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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第53話 食事風景
しおりを挟むエミリ達を王都に送った後、センは家に戻りラーニャと夕食を作っていた。
「料理にお酒を使うのですか?」
「あぁ、肉の臭みを消したり……後は肉が柔らかくなったりするんだ」
「えっと……私達が食べたら酔っぱらったりするんじゃ……」
「それは大丈夫だ。酔っぱらう成分は火を通したら飛んで行くからな。おっさんの所では使ってなかったのか?」
「先生は、肉の臭みを消す時は香草を使うのがいいと言っていました」
「なるほど……俺はその辺詳しくないからな……今度教えてくれ」
「はい!」
二人で楽しそうに料理をしている姿をリビングの方からニコルたちがじっと見ている。
対面式のキッチンはシステムキッチンと言うには憚られるが、スペースはかなり広く、いくつもの魔道具が調理器具としておかれていた。
(IHヒーターみたいな魔道具があるとはな。火を使わなくていいのは非常に助かるが……燃料費がかなり高い。一般家庭ではとてもじゃないが使えなさそうだ)
センは鍋を温めながら魔道具の便利さに感動すると共に、魔道具の起動方法を練習しておいて良かったと考える。
(最初のあの部屋に転がっていたランプを点けることが出来なかったからな……無事使うことが出来るようになって良かった……保有している魔力が少なくて魔道具すら使えないみたいなことになっていたらと思うとぞっとする)
生活の色々な部分に魔道具が使われているので、それが使えないとなると非常に生きにくくなってしまう。多少ならずもコストはかかるが、今のセンにとっては痛くも痒くもない金額だ。
センは焦げない様に鍋をかき混ぜながら、帰りがけに買った食材について考える。
(肉類はかなり安かった……魚は……かなり高かった。しかし、魚以外はストリクや王都に比べても値段は比較的安かった。しかも鮮度もいい……この山の中でどうやって食料を確保しているんだ?ざっと街を歩いた感じ畑もほとんど見かけなかったんだが……もしや、ダンジョンというのは野菜も取れるのか?)
そんなことを考えながら手を動かしていると料理はすぐに完成した。センが出来た料理を器に盛ると、ニコルとトリスが食卓へと並べていく。その様子を見ながらセンは調理器具を洗っていく。一人暮らしが長く自炊もしていたセンは、食べる前に使い終わった調理器具を全て洗っておく習慣が出来ていた。
今日の献立はホワイトシチューとサラダ、パン。そしてトリスのリクエストでタレ付きの焼き肉が大皿で置かれている。焼肉はレタスのような葉野菜でくるんで食べるようにしていた。
野菜をあまり好きではない子供たちが、少しでも自主的に野菜をとるように保護者はいつも頭を悩ませているのだ。
「兄さん、明日は出かけたりするのですか?」
「あぁ、夕方にはまたエミリさんの家に行かないといけない。それまでは家の事をしようと思っているが……今日何かが必要になったりしたか?」
昼間家の事を三人に任せていたセンが何か足りない物はないかと尋ねると、ニコルが思い出したように言う。
「薪を割る道具が必要です。まだ暖かいので暖炉は使いませんが……冬には必要だと思います」
「なるほど……斧か鉈かな?今度街で探してみよう」
今の季節は春から夏に向かう所と言った感じなので当面必要ないとニコルは言うが、準備はしておいた方が良いだろうと思いセンは頷く。
「……兄様。穴を掘る道具がいる」
「穴?なんで穴を?」
「ごみを捨てる」
「なるほど……」
(そうか、ゴミは地面に埋めるのか……土中で分解されない様なごみはどうしたらいいんだ?)
センがそんなことを考えている間にラーニャも意見を出す。
「お部屋の掃除をする道具ももう少し欲しいです。ボロ布がもうなくなってしまったので」
「分かった。やはりまだ色々必要な物が多いな。明日も皆で買い物に出るか……あ、明日じゃないけど、三日後に少し出かける用事があるんだ。その日は留守番を頼む」
「何処に、行くの?」
野菜でくるんだ焼肉を持ちながらトリスが尋ねてくる。
「サリエナさんの紹介でこの街の領主様に会いに行くんだ」
「……領主様?」
よく分からなかったらしいトリスが肉を頬張りつつ首を傾げる。
「この街で一番偉い人だな。これからこの街に住むからその挨拶にな」
当然ではあるが、街に住む程度で領主への挨拶は必要ない。センが領主に会うのはライオネル商会のアドバイザーとして、サリエナが領主に面白い人物がいると売り込みをかけたからだ。今回ライオネル商会がシアレンの街で事業を展開するのも、センのアドバイスがあってこそと言う話で領主には紹介されているのだ。
「行くのは昼過ぎからだから、そんなに遅くはならない筈だ。でも帰りが遅かったら夕食は適当に食べておいてくれていいからな」
「わかりました。えっと……お気をつけて」
「あぁ。まぁ、ただの挨拶だから心配ないさ」
少し不安げな様子のラーニャに笑いかけるとセンはシチューを口にする。
(やはりラーニャは権力者にあまりいい印象を持っていないようだな。まぁ……ラーニャの苦手な衛兵のさらに偉い人、って認識なんだろうが)
同じく衛兵に怯えていたニコルやトリスは……ラーニャとは違い普段通りの様子だ。
「明日はこのシチューを使ってグラタンにしたい所だが……オーブンがないな。石窯とか作って貰えるだろうか?」
「グラタンってなんですか?」
「正確には違うんだが、このシチューを少し味付けし直してとろみをつけた後にチーズとパン粉を塗してオーブンで焼くんだが……焼くための設備がなくてな」
「焼くなら……外でたき火でもしますか?」
ラーニャが首を傾げながら提案してくるがセンはかぶりを振る。
「多分直火はダメだと思う……少なくとも俺はその作り方はしたことがないしな。熱をじっくりと時間をかけて中まで浸透させていかないといけないんだが……すまん、俺も上手く説明が出来ない」
難しい表情で首を傾げているラーニャを見てセンは苦笑する。
「まぁ、今度誰かに聞いてみよう。しかし、石窯があったらピザも作りたい所だな……」
「センさんは色んな料理が作れるんですね」
「大した事ないさ。所詮素人料理、本格的に料理を勉強したいんだったら宿のおっさんの所に行くか……エミリさんの所の料理人に習うとかかな?」
「エミリさんの所の……」
「今度エミリさんに相談してみたらどうだ?」
センがそう言うとラーニャが少し考え込む。
(ラーニャが料理の事になると結構アクティブだからな。俺の知らない間におっさんや、ライオネル殿の家の料理人に習っていたみたいだし……そう言えば、今度ストリクに行った時におっさんに礼を言っておかないとな。料理を習っているなんて気づかなかったからな……お礼に調味料でも持って行くか)
ラーニャが考え込むのを見ながらセンは手早く食事を済ませて行った。
センの提案以降、ラーニャはずっと考え込んでいたが……誰よりも量を食べたのはやはりラーニャだった。
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