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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第51話 雑談
しおりを挟む「申し遅れました、私はセンと申します。魔法王国ハルキアの方から来ました」
「これはご丁寧に。私の事はクリスとお呼びください」
センが自己紹介をすると人の良さそうな笑みを浮かべたまま老人……クリスが名乗る。
「クリス殿はシアレンの街は長いのですか?」
「そうですな……かれこれ四十年以上になりますかな?」
少し考えるそぶりを見せながらクリスが答える。
「四十年以上ですか……そうなると、この街で知らない事は無いと言った感じですか?」
「ほっほっほ、そうとも言い切れないのがこの街の面白い所ですな」
少し自慢げに笑うクリスを見ながらセンが首を傾げる。
「そうなのですか?」
「御存知の通り、この街は少々交通の便が悪いのですが……人の出入りは激しいのです」
「少々というか、かなり往来は厳しいと思いますが……」
センの言う通り、シアレンの街は険しい山に囲まれており道の開拓もそこまで進んでいない。ダンジョンが存在しなければこんな場所に街を作ろうとは誰も考えないであろう位置にある街だ。
「ほっほっほ、その通りです。しかし、そんな不便な場所にも関わらず人、はこの街を目指してしまうのです。センさんも然りですな」
「なるほど……」
センの呟きに満足そうな表情を浮かべたクリスは話を続ける。
「やはり一番多く訪れるのは探索者の方々ですが、商人や職人……後は、他国の貴族や軍属の方も来られることがありますね」
「商人や軍属の方は分かりますが……職人や貴族の方は何をしに来られるのですか?」
「職人はダンジョンで採れる素材を求めたり、探索者用の武器や防具を作り腕や名を上げたりする事を目的にしていますね。貴族の方はダンジョンで採れる珍しい素材や武具辺りを買い求めに来たり、探索者に出資したりですかね?」
(あぁ、なるほど。スポンサーになったり……広告塔になって貰ったりするわけか。ダンジョン探索はそれなりに名誉にもなるってことだな)
センがダンジョンに来る人々の理由に想いを馳せていると、クリスは少しキョトンとした様な表情になる。
(ダンジョンを調べに来たと言う割に無知を晒しすぎたか……まぁ、別に問題はないが)
そんな風に考えながらも、センは愛想笑いをしつつクリスに問いかける。
「ところで……クリス殿も元探索者だったりするのですか?」
「おや?そう見えますか?」
少しだけ雰囲気を変えたクリスが首を傾げながら言う。
その姿は何処からどう見ても普通の老人のそれであるが……センの目には全く違う物に見えている。
クリスのレベルは20。
今までセンが見たどの人物よりもレベルが高い。
(戦うこととレベルの因果関係はまだ分からないが……一般人に比べて荒事を生業としている人間の方がレベルは確実に高い。まぁ、その辺りはこの街で調べられるとは思うが……)
センは、一度横道にそれた思考を中断してクリスに笑いかける。
「いえ、四十年以上前にこの街に来られたということは、恐らく十代辺りの事かと思いまして……その年頃の人間が自分の意思でこの街にくるなら、一番可能性が高いのは探索者かなと思ったわけです」
「なるほど……」
「それに商人や職人であれば……まだまだ現役で働かれていそうなお年頃ですが、昼のこの時間にのんびりされている事からも違うかなと。他国の貴族や軍属の方が四十年以上も住み着いているとも思えませんしね。以上の事からある程度成功を収めた、元探索者の方かなと推測しました」
センの言葉を聞き驚いたような表情になったクリスだったが、すぐに破顔して機嫌が良さそうに笑いだす。
「ほっほっほ。なるほどなるほど、面白い推測ですな。確かに私は元探索者ではありますが、成功を収めたとまではいきませんな。まぁ、五体満足で引退できたと言う意味では成功といえますが……流石にこの年まで悠々自適な生活を出来る程の成功ではありませんよ。今でも老骨に鞭を打って働いております。今日は休日というわけです」
「そうなのですか……探索者とは思っていたよりも夢の無い感じなのでしょうか」
(命を賭けてダンジョンに挑んで……引退後にも働かなければならない程度しか稼げないのか?)
「ほっほっほ、申し訳ない。前途ある若者に世知辛い話をしてしまいましたな!」
センの言葉に再び愉快そうにクリスが笑う。
「いえ、私は探索者志望というわけではありませんから」
「ほっほっほ、そうでしたな。まぁ、探索者は夢の無い職業とは言いませんよ。運が良く、実力もあれば一攫千金も叶います。そうでなくとも中堅以上の探索者であればそれなりの資産を抱えている筈です」
「命を賭けるに見合った報酬はあるという事ですか」
(まぁ、俺が命を賭けたところで銅貨一枚も稼げないだろうがな)
クリスには気づかれない程度に口元を歪ませるセン。
「そうであれば良いのですが……私としては危険の方が稼ぎを上回っていると思いますな。特に新人の死亡率は非常に高い。ベテランともなれば引き際を心得ておりますが……そこに至るまでに脱落してしまう者が大半です」
(日常的に戦うような仕事だ……当然だろうな。いくらこの世界の人間が元居た世界の人間に比べて頑丈で強いと言っても、痛い物は痛いわけだしな。それに魔物ってのは相当強いみたいだし……)
ケリオスと初めて出会った時の事を思い出したセンは、若干顔を顰める。
「私自身がダンジョンに行くことはほぼないと思いますが……もし行かなければならないことがあれば……今の話を肝に銘じておきたいと思います」
「ほっほっほ。センさんは引き際をしっかりと見定められそうですな。そういう冷静でいられる心こそ、ダンジョンでは大事です。戦いに勝つことが勝利ではありません、生き延びる事こそが勝利なのです」
「そのお言葉、私の信念そのものとも言えるかもしれません。深く心に刻んでおきます」
「……本当に老成なさっておられますな。センさんみたいな若者が増えてくれれば、若い探索者が無為に命を散らすことも無くなるのでしょうかねぇ」
しみじみと言うクリスの目が遠い所を見る様に細められる。それが在りし日の探索者達の姿を思い出しているように感じられ……センは少しだけ明るい口調でクリスに言葉を返す。
「どうでしょう?私みたいな考えの者が増えたら……誰もダンジョンに行かなくなってしまうかもしれませんよ?」
「ほっほっほ、それは困りますなぁ。街が立ち行かなくなってしまいます。是非とも若者たちには無理をしない程度に頑張って貰いたい」
先程までとは表情を変え、冗談めかして言うクリスにセンも笑い返す。
「そうですね、私はそんな方々を陰ながら応援させて貰いたいですね」
「ほっほっほ。そこは是非とも、お任せくださいと言って貰いたい所でしたな」
「ははっ、それは申し訳ない。私には荷が重すぎます」
センが肩をすくめながら言うと、クリスは楽し気に肩を揺らす。
「そんな控えめなセンさんに一つお尋ねしたいのですが、この街の第一印象はどうですか?」
ニコニコとしながら聞いてくるクリスに対し、センは少しだけ考えるそぶりを見せた後答える。
「そうですね……活気があって非常に面白い街だと思います。それとここに来る前は探索者が多いという事で、もっと荒っぽい感じの雰囲気かもしれないと覚悟していたのですが、思っていた以上に治安が良さそうですね」
「ほっほっほ、そうですな。私のような老人や、あの子達の様な子供でも安心して歩けるくらいには治安は良いですな」
屋台で色々と買い込んだラーニャ達がこちらに戻ってくるのを見つつ、クリスが言う。
センもそちらを見ながら軽く頷き言葉を続けた。
「少しだけ気になることもありますが……まだまだ発展の余地がありそうな面白い街。それが私のこの街に対する第一印象ですね」
「ほう……発展の余地、それに気になる所ですか。もう少し詳しくお聞きしたい所でしたが……随分長く話し込んでしまいましたし、私はそろそろ失礼させていただきますね。ご縁があったらまたお話を聞かせて下さい」
「えぇ、機会がありましたら是非。色々と教えて頂きありがとうございます」
子供たちが戻ってくると同時に立ち上がったクリスが、にこやかな笑みで子供達に軽く頭を下げて去っていく。その後ろ姿を見ながら、センは現地の年配の方との会話はやはり色々と情報が得られるなと満足気だった。
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