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4章 召喚魔法使い、立つ
第137話 領主に報告
しおりを挟む「大盛況だったな。一日でどのくらいの売り上げが出たのか聞いてみたいもんだぜ」
「大まかになら聞かせてもらえるんじゃないか?」
エミリの新店舗が開店した日の夜、センはレイフェットの館に来ていた。
主な話題は本日開店したエミリの店の事であったが、センは気になっていた窃盗犯についてレイフェットに尋ねてみる。
「今街の方で窃盗が問題になっているらしいんだが、知っているか?」
「あぁ、報告は受けているが……まだこれといった情報はないな」
「今日エミリさんの店に一人窃盗犯らしき人物がいたが……恐らく捕まえたと思うぞ?」
「そうなのか?なら明日の報告辺りで聞けそうだな。だがそれがどうかしたのか?」
レイフェットはセンが気にするような問題かと首を傾げる。
「何かあるって訳じゃないんだがな。ただ、今日は知り合いの探索者と一緒にエミリさんの店を周っていて、その知人が窃盗犯を見つけたんだが……その様子が随分と手慣れている感じだと言っていたのが気になってな」
「ふむ?今街で起きている窃盗事件は全部そいつの仕業ってことか?常習犯ならおかしくないと思うが」
「その可能性もあるけどな。俺が気にしているのは妙な組織が街に入り込んでいないかってことだ」
「組織的な犯罪を疑っているのか?それにしては売り物の窃盗って規模が小さすぎないか?」
「まぁな。だが、今はそういった細かい部分も気を付けておいた方が良い」
「他所からの嫌がらせってことか?」
流石に遠回しすぎるだろとレイフェットが言い、センも苦笑しながら頷く。
「考えすぎだと思うけどな。だが、ただの犯罪だとしても……今は窃盗だが、次は強盗になるかもしれん。その次は殺人……エスカレートしていかないとも限らないだろ?」
「それはそうだな……」
「今この段階でシアレンの街の治安を悪化させるわけにはいかない。今後、人が増えて行けば治安は低下していくだろうが……」
「何とか防ぎたい所ではあるがな。だが、衛兵の数は増員を始めたものの訓練には時間がかかるし、お前とライオネル殿が予測した人口増加ペースに追いつくのは無理だろうな」
顔を顰めつつ、後頭部をがりがりと掻くレイフェット。
「一気に人が増えるとすれば次の春だな。あと半年くらいはあるし、何とか頑張ってくれ」
「ここは山の中だから冬は結構長い。春まで半年以上は余裕がある……まぁ、治安維持ならぎりぎり使い物にはなるか」
「兵士か……どこかから職業軍人とか引っ張って来たいよな」
「そりゃ無理だろ……国に忠誠を誓っているからこそ職業軍人なんだからな。金でこちらに来てくれる奴は金で裏切るだろう。懐に入れるにはあまりにも危険だ」
ソファの背もたれに身を預けながらレイフェットが深いため息を吐く。
「国への忠誠か……すぐにどうこうなる話ではないが、学校でも作るか?」
「学校か……だが、結局一部の裕福な人間が集まるだけにならないか?」
「……いや、ハルキアの学府みたいな高等教育って訳じゃなく、初等教育……普通は金持ち連中が子供に家庭教師を雇って学ばせるような内容を、無料で教えるような教育機関だ」
「無料で……?」
「運営には国費を使うことになるがな。入学条件はシアレンの街の住人であること。期間は、とりあえず一年程……子供達は入学を基本義務にして、大人向けには希望者を、子供達とは別の時間に」
「ふむ……」
「カリキュラムは教師との相談になるが、たたき台は用意する」
その言葉を聞いて、何かに気付いたような表情になるレイフェット。
「やけに具体的に話をすると思ったら、計画していたのか?」
レイフェットの言葉にセンはいつもの笑みを浮かべながら頷く。
「あぁ、以前からハルカと少しな。情報整理や魔法の開発に人手が全く足りていないし……長い計画にはなるが、人材育成は早めに始めておいた方が良い」
「それで学校か……」
「知識は力だからな。一部の特権階級が独占したがる気持ちも分からなくはないが……住民全員が基礎学力をつけることで、他国とは比べ物にならないくらいに国力を増やすことが出来る。底辺が上がれば平均があがる。平均が上がれば最大値もどんどん伸びていく。学習っていうのはそういうもんだ」
「……お前の考え方は説明して貰えば納得できるんだが、相変わらず一般人の発想じゃないな」
「俺の故郷では極々一般的な考え方だ。だからこそ、ハルカと二人でそういった話が出来るんだからな」
センが肩を竦めながら言うと、レイフェットが感心した様な声を出す。
「ハルカの嬢ちゃんか……確かにあの嬢ちゃんも相当優秀だと思うが……ミナヅキの嬢ちゃんもそんな風に考えられるのか?」
「あれでもそこらの貴族や商人に負けないくらいの基礎学力はあるぞ?だが人間、得手不得手というものは必ずある。ミナヅキはそういった物は少し苦手だろうな」
センがそう言うと、容易に納得がいったのだろうレイフェットが豪快に笑う。
「まぁ、それはこれから作りたいと考えている学校でもそうだ。勉強は得手不得手がある……アルフィンの様に、意欲はあっても自分に合ったやり方を見つけられるまで上手く処理出来なかったりとかな。それに自ら望んで勉強をするのと、義務として強制的に勉強させられるのでは本人の意欲が相当違ってくる。その辺りをどう解決していくかは、運営開始後の問題になっていくだろうな」
その言葉を聞き、レイフェットの顔がげんなりした物に変わる。
「どんどん忙しくなっていくな……本気で人が足りないぞ……文官を増やさないと早晩俺は仕事に殺される」
「文官か……少しでも学のある人間を雇って教育し始めた方がいいだろうな。それとライオネル商会を通じて、この街の役人として働きたい人間を募集するのもいいんじゃないか?」
「他所の人間を雇い入れるのか……」
「クリスフォード殿が鍛えている諜報部隊がいるだろ?彼らのいい実戦訓練にもなるんじゃないか?身辺調査とかさ」
レイフェットの執事であるクリスフォードは、シアレンの街で諜報関係の仕事を纏める立場でもある。
治安維持への協力や街へ出入りする人間の監視、周辺国での情報収集が主な仕事だが、最近のレイフェット達の動きに合わせて諜報部隊の人員拡充も積極的に進めていた。
「確かに、それもそうだな。ライオネル商会と協力して色々情報収集をしているみたいだし、いい人材を見つけるのも任せてみるか」
「それなら、俺の方も魔法開発が出来る人材とか探してもらえるように頼めるか?重視するのは口の堅さとか裏切らないってところだな。飛び切り優秀な人材は既にいるから能力はそこまで重視しない」
「分かった。クリスフォードに伝えておく。あぁ、そういえばクリスフォードが礼を言っていたぞ?お前のお陰で情報伝達速度が信じられないくらい早くなったと」
ライオネル商会と協力して情報網を広げているクリスフォードは定期便とは言え、今までとは比べ物にならないくらいの頻度や速度、そして量と安全性で情報のやり取りが出来るようになりその利便性に舌を巻いていた。
「それは何よりだ。情報は鮮度が大事だからな。緊急で伝えたい情報があったら遠慮なく声を掛けて欲しいと伝えておいてくれ」
「あぁ。精々こき使う様に伝えておく。それと、今度俺はハルキアに行かなくちゃならねぇんだが……」
「いつものように送迎すればいいのか?」
「頼む。だがいつもと違って今回は公式訪問でな。目的地にいきなりじゃマズいんだ」
「なるほど……馬車移動で道中でも顔を出す必要があるって感じか?」
「そうなんだが……いけるか?」
「問題ない。普段はここで仕事をしながら、特定のタイミングで現地に飛ばせばいいんだろ?まぁ、現地と言うか馬車の中に飛ばす感じだな」
センの問いに頷くレイフェット。
「あぁ。クリスフォードの部下を帯同させるから、飛ばしてもらうタイミングはそいつとのやり取りになるな」
センの情報は伏せられているが、瞬時に遠方に移動する術があることをクリスフォードの部下は仕事上伝えられており、こういった場合に重宝する存在になっている。
「分かった。日程が決まったら教えてくれ」
センの言葉にレイフェットはよろしく頼むと言いながら頭を下げた。
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