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4章 召喚魔法使い、立つ
第128話 シアレン発展計画
しおりを挟む「戦争なんて資源の無駄遣いだからな。食料、兵装、薬品に薪、馬や餌……そして何より」
「人だな。お前が一番失いたくない資源」
センの言葉に被せるようにレイフェットがにやりとしながら言う。
「その通りだ。人ってのは、最低でも十数年はかけて育てた資源だぞ?それまでに使った金に食料……それが何百、何千……下手したら万単位で失われるんだぞ?戦争になるとしても極力人は削りたくないな」
「そんな戦争無理だろ……一度起これば人は死ぬ。だが、戦争を否定する理由が勿体ないからっていうのは……」
「なんといいますか……人道的とは言い難い理由ですが、人への愛があると言えなくもないですな。セン殿らしいとは思いますが」
呆れた様子を見せるレイフェットと苦笑するライオネル。
そんな二人に肩を竦めて見せたセンはハルカに先を促すが、三人の様子を見ていたハルカも笑っていた。しかし、ハルカは一度咳払いをした後、続きを話し始める。
「……すみません、大陸北部から中央までは以上です。西部の大国ハルキアの周辺は今の所落ち着いていますが、東部の大国である獣王国内では次期獣王候補選出の為の儀式が始まり慌ただしくなっているみたいです」
「次期獣王候補選出の儀式か……そりゃ賑やかだろうな」
「儀式ってどんなことするんだ?なんか国内のあちこちで戦うみたいなことを聞いたんだが……」
「まぁ、序盤はそんな感じだな。参加者は獣王国内のいくつかの都市で予選というか辻試合を行うんだ、確か、最低三都市で戦わないといけないんだったかな?」
センの疑問にレイフェットが答える。
「辻試合って……街中でそんな血生臭い事を?」
「おう。因みに一回でも負けたら即出場資格を失う、予選期間内に十連勝で本選出場だ。参加資格は獣人か半獣人であることだけだな」
「……それって他国の人間が刺客を送り込んだりは……」
「そりゃもう、大量に送り込まれているだろうな」
「しかも辻試合だろ?ズルし放題じゃないか?」
獣王国以外に仕える獣人が全くいないという訳ではない。ハルキアには殆どいないが、帝国やその他の国には獣人や半獣人は少なくない。
特に身体能力に優れる彼らは軍関係で国に仕えている者も多く、選抜戦向けの人材は多いだろう。予選のルールでは十連勝すればいいだけなので、十一人で組めば確実に一人は本選に送り込める。
「因みに本選は王都で辻試合だ」
「好きだな……辻試合」
レイフェットの捕捉にセンが半眼で呟く。
「本選も十連勝で決勝トーナメントに出られる。先着十六人までだな」
「流石に人数を揃えると言っても厳しい物があるな……百二十人揃えれば決勝トーナメントまでは行けるが……千九百二十人集めれば優勝出来るな。だが、先着だと確実ではないか」
「なんでそうやって八百長ばっかり考えるんだよ……」
センの言葉に呆れたような表情になるレイフェットだったが、センはかぶりを振った後真剣な表情で言う。
「八百長するだけで次期国王なんだろ?普通に狙ってもおかしくないと思うが……」
「次期国王じゃなく、次期国王候補な」
「それに、セン殿の言う人数を集めて八百長で決勝トーナメントを制したとしても、その次は現獣王との一騎打ちですからな……そこで不甲斐ないと殺されることもあるとか」
「……獣王国は……ちょっと俺には向いてないな……というか、次期国王候補?」
レイフェットの言葉にセンが首を傾げる。
「流石に腕っぷしだけで王は決まらねぇよ。国王候補者同士でもまた色んな競争があるんだが……その説明もするか?」
「いや、今は必要ないな。すまん、ハルカ。また邪魔をしてしまったな。後はこの付近の情勢か?」
「あ、はい。そうですね。と言ってもシアレンの西側の小国家群はお互いが睨み合っていて動くに動けないといった感じです」
「補足という訳じゃないが、俺から一つ。うちの領土であるこの山、ハルキアとラーリッシュ、西側と東側からこの街に通じる登山口があるんだが、そこに宿場町を作り始めた。まぁ、ここに居る三人には思いっきり協力して貰っているから知っているだろうがな。その町を建設するにあたって両国と色々交渉を進めている。ハルキア側は特に問題ないが、ラーリッシュ側はあまりいい反応をしていないな」
ハルカの報告に続けて、レイフェットが現在進めている事業の報告を始める。
「シアレン側の領土内なんだろ?文句を言ってくるのか?」
「流石に直接文句は言って来ていないが、面白くないといった感じだな。後は宿場町に合わせて山道の整備も始めたが……人手が足りていないな」
「人手に関しては私も協力させて貰っていますが……ラーリッシュ側で集めるのが難しいですな」
レイフェットに同意するようにライオネルが顎を擦りながら言う。
「ラーリッシュ側の建設は少し遅れ気味だな。シアレンの街で募集を掛けてはいるが……」
レイフェットが参ったという雰囲気で言うが、センは軽い様子で意見を言う。
「まぁ、大国との玄関口の方が重要性は高いんじゃないか?ハルキアからの流入が増えればラーリッシュの方まで手が回るようになるだろ」
「センの魔法で人の移動はしないのか?事業としてじゃなく、この街に働き手を運べばかなり人手を増やせると思うんだが」
「大々的に、人が一瞬で移動できることを知られるのはかなりマズいな。切り札だし、確実に色々と探られて動きが取りづらくなる」
(何より召喚魔法の有用性に気付かれ、各国で開発競争が始まるのは絶対に避けたい……もっと情勢が安定しているならともかく、この情勢下で召喚魔法の事がバレると争いが激化するのは確実だ)
センの言葉にレイフェットが納得したように頷く。ここまで召喚魔法の恩恵に授かり、その有用性を理解しているライオネルも異論はないようだ。
「人手については地道に集めて行きましょう。なに、ハルキア側が順調なのは良い事です、セン殿の言う通り、より多くの人が来るのはそちら方面でしょうしな」
ライオネルの言葉でひとまずこの話は終わり、特筆するべき話を終えたハルカが報告の終了を告げた。
「私の方からも一点。急速に支店の数を増やしたため管理者となる様な人材が不足していたのですが……最近ハルキアの方でいくつかの商会が潰れましてな。そこで働いていた人材の殆どをうちの商会に引き込むことが出来ました」
(……潰れたというか……潰したの間違いでは?エンリケ関連の時に話していた奴らの事だよな?……いや、いくら何でも早すぎるか。ライオネル殿達でも一月程度で商会を潰せるとは思えない)
「おかげで更に支店の数を増やすことが出来まして……現在はシアレンの東側、小国家群と獣王国での出店を計画しております。こちらの詳細は纏めてありますのでご確認下さい。それと、この街で建設中だった大型店舗……そろそろ開店の準備が整いそうです」
「丁度いいタイミングで人手が増えましたね。あの大きさだと仕事に慣れている人材が多くいなければ、回しきれなかったでしょうし」
娘の為にライバル商会を潰したわけじゃないよなと思いながらセンが言うと、にっこりとほほ笑みながらライオネルが頷く。
「えぇ、そうですな。研修も兼ねて新しく入った管理者候補達をこの街に送っているので、彼らが到着次第開店とするつもりです」
「そりゃ楽しみだな」
「シアレンの街の宣伝は商会を使ってじわじわ進めておりますからな、宿場町と山道の整備が進めば恐らく一気に賑やかになると思いますぞ」
「センの仕掛けが一気に芽吹いて来た感じだな……仕事がクッソ忙しくなって死にそうだが」
「申し訳ないが、まだまだ手を緩めるわけにはいかない。寧ろこれからが本番だ、まだまだ付き合ってもらうぜ?」
皮肉気なセンの笑みを受けて、三人は苦笑しながら頷く。
センがこの世界に来てから六か月余り、季節は夏真っ盛りとなっていた。
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※小説家になろうでも投稿しています。

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