43 / 160
2章 召喚魔法使い、ダンジョンの街へ行く
第43話 豹変
しおりを挟む「素晴らしいですわ!セン様!本当に素晴らしいですわ!」
興奮を抑えられない様子のサリエナが、目を輝かせながらセンを絶賛している。
(さっきまでとは随分と様子が違うな……)
王都観光から戻ったセン達はライオネルにサリエナを紹介してもらった。
センとしてもライオネルの共同経営者であるサリエナには、色々と説明しなければならないと思っていたので丁度良い。しかし、表面上は非常ににこやかで丁寧な対応をするサリエナではあったが、どことなくセンの事を疑っている節が見える。
勿論センとしても、自分のうさん臭さは十分理解している。それ故、警戒されるのは当然の事で特に気にしてはいない。寧ろ、突然現れた若造に対し警戒を全くしないよりも、安心できる態度だったと言えた。
そして、ライオネルの提案でサリエナともライオネルの時と同じ契約を交わし、サービスの内容を説明した所、サリエナは度々鋭い視線をライオネルに向けていた。
勿論センに気付かれない様に、センがライオネルの方に顔を向けた時やお茶を飲む瞬間を狙っての事ではあったが……センはそれにばっちり気付いていた。
ライオネルはライオネルで、サリエナのその視線を受けながら楽しそうな様子を崩さず、それがより一層サリエナの怒りを買っているのは間違いない。
そして、一通りの説明が終わった後、満を持してセンの召喚魔法を実践してみせ……現在に至る。
「箱から出たら別の場所ですわ!ライオネルの言う事が本当ならここはストリクの街なのでしょう!?」
「そうですわ、お母様。ここは私が先日まで住んでいたストリクの街にある館です」
大興奮のサリエナを微笑ましいと言った様子でエミリが見ている。
(浮かべている表情が親子逆のような気もするが……流石親子と言った感じだ、よく似ている。ライオネル殿の要素は、まったくエミリさんには引き継がれなかった感じは否めないが)
色々と失礼なことを考えながらセンが二人を見ていると、部屋の様子や窓の外から見える街並みを確認していたサリエナがセンへと向き直る。
因みに説明をしていた場にはエミリもしっかり同席しており、終始すまし顔をしていたのでエミリもライオネルと同罪だろう。センは、エミリも内心ニヤニヤしながらサリエナの事を見ていたと確信していた。
(それにしても……ライオネル殿の元ライバルと言う話だったからてっきり同年代だと思っていたのに、随分と若い奥さんだよな?俺の元の年齢より若いんじゃないか?)
サリエナは非常に見た目が非常に若く、三十代前半くらいにしか見えない。しかし実年齢はライオネルと大差なく五十目前である。
現代日本に比べ、化粧品やエイジングケアの技術に劣るこの世界の人間としては、化け物の類だろう。
「セン様!これは本当に素晴らしいお力ですわ!遠くの街に一瞬で移動できますのね!」
「えぇ。まぁ、これはついでみたいなものですが……王都に戻ってライオネル殿と事業内容の詳細について打ち合わせしますか?」
「勿論ですわ!ライオネルの言っていた事業計画を確認しなくては!セン様と契約を交わすまで絶対に見せないと言われていましたの」
物凄くはしゃぐサリエナは少し口を尖らせながら言うが……王都でセンと話していた時とはかなり様子が違う。
(っていうか精神年齢が下がっているような……)
「お母様、少し落ち着いてください。セン様が引いておられますわ」
「あら、申し訳ありません。あまりの出来事に興奮してしまったようですわね。セン様、王都に戻るのも一瞬なのですか?」
娘に指摘され、一気にクールダウンし別人のようにきりっとしたサリエナを見て、どちらかと言えばその姿に若干引いたセンだったが、そんなことはおくびにも出さず返事をする。
「えぇ。すぐに戻れます」
「では、お手数ですが、お願いしてもいいですか?ライオネルも含めて色々とお話しさせていただきたいのです」
そう言って微笑むサリエナの笑顔はやはりエミリに似ている。
「お母様……私も参加させていただきたいですわ」
「そうね……セン様、エミリも打ち合わせに参加させてもよろしいでしょうか?絶対に邪魔にはならないとお約束いたします。この子は親のひいき目抜きにしても聡明な子で、お役に立てることもあると思います」
「勿論、私は構いませんよ。サリエナ殿のおっしゃる通りエミリさんの聡明さには疑う余地はありませんし……エミリさんのお話も是非お聞きしたい所です」
そういってセンがエミリの方を見ると、やはりサリエナそっくりの笑顔でエミリが微笑んだ。
「……セン様の提供して下さるサービスを活用するなら、確かにこの配置がいいわね」
王都に戻ったセン達はライオネルの書斎で打ち合わせをしていたが、既に事業計画を纏めていたライオネルの資料に従って進めていくことで決まった。
今この部屋にはセンとライオネル、サリエナにエミリ……そしてラーニャ達三人も同席していた。
エミリはともかく、ラーニャ達はここで行われている会話の内容など一切理解できていないだろうが、それでも真剣に話を聞いている。
「しかし……この利率は凄いですね」
「えぇ、セン殿のお陰ですな。輸送にかかるコストと危険の軽減だけではありません。何より地方の特産品を大量に輸送出来るのも大きいのです」
「珍しい生鮮食品や酒類は王都受けがいいでしょうね。後は調味料の類も……何より破損や商品を失うリスクが殆ど無いのが素晴らしいですわ」
「食品関係は鮮度もな」
センはライオネルの事業計画と利益予想を確認させて貰っていた。最初は外様であるセンが見て良い資料ではないと遠慮していたのだが、ライオネル達に是非確認して貰いたいと押し切られて一緒に見ることになっていた。
(まぁ、こういった資料を見せてもらえるのは助かる。大まかな経済規模や各種税金に経費……それに色々な売れ筋商品。あの冊子とは比べ物にならない程、多くの情報が得られる……む、この調味料や食材は俺も欲しいな……)
資料を見ながらセンが自分の欲しい商品に目をつけていると、同じく資料を見ていたエミリが口を開く。
「輸送にコストがかからなくなった分、販売価格を下げることはしないのですか?」
「エミリ、相場を荒らしてはいけない。値段を下げれば私達の商品は売れるだろう、それはつまり他の商人達は商品が売れなくなるということだ。その商人達が物を売ろうとすれば私達と同程度かそれ以上に値段を下げるしかない」
「……それは不可能ですわ。一時的な安売りならともかく、こちらは恒常的にコストを下げることで値段に反映させることが出来るのです。それに引き換え、他の商人達は入荷できる数もそう簡単に増やすことは出来ませんし、利益が減るだけで遠からずと言わずに破綻します」
ライオネルの話にエミリは少し考えた後自分の考えを言う。エミリの言葉をライオネルは嬉しそうに、サリエナは目を瞑ったまま聞いている。
「セン様は、当面ライオネル商会以外にサービスの提供は行うつもりがないとおっしゃっていました。つまり、ライオネル商会と同じ方法を取ることが出来ない他の商人達と、価格競争になった場合……」
そこまで言ったエミリが言葉を切って俯く。
「うん、その通りだ。そしてライバルが減るのは必ずしも利益に繋がるとは限らない。他の商人達はライバルであると同時に仲間でもある。持ちつ持たれつというのはとても大事だ」
(この世界では輸送量をそう簡単に増やすことは出来ないし、工場による大量生産も行われていない。供給と需要のバランスは常にカツカツだろう……他の商人が潰れてしまえば更に供給が下がってしまう。いくら大量輸送の目途が立ったとしても、ライオネル商会だけで支えることは不可能だ)
センはライオネル達の言葉を聞きながら、この先ライオネル商会の規模を広げていくために必要な物を考える。
(物と資金、流通システムはある。後は人と土地だが……それは俺がどうこう言える問題じゃないな。そもそも土地はともかく、簡単に人と言っても管理職を育てるのはそんなにすぐにどうこう出来るような話じゃない)
顎に手を当てつつ真剣な表情で何かを考えているエミリを見て、センは苦笑する。
(まぁ、ライオネル商会の後継者は頼もしい限りだが……)
0
お気に入りに追加
97
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
鑑定能力で恩を返す
KBT
ファンタジー
どこにでもいる普通のサラリーマンの蔵田悟。
彼ははある日、上司の悪態を吐きながら深酒をし、目が覚めると見知らぬ世界にいた。
そこは剣と魔法、人間、獣人、亜人、魔物が跋扈する異世界フォートルードだった。
この世界には稀に異世界から《迷い人》が転移しており、悟もその1人だった。
帰る方法もなく、途方に暮れていた悟だったが、通りすがりの商人ロンメルに命を救われる。
そして稀少な能力である鑑定能力が自身にある事がわかり、ブロディア王国の公都ハメルンの裏通りにあるロンメルの店で働かせてもらう事になった。
そして、ロンメルから店の番頭を任された悟は《サト》と名前を変え、命の恩人であるロンメルへの恩返しのため、商店を大きくしようと鑑定能力を駆使して、海千山千の商人達や荒くれ者の冒険者達を相手に日夜奮闘するのだった。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。
いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成!
この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。
戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。
これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。
彼の行く先は天国か?それとも...?
誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。
小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中!
現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる