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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第65話 改革提案
しおりを挟む「それは……優秀な人材を見落としているという話か?」
首を傾げながら尋ねてくるレイフェットに少しだけ笑みを浮かべたセンは口を開く。
「正解ではないが、間違ってもいない」
「……もやもやする言い方だな」
竿を上げて仕掛けを回収したレイフェットは、竿を脇に置きセンへと向き直る。
「詳しく聞かせてくれ」
「……回りくどく行くぞ?確認しないといけないこともあるしな。まず、この街に来る人間は主に探索者だ」
センの言葉にレイフェットは黙って頷く。
「そして商人はこの街には居付かない……だがこの街には商売人は少なくないな?」
「そうだな。今店を構えている奴等は引退した探索者であったり、その子供や孫……そう言った連中だな」
「だが……探索者の全てが引退後の生活の為にお金を残しておけるわけでは無い。まぁ、当然だな。危険の多い仕事だ、最善を求める上で出来る限りの準備をするのは当然だろう。探索者でいる限り金を貯められるのは本当に一握りなんだろうな」
「上手く稼げるようになるにはそれなりの経験が必要だからな。新人が探索できるような場所の素材はとにかく市場に溢れているから、日常的に消費するような物でもない限り、買取はしていない」
そう言ったレイフェットは腕を組み目を瞑る。
「新人はギリギリの金額で何とか自分達を鍛え、少しずつ探索階層を伸ばしていくって感じだな?」
「そうなる」
「だが、新人の仕事と言ってもお気楽なものではないだろ?相応の危険を伴い、大怪我をすることも少なくない。下手をしたら、新人の初仕事がそのまま引退仕事になることだってあるんじゃないか?」
腕を組んで目を瞑ったまま微動だにしないレイフェットを見て、センは言葉を続ける。
「ダンジョンと言う危険地帯に挑む以上、そうなる可能性は零には出来ないのだろうが……最低限の備えをしておくことは可能だ。少なくとも新人がいきなり死ぬという事は避けられると思う」
その言葉に目を見開き、弾かれた様にセンの方を見るレイフェット。
「どういうことだ!?」
「そんなに難しいことじゃない。新人が死ぬ理由は知識不足だろ?ならば死なない為の知識を教えればいい」
センの言葉にレイフェットの表情が苦いものに変わる。
「……それは無理だ。探索者の仕事の仕方は、それぞれが命懸けで学んできた最大の財産。だれがそれを他人に教えると?」
「探索者の仕事の仕方が財産となるのは、その者が探索者の間だけだろ?引退した人間にとっては武勇伝くらいの価値しかないはずだ」
センがそう言うとレイフェットはかぶりを振る。
「確かに引退したものにとってはそうだろう。だが現役の者達にとっては違う、彼らにとっては稼ぎのネタだ」
「ライバルが増えるのを良しとしないということか?」
「そうだな。それに引退した探索者も現役の邪魔をしたいとは思わないだろう」
「……本当にそうか?」
どこか実感の籠ったレイフェットの言葉にセンは首を傾げる。
その言葉を受け、今度はレイフェットが首を傾げた。
「勿体ないとは思わないか?知識の継承というのは自分の人生を伝えることに等しい。親は子に色々な物を残すだろう?それは何も子供の為だけではない……自分の生きた証を残すと言う側面もあるはずだ」
「……」
「何故同じことをしない?勿体ないだろう?自分が命を賭けて手に入れた情報が、死んでしまえば誰の記憶にも残らず消えてしまうのは……悲しくならないか?」
「……」
「知識と言うのは断絶させていい物ではない。それは……俺は先人たちへの冒涜だと思う」
「……冒涜か」
普段よりも熱のこもったセンの言葉にレイフェットは神妙な面持ちで呟く。
知識を広く共有し研鑽を積んだ末に辿り着いた世界に住んでいたセンにとって、基本的な技術や知識を秘匿することは害悪以外の何物でもない。
「無論、全ての知識をつまびらかにしろと言っているわけでは無い。ただ、初心者向きの情報やノウハウは……そこまで秘匿する必要があるだろうか?中堅や上位の探索者にとっては必要のない情報のはずだ」
「それは……そうだな」
レイフェットの考えが前向きになったことを確認してから、センは話を先に進める。
「ところで、探索者ギルドについてだが……」
「唐突に話が変わったようだが……」
「いや、同じ話だ。探索者ギルドってのは探索者の互助組織でも管理組織でもない。探索者と商人の仲介をしているだけだな?」
センは以前ルデルゼンから聞いた話をレイフェットに確認する。
「あぁ、そうだ。探索者はそういった契約や取引が苦手な奴が多いからな。その辺りの仲介、代行をするのが探索者ギルドの役割だ」
「……勿体ないな。今更管理組織になるのは反発が大きいだろうが……せめて新人教育をする場として、刷新するのはどうだ?」
「探索者ギルドを新人教育の場に……」
「今のギルドの業務とは別に……出来れば領主の名で教育部門として作るのがいいな。どのくらいの期間学べばいいかは俺には分からないが……新人には必ず教育期間を設け、最終的に試験に合格することで独立して探索者としてダンジョンに潜ることが出来る。そんな風にしてはどうだろうか?」
「……」
センの提案をじっくりと聞いたレイフェットは黙り込む。
ここでセンは少し言葉を切って川の流れに耳を傾け、ここまでの内容をレイフェットが消化するのを待つ。
「……出来なくはない。探索者ギルドは仲介手数料だけで運営されているわけじゃない、俺……というか街からも金が出ている」
「公機関だったのか。ならギルドの方は問題なさそうだな」
「問題は探索者の方だな……そういった規則に縛られるのを嫌がる連中だからな。それにどういったことを教えるか……誰が教えるかってのもしっかり考えないとな」
「誰が教えるかはそんなに問題はないだろう。引退した探索者はいくらでもいるだろうしな」
「しかし、雇うにしても限りがあるしな……」
難しい問題だと呟くレイフェットをセンは皮肉気に笑う。
「そりゃがんばって頭を捻ってくれ。流石にその辺は門外漢だ。だが……話はまだ終わりじゃないぞ?」
「人的資源って奴か……?」
「あぁ。今話したのは新人探索者の損失を防ぐことが一つ、そして探索者全体の質の向上が一つ。最後に引退した探索者の就職先の創出……これはまだ手始めに過ぎない」
「これが手始め……?」
レイフェットが首を傾げつつも若干口元が引きつる。
「引退した探索者への就職先の斡旋。これはもっと大々的にやった方が良い。新人相手の教官じゃ数が足りない。もっと色々な仕事を創出する必要がある」
「……ふむ」
「これに関しては……今すぐにこれだと言ったものを提示することは出来ないが……この引退した探索者への再就職の斡旋も探索者ギルドの業務に追加したほうがいいだろうな。引退した探索者は商売に明るい奴ばかりではないだろうしな」
「……五体満足な相手とそうでない相手……色々な就職先を用意する必要があるな」
「適正もあるからな。どうせ働くなら自分に合った仕事をするべきだ」
「……そういうものか」
レイフェットが悩ましげに唸る。しかし……その表情は少し楽しそうにも見える。
「他にもあるが……」
「まだあるのかよ……」
「当然だ。だが……今日はここまでだな。そろそろいい時間だ、暗くなる前に戻らないと俺は自分の足で帰る自信がない」
センが肩をすくめるとレイフェットが笑う。
「確かにな!そうなった場合、男を抱く趣味は無いからな……当然置いて行くぞ」
「俺もお前に抱かれる趣味はない。って訳だからとっとと帰るぞ」
「……続きは聞かせてもらえるのか?」
「機会があればな」
センがそう言うとレイフェットがにやりと笑う。
「報酬代わりに魚はお前にやろう。まぁ、二匹しか釣れていないから物足りないかもしれないがな」
「内容に対して随分と安い報酬だな?まぁ、貰っておくが」
レイフェットが手早く道具を片付け、登っていた岩から飛び降りた。
センはその姿を見送った後、険しい顔をする。それを見上げるレイフェットの顔はこれ以上無いくらいにやにやしていた。
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