127 / 160
4章 召喚魔法使い、立つ
第127話 打ち合わせ
しおりを挟むシアレンの街の領主の館、その一室に複数の人物の姿があった。
一人目は館の主、シアレンの街の領主レイフェット。
逞しい肉体に鋭い目つき、更に頭の上でぴくぴくと動く犬耳が特徴の半獣人の男だ。
二人目は、先のレイフェット以上の体格を持つ男性。
二メートル以上はありそうな身長に、筋骨隆々な肉体……しかしその表情は非常に穏やかな笑みを浮かべており、身体から受ける印象と表情から受ける印象のギャップが凄い。
ライオネル商会会頭のライオネルである。
この体格で本人は荒事とは無縁であるのだから恐ろしい。
三人目は女性……いや、少女と言ってもいいかもしれない。先の二人に比べれば非常に小さく見えるが、対比するする相手が前述の二人でなければ普通の体格と言える。
少女の名前はハルカ。年の頃十五、六と言ったところで、この世界とは別の世界から謎の女性に世界を救うために呼び出された少女だ。
四人目は、街を歩けば埋没してしまうような特徴のない男。
敢えて特徴を上げるのであれば目つきが悪い事だが、今は人の良さそうな笑顔を浮かべているので、その特徴すら消え去っていた。
もっとも、レイフェットから言わせれば非常に胡散臭い笑みではあるが。
「今日は時間を取ってもらってすみません、ライオネル殿。しかもわざわざこんな遠方にまで来ていただいて」
「いえいえ、大事な打ち合わせですからね、来るのは当然ですぞ。それに遠方と言っても、自分の屋敷から本店に行くより短い時間で来られますからな!距離と時間を気にせず移動出来る強みはどんどん生かして行きたいですな!」
豪快に笑うライオネルを見ながらレイフェットも頷く。
「こうして別の街、別の国にいる知人と簡単に会えるってのは凄い事だな。こっちも商売に使えるんじゃないか?」
「全く考えていない訳じゃないが……これを商売として成立させるには、俺が付きっきりになる必要あるからな。今の俺にそんな時間はない」
レイフェットの言葉に、人の良さそうな笑みを消したセンが皮肉気に答える。
「それもそうだな。まぁ、センの魔法のお陰で俺も楽をさせて……貰っているか?」
「ハルキアへの行き来は相当楽になっているだろ?」
「移動は楽だが……そもそもお前のせいで忙しくなったんじゃねぇか?」
「周りの勢力と仲良くするのは領主本来の仕事だろ?今までそれを疎かにしていたツケが回ってきただけだ」
「本当にお前は嫌味な奴だ」
レイフェットの言葉にセンが肩を竦めて見せると、二人のやり取りを見ていたライオネルが豪快に笑いだす。
「いや、驚きましたな。お二人からそれぞれ話を聞いていましたが、本当に気安い関係のようですな。やはりレイフェット様のお人柄故ですかな」
「お恥ずかしい限りです。私は敬意をもって対応しようとするのですが、どうもお気に召さないようでして」
ライオネルの言葉に穏やかな笑みを浮かべつつセンが言うと、顔を顰めたレイフェットが物凄く嫌そうな声を出す。
「お前のそれは馬鹿にしているようにしか聞こえないんだよ。っていうかお前、俺が許可する前からぞんざいな口調で喋ってたじゃねぇか!しかも初対面で」
「最初は丁寧に対応していただろ?お前が悪ふざけばかりするからそれなりの対応を取っただけだ」
「ふむ……その時の話は妻から聞いておりますが……セン殿の言動には肝が冷えたと言っていましたな」
「あの時は……話題が話題でしたしね。多少サリエナ殿に意趣返しさせて頂きました」
サリエナの紹介で初めてレイフェットと会った時の事を思い出しながら苦笑するセン。あの時は何故か娘であるエミリを押してくるサリエナを躱すのに、センは随分と辟易した物だった。
同じくその時の事を思い出したらしいレイフェットがにやりとした表情を見せる。
「会話だけで妻をやり込む方法は是非ご教授頂きたい所ですが……後が怖いのでやめておきましょう」
「そうですね。私もとんでもないことになりそうな気がするので、そろそろ本題に入らせていただこうと思います。現在得ている情報の共有、そして今後の方針についてです」
センの言葉に弛緩していた空気が引き締まる。
センがこの世界に来て六か月が経過。手探りながら一歩一歩確実に目標に向かって進んで来たセンだったが、自分の目的を幾人かに伝え、協力してもらう事に成功していた。
レイフェット、ニャルサーナル……そしてライオネルにサリエナだ。
四人とも……いや、ニャルサーナルを除く三人はセンの話を鵜呑みにしたわけでは無いが、それでもセンの目的の為協力は惜しまないと話した。
因みにニャルサーナルがセンの事情を聞いた時の言葉は……。
「なるほどにゃー」
この一言であった。
ニャルサーナルにとって、自分の勘を信じ手を貸すと決めた以、上ロクでもないことを企んでいない限りは今までと変わらないといった感想しかなかったのだ。
そんなニャルサーナルとは逆に、ライオネルとサリエナの二人はセンの目的を聞かされ、非常に安心した様子を見せていた。
商人……特に大きな商会の経営者ともなってくると交渉の巧さはもとより、大事な物は人を見る目と言われている。
部下として、商売敵として、取引相手として、手を組む相手として……その人物の事を知り、見抜き、求める物、嫌がる物をしっかりと把握出来なければ、人相手に商売を成功させることなど出来ないのは当然の話だ。
そんな二人から見て、センと言う人物は謎の一言に尽きた。
非常に優秀であるし、人当たりも良い。仕事への取り組みは非常に真面目であるし、他にはない発想をいくつも生み出していく。
金の卵を産む鳥でありながら、その卵を使って料理を作り振舞ってくれるのだ、しかもその料理は未だかつて見た事もない料理……もはやビジネスパートナーと呼ぶことさえ烏滸がましい程の利益を商会にもたらし続けてくれている人物。
商人であるライオネル達にとって、センは誰にも代えがたい人物であったが同時に計り知れない人物でもあった。
センからは、人間らしい欲というものを読み取ることが出来なかったからだ。
まず、金銭への執着を全く見せない、寧ろ無用な長物として扱っている節さえあった。必要以上の金を抱き込もうとせず、贅にも興味を示さない。にも拘らず莫大な利益を上げる方法を心得ており、交渉も巧み。色に溺れる様子もなく、最近になってようやく年頃の娘が近くに現れたが、そういった雰囲気は一切ない。
若者にありがちな自己顕示欲も見られず、どちらかと言うと自分の存在を消す方に注力を向けている。
そんな、我欲を一切見せないセンから目的を聞かされた時、心の底から安堵したとしても無理からぬことだろう。その内容が突拍子のない物であったとしても。
「今の所各地で魔物に関する話題、異常発生や被害が増えている等の話は出て来ていません。こちらは私達の目的そのものとも言える情報になるので、今後も優先的に情報を集めて行きます」
センの隣に座っていたハルカが資料を片手に説明を始める。
ハルカは以前センに頼まれた通り、新しい魔法の開発をしながらセンの下に集まる情報の整理も手伝っていた。
勿論メインは魔法の開発ではあるが、片方の仕事に行き詰まればもう片方の作業を始めるといった感じで作業を進めていた。
「各勢力の情勢ですが、帝国は各地の内乱の対応に明け暮れているようですが、経過は順調で完全に国内をまとめ上げるのも時間の問題といった所です。そして帝国南方の国家群ですが……争いが激化しているようです。抜きんでた国は無いようですが、いくつかの国が争いに敗れ併合されているようです。詳細はこちらの資料に」
資料を机の上に並べるハルカの手元を見ながら、レイフェットが口を開く。
「センとしては、こういう人同士の争いで戦力が消耗することを避けたいんだよな?」
「完全に避けられる物じゃないし、ある程度は仕方ないだろうな。避けられる物なら避けたいが……起こるべくして起こったものはどうしようもないからな」
「起こるべくして起こるか……」
顔を顰めたレイフェットがセンの言葉を繰り返した。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす
大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜
魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。
大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。
それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・
ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。
< 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる