召喚魔法の正しいつかいかた

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2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く

第46話 あきらめた

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「ところでエミリ。セン殿の考える玩具だが……シアレンよりも王都で売った方がいいんじゃないかな?」

 まだ口約束ではあるが、玩具の販売契約を取ったエミリにライオネルが話しかける。

「確かにそうですわね。まぁ、セン様のお陰でどの街で売るという事はそこまで考慮しなくてもいいのですが」

「だが注力する場所はしっかりと考えた方がいいだろ?シアレンよりも王都で販売した方が売り上げは上がるし、何より注目される、流行を作ることが出来るだろう」

「お父様のおっしゃる通りですわね。王都には生活に余裕のある家も多いですし、流行に敏感な貴族の方も多いので、大々的に売るなら王都がいいと思いますわ」

 センと商談していた時とは打って変わって、余裕のある笑みを浮かべながらエミリがライオネルに同意する。
 恐らくライオネルが何を言いたいのか既に察しているのだろう。

「ならば、折角エミリが見出し、手に入れた商材だ。商品展開もエミリが主導してやったほうがいいだろう」

「えぇ、そうですわね。シアレンの街でどのくらい販売できるか分かりませんが、頑張ってみます。王都での販売はお母様、お願いしてもいいでしょうか?」

「あら、私でいいの?」

「はい。シアレンに行っても、最低月に二回はセン様と一緒に王都に戻ってきますので。方針についてはその時に決めるとして、細かい実務に関してはお母様にお任せしたいと思います」

「……」

(ライオネル殿……エミリさんを王都に引き留めようとしていたのに、怒涛の勢いで話が進められてしまったな。しかも引き留めようとしている事を見透かされて、若干蚊帳の外に置かれている感じが哀愁を誘う……)

 若干遠い目で母娘の会話を見ているライオネルの姿を見て、センは生暖かい視線を送ってしまう。
 その間にもどんどんと打ち合わせが進んでいくが、その途中でサリエナがセンの方を見て何かに気付いたようにエミリに話しかける。

「そういえば、エミリ。セン様にアドバイスを貰いたいって言う話、うやむやになっていないかしら?」

「お母様……ありがとうございます。物凄く魅力的なお話を頂けたので、すっかりその話が抜けてしまっていましたわ」

「玩具の話は私からしたわけではありませんが……どうでしょう?エミリさん。契約と言う形ではなく、友人として今日の様に話をするという感じでは駄目ですか?」

「友人としてですか?」

「えぇ。仕事として請け負ってしまいますと、私自身のやりたい事から遠ざかってしまいますので……申し訳ありません」

 センがそう言って軽く頭を下げると、エミリがかぶりを振る。

「いえ、私の方こそ不躾なお願いをしてしまって申し訳ありません。セン様に傍でアドバイスをしていただければ、とても面白いお話が聞けると思って気が逸ってしまいました」

 少し顔を赤らめながら言うエミリに、センとサリエナが笑みを浮かべる。

「大丈夫ですよ、エミリさん。それと……友人としての言葉という事なので、もしそのやり取りから商品が生まれても、金銭のやり取りは無しという事でお願いしますね」

 センがにっこりと笑顔で伝えるとエミリの表情が強張る。

「……セン様。それは許していただけませんか?是非とも正当な報酬をお支払いしたく……」

「うーん、では、その時はまた商談ですね」

 にっこりと告げるセンに、若干引き攣った笑みを浮かべるエミリ。
 そんな二人の様子を嬉しそうに見るサリエナ。
 因みにライオネルは、二つのお願いが叶わなかったのだからシアレンに行くのは止めて王都で仕事をするべきでは?という台詞をぐっと堪えていた。
 商人たるもの空気を読む力は非常に重要だ。いつも一緒にいる愛娘の想いすら読み取れないで海千山千の商人達を相手に出来る筈がない。
 理性では十分に理解しているのだが……父親としての本能が、娘を遠くの街、しかも他国にやることを拒んでいる。例え、センの能力で一瞬にして行き来できるとしても、嫌な物は嫌だった。
 そんなライオネルの葛藤を他所に、母娘はエミリのシアレン行きの話の詳細を詰めていく。
 いや、センから見た感じ……ワザとライオネルを放置して話を進めているように見えた。

「では、シアレンの街での補佐はお母様にお願いするという事で」

「えぇ、任せて頂戴。ですが、エミリ。私がやるのはあくまで補佐、貴方が貴方の判断で取り仕切るのですよ?」

「はい、勿論ですわ」

「……」

 せめて補佐だけでもライオネルがやれるようにするべきだったのではないかと思ったセンだったが、完全に口を挟むタイミングを失ったライオネルの哀愁漂う姿を見ながら今後の事を考え始める。

(シアレンにはエミリさんが行くのは確定のようだな。暫くはサリエナ殿も行く感じになりそうだが、ライオネル殿は大丈夫だろうか?この流れだと一人だけ王都で留守番となりそうだが……まぁ、移動手段は確保しているから、俺としてはどちらでも構わないのだが)

 ライオネルの味方をする気は全くないセンだったが、ライオネルがすがるような視線をセンに向けてきたことで内心ため息をつきつつ母娘に話しかける。

「私が口を出すことでもありませんが、サリエナ殿は王都で玩具販売を手掛けられるのでは?」

「えぇ、そうですわ。ですが王都であれば既に箱は出来ていますから……私がするのは大まかな方針の指示。後は部下たちが手抜かりなくやってくれますわ」

「なるほど……」

(まぁ、そりゃそうだ。新しくおもちゃ屋を立ち上げるってわけじゃない。一から十まで全てトップが面倒を見る必要はない……玩具自体は俺が適当に作れるような代物だし、生産体制もすぐに整うだろう。一瞬で真似をされそうな気もするが……その辺は大手商会としての力が物を言うのかもしれないな。若しくは商人ギルドとかで特許申請とか受け付けている可能性もあるか?っと……思考がずれたな。とは言え……この流れでは厳しいな。方向性を変えてみるか)

 最低限の誠意を見せる為、センはもう少しだけ頑張ってみることにしてライオネルへと向き直る。

「ところでライオネル殿はシアレンには向かわないのですか?」

(水は向けるので、ご自身で何とかしてもらえませんか?)

「シアレンですか……最近行っていないので少し気にはなりますなぁ」

(セン殿!感謝いたしますぞ!)

 男同士アイコンタクトで意思の疎通をした後、ライオネルは更に言葉を続ける。

「あの街の領主は中々面白い御仁でしてな。何度か会った事がありますが、セン殿とは気が合うやもしれませぬな!向こうに行ったらご紹介いたしますぞ!」

 エミリを引き留めることは諦め、補佐役を自分にしてはどうだと遠回しに攻めることにしたライオネル。上役と顔つなぎが出来るから自分を補佐にした方がいいのではないか?そんな思いを込めて娘の方をチラ見するライオネル……しかしそんなライオネルの思惑をサリエナが一刀の元に斬って捨てる。

「さすがね、ライオネル。私も何度か会った事がありますが……夫の言う通り、かの御仁とセン様は気が合うかもしれません。向こうに行ったら紹介させていただきますわ」

「……それはありがたい。是非お願いします」

(ライオネル殿!全然アドバンテージが取れていないではないですか!)

(まさかサリエナも知己であったとは露とも知らず!)

 男二人の心の会話に気付いている様子のサリエナがクスリと笑う。

「お母様。私もあの街で事業を展開するのですから、是非紹介していただきたいですわ」

「勿論ですよ、エミリ。でも、セン様とは別の時に紹介しますわ。セン様と一緒に行っては覚えてもらえないかもしれませんし」

「酷いですわ!」

 またも蚊帳の外に置かれるライオネルを尻目に、楽しそうに会話をする母娘。
 もはや形勢を覆すことは無理だろうと諦めるセン。
 大人と対等に話すエミリの姿を見て、憧れや悔しさ等色々な物を感じているラーニャ。
 笑顔を浮かべるエミリの姿に見惚れつつ、話をしっかりと理解しようと努めるニコル。
 今日の晩御飯はなんだろうと考えるトリス。
 それぞれの思惑が交差することはあまりなかったが……ダンジョンの街、シアレンに行く準備は進められていった。

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