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4章 召喚魔法使い、立つ
第135話 魔道具の至って普通のつかいかた
しおりを挟む「苦労や失敗はいい経験になりますし、致命的ではない物であるならば、あの子達には是非経験して貰いたいと思っているのですが……目の前で失敗しそうだと手を出してしまいそうになるんですよね」
「セン殿でもそういう事があるのですね」
魔道具売り場に向かいながら、センはルデルゼンと他愛のない話を続けていた。
人が密集しているという程ではないが、客はどんどん増えて来ており二人の歩みは非常にゆっくりな物になっている。
「子育てと呼べるようなものではありませんが……世の中の親御さんたちは、とても大変なんだなぁと実感していますよ」
「自分だけの人生とは重みが違いますね……しかし、探索者になりたがっているとなると、心配は尽きませんね」
「そうですね……ですが、子供とは言え、本人の意思であり希望です。極力希望は叶えて上げたいと思っているのですが……現状環境を整えてあげることくらいしか出来ません。歯がゆくはありますが……私は探索者の経験どころか、武器を振った経験すらありませんからね」
「セン殿は、確か他所の街から来られたのでしたね。探索者は基本的にダンジョン最寄りの街にしかいませんし……先ほども言いましたが、その子の件には私も協力させて貰いますよ」
「ありがとうございます。是非話をする時は、成功二割、失敗八割くらいの塩梅でお願いします」
そう言ってセンは声を出して笑う。
「セン殿は本当にその子を大事にしていますね。まぁ、多少意地が悪い気もしますが」
ルデルゼンもセンと同じように声を出して笑う。
「話は変わりますが、ルデルゼン殿のチーム『陽光』は今何階層を探索しているのですか?」
「私達が今探索しているのは二十階層です」
「二十階層ですか……それは凄いですね。知人から教えて貰ったのですが、二十階層まで行ける探索者は本当に一握りだと」
「……そうですね。私はあまり貢献できていませんが『陽光』のメンバーはかなり優秀ですよ。外様ではありますが、私も誇らしいです」
「外様……ですか?ルデルゼン殿は『陽光』のメンバーではないのですか?」
センがルデルゼンの言葉に首を傾げ尋ねると、ルデルゼンが肩を竦めながら笑う。
「対外的には私も『陽光』のメンバーですが、正確に言うと私は雇われなんですよ」
「そうだったのですか」
センが驚いた様子でルデルゼンの方を見る。
「雑用が多いのは難儀ですが……私の実力では、けしてたどり着けない風景を見せてくれる彼らには感謝しています」
そう言ってルデルゼンが笑うと同時に、セン達は魔道具を販売している一角に辿り着く。
「おぉ、これは凄い。こんな量の魔道具を展示している店は大国の王都でも早々無いですな」
魔道具を展示している区画は、店舗の中でもかなり広いスペースを占めており、棚に陳列されている物からショーケースに飾られている高級感のあるものまで、多種多様な感じだ。
二人が店内の様子に目を向けていると、入店に気付いた従業員が近づいて来て案内を申し出てきたが、二人はそれを適当に見て回るからと断り店内へと足を踏み入れる。
「一つ一つの売り場に仕切があるので別の店のように感じますね」
「そうですね。こういった形態の店舗はこの辺では珍しいのではないでしょうか?」
ルデルゼンは従業員が頭を下げてから立ち去るのを見て感想をポツリと漏らす。
(ショッピングモールみたいな感じだからな。ハルキア王都にあるライオネル商店の本店も、大きくはあったがこういった形で区分けはしていなかった。まぁ、あそこはここまで広くはないし、商品も揃えていなかったしな。向こうも召喚魔法で商品は豊富に取りそろえることは出来たが、売り場面積が足りないからな。王都や大きな街では支店数を増やしているみたいだが……それで余計に目立っている可能性もありそうだ)
センは以前ライオネルに聞いたライバル商会の話を思い出す。
ライオネル商会が急速に業績を伸ばしている事を面白く思わなかった商人達が、自分達と懇意にしている貴族を使ってちょっかいを掛けて来ていたのだ。
それを知った時、ライオネル夫妻は底冷えのするような笑みを浮かべていたが、現在順調に報復を進めているようだった。
流石にこの短時間で大手商会を潰すには至っていないらしいが、真綿で首を締めるようにじわじわと相手商会を追い詰めて行っているとセンは聞いている。
(まぁなんというか……相手を妨害するわけでは無く、正攻法で客を奪っていく感じらしいけど……シェアの奪い合いならともかく、値下げ勝負になったらライオネル商会はほぼ負けないと思うが……)
この世界における輸送の難しさ、経費のかかり具合を考えれば、安全に素早く大量に商品を揃えることの出来るライオネル商会は、価格競争で負けることはあり得ない。
(この街に出店しようとしたときもそうだけど、ライオネル殿は他の商人とのバランスを大事にしている。価格競争をすれば確かに相手を確実に追い込めるだろうが、影響は相手を潰すだけでは済まないだろうしな。やり過ぎれば……最悪、ハルキアの王都そのものが破綻しそうだし、価格競争はライオネル殿としてはやりたくないところだろう……って今はどうでもいいか)
「ところで、ルデルゼン殿はダンジョンで使うような魔道具を探されているのですよね?」
並べられた商品を見ながら思考が別の場所に飛んでいたセンは、隣にいるルデルゼンに声を掛ける。
「えぇ。といっても、目当ての魔道具があるわけではありませんが……何か便利な物でもあればと言った感じですね」
「なるほど……ダンジョンでどのような物が必要かは、私では分かりそうにありませんね」
「そんなに特殊な物ではありませんよ。例えば……野外であっても出来る限り快適に過ごしたいとか……ん?」
話の途中で何かに気付いたような声を出すルデルゼン。
「どうかしたのですか?」
「……いえ……すみません、お気になさらず」
そう言って棚に並べられている魔道具を手に取るルデルゼン。
「これは水を作り出す魔道具ですね」
「そんな便利な物が?」
(魔道具で水を作り出せるなんて初耳だが……そんな物があるなら水源の確保なんて必要ないんじゃ……値段は……金貨二枚か。一般人なら三か月働いて稼げるかどうかってレベル。使い捨てでなければ買っておく価値はありそうだが)
センが真剣な表情で魔道具を見つめているのを見て、ルデルゼンが申し訳なさそうに頭を掻きながら声を出す。
「えっと……セン殿、すみません。色々期待させてしまったみたいですが、その魔道具で作られる水はその器一杯で一日は掛かります。水を作ることが出来る回数は約十杯分。しかも一度使用開始すると途中で止めることは出来ないので……約十日間、稼働しっぱなしですね」
魔道具の大きさから水は二百ミリリットル程度、小さめのコップ一杯分程度だ。
(稼働させてすぐに水が生成されるのであればともかく、一日でコップ一杯か……)
「これは……どのような場合に使うのですか?」
「水を確保できないダンジョンに大量に持ち込むんですよ。稼働させても暫くは重くならないですからね。これを拠点まで運んでおけばある程度の水が確保できます」
「……なるほど。小さくて軽いからこそ数を運べるという事ですね」
(使い道が全く想像できなかったが……使えない物を店に並べる訳がないしな)
ルデルゼンの説明を受けて納得したセンは、その隣にあった魔道具に目を向ける。
「あぁ、そちらの魔道具はですね……」
ルデルゼンは機嫌が良さそうに、センが目を付けた魔道具の説明を始めた。
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