召喚魔法の正しいつかいかた

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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける

第113話 手練れ

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「窓から部屋の中が見えるのはいいが……プライバシーとか大丈夫なのか?」

 センは今、学府の寮にあるハルカの部屋を覗き見ることが出来る場所に隠れている。
 周りには誰もおらず、心細いことこの上ないが、センの護衛であるニャルサーナルは現在監視中のハルカの部屋で待機しているので仕方が無い。
 ハルカの話を聞いた後、センはニャルサーナルとレイフェットに助けを求めた。
 ニャルサーナルにはハルカの代わりに部屋に待機してもらい、可能であれば侵入者を捕えることを、レイフェットにはエンリケの屋敷にいるナツキとコンタクトを取る方法を、それぞれ相談した。
 ニャルサーナルの方は二つ返事で協力を承諾してくれて、現在はハルカの部屋で待機してくれている。
 そしてレイフェットの方もかなり無茶を頼んでいるのだが、あっさりとセンの頼みを受け入れ、クリスフォードを貸し出してくれた。

(ニャルはともかくレイフェットは軽すぎだろ……他国の貴族相手だぞ?バレなきゃいいって考えかも知れないが、普通に戦争になってもおかしくないんじゃないか?)

 自分で協力を求めておきながらも、レイフェットのあまりの気軽さに不安を覚えるセン。
 センがレイフェットに頼んだのは、エンリケの屋敷に連れて行かれたナツキに秘密裏に接触することだ。
 センとしては無茶な事を言っている自覚はあったし、不可能だと断れれても仕方ないと思っていたのだが、クリスフォードなら造作もない事だと言われてしまった。
 その時のセンの驚いた表情に、レイフェットは非常に満足気だったのは言うまでも無いだろう。

(レイフェットには戻った後で色々と説明しないとな……出来れば先に説明したかったところだが……なんともタイミングの悪い)

 レイフェットに色々と話し、協力を要請しようとした矢先に起こった厄介事に、センはため息をつく。
 今回助力を要請するにあたって、クリスフォードとニャルサーナルの二人にも召喚魔法の事を打ち明けている。
 召喚魔法の事を聞いた二人の反応は対照的なもので、クリスフォードはかなり驚いていのだが、ニャルサーナルは便利だにゃーの一言で終わらせていた。

(クリスフォード殿は言うまでも無いが、ニャルも結構義理堅いというか、ナツキのうっかりよりは遥かに信頼できるからな。召喚魔法の事を漏らす心配はないだろう)

 そんなことを考えながらセンは窓から空を見上げる。
 時刻はそろそろ真夜中、草木も眠る丑三つ時と言った頃合いだろう。
 寮の窓から見える灯りはハルカの部屋だけとなっており、全ての学生が眠りに就いていることが伺える。
 ハルカの部屋に灯る光も小さなもので、中の様子がはっきりとわかる程ではない。

(明かりが消えるのを待っている可能性もあるが……そろそろ動き出さないと夜明けまであまり余裕はないと思うが……それとも今日は来ないか?)

 当てが外れただろうかとセンが思いながらハルカの部屋の方を見るが、やはり動きはない。

「セン様。遅くなり申し訳ございません」

 月と星の灯りだけが光源となっている暗い部屋で、突然後ろから声を掛けられたセンの心臓が跳ね上がる。

「……クリスフォード殿……今のは、わざとですよね?」

「おや?何のことでしょうか?」

 暗闇の中首を傾げるクリスフォードをジト目で見るセン。しかし、クリスフォードは特に気にした様子を見せず話を続ける。

「ご報告いたします。セン様からご依頼されておりました、ナツキ様への接触、無事に完了いたしました」

「ありがとうございます。彼女の様子は如何でしたか?」

「特に危害を加えられた様子もなく、健やかに寝ておりました」

「……そうでしたか」

(予想通りではあるが、イラっとするな)

 暢気に寝ているナツキに対して納得しがたい感情を覚えるが、ナツキが悪いという訳でもないのでぐっと堪える。

「セン様から預かっていた箱と手紙をお渡ししております。それと複数人でナツキ様のいる部屋を見張っているようでした」

「よくナツキに接触できましたね」

「流石に部屋の中まで監視されていたわけではありませんからね。見られぬように侵入してしまえば、特に問題はありませんでした」

「……なるほど」

(いや、外から監視されている部屋に見られずに侵入することは、難しいどころの話ではないと思うんだが……)

 しかし、クリスフォードが問題はないというのであればと自分を納得させるセン。

「監視されているとなると召喚するのは避けた方が良さそうですね」

「はい。流石に部屋に誰もいないと誤魔化しが効かないでしょう」

「手紙でのやり取りも今は厳しいか……」

「渡した手紙は月明かりでなんとか読めましたが、書くのはむずかしいかもしれません。灯りもつけない様にと伝えてあります」

「助かります」

(とりあえず、ナツキに状況を伝えることは出来たが……明るくなるまでナツキの詳しい状況を知るのは難しいか。まぁ、クリスフォード殿のお陰で無事が分かっただけでも一安心だな。既に迂闊な事を言っていなければ良いのだが……)

 色々と不安は残るものの、ナツキの状況に関しては確認できたし朝までは問題ないだろうと判断したセンは、クリスフォードに向き直る。

「クリスフォード殿、ありがとうございます、助かりました。今から屋敷の方に送ろうと思いますがよろしいですか?」

「お待ちください、セン様。旦那様より、このままセン様の護衛をするように仰せつかっております。御迷惑でなければこの部屋で待機させていただきたいのですが」

「私としては助かりますが、よろしいのですか?」

「はい。セン様はあまり体を動かすのが得意ではないご様子ですし、周囲の警戒は私にお任せください」

 そう言って折り目正しく頭を下げるクリスフォード。

「……ありがとうございます。もし誰かに見つかったら逃げるしかなかったので、クリスフォード殿に警戒してもらえると……ん?」

 センがそこまで言ったところで、ニャルサーナルの待機しているハルカの部屋の灯りが揺れるのを感じたセンはそちらに視線を向ける。

「侵入者の様ですね」

 センと同じようにハルカの部屋に目を向けたクリスフォードが言う。

(ニャルなら大丈夫だと思うが……危険を承知で送り込み、いざ事が起こったのを目の当たりにするのは心臓に悪いな……)

 センが一瞬不安げな表情をするも、次の瞬間クリスフォードが何でもない様に言葉を続ける。

「終わったようですな。ニャルサーナル殿も素晴らしい腕前ですね」

「ここから分かるのですか?」

「えぇ、もう部屋の中が落ち着いたようですし……」

 クリスフォードの言葉を肯定するように、部屋の灯りが二回の明滅を数度にわたって繰り返し、その後窓が開かれて窓際に黒ずくめの人物が現れる。

「おっしゃる通り終わったようですね。侵入者の数は二人だったようです。今からこちらに召喚します」

 ニャルサーナルによって無力化された侵入者が窓際に立たされているのを確認したセンは、召喚魔法を発動させる。
 すぐに手足を縛られた黒ずくめの人物が部屋に召喚され、ハルカの部屋では次の人物が窓際に立たされている。

「この者達はどうするのですか?」

 二人目の召喚を終えたセンが顔を上げると、クリスフォードが問いかけて来る。
 黒ずくめの二人はピクリとも動かず、センが可能であればとニャルサーナルに頼んだ通り気絶しているようだ。

「目的はもう分かっていますが……出来れば尋問して情報を得たい所ですね」

「……ふむ。ですが相手が貴族となると、この者達から証言を得たとしても糾弾することは難しいでしょうな」

「やはりそうですか……」

(元の作戦を進める方が無難か……)

 クリスフォードの言葉に、エンリケとの直接対決は避ける方向で行こうとセンは決める。

「不審人物として警備に突き出しますか……」

「……良ければ私に預けて頂けませんか?決して悪いようには致しません」

「それは構いませんが……この者達が戻らないと色々と不味いのですが……」

 警備に掴まって戻ることが出来ないのと、行方不明になるのとではハルカ達への相手の対応も変わってくるだろう。

「向こうの貴族には警備の者に掴まったことにしておきます」

「……可能なのですか?」

「問題ありません。ついでに尋問も致しますので、情報はセン様にお渡しいたします」

「……分かりました、よろしくお願いします」

 なんとなくこの侵入者達には恐ろしい末路しか残されていない様な気がしたが、センはクリスフォードに後事を託すことにした。

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