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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける
第123話 雇おう
しおりを挟む「上手く行ったみたいだな」
「あぁ、クリスフォード殿のおかげでな。色々本当に助かった」
センは向かいに座っているレイフェットに頭を下げる。
「くはは!いいって事よ!アレも街の外に出て楽しんだだろうしな」
「正直、クリスフォード殿が頼もし過ぎて色々と頼ってしまいそうになる」
「御過分な評価を頂き恐縮です」
お茶を入れたクリスフォードが、にこやかな笑みを浮かべながらセンに一礼をする。
「いえ、本当に助かりました。おかげで予定通りに事が運びました」
センの礼に微笑んだクリスフォードはセンの前にカップを並べた。
その所作は淀みない物ではあったが、付き合いの長いレイフェットには非常に機嫌よさげにしているのが分かった。
「残る問題は、もう一人の退避か?」
「あぁ。といってもそちらは問題って程ではないだろうな。姉の方と違って妹の方は元々そうなってもいいように立ち回っていたようだし。時間が経てばこちらに合流出来るだろう」
「その娘が魔法の開発を得意としているんだったな?」
以前センが事情を説明し協力を求めた時、ハルカやナツキの事もレイフェットは聞いていた。
流石に世界最高の才能を持っているという点を鵜呑みにはしていないが、ある程度その人物の得意分野を知るという意味で、役に立つと考えているのはセンと同じだった。
「あぁ、今も既に色々と……便利な魔法の開発を頼んでいるが、彼女がシアレンに来たら俺も勉強させて貰おうと思っている」
「新しい魔法の開発か……それがバレたらハルキアは絶対にその娘を逃がさないだろうな」
「そうだな。自分の能力を隠しながら生活してくれていたのは本当に助かったよ」
「……その娘……お前みたいな感じか?」
若干嫌そうな表情を見せつつ、レイフェットがセンに問いかける。
「……その表情は非常に気になる所だが、ハルカは俺とは違うタイプだと思うぞ?」
「そりゃ良かった。この街にこれ以上センは要らないからな」
「どういう意味だ」
半眼になりつつセンがレイフェットに問いかけると、レイフェットは何も答えずお茶を飲む。
「セン様が増えたら面白そうですな。旦那様も嬉しいですよね?」
何も言わないレイフェットに、クリスフォードが話しかける。
「いや、こんなのが増えたら面倒どころの話じゃないだろ?全力で入街を拒否するぞ?」
「横暴な領主ですね」
「全くだ、反乱でも起こすか?」
「その時はお手伝い致しますよ」
不穏な会話をセンとクリスフォードが始め、レイフェットが頭を抱える。
その姿を見ながら二人はにこやかに会話を続けているが、やがてレイフェットが唸るように声を上げた。
「領主を前にしてする内容じゃないだろう?もう少し敬えよ?こう見えて偉いんだぞ?」
「知らなかったな」
「そうだったのですか?」
二人が首を傾げるのを見てレイフェットががっくりと肩を落とす。
「お前たち二人を同室させるのは今後やめておこう。いつ刺されるか分らん」
そう言って非常に嫌そうな表情を見せるレイフェットに、二人は笑って見せた。
その後暫く他愛のない話をしていたが、二人のお茶が無くなりクリスフォードがお替りを用意すると同時にセンが切り出した。
「ところで、何か話したいことがあったんじゃないのか?」
「あぁ。今、公共事業を増やして雇用を増やし始めただろ?だが基本的に力仕事ばかりなのがな……」
「力仕事メインだと問題があるのか?」
「問題ってことはないんだが、女性や子供には中々斡旋し辛いだろ?」
「なるほど……」
センは少し顎に手を当てて考えるような素振りを見せる。そんなセンを見ながらレイフェットが口を開いた。
「貧民街には行ったことがあるか?」
「いや、場所は何となく知っているが行ったことはないな」
「そうか……あの辺は怪我で引退せざるを得なかった探索者や伴侶を亡くした未亡人、親のいない子供達が住んでいる」
そういうレイフェットの声が少しだけ暗いものになる。
「……子供達には街の清掃なんてどうだ?渡せる金額は多くはないが、その分人数は多く雇えるはずだ」
「清掃か……」
レイフェットが呟きながら腕を組む。
「清掃する区域は朝に指定して、その時に清掃用の道具を貸し出す。仕事終わりに回収して支払いはそこでするようにすればいい」
「……なるほど。区域を指定しておけば確認作業も簡単に済むという事だな」
「あぁ。ゴミ拾いや水路の清掃をメインにすると良い。最終的には貧民街にも手を伸ばせるといいな。街が綺麗になると治安も良くなるしな」
「そうなのか?」
「そういう効果もあるってくらいだけどな。逆に治安の悪い場所は……清潔感とは程遠いだろ?」
「……それは確かにそうだな」
納得したような表情になるレイフェット。
「よし、子供向けに、清掃の仕事を立ち上げてみるか。後は……婦人方に斡旋できるような仕事はないか?」
「……一つ聞きたいんだが、新しい事業を展開しなくても既存の仕事で人手が足りていないところはあるんじゃないか?例えば……ダンジョンの中に作っている農耕地とか」
「あー、貧民街にいる伴侶を亡くしたご婦人方は、探索者であった夫がダンジョンで命を落としている事が多くてな。全員が全員そうだとは言わないが……ダンジョンへの忌避感が少なくないんだ」
「なるほど……しかし、この街にいる以上、何らかの形でダンジョンに関わることになると思うが……ダンジョン自体に足を踏み入れなければ大丈夫、ってことで考えて問題ないか?」
確認するようにセンが尋ねると、レイフェットは頷く。
「……全員が全員は無理だが、ライオネル商会が今度開く大型店舗で働いて貰うのはどうだ?雇用するのはライオネル商会になるが……」
「ふむ……それはいいのか?」
「流石にあの店で働く人数全てをこの街まで呼び寄せるのは大変だし、現地雇用はライオネル殿達も考えている。ただ、あそこで働くにはそれなりに教養が必要になる」
「教養って言ったってな……」
レイフェットが渋い顔をする。
ただでさえ貧民街で暮らし、日々の生活に追われている人々に教養を求めるのは、あまりに酷というものだ。勿論センもその事は十分に理解しているので、軽い様子で話を続ける。
「勿論、最初から兼ね備えておけと言っているわけじゃない。まだ店舗建設中だしな、教育期間は十分に取れる。本人のやる気次第にはなると思うがな」
「そういうことか……だが、街としてというよりもって感じだな」
「街として事業を始めるのもありだとは思うが……この辺はライオネル商会も交えて話をした方がいいだろうな。俺もいくつか案はあるが……ライオネル殿の協力は必要だ」
「ふむ……近いうちにセッティング出来るか?」
「あぁ、予定を確認しておく」
「後は……怪我をして引退した探索者だが……」
「それは……怪我の具合によって斡旋する物を買える必要があるからな……いっそのこと仕事を斡旋するような機関を作ってみるのはどうだ?人手を欲している人と仕事を探している人の仲介をするんだ。他所の街の傭兵ギルドなんかが依頼の仲介や斡旋をしているだろ?あんな感じで、一般人向けの仕事紹介をする機関を作る。そこの職員を雇う必要もあるし、潜在的に人手不足になっている場所も洗い出すことが出来る」
「それはありだな……さっき話していた、子供達への清掃の仕事もその機関で管理させればいいし……よし、その案……もう少し煮詰めていくか」
センの案を聞いたレイフェットが身を乗り出す。
「公共事業としてやるのであれば、傭兵ギルドの様に仲介手数料を取る必要はないだろ?そうすることで雇用する側もされる側も利用しやすくなる」
「仲介料を取らないと運営は厳しくないか?」
「その機関で利益は求めない方がいいだろうな。雇用促進して最終的に税収が増えるってことで納得しろ」
「だがな……子供達の清掃の件も考えると持ち出しが多くならないか……?」
「その辺は上手くバランスを取るしかないが……流石に税の収支とかまでは俺は知らないからな」
「それもそうか……よし、その辺の資料を」
「馬鹿やめろ!そんなことまで首を突っ込むつもりは無いぞ」
「ケチケチすんなよ。出来る人材を適切に使わないのは、お前の言う人的資源の活用としてどうなんだ?」
「それとこれとは話が別だ。そもそも俺はお前から給料は受け取っていない」
「クリスフォード、センの給金ってどのくらいが妥当だ?」
「そうですな……」
センに渡す給料について、真剣な表情で相談を始めるレイフェットとクリスフォード。その二人を見ながらセンはため息をつきつつ呟く。
「……受け取らないからな?」
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