒を一気に呷った。

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