召喚魔法の正しいつかいかた

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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く

第79話 はい、いくら?

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 アルフィンの家庭教師になってから数日、センは頻繁にレイフェット邸を訪れて色々なゲームでアルフィンと遊んでいる。
 センはアルフィンを偶に容赦なく叩き潰したり、時折わざと負けてアルフィンを調子に乗らせてから叩き潰したり、接戦を演じた後徐に叩き潰したりした。
 その度にアルフィンは大仰に騒いでいたが、非常に楽しげでもあった。
 そして本日も神経衰弱でセンが圧勝した所で、小休憩となりお茶を飲んでいた。

「くっそ、やっぱりセンは強いな」

「俺に勝つのはまだまだ無理だな……今度別の相手とやってみるか?」

「別の相手?」

 アルフィンが首を傾げる。

「あぁ、今度俺の家に招待してやる。アルフィンと同じくらいの年の子達がいるからいい相手になると思うぞ?」

「へぇ……面白そうだ。今日か?」

「いや、今日は仕事に行っているからな……」

「子供が働いているのにセンは遊んでいるのか?」

「おいおい、俺は仕事でここに来ているだろ?」

「いや、遊んでるだけじゃん……」

 呆れた様な表情を見せながらやれやれと言った感じで首を振るアルフィン。

「お前が勉強するって言うなら仕事っぽくなるんだがな?」

「う……それは……」

「なんでやりたくないんだ?」

「……勉強は苦手だ」

 やや憮然としながらアルフィンは呟く。

「まぁ、その気持ちは分らんでもないが……勉強はさておき、アルフィンは何かやりたい事はあるのか?」

 この数日間、遊びながら色々と言い合ったおかげでアルフィンはセンに心を許しつつある。
 センもそれを感じたからこそ、少し踏み込んでみることにした。
 アルフィンにしてみればセンは遊んでくれる兄貴分といった相手になっている。家庭教師ではなく、対等に言い合える友人と言った感じだろう。

「……俺はお父様みたいになりたいんだ」

「レイフェットみたいって……領主は勉強が出来ないと駄目じゃないか?」

 センが首を傾げながら言うと、アルフィンは弾かれた様に反応した。

「違う!領主じゃない!探索者だ!」

「なるほど、レイフェットみたいな探索者ってことか……」

 アルフィンの将来なりたいものを聞き、少しだけ考えるそぶりを見せたセンはゆっくりと口を開く。

「確かに探索者となったとして、ダンジョンで魔物と算術で戦うのは無理だな」

「だよな!?」

「だが……探索者はダンジョンで戦うだけじゃないぞ?」

「え?」

 センの言葉に呆気にとられた表情になるアルフィン。

「ダンジョンに行く前に色々と準備が必要だろ?武器や防具、薬や食料。色々な物を揃えてから行かないと駄目だ。そしてそれを揃えるには街で買い物をしないといけない」

「あぁ、そういうことか。それは当然だろ?」

「そうだな、当然だ。じゃぁそれをそろえる為のお金はどうするんだ?」

「ダンジョンで魔物を倒して素材を売ればお金になるんだろ?そのくらいは知ってるぜ?」

 少し自慢げにアルフィンが言ったのを見て、センはゆっくりと頷き話を続ける。

「じゃぁ、探索者アルフィンがダンジョンに行って魔物を倒し素材を売ったとしよう。その日は一日で銀貨五十枚稼げた。結構いい儲けだな?」

「結構な腕利きだな。まぁそのくらいにはすぐになってやるつもりだが」

「だが、相手も強かったからアルフィンは怪我をしてポーションを五個使ってしまった」

 センの話を聞きアルフィンはうんうんと頷く。

「更に防具も壊れてしまった。防具が無いとダンジョンは危険だよな?」

「当然だ。武器と防具は常にちゃんと準備しておかないといけないんだ」

「防具を修理するのは銀貨三十枚かかる。それにポーションは一個銀貨七枚だ」

「ポーションも防具も大事だから当然修理して使った分は補充する」

「いくらかかった?」

「え?」

 アルフィンの動きが止まる。

「鎧の修理とポーションの補充、銀貨何枚必要だ?」

「……」

「どうした?」

「……よ、鎧の修理は銀貨三十枚だ」

「ポーションの補充は?」

 センの言葉に挙動不審になりながらもアルフィンは指で二と五を作る。

(なるほど、確かにレイフェットの言う通り素直ないい子だな。まぁ、それはこの数日で分かってはいたが。分からないなりに自分でしっかり考えようとしている……このくらいの子供は考えもせずに分からないと投げ出すことも少なくないからな)

 指をワキワキさせながらどうにかポーションの値段を出そうとしているが、残念ながら指が足りず、途中で数字を忘れてしまうのか何度もやり直している。

「……二十八?」

「ん、惜しいな。ポーションの値段は五個で銀貨三十五枚だ。それは四個の値段だ」

(まぁ、二十八まで指で数えられたのは凄いと思うが……)

 左手で七を数えつつ、右手と口で二十八まで数えていたアルフィンを見て、妙な関心の仕方をするセン。

「うーー!」

「まぁ、その計算とりあえず置いておくとしよう。さっきの修理代とポーション代、合わせると銀貨六十五枚必要なんだ。でも今日アルフィンが稼いだお金は銀貨五十枚、足りないだろ?」

 センの言葉に唇を尖らせながら頷くアルフィン。

「つまり、アルフィンは銀貨五十枚の魔物を倒すことは出来るけど、お金が足りなくなってしまうってことだ。それでもその魔物と戦うか?」

「……」

「それにお金が必要なのはポーションと防具だけじゃないぞ?ご飯も食べないといけないし、寝る場所も必要だ。強い武器や防具も必要だろうし、ポーションだってもっといっぱいいるかもしれない。そういう時にお金の計算が出来ないと、どんな相手と戦えばいいのかも分からないぞ?」

「……だから算術を勉強しろって言うのか?」

「しろとは言わない。でもアルフィンが探索者になりたいって言うなら簡単な算術は出来た方が良いと思うって話だ」

「……でも難しい……俺には無理だ……」

 アルフィンが項垂れてしまう。

「それは、どうかな?さっき自分で指を使って必要なお金を数えてただろ?あれは小さい数字を数えることは出来るが、実は結構難しいことなんだ。あれが出来るなら、簡単な算術なんてあっという間に出来るようになると思うぞ?」

 センは以前小学四年生に算数を教えた経験があったが……その時の子の学力は酷いものだった。何をどうやったか分からないが、四年生にも拘らず簡単な足し算引き算も出来ないのだ。
 話を聞いてみると、予習復習はおろか宿題でさえも一切やったことがないまま四年生になったと言う。
 仕方なく小学一年生の教科書を最初から教えることにしたのだが、今更一年生の勉強なんてと馬鹿にした態度で真面目に取り組もうとしない。その態度でも問題を解けるのであれば別に良いのだが……テストしてみると一年生の内容ですら正解率は半分も行かない。それでいて、本人には何の危機感も無いのだ。

(あれには本当に困ったものだ。アレに比べれば、アルフィンは苦手意識があるものの、学習の意欲がないと言う訳じゃない。アルフィンが消化しやすいように教えれば必ず行けるはずだ)

「……本当に出来るようになるか?」

「あぁ、任せろ。さっきの計算くらい、簡単に出来るようにしてやるよ」

「……分かった。ちょっとやってみる」

 手にぐっと力を込めながら、アルフィンがセンに向かって言う。
 そんなアルフィンの頭を軽く撫でたセンは笑顔を向けた。

「よし、じゃぁ早速始めるか」

「え!?今から!?」

「そりゃそうだ。俺は家庭教師だからな、お前に勉強を教えるのが仕事だ」

「……」

「って訳で、出かける準備だ」

「……なんで?」

 アルフィンが可愛らしく小首を傾げる。

「そりゃ出掛けるからだ。出かける準備をしてベッドで寝る奴はあまりいないだろ?」

「そういう意味じゃない!なんで出かけるんだって聞いているんだ!」

「勉強だ」

「勉強って……机でやるものだろ?」

 何言っているんだコイツと言うような表情でアルフィンが言うが、センはそんなアルフィンを強引に立たせ出かける準備を急かす。

「普通にやっても仕方ないだろ?今日はお出かけだ」

 そう言ってセンはアルフィンの服を脱がそうとする。

「分かった!馬鹿、やめろ!出かけるのに服を脱がすな!この服でいいんだよ!」

 センにもみくちゃにされながらもアルフィンは何処か嬉しそうだった。

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