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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける
第122話 人心地
しおりを挟む「ニャルさん、本当に気を付けてくださいね?危うく魔法を撃つところでしたよ」
「にゃはは!すまなかったのにゃ。センがとっとと隣の部屋に行けって枕を投げつけて来るから慌ててたのにゃ、全部センが悪いにゃ。セン、ごめんなさいしろにゃ」
「なんでだよ……」
着替えを終えたセン達は宿から出て街を歩いていたが、先程反射的に部屋の中で魔法を撃ちそうになったナツキが、興奮冷めやらぬと言った感じでニャルサーナルに文句を言っている。
二人の会話は非常に賑やかで注目を集めそうなものだが、今セン達がいる通りはその二人を上回る賑やかさで、ニャルサーナル達に注目する者達はいない。
「それにしても随分賑やかだにゃー。お祭りでもやってるのかにゃ?」
「いや、恐らくこの先にある店が大盛況なんだろうな」
「お店……?そう言えば私達ってどこに向かってるの?」
ニャルサーナルとナツキが周りの様子を見ながらセンに問いかける。
セン達の周りには何かしらの荷物を抱えて反対方向に歩く人と、何も持たずにセン達と同じ方向に向かって歩く人に分かれているように見えた。
そのどちらもが明るい表情をしており、景気の良さが伺える。
「この先にあるのはライオネル商会の支店で、俺達が向かっているのもそこだ。商品の入荷日が昨日だったからな、今日はそれが店に並んで大盛況なんだろうな」
「へー、っていうかセンって支店の入荷日まで把握してるの?」
「把握しているというか、入荷の作業は俺の仕事だからな」
「へぇ……センってライオネル商会でどういうポジションなの?ライオネルさんにもかなり無茶言ったりしてるよね?本店の部屋借りたりとか……私を見つけた方法とか」
「俺自身は大した事はしてないが……かなり良くしてもらってはいるな。今後お前も関わることが多くなると思うが、くれぐれも失礼の無いように頼むぞ?」
センが念を押すように言うとナツキは軽い様子で頷く。
本当に理解してくれているのだろうかと一瞬不安になったセンだったが、ハルカの方にしっかりと伝えておけば恐らく大丈夫だろうと考える。
「本当に頼むからな?」
最後に一度言い含めた後、センは通りの先へと視線を向ける。
この街に来た際に店の場所は確認してあったが、その日は入荷日ではなく、これ程の混雑を見せてはいなかった。
「エミリさんの店以上の人出だな。人口の差かそれとも店舗規模の差か……」
「あの店はちっちゃいからにゃー。もっと大きい店にしたらこのくらい人が来るんじゃないかにゃ?」
「今建設中だから、そっちがオープンしたらここ以上かもな」
「あー、もしかしてあのおっきな建物のことかにゃ?大通りから外れてる」
「あぁ、それだな」
「すごいにゃー、あそこもエミリの店だったのにゃ。大儲け間違い無しにゃ」
のんびりした口調でニャルサーナルが言う。
恐らく帽子の下で耳が機嫌よさげにぴくぴくと動いている事だろう。
しかし、セン達の隣にいるナツキはエミリの事を知らないので首を傾げていた。
「エミリって言うのは誰?多分初めて聞くよね?」
「エミリさんはライオネル殿の娘さんで俺のいる街で店をやっている」
「へぇ。大手商会の娘さんかー。仲良くしたいな」
「まぁ、その辺は問題ないだろうな」
(エミリさんは大人だからな……どんな相手でも仲良くやれるだろうし、ナツキも単純だが悪い奴ではないしな)
軽い様子でセンが言うと、ナツキは新しい街や人って楽しみだとニャルサーナルに話しかける。
ナツキは現在金髪の背中まで届く様なカツラを被り、つばの広い帽子を被っている。
服装は清楚な感じに纏められていて、どこかの令嬢と言われても疑われないだろう。
勿論、清楚なのは見た目だけで、口を開けば一瞬で馬脚を露してしまう訳だが。
「とりあえず安全圏に移動したら今後の事を話すが、何か希望があるなら纏めておいてくれよ?」
「んーそういうのは妹と合流してからの方がいいかな?その方が二度手間にならなくて済むでしょ?」
「……合流まで少し時間がかかるが、その間宙ぶらりんになっても平気か?」
「ハル……妹はそんなに時間がかかるの?」
妹の名前を呼びかけたナツキが言い直す。
宿を出る前に念の為ナツキとハルカの名前を呼ばない様、センは二人に注意をしていた。その事を思い出したのだろう。
「一月は掛からないと思うが……相手次第だな。動き始めるのはお前の事が伝わってからになるからな」
「あー、なるほど」
ハルカが行動を起こすには、エンリケが王都に戻り、ナツキの死が伝わるまで待たなければならない。
(護衛の要であるナツキ、更に騎兵の馬を失ったエンリケは、新しい護衛を手配するまで安全な場所から動けない可能性が高い。本来五日程度で戻れる距離だが……護衛の手配、襲撃者への警戒……王都に戻るまで時間がかかるであろうことは想像に難くない。ハルカにナツキの件を伝えるかどうかは分からんが……エンリケにとってハルカはオマケだろうしな。ナツキを取り込むという狙いが破綻した以上、ハルカへのちょっかいも終わるだろう。とは言え、エンリケが戻ってくるまでは停止の指示も出ないだろうし、それまで夜はニャルに護衛を頼まないとな)
因みに、センはナツキにハルカが狙われている事は伝えていない。この件に関してはハルカと相談して、当面、ナツキへは報告しないことに決めていた。
ハルカとナツキがシアレンの街に移動して、安全が確保されてから、こういうことがあったと伝えるという事になっている。
「む、店が見えたにゃ。ところでセン、あそこで何をするのかにゃ?買い物かにゃ?」
「いや、街に帰るのにあそこに行く必要がある」
「そうなのかにゃ?いつもみたいにシュン!ってしないのかにゃ?」
「俺が帰るのにちょっと必要な物があってな。後、ライオネル殿と待ち合わせをしているんだ。王都まで送っていく必要がある」
「ほー、相変わらずセンは色々やってて忙しそうだにゃ」
「王都に行くのはお前もだけどな?頼んでいる仕事もあるだろ?」
「あぁ、そう言えばそうだったにゃ。まぁ、任せておくにゃ」
頭の後ろで腕を組みながらニャルサーナルが軽い様子……しかし真剣な眼差しで言い、センは皮肉気な笑みを浮かべる。
そんな二人の会話を何となく聞いていたナツキがぼそりと呟いた。
「あんた本当に色々やってるわよね……」
「俺自身は、さっきも見ただろうが前線に立てるような者じゃないからな。色々と策を巡らせて、ようやくまともな成果が出せるんだよ」
ほんの十数秒の運動で息を切らす、世界最弱の人物であるセンは、ため息をつきながら苦笑した。
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