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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける
第94話 ケンザキとトキトウ
しおりを挟む「まぁ、そんな感じで、ナツキが迂闊だったお陰でこうしてコンタクトを取ることが出来たわけだ」
「迂闊って言うな!」
センとハルカの会話を若干引き気味に聞いていたナツキだったが、馬鹿にされたことで再び激昂する。
だがそんな様子も他の二人にしてみれば予想通りと言った風に受け止められ、まさに暖簾に腕押しと言った感じだ。
「他の二人もナツキみたいにたん……引っかかってくれると助かるんだがな」
「私みたいにたん……?今単純って言おうとしたよね!?」
実際センの罠に思いっきり引っかかってしまったナツキは、若干涙目になっている。その様子を見てセンは流石に揶揄い過ぎたかと反省をしながら口を開く。
「いや、ナツキのお陰で俺達は会う事が出来たんだ。本当に感謝している」
「うん、私はあまり外に出ないから……ありがとう、お姉ちゃん」
二人がナツキに頭を下げながらお礼を言うと、一瞬で機嫌を直したナツキが胸を張る。
そんな様子を妹は苦笑しながら……センは扱いやすいと考えながら口を開く。
「二人が予想通りの場所に居てくれたってのも大きいがな」
「予想通り?どうやって?」
「俺達が最初に放り込まれたのはハルキアだろ?そして俺は、魔法の才能と魔法開発の才能を選んだ人間がいることを知っていた。魔法関係の才能を貰った人間がいるとすれば、魔法王国と呼ばれる王都辺りが一番可能性が高いと踏んでいたんだよ」
「……センって本当に色々考えてるんだね」
「考えなければ俺は死ぬからな。まぁ、それはいいとして……二人から見て、他の人間はこの仕掛けに引っかかりそうか?」
「んー、ケンザキの方は引っ掛かるんじゃないかな?」
「……私もそう思います。でもトキトウさんは……難しいかもしれません」
「その二人……いや、死亡したという奴も含めて、どんな奴だったか教えてくれるか?」
センの言葉に少しだけ困ったような表情になる二人。勿論センも二人が他の人間と一緒に居たのはごく短い時間と言うのは理解しているが、それでも何かしら感じた事だけでも知りたかった。
「殆ど何も知らないけど……それで良ければ」
「あぁ、勿論だ。二人の印象だけでどんな奴か判断する訳じゃない。あくまで参考にってところだ」
センの言葉に頷いたナツキが、頑張って思い出す様にしながら他の転移者について語り始める。
ほんの数日間いただけの相手……しかも一年半近く前の話だ、いくら印象深い出来事だったとしても記憶が薄れていても仕方がない。
「えっと……ケンザキトオヤ、トキトウハヤテ、フジワラオウジ……私達と同じようにこの世界に送り込まれた三人ね。ケンザキは私達と同じくらいの年、トキトウは私達よりも年上、フジワラは……少し下だったと思う」
(フジワラ……ナツキが先程上げなかった名前だな。つまりコイツが死んだことで、別れて行動することになったわけだ)
センは口元に拳を当てながら真剣な表情で聞く。元来、センの目つきは悪い方なので、真剣な表情になるとよく機嫌が悪いと周りの人間に誤解されてきた。なので一人で考え事をする時以外、センは表情に注意を払っているのだが……今はそんな様子は無く、全力で話に集中している。
「ケンザキは……なんて言うか凄く馬鹿っぽい男子。私から見てもコイツ大丈夫かなって感じだったけど……悪い奴では無さそうだった。その……フジワラの死体が見つかった時……本気で怯えて泣いていたと思う」
「……そうか」
「……ケンザキさんには私もお姉ちゃんと同じ印象を受けました。強気っていうよりも……元気って感じの人だったと思います。後、あまり考えずに色々と口に出してしまうことが多そうでした」
二人の話を聞いて大体の人物像を想像する。
(まぁ、二人と同じくらいなら高校生くらいだろうし、そのくらいの年頃なら珍しくもないな)
「なるほど……二人の印象からすると俺の仕掛けに引っかかりそうではあるな」
「うん、あんまり考えるタイプじゃないし……考えた人を探るってことまで行かないんじゃないかな?絶対名前を呼んじゃう方だと思う」
「今はハルキアの本店にしか商品がないからいいが……販売店舗が増えたら見つけるのが難しいかもしれんな……探ってくれた方がやり易い」
今回は偶々上手い事ナツキを見つけることが出来たが、流石に玩具の正式名称を呼んだ人物を見つけるのは店員に周知しておいても簡単なことでは無い。
「そっかー。あ、それでトキトウは……うーん、難しいな。大人な感じ?」
「ふむ……イメージしにくいな」
かなりふわっとしたナツキの説明にセンが首を傾げる。
「トキトウさんは、センさんに少し似ている気がします」
「俺に……?どういったところが?」
「あー、ハルカの言う通りかも。私達がこの世界に来てどうしたらいいか全然分からなかった時に、率先して色々考えて動いてくれてたよね」
「……」
自分に似ていると言われてもあまりイメージの湧かなかったセンだったが、続くナツキの言葉で少しだけ想像がつく。
「街の情報を集めたり……どうやったのかは教えてくれませんでしたが、お金を用意してくださいました。恐らく、あの事件が無ければ、トキトウさんの指示に従って私達は動くことになっていたと思います」
「見た目はなんか軽そうだったけどね。喋り方も、センみたいにかっちりしているって言うよりも軽妙って感じ?後、ご飯を作ってくれてたね。貰った才能が料理だから練習したいって言ってたっけ」
「……貰ったのは料理の才能?そう言っていたのか?」
ナツキの言葉にセンが反応する。
「はい。トキトウさんは料理の才能を、ケンザキさんは剣の才能を貰ったそうです」
「お互いの才能を教え合ったのか?」
「うん。隠してもしょうがないしね」
「なるほど……」
(才能を教え合ったか……この世界に来た目的を考えればそれは正しいが……トキトウの選んだ才能は嘘くさいな。世界を救えといったあの女が、そんな才能を許すとは思えない……それに訳の分からない世界に送り込まれるにあたって、自衛の手段を得ようとしない奴はいないだろう)
二人の話から想像できるトキトウの人物像、それは非常に胡散臭いもののようにセンには感じられた。
(貰ったのが才能という所がミソだな。使いこなせるようになるまで努力が必要だから、いくらでも誤魔化しがきくし、他の事が出来たとしても元々そっちの才能もあったようだと言えば良いだけだからな)
「後はフジワラだけど……貰ったのは錬金術の才能って言ってたっけ?」
「……うん」
二人の表情が暗いものになる。出来ることであれば、あまり深く聞かずに話題を逸らしてやりたい所ではあったが、その時の状況を出来るだけセンは聞いておかなければならなかった。
「すまん……あまり思い出したくないとは思うが、出来るだけ詳しく聞かせてもらえるか?」
二人もそのことを話すべきだと思ったのか、センの言葉に頷くとゆっくりと口を開いた。
「私達がこの世界に来て四日目……その日の朝、私達が奥の部屋で寝ていると、ケンザキさんの叫び声が聞こえました」
「叫び声というか……悲鳴ね。私達二人は奥の部屋、男三人は手前の部屋で寝てたのだけど……ケンザキが目を覚ましたら、部屋の出口付近にフジワラが倒れていたらしいの。ただ……その……顔も頭もぐちゃぐちゃにされていたとか……」
ケンザキとトキトウは自分達の寝ている部屋に死体が転がっていたって事か?ぞっとする状況だな。
「それで私達も飛び起きたのですが……同時に起きたトキトウさんに近づくなと言われまして……なので遺体の状態を私達は直接見ておらず、トキトウさんやケンザキさんに聞いたものでしかありません」
「なるほど……まぁ、聞いた感じでは見なくて正解だと思うが……」
(しかし……顔が潰されていた感じか……よくあるパターンだが、本当にフジワラは死んでいるのかね……?)
話を聞けば聞くほど不信感の募っていくセンだった。
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