59 / 160
2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第59話 物流システム稼働開始
しおりを挟む「ついにこの時が来ましたな。」
「そうですね。ようやく大手を振ってサービスを提供していると言えそうです」
センはライオネルと共に何も置かれていない倉庫の中で感慨深く呟いた。
「お待たせしてしまって本当に申し訳ない」
ライオネルが申し訳なさそうに言うが、センは苦笑しながらかぶりを振る。
「とんでもない。寧ろ良くこれほど早く五拠点を作り、そこに商品を集めることが出来たと思っていますよ」
センがそう言うと、ライオネルは普段通りの豪快な笑い声を上げる。
「まぁ、商品の輸送は普段から行っておりますし、箱を作らせたのは物を集めやすい場所ですからな。今回は多少の調整程度で、一度現地に行って直接指示をするつもりですが……」
「開始前に行かなくって良かったのですか?」
「詳細の指示は出しましたからね。不可思議ではあっても難しい内容ではありません。寧ろこの程度の事が出来ない管理者がいたら問題ですな」
「そういうものですか」
ライオネルがどんな指示を出していたかセンは知らないが、あいまいな指示は出さないだろうし、その指示に従えないのであればクビになるのも仕方ないだろう。
(この世界に労基はないだろうしな、海外でも一発で首にはならない……いや、これだけ利益が出るプロジェクトで大ポカやらかしたら一発アウトはあり得るか)
雇われの悲哀に内心同情を覚えていたセンだったが、他人の事情に関心を寄せている余裕はなかったなと気を引き締める。
「お父様、セン様。ワクワクする気持ちは分かりますが、そろそろ始めませんか?」
どことなく浮ついた雰囲気で話していたセン達に、エミリが声を掛ける。
「ふふっ、そういうエミリも、とても落ち着いている様には見えませんね。早く始めたくてうずうずしているって顔に書いてありますよ」
「お、お母様!」
若干顔を赤らめながらエミリは抗議するが、サリエナは余裕のある笑みを浮かべたまま取り合わない。
「ではエミリさんも我慢できないようなので……始めましょうか」
「……セン様まで……」
母だけでなくセンにまで揶揄われたことでエミリの顔が真っ赤になる。
しかし、作業を始めると言ったセンの邪魔をすることは出来ず、歩き出したセンの後ろ姿を見送る事しか出来なかった。
センはその視線に気づかず、歩きながら召喚魔法を起動する。
召喚魔法はセンを中心に最大で四メートル程度の距離までにしか呼び出すことは出来ない。四メートルの範囲であれば頭上だろうと足の下だろうと召喚することは出来るが、送還の時とは違い呼び出す場所に既に何かある場合は召喚自体が失敗に終わる。
三メートルの立方体として作られている箱を五つ呼び出すには、セン自身が移動しながら召喚していくしかないのだ。
(丁寧に位置を指定しないとマズい。割れ物が入っている事もあるだろうし、ぴったり地面の上に呼び出す様にしなければな)
センは慎重に呼び出す空間を指定しながら召喚魔法を発動させる。
足を止めることなく連続して召喚魔法を使って行くセン。その歩みに合わせて次々と音もなく巨大な箱が召喚されていく光景は、非常に現実離れしているようにライオネル達には映った。
ほんの十数秒でライオネルが各地に作らせた六つの物資運搬用の箱が倉庫に並び、センがライオネル達の方へと向き直った。
「お待たせしました。物資の運搬完了です」
「……今まで何回もセン殿のお力は拝見させていただいておりましたが……これはなんとも壮観ですなぁ」
「えぇ。これだけの量の商品を運ぶのにどれだけの時間と経費が掛かるか……これを月に二回……本当に貴方は運が良い」
「あぁ、自分の運の良さには自信を持っていたが、今回程己の運の良さに感謝したことはないかもしれない」
ライオネルとサリエナが、内側から沸き起こってくる喜びを抑えつけながらゆっくりとセンの方に向かって歩く。
しかし、やはりその喜びは抑えきれるものではなかったらしく、二人の軽い足取りは今にもスキップでもしそうであった。
そんな両親の後ろを歩きながらエミリも目の前の光景に興奮を抑えきれなかった。
エミリはシアレンの街に行って数日、店舗の開店準備に従事している。
大通りに面する店舗は居抜き物件なので、簡単なリフォームだけで開店するつもりだが、商品がまだ揃っていない。
明後日にはセンが荷物を送り返してくれるので、その商品を並べればとりあえず開店は出来るが、本命である大店の方はまだ建設を始めたところだ。センのお陰で仕入れに関する不安はないが、自分が選んだ商品が、本当に探索者の街であるシアレンで売れるかどうかは不安があった。
センの物流サービスを使っている以上赤字を出すことは考えられないが、多少の儲けが出たところでそれはエミリ自身の力ではない。センの力であり、センの力を引き入れたライオネルの功績である。
エミリにとって初めての勝負の時が近づいている今、興奮するなと言う方が無理であろう。
「ライオネル殿。次に私が必要になるのは明後日になるので……その間、私はストリクに行こうと思うのですが構いませんか?」
「勿論構いませんぞ。ハーケル殿の所に行くのですかな?」
「えぇ。素材の納品と少し相談事があるので」
「なるほど……私もハーケル殿の所へ挨拶に行きたい所ですが……流石に今は王都を離れることは出来ませんし、今回は断念します。ハーケル殿によろしくお伝えいただけますか?」
「えぇ、承りました」
ライオネルにセンが頷くと、その傍に居たエミリが首を傾げながらセンに尋ねる。
「セン様。ラーニャさん達はどうするのですか?」
「ラーニャ達は今回王都に置いていきます。ハーケル殿と商談がありますし、向こうの顔なじみの所にも顔を出す予定なので」
センはケリオスの所にも顔を出すつもりだが、恐らくケリオスの所にセンが行けば、夜は飲みになるだろうし、ラーニャ達を連れて行っても退屈させるだろう。
(おっさんの所にもラーニャの件で礼をしないといけないしな……一月ぶりくらいのストリクだ。ケリオスの奴、仕事が落ち着いているといいが……)
あの一件以降、ずっと忙しそうにしていたケリオスを思い出し、センは嘆息した。
0
お気に入りに追加
98
あなたにおすすめの小説

調子に乗りすぎて処刑されてしまった悪役貴族のやり直し自制生活 〜ただし自制できるとは言っていない〜
EAT
ファンタジー
「どうしてこうなった?」
優れた血統、高貴な家柄、天賦の才能────生まれときから勝ち組の人生により調子に乗りまくっていた侯爵家嫡男クレイム・ブラッドレイは殺された。
傍から見ればそれは当然の報いであり、殺されて当然な悪逆非道の限りを彼は尽くしてきた。しかし、彼はなぜ自分が殺されなければならないのか理解できなかった。そして、死ぬ間際にてその答えにたどり着く。簡単な話だ………信頼し、友と思っていた人間に騙されていたのである。
そうして誰もにも助けてもらえずに彼は一生を終えた。意識が薄れゆく最中でクレイムは思う。「願うことならば今度の人生は平穏に過ごしたい」と「決して調子に乗らず、謙虚に慎ましく穏やかな自制生活を送ろう」と。
次に目が覚めればまた新しい人生が始まると思っていたクレイムであったが、目覚めてみればそれは10年前の少年時代であった。
最初はどういうことか理解が追いつかなかったが、また同じ未来を繰り返すのかと絶望さえしたが、同時にそれはクレイムにとって悪い話ではなかった。「同じ轍は踏まない。今度は全てを投げ出して平穏なスローライフを送るんだ!」と目標を定め、もう一度人生をやり直すことを決意する。
しかし、運命がそれを許さない。
一度目の人生では考えられないほどの苦難と試練が真人間へと更生したクレイムに次々と降りかかる。果たしてクレイムは本当にのんびり平穏なスローライフを遅れるのだろうか?
※他サイトにも掲載中

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

クラスまるごと異世界転移
八神
ファンタジー
二年生に進級してもうすぐ5月になろうとしていたある日。
ソレは突然訪れた。
『君たちに力を授けよう。その力で世界を救うのだ』
そんな自分勝手な事を言うと自称『神』は俺を含めたクラス全員を異世界へと放り込んだ。
…そして俺たちが神に与えられた力とやらは『固有スキル』なるものだった。
どうやらその能力については本人以外には分からないようになっているらしい。
…大した情報を与えられてもいないのに世界を救えと言われても…
そんな突然異世界へと送られた高校生達の物語。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる