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4章 召喚魔法使い、立つ
第148話 小さいけれど小さくない発見
しおりを挟む「レイフェット。話が戻って申し訳ないんだが、俺も一つ報告がある事を思い出した」
「ん?話が戻るってことは……ダンジョン内のトラブルの件か?」
レイフェットが若干苦笑するようにセンに問いかける。恐らく、センが先程のトラブルの件で納得いっていない部分があると思ったのだろう。
そんなレイフェットの考えを読み取ったセンも、同じく苦笑しながらかぶりを振る。
「いや、その件じゃない。まぁ、きっかけはその件なんだが……一つダンジョンに関して面白い事が分かってな。折角だから情報を共有しておこうと……」
「ふむ……面白いことか」
若干目を輝かせながらレイフェットは身を乗り出す。
その様子を見たセンは、レイフェットが未だにダンジョンに挑みたがっている事を強く感じていた。
「まぁ、あの時は滅茶苦茶焦ったけどな……」
「そいつは……是非その様子を拝みたかったところだな」
レイフェットがにやりと口元を歪ませるのを見て、センは鼻を鳴らす。
「今回、危急という事で、俺は召喚魔法を使いルデルゼン殿をダンジョンから救出した。その時にとんでもないことが起きたんだ」
「とんでもない事ね……随分引っ張るじゃないか」
勿体つけるなと言う様にレイフェットは言うが、センは珍しく若干困ったような表情を見せる。
「そういうつもりじゃないんだが……説明し辛くてな……いや、起こったことは単純なんだが……一言で言うと、ダンジョンから召喚したルデルゼン殿は小さかったんだ」
「……全く意味が分からん。何が小さかったんだ?」
「体……身に着けているものを含めて全てがだ。全身が指の先くらいの大きさしかなかった」
「……どういうことだ?」
「言葉通りの意味だ。身長二メートルくらいはあるルデルゼン殿が、指の先程のサイズに縮んでいた。最初召喚した時、姿が見えなくて慌てたんだが……間違って踏み潰さなくて本当に良かったと思った」
召喚魔法の手ごたえがあったことから指定した地点を良く調べた時に、地面に倒れ伏している二センチ程のルデルゼンを見つけ、心底ゾッとした事を思い出すセン。
「……」
そんなセンの内心はレイフェットに伝わる事は無く、レイフェットは首を傾げている。
「いや、意味が分からないとは思うが……事実だ。ダンジョンの中にいる者を召喚魔法で呼び出した時、その大きさは相当小さくなっている。百分の一……あるいはそれ以上かもしれん」
「……あー、言っている意味は分かったが……そんなこと起こり得るのか?いや、お前がそんなしょうもない嘘をつくとは思ってないが……」
「信じられない気持ちも分かる。だから今ここでダンジョンから召喚してみせよう。勿論召喚するのは人じゃないがな。今日ここに来る前に、うちの連中に頼んでダンジョンに斧槍……ハルバードって言ったか?あの二メートルくらいある武器。それをダンジョンに持ち込んで貰った」
「……分かった。見せてくれ」
レイフェットに頷いて見せたセンは召喚魔法を起動する。
ルデルゼンを召喚した時とは違い、呼び出すべきものの情報をしっかりと把握している為、魔法はすぐに発動し、件のハルバードはテーブルの上に召喚される。
「……マジか」
「手に取ってみろ。切れ味は増しているくらいだから気を付けろよ」
センの言葉に、レイフェットはテーブルの上に現れたハルバードを摘まむ。
「信じらんねぇ……マジでハルバードだな……針みたいな細さだが」
「そんな小さくて精巧な細工は作れるものじゃないだろ?」
「あぁ。こんなもの作れる奴がいるなら囲い込むレベルだぜ……」
レイフェットの言葉にセンがピクリと片眉を上げる。
「む……極小の細工人形として売れるか……?いや、流石に小さすぎるか。それに外で作って運び込むにしても中で作るにしても等身大サイズ以上の物を作らないといけない訳で……割に合わないか」
「……いや、今はそんなことどうでもいいだろ?それより、これはどういうことだ?」
センが別の事を考え始めたのをレイフェットが遮り、話を本題に戻す。
「恐らく、ダンジョンとは……小さな箱庭みたいなものなんだろうな。ダンジョンに入るための転移陣……アレは転移するだけじゃなく縮小させる機能もあるのだろうな。そして戻る方の転移陣には拡大……もしくは元の大きさに戻す機能がある」
「そんなことが……」
「召喚魔法は転送陣を通さないからな。元のサイズのまま召喚することになる……つまり、ダンジョンの中で召喚魔法を使った場合、ダンジョンの外の物は有効スペースが無いから呼び出せないって訳だ」
「そんな制約があったのか……だがまぁ、食料とかをダンジョン内に呼び出して圧死とかにならないようで良かったな。自爆にも程がある」
「そうだな。その辺は召喚魔法の制約と、俺自身がダンジョンに行く気が無いって所で回避出来て良かったと思う。だが、これが分かったおかげで、一つの懸念だった……ダンジョンの壁や天井を突き破って魔物が溢れて来るって可能性は無くなったとみていいだろう。仮に出てきたとしても踏み潰してしまえばいいだけだ」
肩を竦めて気楽な様子で言うセンに対し、レイフェットはショックを受けたように少し茫然としながら口を開く。
「それは……まぁ、良かったが……しかし、こんなことになっていたとは……」
「土地の有効活用って感じだな。それに、普通に畑を耕したり出来ているってことは、地面や自生している植物……ダンジョン内のあらゆるものが、人に合わせて縮小されているのだろうな。しかも、ダンジョン内で作った野菜なんかを外で食べても栄養的に問題ないみたいだし、至れり尽くせりって感じじゃないか。別の意味でもダンジョン入り口の転移陣の研究を進めたくなったぞ」
「……転移陣の研究は多くの国が長年に渡って挑戦しているが……何一つ解明されていないからな……魔法を使うための魔法式とは別物なんだろ?」
「あぁ、全くの別物だ。魔法式は……言うなれば文章みたいなもんだ。予め決まっている文字を使い、命令をかき込んでいく……対して転移陣は絵だな。系統が全く異なるし、共通点を見つける事すらできない。それに転移陣に手を加えて動かなくなりでもしたら損失は計り知れないし、大胆な研究は難しいよな」
「まぁそうだろうな。下手に動かなくして素材の宝庫への入り口を閉ざすようなことになったら……考えただけでも恐ろしいな」
「研究が進まない最大の理由はそこだな。まぁ、そこはさておき、召喚魔法のお陰で一つダンジョンについて明かされたな。今の所それがどうしたって感じではあるが」
そう言ってセンは皮肉気に笑うが、そんなセンにレイフェットは首を振って見せる。
「いや、やはりダンジョンは人知を超えた代物……この発見は凄い物だと思うぞ?発表は出来ないが」
「まぁな。発表しても何も特にならないしな。それにしても、こんな形でダンジョンに行くことになるとはな」
「……ん?お前、ダンジョンに行ったのか?」
「あぁ。仕方ないだろ?ルデルゼン殿を人形以下の大きさのままにしておくわけにはいかないし……小さいままのルデルゼン殿を、正規の入り口を通してダンジョンに入れて……さらに小さくなられたら堪ったもんじゃない。しかも相手は大怪我で死にかけているんだ……実験なんてしている余裕はない。俺がダンジョンの中に入ってから召喚して、出口から出て来るしか手段が無かった」
「なるほどな……まぁ、何にせよ無事助けられて良かったな」
「あぁ」
レイフェットの言葉に、センは素直に頷く。
「ところで、初めてのダンジョンはどうだった?ワクワクしたか?」
「うちの連中にしっかり護衛して貰っていたが……いつ襲われるかと気が気じゃなかった。例えダンジョンに入ってすぐの場所で召喚をしてすぐに出て来たとしてもだ」
センがそう言うと、レイフェットは情けないと言わんばかりに鼻で笑った。
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