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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第55話 蒸し返す
しおりを挟む「自ら怪しいと言うのは構わんが……そんな人物を領主に紹介させるのは良いのか?」
少しずつ口調に遠慮が無くなって来たレイフェットの言葉に、センはにっこりと笑い応える。
「レイフェット様にお目通りしたがる様な人物は、基本的に怪しいのでは?」
センがいつもの自然なビジネススマイルから、若干胡散臭げ笑顔に変えつつ言うとレイフェットが呵々大笑する。
「くはは!その通りだな!どいつもこいつも怪しさと胡散臭さと腹黒さを混ぜて鍋で煮込んだような者共ばかりだ!」
随分と不味そうな鍋だとセンが思っていると、レイフェットが言葉を続ける。
「その点、サリエナ殿は珍しいタイプだな。腹黒さと清廉さをまんべんなく混ぜた酒……のような感じだな。辛口で中々味わい深い」
「悪酔いはしなさそうですが……深酒すると大変なことになりそうですね」
「くはは!確かにな!我ながら非常に良い例えをしたものだ!」
最初の頃の緊張感はどこへやら、レイフェットは大口を開けて笑い、センは皮肉気な笑みを浮かべつつ軽口を叩く。二人とも非常にリラックスした状態で会話をしているようだ。
当て擦られているサリエナも不満げな顔をしながらも笑っている。
「しかし、そんな怪しげな人物であるなら……ライオネル商会の令嬢はこれ以上ないくらいいい縁談ではないか?私も先日話をしたばかりだが、あの年頃の娘とは思えぬ程聡明で非常に将来が楽しみだ。それにサリエナ殿によく似ておられるし……数年もすれば美女になるのは間違いなかろう。若く、美しく、聡明。さらにあのライオネル商会の一人娘だ。非の打ち所がないな。しかも本人との関係も良好……断る理由がないではないか」
「レイフェット様、素晴らしいですわ!もっとセン様に言ってください!」
レイフェットの言葉にサリエナが再び元気になる。
「何故またその話に……」
「くはは!純粋な興味よ!条件の良さもさることながら、あのサリエナ殿がそうまでして囲い込みたがっておるにも関わらず、それを袖にしようとするお主へのな!」
そう言って笑うレイフェットに半眼になったセンがぼそりと告げる。
「面白がっているだけなら止めて欲しいんだが?サリエナ殿の視線が痛い」
ケリオスや宿の主人と話す様な口調になったセンに、サリエナが目を丸くする。しかしレイフェットはそんなセンの態度を気にしたそぶりも見せず話を続ける。
「女性との出会いは一期一会。特に良い女はすぐに他人の物になる。気に入ったならすぐに行動せねば、他人の物になった後では少々面倒だぞ?」
「その台詞からはクズの匂いしかしないんだが?」
「せ、セン様!?」
センの物凄い台詞に、流石のサリエナも動揺してセンを呼ぶ。
サリエナの様子をちらりと横目で見ながらレイフェットが獰猛な笑みを浮かべ口を開く。
「ほう?領主に向かってクズと言ったか?その不敬な口を首ごと落としてやろうか?」
「おいおい、とんでもない暴君だな。まぁ、試してみてもいいが……その場合ライオネル商会は確実にこの街から手を引くぞ?」
ねぇ、サリエナさんと普段の笑みを浮かべたセンが顔色を幾ばくか悪くしていたサリエナに同意を求めると、嘆息したサリエナが同意する。
「……そうですわね。セン様が処断されてしまっては撤退するより他ありません」
「出来れば、私が処断されるくらいなら撤退すると言って欲しかったのですが……」
センが苦笑しながら処断される前に助けて欲しいと言うと、不満気な様子なサリエナに知りませんと冷たくあしらわれてしまった。
「くはは!他人の財布で脅してくるか!とんでもないクズがいたものだな!」
「女性関係クズよりはなんぼか世間受けはいいと思うがな」
「ふん!サリエナ殿はどう思うかね?私とセン殿……どちらがクズだと?」
「どちらもクズですわ」
サリエナが二人の顔を見たくないと言った様子で首を背けながら言うと、クズと言われた二人は声を出して笑う。
二人はお互いを罵っているように見せかけ、顔色を変え困惑するサリエナの様子を楽しんでいた。その事に途中で気づいたサリエナは、出汁にされたことが大層不満ですとアピールしているのだろう。
「領主になってから今日まで、ここまで明け透けに言われたのは妻達を除けば初めての事だな。中々面白い御仁を紹介して下さった」
レイフェットがサリエナに礼を告げるとサリエナが苦笑する。
「私は……少々セン様を見くびっていたようですわ。レイフェット様であれば多少の無礼はお気になさらないと思っていましたが、まさか初対面であんなことを言うとは……」
「驚かせて申し訳ありません、サリエナ殿。売り言葉に買い言葉と言う奴でして……」
「打ち合わせもなく息を合わせて私を揶揄ったのは、売り言葉に買い言葉とは言いませんわ。本当に初対面とは思えない程の気の合いようで」
そう言って拗ねたようにセンから視線を外すサリエナ。冗談めかしているが、結構本気で拗ねているのかもしれない。
「くはは!すまないな、サリエナ殿。男は魅力的な女性を見ると色々な表情を見てみたくなるものなのだ。許してほしい」
レイフェットの謝罪に、仕方ないと嘆息しながら応えたサリエナに軽く頭を下げた後、レイフェットがセンに向き直る。
「ところで、話は戻るのだが……何故サリエナ殿の娘を娶らぬのだ?」
「なんで戻るんだよ……」
「くはは!許せ、純粋に疑問なのだ!どう考えても良い話ではないか。条件だけでもこれ以上を望むのであれば、大国の高位貴族や王族くらいしかおらぬのではないか?しかもあれだけの器量よしとなれば、貴族が霞んでもおかしくない……もしや、心に決めた相手でもいるのか?」
サリエナの目が鈍く光るが、口を挟むことはしない様だ。
「そんな相手はいないが……さっきも言った通り、大人びて見えるが彼女はまだ幼い。そんな相手に対して恋愛感情、ましてや条件のいい相手だとか考えられるわけないだろ?」
「ふむ……幼いとは言うが、もうすぐ十になるのだろう?」
「えぇ、後二月程で」
レイフェットに尋ねられたサリエナが笑顔で答える。
「九つや十で婚約者がいることなぞ珍しい事でもあるまい?俺が聞いた他国の貴族の話では、生まれた瞬間から婚約者がいる事もあるそうだぞ?まぁ、それは極端にしても、十二歳までに婚約者が決まっておらぬものは殆どおらぬだろうな」
「……それは貴族とか上流階級の話だろ?エミリさんは……確かに上流階級の人間だろうが……俺はただの一般人だ。そういう感覚は持ち合わせていない」
「ほう?てっきりそう言った出自だと思っておったがな。私の様な相手との会話も慣れておるようだし、ライオネル殿やサリエナ殿と商談も出来る。その歳頃でそういった経験を積むことが出来る環境で育ったのであれば、ただの一般の家の出とは言えまい?」
(まぁ、確かに高校卒業したての頃の俺だったら絶対無理だっただろうけど……社会人生活が十年以上あるからな)
センは自分の今の姿を思い出し、苦笑しながら口を開く。
「確かに、特殊な事情があることは否定出来ないが……俺自身は紛れもなく普通の家の出身だ。だから、本人の意思を介さず婚約だなんだと言う話には頷けないし、そういった話をする相手としてはまだ幼すぎると言う訳だ」
「なるほどな。まぁ、幼さに関しては時間が解決する問題ではるが、本人の意思を介さずという所には大いに共感できる。やはりお互いの意思があってこその夫婦よな」
そう言ってニカっと笑うレイフェット。
その言葉を聞いてにやりと笑うサリエナ。
「つまり、セン様はエミリの意思が大事とおっしゃっているわけですね?」
「えぇ、その通り……いや、お待ちください。エミリさんだけではなく双方の意思が大事と言っているのです」
一瞬舌打ちをしたような表情になったサリエナが笑顔に戻り口を開く。
「えぇ、心得ていますわ。ちゃんとエミリに伝えておきます」
「……何を伝えると?」
センの呟きに、サリエナはほほほと笑うだけだった。
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