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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第50話 ダンジョンの街の住人
しおりを挟む「きゃっ!?」
勢いよく開かれた扉に驚いたラーニャが小さく悲鳴を上げて尻もちをつく。
「大丈夫か?ラーニャ」
ラーニャが扉に触れる前に勢いよく開いたので、驚いて転んだだけだろう。センは転んでしまったラーニャを助け起こしながら扉を開けた人物の方を見る。
しかし、どんな相手が開いたのか……センにはよく分からなかった。
「す、すまない。人がいるとは思わず!大丈夫だろうか!?」
扉を開けた人物は両手に大きな荷物を抱えていて前が見えていないようだ。
当然荷物に阻まれてセン達からもその人物の顔は見えない。
荷物の陰から必死に首を伸ばしたその人物は、ラーニャが転んでいたのに気付き慌てたように声を出した。
「こ、子供?す、すまん!大丈夫か!怪我をしてはいないだろうか!?」
荷物を脇に下ろしながらラーニャに声を掛ける人物を見て、センはぎょっとする。
その人物はライオネルにも負けない体躯を持った、二足歩行する蜥蜴の様な見た目の人物だった。
「ルデルゼン何してる!早くしろ!」
少し離れた位置にいる探索者らしき装いの人物が、セン達の方に向かって声を上げる。
ルデルゼンというのが恐らくこの人物の名前なのだろう。
「ラグ!少し待って欲しい!……本当にすまない、大丈夫だろうか?」
「あ、はい。大丈夫です。びっくりして転んだだけなので」
ラーニャもセン同様にルデルゼンの容姿に驚いた様子ではあったが、丁寧な物腰のルデルゼンを見て少し落ち着いたようだった。
「そうか……もし何か怪我をしている様だったら、探索者ギルドで『陽光』のルデルゼンを訪ねて来て欲しい」
そう言って頭を下げるルデルゼン。
「承知いたしました、ルデルゼン殿。本人も言っているように、驚いて転んだだけなので大事はないと思いますよ」
センがそう言って頭を上げるように伝えると、ルデルゼンは頭を上げて腰に着けているポーチを探りポーションを取り出した。
「足を捻っている可能性もあるので、念の為ポーションを持って行って欲しい」
「いえ、そこまでしていただかなくても……」
ポーションを差し出してくるルデルゼンにセンが断りを入れようとした所、先程のルデルゼンを呼んでいた人物が再度声を張り上げる。
「おい!ウスノロ!いい加減にしろ!いつまで待たせる気だ!」
「慌ただしくて申し訳ない!君も本当にすまなかった!失礼する!」
センにポーションを押し付けたルデルゼンは、荷物を抱え直すと急ぎ足で文句を言っていた人物の元へと向かって行った。
流石に呼びつけられている人物を引き留めてポーションを返すわけにもいかず、センはラーニャの顔を見て肩をすくめるとカバンにポーションをしまい込んだ。
「びっくりしました」
ラーニャが去っていくルデルゼンの背中を見ながら、呆気にとられた様に呟く。
「あぁ……彼は蜥蜴人族とでもいうのだろうか?」
「確か蜥蜴人族であっていると思います。僕も初めて見ましたが……凄く強そうでしたね」
ニコルの言葉に頷いたセンは薬屋の方に視線を向ける。
「珍しい種族なのかな?彼以外に今日見かけていないよな?」
「……見てない。おっきかった」
「そうだな……人も良さそうな感じだったし……もしまた会えたら、落ち着いて話をしてみたいものだな」
センは扉に手をかけてゆっくりと開く。
今度は誰も出て来ることなく、すんなりと店内に入ることが出来たセン達は店の商品を眺めた後、店主に挨拶をして色々と話を聞いた。
色々な店を回り必要な物を購入したセン達は、屋台がいくつも出ているフードコートの様な広場に来ていた。
テーブルや椅子が置かれていて、屋台で買った物をそこで食べることが出来るようになっているようだ。
「ここで少し休むか。お腹もすいただろ?好きな物を買ってくると良い」
「はい!じゃぁ、センさんはここで待っていてください!荷物は置いていくのでお願いします!」
「分かった。なんかおいしそうな物と……飲み物を適当に頼む」
「はい!じゃぁ、ニコル、トリス。とりあえず一周してどんなものがあるか調べてからね!」
「えっと……姉さん。お店の数凄い沢山あるみたいだけど……」
ラーニャの提案にニコルが引きつった笑みを浮かべながら言う。
広場はかなり広い。そして、それに比例して屋台もかなり多く、ざっと見ただけでも二十軒は下らないように見える。
「うん、そうだね!楽しみだね!」
「「……」」
ニコルとトリスが助けを求める様にセンの方に視線を向ける。
その視線を受けたセンはラーニャにゆっくりと語り掛けた。
「あー、ラーニャ。確かに美味しそうなものを吟味して探すのもいいと思うが……」
「はい!がんばります!」
いい笑顔で返事をするラーニャを見て、センは思わず「うん、頑張れ」と言いそうになったが、縋る様な視線を向けてくる二人の事を思いその台詞をぐっと堪えて言葉を続ける。
「あぁ……でも、あれだ。今日から俺達はここに住むだろ?それなのに、全部を一気に見てしまうのは……勿体なくないか?それに一つ一つのお店にそれぞれ特色があるはずだ。それを表面だけなぞって決めてしまうのは、更に勿体なくないかな?」
「うーん、それは確かに勿体ない気がします」
「だろ?だから……とりあえず向こうにある三軒のお店から適当に選んで買ってきたらどうだ?」
そう言ってセンは適当な店を指差す。
少しだけ思案する様子を見せたラーニャだったが、やがて頷くと笑顔で応じた。
「分かりました!いつでも来られるわけですし、のんびりと開拓していくことにします!ニコル、トリス!行こう!」
スキップでもしそうなくらい上機嫌なラーニャに後を二人が着いて行くが、一瞬センの方に感謝の視線を送って来た。
(何とか、空腹時に食事を目の前にしながら何十店も見学するという苦行を回避できてよかった。ラーニャの性格上、一度全ての店をチェックしてからその上でどの店で買うか熟考するだろうからな……)
「ほっほっほ、元気なお子さん達ですなぁ」
三人を見送ったセンに、近くに座っていた老人がにこやかに話しかけてきた。
「騒がしくて申し訳ありません」
「いやいや、そう言う意味ではないですよ。子供が明るく元気なのはとても良い事です。こちらまで元気になるようだ」
そう言って笑う老人は、好々爺然とした表情でラーニャ達の後ろ姿を見る。
「そうですね……私にはないパワーを貰えるような気がします」
「ほっほっほ。お若いのに随分と老成したことをおっしゃいますな」
老人の言葉にセンは思わず苦笑してしまう。
センの見た目は現在十八歳まで若返っているが……そもそも元の世界でも三十六歳で老成するには早すぎる。
そんなセンの内心には気づかず老人は話を続ける。
「ところで……失礼ながら漏れ聞こえてしまったのですが、何やら、今日からこの街に住まわれるとか?」
「……えぇ、今日この街に着いたばかりでして。こうして生活用品を買いに出てきたところです」
センが傍らにおいてある荷物を示しながら言うと、老人は納得したように頷きながら言葉を続ける。
「なるほど、ここには一休みといったところですか。しかし、あの年頃の子供たちを連れてこの街に移住してくるとは珍しいですな。見たところ探索者と言う訳でもありますまい?」
「えぇ。ダンジョンに興味がありまして……研究者、と言うと大仰ですが……そんな感じのものですかね?」
「おや、学者先生でいらっしゃいましたか?」
「あはは、そんな高尚な者ではありませんよ。ただの興味、趣味といった所です」
センが笑いながらかぶりを振ると、老人は納得したようににこやかな笑みを浮かべる。その様子を見て、センは情報収集を兼ねて老人と暫く世間話に興じることにした。
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