召喚魔法の正しいつかいかた

一片

文字の大きさ
上 下
64 / 160
2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く

第64話 街の感想

しおりを挟む


「絶対今度やり返してやる」

 先程まで子供のように騒いでいた二人だったが、ようやく落ち着いてきたところでレイフェットがぼそりと呟く。

「まぁ、期待しないで待っておくが……そういえば、確か負けたらなんでもいう事聞くとか言っていたか?」

「……そうだったか?」

「まさか、シアレンの御領主が口約束とは言え、一度吐いた言葉を違えないよな?」

「ちっ、偶に領主であることが心底嫌になるな」

 そう言ってやや乱暴に釣り竿をしゃくる。

「まぁ、特にやって貰いたい事は無いからその内だな」

「お手柔らかに頼むぜ」

 肩をすくめたセンはそのまま視線を水面に向け、先程までとは打って変わりのんびりとした口調で話し始める。

「そう言えば……今更ながら、領主がこんなことをしていていいのか?」

「……領主にだって息抜きは必要だろ?」

「息抜きねぇ……」

 そう呟いたセンは辺りを見渡した後、最後に空を見上げる。

「まぁ、確かにいい場所だとは思うけどな……だが俺が言っているのはそっちじゃねぇよ」

「……怪しい奴と、人気のない場所で二人きりで会っていいのかってことか?」

「あぁ」

「この場所を選んだのは俺だし、先回りして何か仕掛けるのは難しいだろ?お前がこの街にずっと潜伏していたのならともかくな。お前が数日前までこの街に居なかったことは間違いない。それは自信を持って言える」

「……それは凄いな」

(つまり、この街に出入りした人間を全部把握しているってことだ。俺みたいにイレギュラーな入り方をした人間も含めて)

 センの本気の驚きに鼻を鳴らしたレイフェットはそのまま言葉を続ける。

「そして、正面からぶつかるなら俺はお前に絶対負けない」

「それは間違いないな」

 そう言ってセンが笑うとレイフェットも豪快に笑いだす。

「センが俺を殺すなら罠か人を雇うしかない。だから、今この場でお前と二人きりになっても、俺の安全は約束されているって訳だ」

「なるほどな……確かに、俺がレイフェットを害そうとしても、レイフェットはその腰の剣どころか素手でもあっさり俺を返り討ちに出来るだろうよ」

「ここに来るだけで心臓がはちきれんばかりになっていたしな。運動不足どころの騒ぎじゃねぇぞ?三歳の子供でももう少し動けるだろうよ」

「なんとも悲しい話だが……俺の心臓の鼓動まで聞こえているのか?」

「おう」

「それは……なんとも騒がしそうだな」

 水の流れる音、木々のざわめき、虫の音……センにすら色々な自然の音が拾えているが、レイフェットの耳に届いている音はそんなものではないだろう。

「聞き分け位は出来るさ。聞きたい音に集中する感じだな」

 そう言ってレイフェットが耳をぴくぴく動かす。

「レイフェットの館で働いている奴は、迂闊に主人の悪口も言えないって訳だ」

「ふん、俺は愛されている領主だからな。俺とすれ違うだけで感動に咽び泣く奴らばかりよ」

「そりゃぁ……周りの目が節穴なのか、レイフェットの目が節穴なのか……判断に困るな」

「少なくとも、どこぞの詐欺師のように正面から皮肉を言う奴はうちにはいないな」

「へぇ、度胸のある奴もいたもんだな」

「全くだな、とんだクソ野郎だ」

 穏やかに流れる川を見ながらセンが大きく欠伸をする。その姿を見て大きく舌打ちをしたレイフェットは少しだけ雰囲気を変えて口を開く。

「なぁ、セン。お前から見て、この街はどうだ?」

「……興味深い街だ」

「……ふむ」

 そう言ったセンは握っていた竿を上にあげ、仕掛けを回収してから竿を横に置く。

「人族、獣人族、半獣人族……個人個人の諍いはあるだろうが、これだけの人種が一つの街に暮らしていて大した軋轢もなく自由に暮らしている。これは凄い事だ。どんな場所にも一定数の差別主義者はいるもんだが……少なくとも表向きはそう言った淀みを俺は感じていない」

 まだ数日しか過ごしていないから当然かもしれないがな、とセンは笑う。

(だが、数日であってもそう言った差別ってのはふとした所で見えてくるものだ。地球なんて同じ国の人間であっても肌の色が違うだけで、川の西側に住んでいるか東側に住んでいるか程度の事で諍いが起こる……まぁ、基本的にだから露骨にはしない様にしているがな。だが、これだけ多様な人種を、街と言う狭い空間でごちゃ混ぜにしているのに、そう言った境界線を感じさせないのはかなり面白いと思う)

 笑みの形を皮肉気に変えたセンは話を続ける。

「それに、陸の孤島と呼んでも差し支えないような立地にも拘らず、かなりの規模の街が出来上がっている……ダンジョンと言う特異点があるにしてもこれもまた異常だな」

「小規模でもダンジョンのある街は大体発展していくぞ?」

「それにしてもここは異常だ。外との繋がりが無さすぎる。普通こういった場所は何とかして外から人を呼び込んで街道を整備しない限り、先細りになって破綻するもんだ」

「そうは言っても、結局はダンジョンを目指して人が集まってくるからな。多少険しい道のりだろうと探索者からすれば踏破出来て当然だ。それよりも厳しいダンジョンに潜ろうってわけだからな」

「しかし、商人はそう易々と商品を持って来ることは出来ないだろ?なんであそこまで食材が豊富にあるんだ?いくらダンジョンでとれるって言っても限度があるだろ?探索者がそんな毎日食料だけを取ってくるわけじゃないはずだ。こんな場所じゃ、畑を作るのも一苦労だし、場所の確保が難しい……家畜の飼育だってそうだ」

「そりゃそうだが……ダンジョンの中に農業や畜産している階層があるからな。魔物の落とす食材だけじゃないぞ?」

「だ、ダンジョンの中にそんなもの作っているのか?」

 センが目を丸くしながらレイフェットの顔を見る。そんなセンの顔が可笑しかったようで満足気に笑うレイフェット。

「あぁ、そう言った専用の階層があってな、魔物が一切出ない上に土の質がいいんだ。収穫の時期になると依頼が張り出されて、探索者も駆り出されるくらいだ。危険は無いから行ってみるといいぞ?」

「……今度行ってみることにする」

(ルデルゼンからその階層の話は聞かなかったな。まぁこの前はダンジョンの基本って感じだったからな。知っている階層の話とかをして貰えば聞けただろう)

 人の良さそうな蜥蜴人族の青年を思い出しつつレイフェットと話を続ける。

「まぁ、それはさておき……俺が受けたシアレンの街の印象はそんな感じだな」

「それだけか?」

 探るような視線でレイフェットがセンに尋ねる。その視線を受け少しだけ考えるそぶりを見せたセンは再び口を開いた。

「……少し勿体ないと思う事はあったかな?」

「勿体ない?どういうことだ?」

「折角の資源を活用しきれていないと思ってな」

「ダンジョンか?」

 レイフェットの言葉にセンはかぶりを振る。

「いや、ダンジョン自体について俺はまだ何も知らないに等しい。もっと知識が増えればこうした方が良いってのも出て来るかも知れないが……今はまだその段階じゃない」

「ってことは……ダンジョンから採れる素材の事か?」

「まぁ、それも一つではあるが……それはライオネル商会を通じて一気に改善されるんじゃないか?少なくとも、これまでとは比べ物にならないくらい外貨を手に入れる事が出来るだろ?」

「あぁ、取引量の試算を見せてもらったが……とんでもない額が動くな。どうやってそれを捌くつもりなのかは知らないが……試算通りなら、数年もしない内にこの街の財政は数倍に膨れ上がりそうだ」

「ははっ、そこまでの金額を出していたのか。地元の商店とのバランスって話はどこにいったのやら……」

(エミリさんやサリエナ殿がその辺を忘れているとは思えないが……はっちゃけている可能性は否定出来ないな)

「その辺は細心の注意を払うとは言っていたし、ずっと色々な所と話し合いをしているみたいだぞ?うちの街は商人ギルドがないからな……恐らく、開店準備と合わせて地獄のような忙しさだと思うぞ?」

「近いうちに陣中見舞いにでも行くか……っと、話が逸れたな。俺が言っている資源ってのはダンジョン自体でも、そこから採れる素材でもない。人的資源のことだ」

「人的資源?」

「この世で一番大事な資源だ」

(機械技術が発展するまでは、だがな)

 センは肩をすくめながら皮肉気に笑う。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

鑑定能力で恩を返す

KBT
ファンタジー
 どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。 彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。 そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。  この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。  帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。  そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。  そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...