召喚魔法の正しいつかいかた

一片

文字の大きさ
上 下
55 / 160
2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く

第55話 蒸し返す

しおりを挟む


「自ら怪しいと言うのは構わんが……そんな人物を領主に紹介させるのは良いのか?」

 少しずつ口調に遠慮が無くなって来たレイフェットの言葉に、センはにっこりと笑い応える。

「レイフェット様にお目通りしたがる様な人物は、基本的に怪しいのでは?」

 センがいつもの自然なビジネススマイルから、若干胡散臭げ笑顔に変えつつ言うとレイフェットが呵々大笑する。

「くはは!その通りだな!どいつもこいつも怪しさと胡散臭さと腹黒さを混ぜて鍋で煮込んだような者共ばかりだ!」

 随分と不味そうな鍋だとセンが思っていると、レイフェットが言葉を続ける。

「その点、サリエナ殿は珍しいタイプだな。腹黒さと清廉さをまんべんなく混ぜた酒……のような感じだな。辛口で中々味わい深い」

「悪酔いはしなさそうですが……深酒すると大変なことになりそうですね」

「くはは!確かにな!我ながら非常に良い例えをしたものだ!」

 最初の頃の緊張感はどこへやら、レイフェットは大口を開けて笑い、センは皮肉気な笑みを浮かべつつ軽口を叩く。二人とも非常にリラックスした状態で会話をしているようだ。
 当て擦られているサリエナも不満げな顔をしながらも笑っている。

「しかし、そんな怪しげな人物であるなら……ライオネル商会の令嬢はこれ以上ないくらいいい縁談ではないか?私も先日話をしたばかりだが、あの年頃の娘とは思えぬ程聡明で非常に将来が楽しみだ。それにサリエナ殿によく似ておられるし……数年もすれば美女になるのは間違いなかろう。若く、美しく、聡明。さらにあのライオネル商会の一人娘だ。非の打ち所がないな。しかも本人との関係も良好……断る理由がないではないか」

「レイフェット様、素晴らしいですわ!もっとセン様に言ってください!」

 レイフェットの言葉にサリエナが再び元気になる。

「何故またその話に……」

「くはは!純粋な興味よ!条件の良さもさることながら、あのサリエナ殿がそうまでして囲い込みたがっておるにも関わらず、それを袖にしようとするお主へのな!」

 そう言って笑うレイフェットに半眼になったセンがぼそりと告げる。

「面白がっているだけなら止めて欲しいんだが?サリエナ殿の視線が痛い」

 ケリオスや宿の主人と話す様な口調になったセンに、サリエナが目を丸くする。しかしレイフェットはそんなセンの態度を気にしたそぶりも見せず話を続ける。

「女性との出会いは一期一会。特に良い女はすぐに他人の物になる。気に入ったならすぐに行動せねば、他人の物になった後では少々面倒だぞ?」

「その台詞からはクズの匂いしかしないんだが?」

「せ、セン様!?」

 センの物凄い台詞に、流石のサリエナも動揺してセンを呼ぶ。
 サリエナの様子をちらりと横目で見ながらレイフェットが獰猛な笑みを浮かべ口を開く。

「ほう?領主に向かってクズと言ったか?その不敬な口を首ごと落としてやろうか?」

「おいおい、とんでもない暴君だな。まぁ、試してみてもいいが……その場合ライオネル商会は確実にこの街から手を引くぞ?」

 ねぇ、サリエナさんと普段の笑みを浮かべたセンが顔色を幾ばくか悪くしていたサリエナに同意を求めると、嘆息したサリエナが同意する。

「……そうですわね。セン様が処断されてしまっては撤退するより他ありません」

「出来れば、私が処断されるくらいなら撤退すると言って欲しかったのですが……」

 センが苦笑しながら処断される前に助けて欲しいと言うと、不満気な様子なサリエナに知りませんと冷たくあしらわれてしまった。

「くはは!他人の財布で脅してくるか!とんでもないクズがいたものだな!」

「女性関係クズよりはなんぼか世間受けはいいと思うがな」

「ふん!サリエナ殿はどう思うかね?私とセン殿……どちらがクズだと?」

「どちらもクズですわ」

 サリエナが二人の顔を見たくないと言った様子で首を背けながら言うと、クズと言われた二人は声を出して笑う。
 二人はお互いを罵っているように見せかけ、顔色を変え困惑するサリエナの様子を楽しんでいた。その事に途中で気づいたサリエナは、出汁にされたことが大層不満ですとアピールしているのだろう。

「領主になってから今日まで、ここまで明け透けに言われたのは妻達を除けば初めての事だな。中々面白い御仁を紹介して下さった」

 レイフェットがサリエナに礼を告げるとサリエナが苦笑する。

「私は……少々セン様を見くびっていたようですわ。レイフェット様であれば多少の無礼はお気になさらないと思っていましたが、まさか初対面であんなことを言うとは……」

「驚かせて申し訳ありません、サリエナ殿。売り言葉に買い言葉と言う奴でして……」

「打ち合わせもなく息を合わせて私を揶揄ったのは、売り言葉に買い言葉とは言いませんわ。本当に初対面とは思えない程の気の合いようで」

 そう言って拗ねたようにセンから視線を外すサリエナ。冗談めかしているが、結構本気で拗ねているのかもしれない。

「くはは!すまないな、サリエナ殿。男は魅力的な女性を見ると色々な表情を見てみたくなるものなのだ。許してほしい」

 レイフェットの謝罪に、仕方ないと嘆息しながら応えたサリエナに軽く頭を下げた後、レイフェットがセンに向き直る。

「ところで、話は戻るのだが……何故サリエナ殿の娘を娶らぬのだ?」

「なんで戻るんだよ……」

「くはは!許せ、純粋に疑問なのだ!どう考えても良い話ではないか。条件だけでもこれ以上を望むのであれば、大国の高位貴族や王族くらいしかおらぬのではないか?しかもあれだけの器量よしとなれば、貴族が霞んでもおかしくない……もしや、心に決めた相手でもいるのか?」

 サリエナの目が鈍く光るが、口を挟むことはしない様だ。

「そんな相手はいないが……さっきも言った通り、大人びて見えるが彼女はまだ幼い。そんな相手に対して恋愛感情、ましてや条件のいい相手だとか考えられるわけないだろ?」

「ふむ……幼いとは言うが、もうすぐ十になるのだろう?」

「えぇ、後二月程で」

 レイフェットに尋ねられたサリエナが笑顔で答える。

「九つや十で婚約者がいることなぞ珍しい事でもあるまい?俺が聞いた他国の貴族の話では、生まれた瞬間から婚約者がいる事もあるそうだぞ?まぁ、それは極端にしても、十二歳までに婚約者が決まっておらぬものは殆どおらぬだろうな」

「……それは貴族とか上流階級の話だろ?エミリさんは……確かに上流階級の人間だろうが……俺はただの一般人だ。そういう感覚は持ち合わせていない」

「ほう?てっきりそう言った出自だと思っておったがな。私の様な相手との会話も慣れておるようだし、ライオネル殿やサリエナ殿と商談も出来る。その歳頃でそういった経験を積むことが出来る環境で育ったのであれば、ただの一般の家の出とは言えまい?」

(まぁ、確かに高校卒業したての頃の俺だったら絶対無理だっただろうけど……社会人生活が十年以上あるからな)

 センは自分の今の姿を思い出し、苦笑しながら口を開く。

「確かに、特殊な事情があることは否定出来ないが……俺自身は紛れもなく普通の家の出身だ。だから、本人の意思を介さず婚約だなんだと言う話には頷けないし、そういった話をする相手としてはまだ幼すぎると言う訳だ」

「なるほどな。まぁ、幼さに関しては時間が解決する問題ではるが、本人の意思を介さずという所には大いに共感できる。やはりお互いの意思があってこその夫婦よな」

 そう言ってニカっと笑うレイフェット。
 その言葉を聞いてにやりと笑うサリエナ。

「つまり、セン様はエミリの意思が大事とおっしゃっているわけですね?」

「えぇ、その通り……いや、お待ちください。エミリさんだけではなく双方の意思が大事と言っているのです」

 一瞬舌打ちをしたような表情になったサリエナが笑顔に戻り口を開く。

「えぇ、心得ていますわ。ちゃんとエミリに伝えておきます」

「……何を伝えると?」

 センの呟きに、サリエナはほほほと笑うだけだった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

なろう380000PV感謝! 遍歴の雇われ勇者は日々旅にして旅を住処とす

大森天呑
ファンタジー
〜 報酬は未定・リスクは不明? のんきな雇われ勇者は旅の日々を送る 〜 魔獣や魔物を討伐する専門のハンター『破邪』として遍歴修行の旅を続けていた青年、ライノ・クライスは、ある日ふたりの大精霊と出会った。 大精霊は、この世界を支える力の源泉であり、止まること無く世界を巡り続けている『魔力の奔流』が徐々に乱れつつあることを彼に教え、同時に、そのバランスを補正すべく『勇者』の役割を請け負うよう求める。 それも破邪の役目の延長と考え、気軽に『勇者の仕事』を引き受けたライノは、エルフの少女として顕現した大精霊の一人と共に魔力の乱れの原因を辿って旅を続けていくうちに、そこに思いも寄らぬ背景が潜んでいることに気づく・・・ ひょんなことから勇者になった青年の、ちょっと冒険っぽい旅の日々。 < 小説家になろう・カクヨム・エブリスタでも同名義、同タイトルで連載中です >

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

元Sランクパーティーのサポーターは引退後に英雄学園の講師に就職した。〜教え子達は見た目は美少女だが、能力は残念な子達だった。〜

アノマロカリス
ファンタジー
主人公のテルパは、Sランク冒険者パーティーの有能なサポーターだった。 だが、そんな彼は…? Sランクパーティーから役立たずとして追い出された…訳ではなく、災害級の魔獣にパーティーが挑み… パーティーの半数に多大なる被害が出て、活動が出来なくなった。 その後パーティーリーダーが解散を言い渡し、メンバー達はそれぞれの道を進む事になった。 テルパは有能なサポーターで、中級までの攻撃魔法や回復魔法に補助魔法が使えていた。 いざという時の為に攻撃する手段も兼ね揃えていた。 そんな有能なテルパなら、他の冒険者から引っ張りだこになるかと思いきや? ギルドマスターからの依頼で、魔王を討伐する為の養成学園の新人講師に選ばれたのだった。 そんなテルパの受け持つ生徒達だが…? サポーターという仕事を馬鹿にして舐め切っていた。 態度やプライドばかり高くて、手に余る5人のアブノーマルな女の子達だった。 テルパは果たして、教え子達と打ち解けてから、立派に育つのだろうか? 【題名通りの女の子達は、第二章から登場します。】 今回もHOTランキングは、最高6位でした。 皆様、有り難う御座います。

処理中です...