召喚魔法の正しいつかいかた

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3章 召喚魔法使い、同郷を見つける

第92話 本音

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「え!?なんで!?アルクさんが!?どういうことなの!?」

「お姉ちゃん落ち着いて……」

 立ち上がり慌てふためくナツキに、落ち着くように言うハルカ。

「ハルカ様は予想されていたようですね」

「……はい。流石に会頭であるライオネル様を飛び越えてこんな、重大な話を私達みたいな初見の人間に伝えることが出来るのは、本人か近しい人だけだと思いました」

「ははっ、思っていた通り、ハルカ様はとても頼りがいがありますね」

「いえ……そんな……」

 センがハルカを褒めると、恐縮したように縮こまるハルカ。
 そんな二人の様子を見て、ナツキが椅子に腰を下ろしつつ面白くなさそうに声を上げる。

「どーせ、私は鈍いですよー!」

「大丈夫ですよ、ナツキ様。ハルカ様はともかく、ナツキ様は絶対に気付いていないと思っていましたから」

「なにが大丈夫なのよ!馬鹿にしてるでしょ!?」

「まぁ、そうですね」

「そうですね!?」

 センが肩をすくめつつ言うとナツキが気色ばむ。しかし、センは取り合わずハルカの方に視線を向けた。

「……えっと……アルクさんは、どちらなのでしょうか?」

「どちらってどういう事?」

 また自分には分からない会話をするつもりかと言った様子でナツキが遥かに問いかける。

「アルクさんは窓口なのか、それとも考案した本人なのかってことだよ」

「あ、そっか。本人か近しい人ってハルカ言ってたもんね」

「うん。それにアルクさんは、ライオネル商会に提案したって言い方だったから……どっちかなって」

「……そうですね。まぁ、勿体つけるつもりはありません、私が六人目です」

「「……」」

 センが先程までと変わらぬ口調であっけらかんと言うと、それを聞いた二人が目を丸くする。
 そんな二人の様子に苦笑しながら、センは目元を隠すマスクを外しカツラを取る。

「改めて……初めまして。俺は上代薦。こちらではセンと名乗っている」

「……あ、初めまして。私は葛原春香です」

 マスクを外したセンの顔を見て一瞬動きを止めた二人だったが、先に我を取り戻したハルカが挨拶を返す。
 それがきっかけになったのか、ナツキが恨みがましそうな声を上げた。

「ちょっと!本当に怪我なんてどこにもないじゃない!」

「……何の話だ?」

「私が余計な事言ったのをフォローしてくれたのかと思ってただけよ!」

 食って掛かるナツキに対して肩をすくめるセンが口を開く。

「あぁ、なるほど。アレは揶揄っただけだ、気にするな」

「気にするわよ!」

「おかげでその後の会話がスムーズに出来ただろ?誰も損はしていないんだ、気にする必要は無い」

 センの言葉にナツキの目が半眼になる。

「……なんかさっきから口調がぞんざいな感じなんだけど?」

「本名を明かしたんだ、演技の必要はないだろ?」

「……私、あんたの事嫌いだわ」

「そうか。ところでハルカさん、貴方の残してくれたメモのお陰で遅れてきた私も行動方針を固めることが出来ました。ありがとうございます」

「いえ!そんな……お役に立てたのなら良かったです」

 センがお礼を言うと、少しだけ慌てた様子のハルカがかぶりを振りながら応じる。

「メモって?」

 ナツキが首を傾げながらハルカに尋ね、ハルカが事情を説明する。

(ナツキにも秘密にしていたのか……まぁ、敢えて伝える必要が無かったって感じだが)

「これから情報共有をしたいんだが、いいかな?」

 ナツキへの説明が終わり、一呼吸置いた後センが本題を切り出す。

「……色々引っかかるけれど、いいわよ」

 渋々と言った様子でナツキが同意する。

(少し揶揄い過ぎたみたいだな……まぁ、問題はなさそうだが)

「まず初めに……俺がこの世界に来たのはおよそ四か月前になるのだが……二人がここに来たのはもう一年半くらいになるのか?」

「えぇ、丁度そのくらいね」

「その間どのような事をしていたか聞いてもいいか?」

「それは別にいいけど……この世界にきて……ハルカと二人で二月くらい旅をしてたかな?」

「うん、そうだね」

「そんで、その後は学府に入って……後は勉強したり訓練したり?」

「……間が抜け過ぎだ。確か貴族の後ろ盾が出来て学府に入学できたんだろ?」

 ため息をつきながらセンが問いかけると、ナツキが驚く。

「あ、あぁ、エンリケさんね。旅をしてた時に偶然知り合ったのよ。魔物に襲われていたのを助けて……それで、お礼がしたいって言われたから、魔法の勉強がしたいって伝えたら学府に入れてくれたの」

「……へぇ」

(本来そんな軽いノリで入れるような場所ではないようだが……一応ハルキアの最高学府らしいし……)

 軽い様子で話すナツキを見て少し疑問に思ったが、ナツキに聞いても詳しい返事は貰え無さそうだったので一先ず脇に置く。

「それで……学府に入った後は自己鍛錬や研究をしていたってことでいいんだな?」

「そうよ」

(……予想の斜め下を行かれたな。もっと色々と情報を集めていると思ったのだが……)

 そう思ったセンはハルカの方に視線を向ける。
 するとハルカは申し訳なさそうな表情をしながら口を開いた。

「……すみません。私達はどうしたらいいか分からなくて……それに危険が凄く多い世界なので……自分達の身を守ることが出来るような手段を優先したかったんです」

「……そうですね、すみません。それは仕方がない事だと思います。この世界は俺達の元居た世界に比べるとかなり物騒ですし……それに災厄の内容も分からないまま世界を守れって言われてもどうすることも出来ないと思いますよ」

(確かに……見たところ高校生くらいの姉妹が、いきなり訳の分からない世界に放り込まれて世界を救えと言われたところで、色々と計画を立てて行動出来るはずもない。そもそも与えられた情報が少なすぎる。まず自分達の身を守ることを考えて当然だ。少し焦っていたか……?)

 先に送り込まれた同郷の者達に会えたことで、気が急いていたかもしれないとセンは反省する。しかし、そんなセンの様子には気づかずにナツキが不満気に口を開いた。

「だよね!?ホントあの女神様も無茶苦茶言うよね!」

「……女神?」

「あれ?センは会ってないの?この世界に来る時に何か色々能力……才能?をくれたでしょ?」

(やはり、あの女の事か……それにしても女神?)

「アレは……女神を名乗ったのか?」

「え……?女神って……言ってなかった?」

「……言っては無かったと思う。お姉ちゃんがそう呼んでも否定はしていなかったけど」

 ハルカのその言葉にセンは引っかかる。

「二人同時にアレに会ったのか?」

「え?うん。そうだよ?」

「もしかして、他の三人も一緒か?」

「いや、違うよ。あの時一緒に居たのはハルカだけ」

「……そうか。また騙されたのかと思ったが違ったか」

(流石に誰かに会えばすぐにバレるような嘘はついていないか……だがこの二人は一緒に居たってことだから公平とは言い難い……まぁ、姉妹だからってことで納得するしかないか)

「騙されたって……どういうこと?」

「あぁ、いや、騙されたというのは正確ではないか。正確には話している間にどんどん前提条件が覆されていった……だな」

「前提条件……あぁ、一人だけこっちに来るのが遅くなったとか?」

「それもだが……他にも色々だな」

「ふぅん……そう言えばなんでセンだけこっちに来るのが遅かったの?」

 首を傾げながら問いかけて来るナツミに対して、センは自分がこの世界に来るまでに起こった出来事を伝える。話が進むほど、二人の顔がうわぁと言った感じに歪んでいくが、センは何となく初めて共感して貰えたことに喜びを覚えていた。

「ってちょっと待って!センはもう日本に戻れないってこと!?」

「そうなるな。俺は間違いなく死んだ」

「「……」」

 二人のショックを受けた様子を見て、センは軽い感じで肩をすくめる。

「まぁ、それは気にする必要は無いさ」

「気にするに決まってるでしょ!?私達は日本に帰るために、こんな世界で頑張ってるんだから!」

 ナツキの言葉にセンは小さく笑みを浮かべた。

「……そうだな。俺とお前達とでは最終目標は違う。だが目指すのは災厄の回避……そこが一緒であれば問題はない」

「そんな軽く言われても……」

「まぁ、聞いてくれ。俺が向こうで死んだのは……悔しくないと言えば嘘になるが、それでも仕方のない事だ。それに関してはアイツもこの世界も全く関係ない。寧ろ死んだはずの俺が、この世界でこうして生きている事には感謝しているくらいだ。色々と理不尽な目には合っているが……災厄を回避出来れば、俺はそのままこの世界で生きていけるらしいしな」

「「……」」

「それに、この世界に来て数か月、既に俺は両手に余るくらい親しい友人達が出来ている。その人達の事を思えば、災厄は絶対に何とかしたいって所だな」

 そう言ってセンは皮肉気に口元を歪ませた。

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