召喚魔法の正しいつかいかた

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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける

第96話 格好悪い

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「え?魔法?私と被ってるんじゃ?」

 なんで?と言った表情を見せるナツキにセンは肩を竦める。

「ナツキは魔法全般の才能だろ?俺は召喚魔法だけに特化した才能だ。召喚魔法だけなら俺はナツキより才能があるってことだろうな」

「……なるほど……でも召喚魔法って……なんか呼び出して戦わせたりするやつだよね?かなり便利そうじゃん!確かにそれなら戦えないセンでもなんとかなるよね!」

 ナツキがサムズアップをしながらセンに嬉しそうに話しかけてくるが、当然センはかぶりを振る。

「残念ながら、そんな都合のいい魔法じゃない。召喚魔法はその名の通り、何かを呼び出すだけだ。まぁ、送り返すことも出来るが、それ以外のことは出来ない」

「どういうこと?」

「呼び出すだけで、呼び出した相手の意志を縛って命令したり操ったりは出来ないってことだ。呼び出した奴には当然自由意志があるから、ナツキが考えるような強力な魔物を呼び出したら次の瞬間俺は殺されるだろうな。本当に俺の傍に呼び出し、元の場所に送り返すだけの魔法だ」

「え?それだけ?それでどうやって魔物と戦うの?」

「……俺は魔物と戦わない。というか、戦えるわけがないだろ?俺は自立歩行出来る生命体の中で最弱と言われたんだぞ?」

「……物凄い評価よね……なんかごめん」

 気まずそうにするナツキに対して苦笑するセンは、気にするなと言いながら言葉を続ける。

「俺に出来るのは戦いのサポート、さっきも言ったが金や物資、情報なんかの融通ってところだな。切った張ったは……まぁ、ナツキを含めた戦える奴等に任せるさ」

「まぁ、ハルカのついでに守ってあげるわよ。でも、なんで召喚魔法を選んだの?」

「才能を選ぶ時に冊子を読んだだろ?俺が生き延びる為に、一番良さそうなものがそれだったからな」

「何かを呼び出して送り返すだけなのに?回復魔法の才能とかの方が良かったんじゃないの?」

「怪我をしている時点でアウトだからな……それに、俺の場合回復する暇もなく死ぬ可能性の方が高い。そんな状況自体を避けるために必要だったんだよ」

「言いたい事は分かるけど……どうやって召喚魔法でそれを避けるの?」

 意味が分からないと言った様子のナツキ、しかしそれは隣にいるハルカも同じようだ。

「……召喚魔法は今誰も使う人がいない魔法ですよね。元々問題が多すぎてまともに使える人が全然いなかったって……」

 ハルカが思い出すようにしながら呟く。
 魔法開発の才能を得ているハルカは、研究の為に学府で多くの魔法式を調べている。
 だが召喚魔法に関しては魔法式を見つけることは出来ず、ただ使い物にならなかったという記述だけが残っているのを見つけていた。

「そうらしいな。元の魔法式にかなり手を加えて何とか使えるようになったが……最近ようやく満足いく速度で発動できるようになってきたかな?」

「……センさんは魔法の改良も自分で出来るのですね?」

「独学だから上手く出来ているかは分らんが……召喚魔法を使うだけじゃなく、魔法式にも手を加えられる才能だったのかもな。正規に勉強しているハルカに、その内意見を聞いてみたいんだが、付き合ってもらえるか?」

「はい、勿論構いません。記録としても残されていない召喚魔法の魔法式に興味がありますし」

「俺の中にある魔法式はもはや原型も残っていないけどな。元の魔法式からかなりかけ離れた姿になっているぞ」

「センさんがどんな風に魔法を開発しているのか気になりますね。楽しみです」

 ハルカが今までに無いくらい楽しそうな笑顔を見せている。
 どうやら、才能は関係なくハルカは魔法の開発が好きなようだ。

「独学だからあまり期待しないでくれよ?」

 そんな風に話をする二人をナツキがじっとりした目で見ながら口を開く。

「それはいいんだけど……私の質問には答えてくれないの?」

 魔法開発の話で盛り上がる二人には、ハルカの言葉が全く届いていないようだった。



「随分長くなってしまったな」

 センはふと我に返ったように時間の経過を口にする。
 この部屋に二人が来てから数時間、時に脱線しながらこの世界で得た情報を語り合っていた為、予想以上に時間が経っていたようだ。

「流石にちょっと疲れたかなー」

 センの言葉を聞いたナツキがソファの上で背伸びをしながら言うと、隣にいたハルカも一瞬時計を探す様に室内に目線を動かした後苦笑する。

「この部屋は窓もないし、今がどのくらいの時間なのか全く分からないからな。とは言え流石に日が沈むほどの時間ではないはずだ」

「……今日はそろそろ終わりにしますか?」

 ハルカの提案にセンは頷く。

「そうだな。聞きたかったことも大体聞けたし、後はどういう風に協力体制を築いていくかといった所だが……今日は俺から不意打ちで接触したからな。一度話を持ち帰ってじっくり考えてからでもいいだろう」

 センがそう言うとナツキが立ち上がり声を上げる。

「じゃぁ今日は此処までね。難しい話はあまり得意じゃないけど……これから協力して頑張っていきましょう」

 邪気の無い笑顔でナツキが立ち上がり手を差し出してくる。その言葉を受けてセンも立ち上がりナツキの手を握った。

「あぁ、こちらこそよろしく。だが、このまま帰らないでくれよ?最後に連絡を取る方法と、次にいつ会うかを決めておかないとな」

「も、勿論分かっているわよ!」

 少し慌てた様子でナツキが再びソファに腰を下ろす。
 そんなナツキの様子を見ながらセンは笑みを浮かべつつ口を開いた。

「スマホが無いと不便だな」

「本当よね……セン、スマホは作れないの?」

「無茶言うな。そんなものが作れるなら最初からそこを目指しているさ」

(スマホと言うか、通信機だな……勿論、どちらにせよ作ることは出来ないが。糸電話以上の物は無理だ……いや、伝声管くらいいけるか?どのくらい役に立つかは分からないが)

 センがそう言って苦笑すると、ナツキもそれはそうかと納得する。
 代わりに今度はハルカが口を開いた。

「……センさんへの連絡はどうしたらいいですか?」

「何かある時はライオネル商会に言伝をアルク宛に、遅くとも十日程度で俺に連絡が届く。急ぎの時は……これを」

 そう言ってセンは手のひらに乗る大きさの箱をテーブルの上に乗せた。それは、以前ハーケルに渡した箱と同じデザインをしている。

「なにこれ?」

 テーブルに置いた箱を手に取り不思議そうに眺めまわす。勿論、それ自体はただの箱で中には何も入っておらず、ますますナツキの顔が訝しげになる。

「ただの箱だ。魔道具でも何でもない」

「どうやってこれで連絡とるの?」

 そう言って首を傾げるナツキ。その横ではハルカがどう使うのかを考えているようなので、センはナツキに答えを言わずに微笑を浮かべる。
 やがて顔を上げたハルカがセンに確認するように口を開いた。

「……もしかして、センさんの召喚魔法は……人だけじゃなくって、この箱も召喚することが出来るのですか?」

「あぁ、出来るよ」

「それは……中身ごとですか?」

 ハルカの問いにセンは頷く。

「……なるほど……そんな使い方が……」

「あのー、またなんか二人だけ分かっているみたいな感じなんですけどー。結局どういうことなのよ!」

 口を尖らせ、これでもかと言うくらい不服そうな顔をするナツキを見るのは何度目だろうか?センはそんなことを考えながら、ナツキの持っている箱を召喚する。

「……こういうことだ」

「……いや、全然分んないし!なんかさ!そうやって……こうやれば分かるだろ?みたいな格好のつけ方するのってどうかと思うんだ!伝わらなかったらそれすっごく格好悪いよね!分からなかった方も、分からせられなかったほうもさ!」

「……ふふっ」

「……そりゃすまなかったな。俺はこうやって箱を自分の手元に召喚したり……」

 センは召喚した箱に懐に会った銀貨を一枚入れて送還する。
 送還された箱はナツキの手の中に戻った。
 急に手の中に出現した箱に驚いたナツキは箱を落とし、蓋が空いた箱から銀貨が零れ落ちる。

「そんな感じに元あった場所に戻すことが出来る。その箱の中に手紙を入れておいてくれれば、夜に俺が回収すればその日のうちに連絡が取れるって寸法だ」

「それって緊急連絡としては弱くない?」

「無茶言うなよ……この世界の連絡手段としては破格だろ?」

 緊急時にハウエンを呼ぶ時とは違い、ナツキ達からの緊急連絡となるのでどうしてもタイムラグがあることは否めない。
 因みにセンはラーニャ達にも同じように箱を渡しているが、そちらは色付きの石を使って簡易連絡を取るツールとして使っている。中に入れられた石の色によって、問題無し、用事あり、緊急事態、すぐに召喚が必要、この四パターンを判断するようになっている。
 センは一時間に一回、ラーニャ達に渡している箱を召喚して緊急事態が起こっていないか確認するようにしているのだが、過保護ここに極まれりと言った感じではある。

「一日一回、夜に俺がその箱を召喚するから、早目に連絡が取りたい時はそこに手紙でも入れておいてくれ」

 そう言ってセンは転がって来た銀貨を拾い懐に戻した。

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