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4章 召喚魔法使い、立つ
第144話 緊急だからこそ冷静に
しおりを挟む「……大怪我をして撤退してきたのは『陽光』なんだな?」
「そうみたいにゃ。ニャルは『陽光』の人間の顔は知らないから聞いただけだけどにゃ」
取り急ぎ確認して来た事をセンに伝えたニャルサーナルの表情は、かなり真剣な物だ。
「……ニャル。すまないが、ルデルゼンと言う名の蜥蜴人の探索者がどうなっているか確認してもらっていいか?もし大怪我をしている様だったら、中級ポーションを強引にでもいいから使用してくれ」
「了解にゃ」
センは子供達だけでなくニャルサーナルやミナヅキ、ハルカにもハーケルの作った中級ポーションを渡していた。そして、何かあった時は個人の判断で惜しみなく使う様に、とも言っている。
しかし、幸いにしてポーションを使うような事態は、ストリクの街での誘拐騒ぎの時以降一度もない。
「……ポーションって使ったことが無いんだけど、どのくらいの傷まで治せるものなの?」
ニャルサーナルが再びダンジョンの入り口の方に戻るのを見送ったミナヅキが、センの顔色を窺うように尋ねる。
「骨折は下級ポーションで治るらしい。四肢の欠損ともなると上級ポーションが必要らしいが……中級でも腕をくっつけることは出来るらしい。即死するような怪我や部位欠損以外は中級ポーションで治せるって考えていいらしいが……失った血は戻らないし、体力も回復しない。寧ろ怪我の治療に体力を奪われるらしいから、衰弱している相手に使う時は注意が必要だ」
(ハーケル殿に使用上の注意や、どのくらいの怪我まで治せるって話は聞いてあるが……出来る事なら一生出番がない方が好ましい。ルデルゼン殿……どうか無事で)
ニャルサーナルの入っていった建物の入り口に、睨むような視線を送りながらセンはルデルゼンの無事を祈った。
「遅くなってごめんなさいにゃ。情報を集めるのに時間がかかったにゃ」
暫くしてニャルサーナルがセンの元に戻ってきたが、その顔色はあまり優れない。
「いや……聞かせてくれるか?」
「単刀直入に言うにゃ。センの友達は生死不明、ダンジョンから戻って来てないにゃ」
「っ!?」
ニャルサーナルの言葉にセンが言葉に詰まったような音を発するが、すぐに視線を周囲に向けて人気のない場所を探し始める。
「この通りじゃ無理だ、人気のない場所に移動する」
「了解にゃ。とりあえず、報告を続けるにゃ。『陽光』が今日行っていたのはダンジョンの二十階層。前回の探索時に作った拠点で休んでいた所魔物の襲撃に遭ったらしいにゃ。『陽光』のメンバーが怪我で詳しい話は出来ないみたいで詳細はよく分からないけど、センの友達が殿になったらしいにゃ」
「……拠点で魔物に襲われてから、どのくらい時間が経っているか分かるか?」
「分からないにゃ。ただ、二十階層の半分より少し先くらいの位置に拠点があったみたいだから、多分半日以上経っていると思うにゃ」
「……分かった」
センは焦らない様に苦心しながらも足を速める。
(半日以上……ルデルゼン殿の強さを俺は知らないが……殿を任されるわけだし、相応の実力はあると考えられるが……)
既に小走りになったセンは、周囲に人のいない場所を求めて移動を続ける。
「セン、向こうの通りから路地に入ったら人目につかないにゃ!そこでやるといいにゃ」
「分かった、助かる!」
ニャルサーナルの示した通りに向かい、路地を目指して進んでいくセンは早くも息が切れ始める。
(くそ……体力が……やはりジョギングをすると口だけで言っていたのが災いしたな。しかし、十八歳の頃こんなに体力無かったか……?もう少し頑張れた気がするんだが……思い出補正か?)
体力に余裕がなくなってきてどうでもいい思考が頭を掠めるが、今はそんな場合じゃないと余計な考えを振り払い、体力を振り絞って路地に飛び込む。
「ニャル、周囲に人の目はないか?」
「大丈夫にゃ。今ならシュンってやっても誰にも見られないにゃ」
「よし……ミナヅキ、路地の反対側を見張っておいてくれるか?」
センは召喚魔法を起動しながらミナヅキにも手を貸して欲しいと頼む。
すぐに頷いたミナヅキが路地の奥に進むのを確認してから、センは召喚魔法を発動させる準備を進める。
(……ルデルゼン殿の情報は完璧とは言い難い……それに、今いる場所がいまいち掴めない……ダンジョンの場所がよく分からないな。現在位置の指定が出来ないし、パーソナルデータも足りないから、下手したら同じ名前の蜥蜴人を呼んでしまう可能性もあるが……そうなったら最悪だな)
せめてルデルゼンが人であったならもう少し特徴を掴むことが出来ただろうが、種族が違い過ぎて特徴を大雑把にしか指定できなかったのだ。
若干の不安を残しつつ、センはルデルゼンを呼び出す為に召喚魔法を発動した。
「なんだ……?魔法は発動したはずなんだが……」
召喚魔法が発動したにもかかわらず、ルデルゼンどころか別人が呼び出されたわけでもない。センは確かに召喚魔法が発動した手ごたえを感じていたのだが、何も呼び出されたようには見えず、初めての事態にセンは内心動揺しつつも務めて冷静に、召喚で指定した位置を調べる。
「セン?どうしたにゃ?失敗したのかにゃ?」
「いや……手ごたえはあったのだ……が……」
声を掛けて来たニャルサーナルに返事を返しつつ、センは地面を調べ……。
「……な、なんだと!?」
予想だにしなかった事態に、センは思わず驚愕の声を上げた。
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