召喚魔法の正しいつかいかた

一片

文字の大きさ
上 下
92 / 160
3章 召喚魔法使い、同郷を見つける

第92話 本音

しおりを挟む


「え!?なんで!?アルクさんが!?どういうことなの!?」

「お姉ちゃん落ち着いて……」

 立ち上がり慌てふためくナツキに、落ち着くように言うハルカ。

「ハルカ様は予想されていたようですね」

「……はい。流石に会頭であるライオネル様を飛び越えてこんな、重大な話を私達みたいな初見の人間に伝えることが出来るのは、本人か近しい人だけだと思いました」

「ははっ、思っていた通り、ハルカ様はとても頼りがいがありますね」

「いえ……そんな……」

 センがハルカを褒めると、恐縮したように縮こまるハルカ。
 そんな二人の様子を見て、ナツキが椅子に腰を下ろしつつ面白くなさそうに声を上げる。

「どーせ、私は鈍いですよー!」

「大丈夫ですよ、ナツキ様。ハルカ様はともかく、ナツキ様は絶対に気付いていないと思っていましたから」

「なにが大丈夫なのよ!馬鹿にしてるでしょ!?」

「まぁ、そうですね」

「そうですね!?」

 センが肩をすくめつつ言うとナツキが気色ばむ。しかし、センは取り合わずハルカの方に視線を向けた。

「……えっと……アルクさんは、どちらなのでしょうか?」

「どちらってどういう事?」

 また自分には分からない会話をするつもりかと言った様子でナツキが遥かに問いかける。

「アルクさんは窓口なのか、それとも考案した本人なのかってことだよ」

「あ、そっか。本人か近しい人ってハルカ言ってたもんね」

「うん。それにアルクさんは、ライオネル商会に提案したって言い方だったから……どっちかなって」

「……そうですね。まぁ、勿体つけるつもりはありません、私が六人目です」

「「……」」

 センが先程までと変わらぬ口調であっけらかんと言うと、それを聞いた二人が目を丸くする。
 そんな二人の様子に苦笑しながら、センは目元を隠すマスクを外しカツラを取る。

「改めて……初めまして。俺は上代薦。こちらではセンと名乗っている」

「……あ、初めまして。私は葛原春香です」

 マスクを外したセンの顔を見て一瞬動きを止めた二人だったが、先に我を取り戻したハルカが挨拶を返す。
 それがきっかけになったのか、ナツキが恨みがましそうな声を上げた。

「ちょっと!本当に怪我なんてどこにもないじゃない!」

「……何の話だ?」

「私が余計な事言ったのをフォローしてくれたのかと思ってただけよ!」

 食って掛かるナツキに対して肩をすくめるセンが口を開く。

「あぁ、なるほど。アレは揶揄っただけだ、気にするな」

「気にするわよ!」

「おかげでその後の会話がスムーズに出来ただろ?誰も損はしていないんだ、気にする必要は無い」

 センの言葉にナツキの目が半眼になる。

「……なんかさっきから口調がぞんざいな感じなんだけど?」

「本名を明かしたんだ、演技の必要はないだろ?」

「……私、あんたの事嫌いだわ」

「そうか。ところでハルカさん、貴方の残してくれたメモのお陰で遅れてきた私も行動方針を固めることが出来ました。ありがとうございます」

「いえ!そんな……お役に立てたのなら良かったです」

 センがお礼を言うと、少しだけ慌てた様子のハルカがかぶりを振りながら応じる。

「メモって?」

 ナツキが首を傾げながらハルカに尋ね、ハルカが事情を説明する。

(ナツキにも秘密にしていたのか……まぁ、敢えて伝える必要が無かったって感じだが)

「これから情報共有をしたいんだが、いいかな?」

 ナツキへの説明が終わり、一呼吸置いた後センが本題を切り出す。

「……色々引っかかるけれど、いいわよ」

 渋々と言った様子でナツキが同意する。

(少し揶揄い過ぎたみたいだな……まぁ、問題はなさそうだが)

「まず初めに……俺がこの世界に来たのはおよそ四か月前になるのだが……二人がここに来たのはもう一年半くらいになるのか?」

「えぇ、丁度そのくらいね」

「その間どのような事をしていたか聞いてもいいか?」

「それは別にいいけど……この世界にきて……ハルカと二人で二月くらい旅をしてたかな?」

「うん、そうだね」

「そんで、その後は学府に入って……後は勉強したり訓練したり?」

「……間が抜け過ぎだ。確か貴族の後ろ盾が出来て学府に入学できたんだろ?」

 ため息をつきながらセンが問いかけると、ナツキが驚く。

「あ、あぁ、エンリケさんね。旅をしてた時に偶然知り合ったのよ。魔物に襲われていたのを助けて……それで、お礼がしたいって言われたから、魔法の勉強がしたいって伝えたら学府に入れてくれたの」

「……へぇ」

(本来そんな軽いノリで入れるような場所ではないようだが……一応ハルキアの最高学府らしいし……)

 軽い様子で話すナツキを見て少し疑問に思ったが、ナツキに聞いても詳しい返事は貰え無さそうだったので一先ず脇に置く。

「それで……学府に入った後は自己鍛錬や研究をしていたってことでいいんだな?」

「そうよ」

(……予想の斜め下を行かれたな。もっと色々と情報を集めていると思ったのだが……)

 そう思ったセンはハルカの方に視線を向ける。
 するとハルカは申し訳なさそうな表情をしながら口を開いた。

「……すみません。私達はどうしたらいいか分からなくて……それに危険が凄く多い世界なので……自分達の身を守ることが出来るような手段を優先したかったんです」

「……そうですね、すみません。それは仕方がない事だと思います。この世界は俺達の元居た世界に比べるとかなり物騒ですし……それに災厄の内容も分からないまま世界を守れって言われてもどうすることも出来ないと思いますよ」

(確かに……見たところ高校生くらいの姉妹が、いきなり訳の分からない世界に放り込まれて世界を救えと言われたところで、色々と計画を立てて行動出来るはずもない。そもそも与えられた情報が少なすぎる。まず自分達の身を守ることを考えて当然だ。少し焦っていたか……?)

 先に送り込まれた同郷の者達に会えたことで、気が急いていたかもしれないとセンは反省する。しかし、そんなセンの様子には気づかずにナツキが不満気に口を開いた。

「だよね!?ホントあの女神様も無茶苦茶言うよね!」

「……女神?」

「あれ?センは会ってないの?この世界に来る時に何か色々能力……才能?をくれたでしょ?」

(やはり、あの女の事か……それにしても女神?)

「アレは……女神を名乗ったのか?」

「え……?女神って……言ってなかった?」

「……言っては無かったと思う。お姉ちゃんがそう呼んでも否定はしていなかったけど」

 ハルカのその言葉にセンは引っかかる。

「二人同時にアレに会ったのか?」

「え?うん。そうだよ?」

「もしかして、他の三人も一緒か?」

「いや、違うよ。あの時一緒に居たのはハルカだけ」

「……そうか。また騙されたのかと思ったが違ったか」

(流石に誰かに会えばすぐにバレるような嘘はついていないか……だがこの二人は一緒に居たってことだから公平とは言い難い……まぁ、姉妹だからってことで納得するしかないか)

「騙されたって……どういうこと?」

「あぁ、いや、騙されたというのは正確ではないか。正確には話している間にどんどん前提条件が覆されていった……だな」

「前提条件……あぁ、一人だけこっちに来るのが遅くなったとか?」

「それもだが……他にも色々だな」

「ふぅん……そう言えばなんでセンだけこっちに来るのが遅かったの?」

 首を傾げながら問いかけて来るナツミに対して、センは自分がこの世界に来るまでに起こった出来事を伝える。話が進むほど、二人の顔がうわぁと言った感じに歪んでいくが、センは何となく初めて共感して貰えたことに喜びを覚えていた。

「ってちょっと待って!センはもう日本に戻れないってこと!?」

「そうなるな。俺は間違いなく死んだ」

「「……」」

 二人のショックを受けた様子を見て、センは軽い感じで肩をすくめる。

「まぁ、それは気にする必要は無いさ」

「気にするに決まってるでしょ!?私達は日本に帰るために、こんな世界で頑張ってるんだから!」

 ナツキの言葉にセンは小さく笑みを浮かべた。

「……そうだな。俺とお前達とでは最終目標は違う。だが目指すのは災厄の回避……そこが一緒であれば問題はない」

「そんな軽く言われても……」

「まぁ、聞いてくれ。俺が向こうで死んだのは……悔しくないと言えば嘘になるが、それでも仕方のない事だ。それに関してはアイツもこの世界も全く関係ない。寧ろ死んだはずの俺が、この世界でこうして生きている事には感謝しているくらいだ。色々と理不尽な目には合っているが……災厄を回避出来れば、俺はそのままこの世界で生きていけるらしいしな」

「「……」」

「それに、この世界に来て数か月、既に俺は両手に余るくらい親しい友人達が出来ている。その人達の事を思えば、災厄は絶対に何とかしたいって所だな」

 そう言ってセンは皮肉気に口元を歪ませた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

テンプレを無視する異世界生活

ss
ファンタジー
主人公の如月 翔(きさらぎ しょう)は1度見聞きしたものを完璧に覚えるIQ200を超える大天才。 そんな彼が勇者召喚により異世界へ。 だが、翔には何のスキルもなかった。 翔は異世界で過ごしていくうちに異世界の真実を解き明かしていく。 これは、そんなスキルなしの大天才が行く異世界生活である.......... hotランキング2位にランクイン 人気ランキング3位にランクイン ファンタジーで2位にランクイン ※しばらくは0時、6時、12時、6時の4本投稿にしようと思います。 ※コメントが多すぎて処理しきれなくなった時は一時的に閉鎖する場合があります。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

処理中です...