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4章 召喚魔法使い、立つ
第134話 店内にて
しおりを挟むエミリの新店は店の前は相当な人だかりではあったが、流石に店内に入ってしまえばその敷地の広さから人ごみで身動きが取れないという程では無かった。
(それでも人はかなり多い……元々あった大通りの小さな店で宣伝もしていたからだろうが、大通りから離れたこの店でも人が押し寄せているようだな。広告なんかの宣伝媒体が無いにもかかわらず相当な集客だな、上から見た感じ店の前の道が埋め尽くされているような感じだった)
三階にあるエミリの仕事部屋から見下ろした通りの状態を思い出しながら、センは店内の様子に視線を向ける。
(この大盛況っぷりなら売り上げの心配は無いだろうな。万引きへの対処が大変そうだが……この世界で万引きが見つかったら腕とか斬り落としそうだよな)
この世界の刑の重さに少しげんなりしたセンは、前にもこんなことを考えた気がするなと思案顔になる。
しかし、視界の隅に見覚えのある人物が見えた為、気分転換がてら声を掛けることにした。
「こんにちは、ルデルゼン殿」
「あ、あぁ……セン殿。お久しぶりです」
センが声を掛けた人物はルデルゼン。蜥蜴人の探索者で、センがこの街に来て初めて縁を持った探索者だ。
「お久しぶりです。今日はお休みですか?」
「えぇ。チームの皆がこの店の初日にどうしても行きたいという話になりまして、今日は休みになりました」
「……そう言えば大通りの店の時はダンジョンに行くとかで、開店当日は来られなかったのでしたね」
センがそう言うと、凶悪な笑みをルデルゼンが見せる。
(いや……苦笑しているのか?)
会うたびにルデルゼンはセンに笑顔を見せるが、毎度毎度猛獣が歯を剥き出しにしているようにしか見えない。
「あの時は……折角新しい階層初日だったというのに、若干チームの皆が気もそぞろと言った様子だったのですよ。あれはちょっと危険だったという事もあり、今日は休みという事になったのです」
「なるほど。確かにダンジョンで別の事に気を取られるのは危険ですし、思い切って休みにした方がいいかもしれませんね」
センがそう言うと、ルデルゼンが後ろ頭を掻きながらため息をつく。
「そういう事で、折角の機会ですし何か便利な魔道具でもないかと、私も足を伸ばしてみた訳です」
「魔道具ですか……もしお邪魔でなければご一緒してもよろしいですか?私も魔道具売り場に用事がありまして」
「えぇ、構いませんよ。私が見るのはダンジョン探索で使える類のものですが……もしや、セン殿もダンジョンに?」
「いえいえ、私にダンジョンは荷が重いですよ。私が面倒を見ている子が魔道具売り場で働いているので、様子を見がてら魔道具を見てみようと思いまして」
「ほぉ……こんな大きな店で働いているのですか……ん?面倒を見ている子といいましたか?もしかしてあの時の……?」
ルデルゼンは初めてセンに会った時の事を思い出す。
あの日、薬屋で探索に使う薬を纏めて購入し、大量の薬を一人で持っていたルデルゼンは前方への注意がおろそかになり、ラーニャとぶつかってしまう所だった。
幸い、店から出て来たルデルゼンに驚いたラーニャが尻もちをつく程度で済んだのだが、あと一歩でもどちらかが足を多く進めていれば思いっきり激突し、ラーニャに怪我をさせていた所だっただろう。
「あー、あの子はまた別の売り場です。一階の食料品売り場と聞いています」
「そうでしたか。あの時は本当に申し訳ありませんでした」
「いえいえ、何度も謝って頂いておりますし、お気になさらないで下さい」
「ありがとうございます。しかし、まだ幼いように見受けられましたが……優秀なのですな」
そう言いながらルデルゼンは軽く辺りを見回す。
この店で働いている従業員は、エミリ監修の下かなりしっかりとした教育を受けている。この街で新たに雇った人材も、ハルキアの王都から派遣されて来た経験者も等しく研修を受けており、サリエナ達から、王都の高級店でも働けるレベルに達しているとお墨付きまで受けていた。
シアレンの街の雰囲気は上品には程遠く、よく言えば下町風の活気、悪く言えば粗野な感じが目立つ。
そんな中、エミリの店で働く従業員達の動きは洗練されており、非常に品が良い。
それでいて、シアレンの街の人達に居心地の悪さを感じさせない心配りも出来ており、ルデルゼンの目には貴族に使える使用人たちの様にさえ見えていた。
そんな店で子供でありながら働けるというのは、とんでもなく優秀なのだろうとルデルゼンは思ったのだ。
「ははっ、しっかりと勉強はしているとは思いますが……一番大きな理由はこの店の店主と私達は知り合いというのが大きいのですよ。その縁で雇ってもらっている感じですね」
「なるほど……ですが、ただの縁故だけでは採用されないでしょう?この店に来てからまだそんなに時間は経っていませんが……パッと見ただけでも、働いている方々は貴族に仕える従者の様な立ち居振る舞いをしているように見えます。縁だけで店の品位を落とす様な人物を採用するとは思えません」
「確かにそうかもしれませんが……ルデルゼン殿に紹介するのは少しばかり怖いですね。色々と厳しくチェックをされそうだ」
センが苦笑しながらそう言うと、擦過音のようなら音を出しながらルデルゼンが歯をむき出す。
「セン殿の秘蔵っ子に会うのが楽しみです」
冗談めかして言うルデルゼンにセンは肩を竦める。
「今から会う子は探索者を目指しているので、もし良かったら今度色々と話をしてあげてくれると嬉しいです。出来れば……脅す方向で」
「おや、セン殿は探索者になるのは反対ですか?」
センの提案にルデルゼンは目を少し見開く。
「いえ、反対はしません。ですが厳しい現実は知っておいて貰いたいのです。甘い夢だけで挑めるほど、ダンジョンは優しい場所ではないと思うので」
センがそう言うと、ルデルゼンは納得したというような表情で頷く……センにはあまりその表情の変化は伝わらなかったが。
「承知いたしました。幸い、人の子からすると私の顔は怖いみたいですし、たっぷりとお話をさせて貰いましょう」
「ははっ、よろしくお願いします。ところで、ルデルゼン殿は貴族の方にお知り合いでもいるのですか?」
ハルキアの王都ではその繋がりを断ち切ってしまったが、出来れば権力者との繋がりを多く持ちたいと考えているセンは、ルデルゼンにそう切り出す。
「え?あぁ、先程の従業員云々の話ですか。知り合いと言いますか、私がこの街に来たのは元々貴族に雇われての事だったのですよ」
「貴族に?あぁ、確か探索者を雇って珍しい品を集めるとか言う……?」
「えぇ、そんな感じです。ですが、半年ほどで役に立たないと契約を打ち切られてしまいましてね。その半年間はその貴族がこの街で借りていた屋敷で生活していたので、従者の方々の仕事ぶりを見る機会が多かったというだけですよ」
「そうだったのですか。しかし、半年で打ち切るというのも随分性急な話ですね?そんな短い期間ではあまり深い階層まで行けなかったのでは?」
先日ニャルサーナルとミナヅキの二人が十階層を攻略したが、ほんの一月程度で十階層を攻略するというのは本来ありえないペースなのだ。
確かに十階層付近までは攻略を始めれば一日か二日もあれば攻略は出来る。
しかし、当然ダンジョンを攻略するには準備が必要だし、どんなに安全に進めていても疲労はなくせないし、怪我もする。
怪我はポーションを使えば治すことは出来るが、十階層以下を探索しているような新人探索者がおいそれと使えるような値段ではない。
装備を整えたり、各種薬や消耗品を購入するために、金策と称して安全な場所で素材を集める為に戦うというのが常で、そう易々と探索する階層を伸ばして行ったりは出来ないのだ。
「えぇ、おっしゃる通りです。しかも経費は自分持ちだった為……報酬が目減り……というよりも赤が出ていたので……こちらとしては、せっつかれてもどうしようもないといった感じでした」
「それは……完全に契約に失敗しましたね」
センが苦笑しながら言うと、ルデルゼンも肩を揺らしながら歯をむき出す。
「えぇ、本当に。若い日にいい勉強をさせてもらいましたよ」
そう言ってルデルゼンは大きく肩を落とした。
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