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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第56話 探索者ギルドに……
しおりを挟むセンは領主レイフェットとの顔合わせを終えてシアレンの街を歩いていた。
他愛のない雑談をしていただけだが、センはレイフェットに気に入られたらしく気軽に遊びに来て欲しいと言われている。
勿論、額面通りにセンは受け取ったりしないが……レイフェットはかなり本気で言っていた。
(まぁ、面白い領主ではあったが……なんであんな話になったのやら)
センは、何故かエミリとの婚姻話を勧めようとするサリエナと、悪ノリのような感じで話を蒸し返すレイフェットの事を思い出しうんざりする。
とはいえ、エミリの年齢が結婚適齢期と言う訳ではないが、婚約者がいてもおかしくないという話にはセン自身も納得が出来る。
結婚と言う手段は繋がりを強固にする手段としては一番手っ取り早い。
本人達の繋がりよりも家同士の繋がりと言う意味で結婚……政略結婚をすると言う話は珍しくもなんともない。日本でも優秀な部下に娘を与えて一門とするなんてことは、戦国時代でなくても普通に行われていたことである。
乱世ともなれば戦争を避ける為、同盟を結ぶ為、敵勢力に対抗する為、他国の有力者同士が婚姻を結んだり養子に迎え入れたりといったことは、戦略上避けては通れない話だろう。
そしてそれは国同士に限った話ではない。
エミリは貴族ではないが庶民とは言い切れないだろう。
勿論、血を貴ぶ貴族の正妻になるにはそれなりの工夫が必要ではあるだろうが、それでもそういった事が不可能ではない立場にいるのは間違いない。
(まぁ、ライオネル殿の溺愛っぷりを見れば、エミリさんをそういう風に使うつもりがないのは一発で分かるが……つもりが無くてもそうせざるを得ない状況というのはある。そうなった場合、手を尽くした上でほかに手段がなければ、エミリさんは受け入れそうだな。ライオネル殿は全力で抗うだろうが。それにしても、物流システムの事を思えば、俺を身内にしようとするのも分らんではないが……サリエナ殿がそういった理由でエミリさんと婚姻を結ばせようとするとは思わなかったな)
センはそんなことを考えながらシアレンの街を歩く。
勿論、サリエナも娘の意向を無視して、商会の為だけの結婚をさせるつもりなどさらさらないのだが……何故サリエナがあそこまで話を進めようとしていたのかセンは気づかない。
(……あぁ、そうか。最初レイフェットとの間に緊張感があったからな。レイフェットが悪ふざけしそうな話題を作ってくれたのかもしれない。実際、凄い食いつきだったし……ゲスいじーさんだったな)
そんな風にレイフェットの事を評しながらもどこか楽しげに口元を歪ませるセンは、ふと目の前に探索者が多く出入りする建物があることに気付いた。
(これは……探索者ギルド……か。いつか顔を出すつもりだったが……まだ日は高いし、いい機会だから寄っていくか)
ストリクの街にあった傭兵ギルドみたいな感じだろうと考え、センは探索者ギルドへと足を向ける。
対策者ギルドの入り口は広く解放されており、建物の外からでも中の様子がある程度伺える。非常に活気があり、ストリクの街の傭兵ギルドとは比べ物にならない程の人数、そして人種がごった返している。
(とりあえず、受付に行って話を聞いてみるか。出来れば話を聞けるような探索者を紹介して貰えるとありがたいが……依頼として出してもいいか?しかし依頼となると、変な相手が来ると困るが……その辺は受付に相談してみればいいか)
ある程度算段をつけつつ探索者ギルドの扉を潜ろうとした所、ギルドから出てこようとした人物と鉢合わせになり、センは慌てて身を引いた。
「おっと、失礼。大丈夫ですか?」
「いえ、こちらこそすみません」
ギルドから出てきた人物は非常に大柄な……蜥蜴人族だった。
(何やら既視感があるな)
センは相手に謝りながらつい先日の出来事を思い出す。
蜥蜴人族の見分けはつかないが……ラーニャが転んだ時と非常に似たシチュエーションにセンが既視感を覚えていると、相手もセンの事を何か窺うように見ていることに気付く。
「……人違いだったらすみません。『陽光』のルデルゼン殿ですか?」
「え、あ、あぁ、ルデルゼンです。そちらは……以前薬屋の前で子供達と一緒にいた?」
やはりセンだけではなく、相手もセンの事にはっきりと気づけなかったようだ。
お互いに種族としての見た目が違い過ぎる為、仕方ないとも言えるだろう。
「はい。あの時は丁寧に対応して頂きありがとうございました。幸いあの子も怪我はなく、何の問題もなく過ごしております」
「それは良かった。しかし、今日と言い先日と言い、重ね重ね申し訳ない」
「ははっ。ルデルゼン殿は体が大きいですからね。低い位置は見にくいのでしょう。申し遅れました、私、センと申します」
「これはご丁寧に、先日は慌ただしくしてしまい申し訳ない。私は『陽光』という探索者パーティに所属するルデルゼン。しがない探索者です」
センの自己紹介に改めて自己紹介を返してくるルデルゼンを見て、少し思いついたことがあり、センは尋ねてみることにした。
「ルデルゼン殿。実は少し相談したい事があるのですが、今お忙しいでしょうか?」
「私にですか?」
「はい。ギルドに相談してみようと思っていたのですが、実は探索者の方に色々とお話を聞かせていただきたい事がありまして。もしご迷惑でなければ探索者であるルデルゼン殿と話をさせて頂きたいのです。もし必要であればギルドを通し、依頼と言う形で出させて貰ってもいいのですが」
「話をするのは構いませぬが……もし聞きたい事が冒険譚であるなら私では力不足かと」
そう言って少しだけ気落ちした様子を見せるルデルゼン。その雰囲気を感じ取ったセンはゆっくりとかぶりを振りつつ口を開く。
「いえ、ダンジョンにおける基本的な事や探索者についてと言った感じです。勿論プライベートな事は聞きませんし、探索者のもつ裏情報等を聞き出したりするつもりはありません。答えにくい事はきっぱり拒否してくれるとありがたいですね」
センがそう言うと、そういうことであればと言いルデルゼンが頷く。
「では、立ち話もなんですし、近くにある店で話をしましょう。この場所は……少し邪魔になっているようですし」
そう言ってセンが苦笑すると、ルデルゼンが忘れていたと言った様子で辺りを見渡す。
セン達がいるのはギルド入り口のすぐ脇。センからは見えていたが、何度かギルドから出てきた冒険者が曲がろうとしてルデルゼンにぶつかりそうになっていたのだ。
そのことに気付いたルデルゼンが大きな体を少しすくめつつ、恐縮した様子でセンの後ろについて歩きだした。
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