召喚魔法の正しいつかいかた

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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く

第59話 物流システム稼働開始

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「ついにこの時が来ましたな。」

「そうですね。ようやく大手を振ってサービスを提供していると言えそうです」

 センはライオネルと共に何も置かれていない倉庫の中で感慨深く呟いた。

「お待たせしてしまって本当に申し訳ない」

 ライオネルが申し訳なさそうに言うが、センは苦笑しながらかぶりを振る。

「とんでもない。寧ろ良くこれほど早く五拠点を作り、そこに商品を集めることが出来たと思っていますよ」

 センがそう言うと、ライオネルは普段通りの豪快な笑い声を上げる。

「まぁ、商品の輸送は普段から行っておりますし、箱を作らせたのは物を集めやすい場所ですからな。今回は多少の調整程度で、一度現地に行って直接指示をするつもりですが……」

「開始前に行かなくって良かったのですか?」

「詳細の指示は出しましたからね。不可思議ではあっても難しい内容ではありません。寧ろこの程度の事が出来ない管理者がいたら問題ですな」

「そういうものですか」

 ライオネルがどんな指示を出していたかセンは知らないが、あいまいな指示は出さないだろうし、その指示に従えないのであればクビになるのも仕方ないだろう。

(この世界に労基はないだろうしな、海外でも一発で首にはならない……いや、これだけ利益が出るプロジェクトで大ポカやらかしたら一発アウトはあり得るか)

 雇われの悲哀に内心同情を覚えていたセンだったが、他人の事情に関心を寄せている余裕はなかったなと気を引き締める。

「お父様、セン様。ワクワクする気持ちは分かりますが、そろそろ始めませんか?」

 どことなく浮ついた雰囲気で話していたセン達に、エミリが声を掛ける。

「ふふっ、そういうエミリも、とても落ち着いている様には見えませんね。早く始めたくてうずうずしているって顔に書いてありますよ」

「お、お母様!」

 若干顔を赤らめながらエミリは抗議するが、サリエナは余裕のある笑みを浮かべたまま取り合わない。

「ではエミリさんも我慢できないようなので……始めましょうか」

「……セン様まで……」

 母だけでなくセンにまで揶揄われたことでエミリの顔が真っ赤になる。
 しかし、作業を始めると言ったセンの邪魔をすることは出来ず、歩き出したセンの後ろ姿を見送る事しか出来なかった。
 センはその視線に気づかず、歩きながら召喚魔法を起動する。
 召喚魔法はセンを中心に最大で四メートル程度の距離までにしか呼び出すことは出来ない。四メートルの範囲であれば頭上だろうと足の下だろうと召喚することは出来るが、送還の時とは違い呼び出す場所に既に何かある場合は召喚自体が失敗に終わる。
 三メートルの立方体として作られている箱を五つ呼び出すには、セン自身が移動しながら召喚していくしかないのだ。

(丁寧に位置を指定しないとマズい。割れ物が入っている事もあるだろうし、ぴったり地面の上に呼び出す様にしなければな)

 センは慎重に呼び出す空間を指定しながら召喚魔法を発動させる。
 足を止めることなく連続して召喚魔法を使って行くセン。その歩みに合わせて次々と音もなく巨大な箱が召喚されていく光景は、非常に現実離れしているようにライオネル達には映った。
 ほんの十数秒でライオネルが各地に作らせた六つの物資運搬用の箱が倉庫に並び、センがライオネル達の方へと向き直った。

「お待たせしました。物資の運搬完了です」

「……今まで何回もセン殿のお力は拝見させていただいておりましたが……これはなんとも壮観ですなぁ」

「えぇ。これだけの量の商品を運ぶのにどれだけの時間と経費が掛かるか……これを月に二回……本当に貴方は運が良い」

「あぁ、自分の運の良さには自信を持っていたが、今回程己の運の良さに感謝したことはないかもしれない」

 ライオネルとサリエナが、内側から沸き起こってくる喜びを抑えつけながらゆっくりとセンの方に向かって歩く。
 しかし、やはりその喜びは抑えきれるものではなかったらしく、二人の軽い足取りは今にもスキップでもしそうであった。
 そんな両親の後ろを歩きながらエミリも目の前の光景に興奮を抑えきれなかった。
 エミリはシアレンの街に行って数日、店舗の開店準備に従事している。
 大通りに面する店舗は居抜き物件なので、簡単なリフォームだけで開店するつもりだが、商品がまだ揃っていない。
 明後日にはセンが荷物を送り返してくれるので、その商品を並べればとりあえず開店は出来るが、本命である大店の方はまだ建設を始めたところだ。センのお陰で仕入れに関する不安はないが、自分が選んだ商品が、本当に探索者の街であるシアレンで売れるかどうかは不安があった。
 センの物流サービスを使っている以上赤字を出すことは考えられないが、多少の儲けが出たところでそれはエミリ自身の力ではない。センの力であり、センの力を引き入れたライオネルの功績である。
 エミリにとって初めての勝負の時が近づいている今、興奮するなと言う方が無理であろう。

「ライオネル殿。次に私が必要になるのは明後日になるので……その間、私はストリクに行こうと思うのですが構いませんか?」

「勿論構いませんぞ。ハーケル殿の所に行くのですかな?」

「えぇ。素材の納品と少し相談事があるので」

「なるほど……私もハーケル殿の所へ挨拶に行きたい所ですが……流石に今は王都を離れることは出来ませんし、今回は断念します。ハーケル殿によろしくお伝えいただけますか?」

「えぇ、承りました」

 ライオネルにセンが頷くと、その傍に居たエミリが首を傾げながらセンに尋ねる。

「セン様。ラーニャさん達はどうするのですか?」

「ラーニャ達は今回王都に置いていきます。ハーケル殿と商談がありますし、向こうの顔なじみの所にも顔を出す予定なので」

 センはケリオスの所にも顔を出すつもりだが、恐らくケリオスの所にセンが行けば、夜は飲みになるだろうし、ラーニャ達を連れて行っても退屈させるだろう。

(おっさんの所にもラーニャの件で礼をしないといけないしな……一月ぶりくらいのストリクだ。ケリオスの奴、仕事が落ち着いているといいが……)

 あの一件以降、ずっと忙しそうにしていたケリオスを思い出し、センは嘆息した。

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