召喚魔法の正しいつかいかた

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4章 召喚魔法使い、立つ

第141話 ダンジョン内の問題について

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「農業階層には警備の者もいるよな?」

「あぁ、魔物は民でも簡単にあしらえる程度の強さだから、基本的に探索者とのトラブルの為に置いている感じだな」

 センの質問にレイフェットが答えると、センは再び思案顔になる。その様子を見ながらサンサがレイフェットの言葉に捕捉をする。

「六階層の人数制限は六十三人、七階層は六十五人。農業従事者たちはそれぞれに五十人、警備の者がそれぞれ五人。農業従事者は時間や日にち毎に入れ替わりますが一度に働く人間は必ず五十人にしています」

「なるほど……フリーの枠は十人程度……現時点で問題が起こっているのであれば、今後確実に大きな問題になって来るだろうな。それに問題は農業階層だけに収まらない」

 今後他所から来る探索者は、ベテランであろうと新人であろうと基本的に第一階層から攻略していくことになる。
 彼らは最大で七人一組のチームになりダンジョンを探索していくわけだが、六階層と七階層はほぼ一組分程度の人数しか探索者は入ることが出来ないのだ。勿論先に入ったチームが攻略して階層を移動すればすぐに次のチームが突入できるのだが、ダンジョンの外から中の状況を知る手段は無い。
 その為転移陣で目的の階層が転移可能になるまで待たなければならないのだが、転移陣は一つしかなく、当然他の階層に行きたい探索者にとって邪魔でしかない。

「農業階層だけでなく、ダンジョンへの入場その物を管理する必要があるんじゃないか?」

「誰が何処に行くかを調べ、転移する順番に並ばせるってことか?」

 センの言葉にレイフェットが眉を顰めながら問い返す。セン達の話を聞いているサンサも非常に険しい顔になっており、センはそんな二人にかぶりを振ってみせた。

「いや、それは流石に現実的じゃないだろう?今でも三百人くらい探索者いるんじゃないかって聞いているし……全員が全員七人組ってわけじゃないだろう?流石に今の探索者ギルドの規模で、毎日何十組もの管理をするのは無理だろうし……強引にやってこの先人が増えれば、すぐにパンクしてミスが生まれる。そうなった時、厄介事になるのは目に見えているからな」

 センの言葉にサンサは少しほっとした表情を見せるが、レイフェットは訝しげに質問を続ける。

「そうなると、入場その物の管理ってのは……何をするんだ?」

「これはあくまで予想に過ぎないから、違っていたらそう言って欲しいんだが……農業階層以外にも人気があって、入りにくい階層ってのは存在するんじゃないか?高価な素材を手に入れることが出来る階層とか……」

「あぁ、俺の現役の頃は何カ所かあったな」

「今でも人気の階層はありますよ。最近ですと、十一階層と十六階層が人気ですね。特に十一階層は挑める探索者が多いので、揉め事が起こりがちです」

 サンサの説明にセンは礼を言った後、二人に考えを話す。

「農業階層の六、七階層と、人気階層の十一、十六階層は予約制にするんだ。ダンジョンに入る時間と人数。それらをギルドで管理する」

「だが……予約した所で探索者達は勝手にダンジョンに行って探索をするぞ?」

「そこは、ギルドが戦力を確保して、探索者にいう事を聞かせられるようにするしかないな」

「……戦力の確保か」

 再び渋い顔になるレイフェットとサンサ。そんな二人に苦笑したセンは、真面目な表情になり二人に諭すように話しかける。

「探索者が自由を愛し、管理されて動くことを好まないって言うのは分かる。だが、自由というのは一定のルールの下、最低限の義務を果たした上で謳っていいものだと俺は思う。ルールも何もなく自分勝手に動くのは自由ではない、ただの無法だ」

「元探索者の身としては耳がいてぇな……」

 センの言葉にレイフェットが苦笑する。それとは対照的に、サンサはセンの話を非常に真剣な様子で聞いている。

「そして、探索者にルールを課すべき立場なのは探索者ギルドになる」

「ですが……探索者ギルドは探索者と依頼者の間を中継ぎすることが基本業務ですし、最近新人探索者向けの講習を始めたりはしましたが……探索者の管理となると……」

「気持ちは分かりますが、探索者ギルドは、仲介手数料とこの街の税金で運営されていると聞いています。それはつまり自治団体というよりも、税金が使われている以上公的機関と考える方が妥当かと。この際、名称をダンジョン管理部等にでも変更して、多少の強権を持つべきではないでしょうか?」

「ふむ……確かにそれは言えているが……」

 センがサンサにする説明を聞いて、レイフェットが隣で唸るように言う。今度はそんなレイフェットに向けてセンは話を続ける。

「戦力としては……とりあえず引退間近の現役なり、引退した探索者を雇えばいいだろう。それに公的機関であるなら、ギルドに衛兵を常駐させても問題ないだろうしな。雇った探索者はギルドやダンジョン内部の入り口付近に配置して、予約のルールを守らせる為に使えばいい」

「その為の戦力ですか……」

 呟くサンサに軽く頷いたセンは更に言葉を続けた。

「それと、六階層と七階層は素通りさせたらどうだ?」

「素通り?どういう意味だ?」

「そのままだ。ギルドで探索者を雇うだろ?入口に配置したそいつらに、六階層と七階層のボスまで案内させるんだ。そしてそのままボスも討伐させて、転移陣を起動させる。そうすれば、予約して来た探索者達は何もしなくても次の階層の挑戦権を得る事が出来るだろ?戦力をしっかり揃える必要もない……農業階層攻略の実績だけを取らせて、とっとと八階層に送り込めばいい。この方法なら予約した探索者の管理と攻略時間の管理が同時に出来る。ボスを討伐した時の素材はギルドの物にすれば、多少は資金の足しになるだろうしな。さらに言えば、農業階層内で一般の探索者と農業従事者の接触を限りなく無くすことが出来て、トラブルにもなりにくくなるな」

「「……」」

 センの案を聞いたレイフェットは考え込むように腕を組み、サンサは反芻するようにセンの案を呟いた後、顔を上げる。

「……確かに、セン殿の案を採用すれば現状起こっている農業従事者と探索者との問題は解決すると思います。ですが……やはりギルドがそれだけの強権を持つという事に対する反発は、相当なものかと……私個人としては、セン殿が先程おっしゃられていた、自由の意味というものは理解出来るのですが……」

「……今まで無かったシステムを、突然上から押さえつける様に始めるのですから反発があるのは確実です。ですが今回の件は、この街の治安を維持しなければならない領主にとって決して看過できる問題ではありません。自由の為の不自由は全員が平等に受け入れるべきものです。刃傷沙汰が起こってからでは遅い……しかし、今のままの体制では、いずれ取り返しのつかない事件が起こってしまうでしょう。それだけは絶対に避けなければなりません。探索者もダンジョン内での農業従事者も、この街には絶対に欠かすことの出来ない存在なのですから」

「……領主の立場まで慮ってくれるのは、非常にありがたい話だが……」

 レイフェットが顔を顰めながらセンに向かって口を開く。

「当然、公的機関として本格的に動くのであれば領主による決裁は必要不可欠になるな。特に多くの反発が予想出来るのだから、最初に矢面に立つべきなのは領主様なのは言うまでも無い」

「……また仕事が増えんのかよ……」

 両肩を落としげんなりとした表情でレイフェットが言うが、センは肩を竦める。

「あくまで、俺が言ったのは一案に過ぎない。行政に関わっているわけでもなく、管理責任があるわけでもない、ただの一般人の無責任な言葉だ。もっといい案はいくらでもあるだろうが……俺からはこの程度が限界だな」

「……呼び出しておいてなんだが……お前は本当に嫌な奴だ」

 レイフェットの言葉にサンサは苦笑しながら口を開く。

「レイフェット様。やはりセン殿には街の要職についてもらうべきではないでしょうか?今ならダンジョン管理部の責任者のポストが開いているかと……」

「それは良い役職だな。検討してみるか」

「……生憎、探索者の生態には詳しくなくてな。辞退させてもらう」

 センがそう言って立ち上がると、続けてレイフェットとサンサが立ち上がる。

「サンサ、今回のセンの話を草案として纏めておいてもらえるか?近いうちに正式な会議を開く」

「畏まりました。早急に取りかからせていただきます」

 サンサに指示を出したレイフェットが歩き出し、センはその後に着いて部屋から出て行った。

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