62 / 160
2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第62話 釣り
しおりを挟むレイフェットに手伝ってもらい岩の上に登ったセンは、腰を下ろし川に糸を垂らしていた。
この辺りは流れが穏やかになっているらしく、水も透き通っていて離れた位置で魚が泳いでいるのが見えるが、センは生憎と魚のいる位置まで糸を飛ばすことが出来なかった。
「想像以上に難しい」
岩から真下に向かって糸を垂らしているセンとは違い、糸を竿の先に括り付けず、竿を持つ手とは逆の手に糸をもってフライフィッシングのようなやり方で遠くに仕掛けを飛ばしているレイフェット。
そのやり方を真似しようとしたのだが、全然タイミングが合わず仕掛けを前に飛ばすことが出来なかったセンは、竿の先を結んで下に垂らすだけという原始スタイルで釣りに挑んでいる。
「意外と不器用だな」
せせら笑うような表情を見せながら隣にいるレイフェットが揶揄ってくるが、センは気にも留めていないという様子で言葉を返す。
「俺は体を動かすのが得意じゃないからな。なんでも小器用にそつなくこなすタイプじゃないんだ」
「意外……でもないか。ここに来るまでのどんくささを見ればさもありなんって感じだな」
「……人には得手不得手ってもんがある。俺は小ズルく頭を使って立ち回るタイプ、身体を動かしてあくせく働くってのは他人に任せるさ」
「それだけ聞くと探索者連中や軍関係の人間に一番嫌われるタイプだな」
「全くだな」
(現場を見ずに上から理想論を振りかざすってのは一番鬱陶しいからな……知り合いの会社にはそういう上司が結構多かった印象はあるが……その内の半分くらいは無理を言っているのを承知で言わざるを得ないって感じだったが……残りの半分は本気で言っていた。関係ない俺が聞いていても気分が悪くなるものも多かったな)
言わざるを得なかったとしても、何も考えずに言ったとしても、下の人間には等しく嫌われるだけだけどなと口元を歪ませながら考えるセンは、おざなりな様子で釣り竿をしゃくる。
「そんな乱暴に動かしても魚は釣れないぞ?」
「魚の気持ちはわからん。ミミズがうねっていたら食いつくんじゃないのか?」
センの言葉に少し呆れた表情を見せるレイフェット。
「お前は空からいきなり串焼き肉が降ってきたら食いつくのか?」
「……毒を食わせるなら自然にやれって事か」
「そういうことだ。自然に、より旨そうに……ってとこだな」
「……旨そうなミミズの動きは分らんな」
「揚げ足を取るなよ……」
そう言ってため息をついたレイフェットが手に持った釣り糸をクイっと引くと、釣り竿の先がしなり川面から魚が飛びだす。
「セン、引き寄せるからタモで魚を……」
「いや、届かねぇよ」
センは傍らに置いてあったタモを手に取るが、どう見ても一メートル程の長さしかない。
岩の上からでは、どんなに身を乗り出したとしても水面にすら届かないだろう。
「あーそれ、魔道具だ。伸びるぞ」
苦笑しながらレイフェットが言うと、センは目を細めながらタモを調べ、柄の部分を伸ばす。
ぬるっとした感じで伸びていくタモが五メートルを超えた時点で、レイフェットが笑い声を上げる。
「おいおい、伸ばしすぎだろ?もしかして魔道具の扱いもあまり得意じゃないのか?」
「苦手なことが多くてな……そっちは何でも一人で出来るタイプか?」
長すぎるタモを短く持ち、センはレイフェットが寄せてきた魚を掬う。
「そんな訳ねぇだろ。俺一人じゃ魚一匹手に入れることも出来ねぇよっと……お、中々の大物だな」
掬い上げたタモから魚を掴み、口に引っかかっている針を外したレイフェットが鼻を鳴らしながら持って来ていた大き目の篭に魚を入れる。
「そりゃ良かった……ところで俺の持っていた竿もさっきからなんかブルブルしているんだが……どうしたらいいんだ?」
「タモを貸せ……あぁ、飲み込んだな。魚が餌を食いついた瞬間に竿を引いて、口に針を引っ掛けるんだ。でないと、針を飲み込んで……」
レイフェットが針を押し込んで外すが、魚は口から血を流して動かなくなる。
「こうなっちまう。こうなると、まぁ、ちと不味くなるんだよな」
「あぁ……それはなんか聞いたことがあったな。すまん」
センがそう言うとレイフェットはカラカラと笑う。
「まぁ、気にするな。最初はこんなもんだ。とりあえずボウズじゃなくて良かったじゃないか」
そう言って籠の中にセンの釣った魚を放り込むと、再びレイフェットは仕掛けを投げる。
「センは……どこかの国の文官系の家系か?」
「ん?唐突だな?」
「農村出なら釣り位経験があるだろうしな……山歩きも慣れていない様だし、どこぞの貴族のお坊ちゃんかと」
「……俺ってそんな感じなのか?いや、山歩きも釣りも慣れていない自覚はあるが……だが、前も言った通りそういう感じじゃないぞ?」
若干顔を顰めたセンがそう言うと、レイフェットは川面から視線をそらさずに言葉を続ける。
「一般の出と言っていたが……どうも俺の知る一般とは違う気がするな」
「なるほど……まぁ、俺の住んでいた所では一般ではあったが……仮に周りが全て貴族なら、そいつにとっての一般とは貴族の事だよな」
「……お前やっぱり」
「いや、冗談だ。しかし、なんでそんなことが気になるんだ?」
「別に本気でお前の出自が気になっているわけじゃないが……あのライオネルやサリエナに気に入られているのが不思議でな。あの時お前を娘と婚約させようとしていたサリエナは……かなりマジだった」
「……そうだな」
センは冗談めかしながらも結構本気でぐいぐい来ていたサリエナを思い出す。
「あの時も言ったが……あのサリエナがあそこまで入れ込むのが信じられなくてな。正直気味悪いほどだ……お前何をしたんだ?」
「なんだろうな?」
センがはぐらかし竿を振って仕掛けを川に投げ入れたのを見て、レイフェットが舌打ちをする。
「いいだろ?減るもんじゃあるまいし」
「領主の言葉とは思えんな。情報の価値は減るもんだ」
「……そういう所が一般人っぽくないってんだ」
不貞腐れたようにレイフェットが言うと、センが皮肉気に笑う。
「なんだ?ご領主様の思し召しのままにってのがご希望だったか?」
「気持ちわるっ!」
本気で吐きそうな顔になったレイフェットの耳がぴくぴくと動く。
「まぁ、別に教えてもいいんだが……ただで教えるのもな」
「……金か?」
「まさか、ゲームで決めよう。お前が勝ったら俺が何をしたか教える」
「ほう……面白そうだ。何で決める?釣りだよな?」
獲物を見つけたと言った凄味のある笑みを浮かべるレイフェットに対し、センが眉尻を下げながら言葉を返す。
「いや……釣りは俺に不利過ぎるんだが……」
「くはは!いいじゃねぇか、ゲームを提案したのはそっちだからな。内容は俺に決めさせろよ」
「……まぁ、釣りに来ておいて他のゲームを提案するのも変な話か。じゃぁ、勝敗条件は俺が決めてもいいよな?」
「あまり変な条件にするなよ?」
レイフェットが釘を刺す様に言うとセンが爽やかに笑う。
「当然、条件は五分五分になるようにするさ。釣果勝負にすると経験の差が出るからな……あぁ、そう言えば、さっきレイフェットが釣った魚って結構な大物って言っていたよな?」
「あぁ。めちゃくちゃでかいって程でもないが、結構いい大きさだな」
「よし、じゃぁ次に俺が釣った魚が、レイフェットがさっき釣った物より大きいか小さいかで賭けないか?」
「ほう?確かに公平だが……釣れなかった場合はどうするんだ?」
「その場合は記録なし、ゼロセンチってことで小さかったことにする」
「なるほど……で、お前はどっちに賭けるんだ?」
レイフェットは睨むようにセンを見ながら問いかける。
しかし、センは肩をすくめるとあっさりと選択権をレイフェットに渡す。
「勝敗条件を決めたのは俺だからな。そっちが先に賭けていいぜ?」
「なら、小さい方に賭ける。釣れない可能性が一番高そうだしな」
センが先に賭けることを譲ったことに一瞬目を丸くしたレイフェットだが、すぐにどちらに賭けるかを決める……と言うよりもレイフェットが勝つには小さい方に賭けるしかない。
センの釣果によって勝敗を決める以上、センにはワザと釣らないという選択も出来るということだ。その事に気付かないセンでもレイフェットでもない。
レイフェットがゲームを決め、センが勝敗条件を決め、レイフェットが先に賭ける。
ここまで予定調和ではあるが、レイフェットの方がかなり有利ではある。しかし、運に任せるという状況にしたという事で、五分五分の条件と言えるとレイフェットは考えた。
「了解だ。あ、奇跡的に同じ大きさって可能性もあるな。その場合はどうする?」
センが念の為と言った感じで確認すると、レイフェットが少しだけ考えるそぶりを見せた後に応える。
「その場合は大きかったってことにするか。釣れなかった場合は俺の勝ちになるし、その方が公平だろ?まぁ、同じ大きさの方が珍しいと思うが」
「それもそうだな。ところで俺が勝った場合にどうするかは聞かなくていいのか?」
センが尋ねるとレイフェットは豪快に笑い飛ばす。
「くはは!この条件で負けるなら何でも言うこと聞いてやるよ!」
「よし、二言はないな?」
「おう」
「じゃぁ、気合入れて釣るとするか。釣れなかったら白けるしな。あ、邪魔はするなよ?」
「邪魔なんかしねぇよ。だが白けてもいいから釣れなくても構わんぞ?」
レイフェットの言葉に口元を歪ませたセンは、話している最中も垂らしていた仕掛けを引き上げた。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす
大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜
魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。
大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。
それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・
ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。
< 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
悠久の機甲歩兵
竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。
※現在毎日更新中
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜
アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。
だが、そんな彼は…?
Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み…
パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。
その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。
テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。
いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。
そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや?
ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。
そんなテルパの受け持つ生徒達だが…?
サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。
態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。
テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか?
【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】
今回もHOTランキングは、最高6位でした。
皆様、有り難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる