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1章 召喚魔法使い、世界に降り立つ
第36話 謝罪
しおりを挟むセンの見えないところで逮捕劇があった翌日、ケリオスから無事誘拐犯を全員捕まえることが出来たと手紙で連絡が来た。
管轄が違う為ケリオスの上司である中隊長は口出しすることが出来ず、ケリオスがその姿を見たところ狼狽どころの状態ではないそうだ。
センとしては是非ともその姿を見学しておきたい所だったが、当分はその顔を見ることは出来ないだろう。
(まぁ、今はそれよりもこちらが問題だな。昨日で一段落ついた事だしきちんと話をしないとな)
ケリオスから貰った手紙から目を上げて、センは目の前に居る三人に意識を向ける。
時刻は昼過ぎで、昼食前まではラーニャ達とエミリを含めた四人にセンが勉強を教えていた。しかし食事を終えたエミリは日課である市場調査に出かけ、残されたセン達はライオネル邸の一室でのんびりと過ごすことにした。
三人は今、センが作ったカードで神経衰弱をして遊んでいるが……センが手紙から顔を上げたのに気付いたトリスが顔を上げてセンに話しかける。
「兄様も……やる?初めから」
「トリス!もう覚えてるやつが無いからってずるいよ!?」
どうやら自分の手番で動きを止めていたトリスが、センに声を掛けてゲームを仕切り直そうとしているようで、ラーニャが文句を言っている。
相変わらずトリスは要領よく、そして図太いようだ。
「そうだな……そのゲームが終わったら少し話をするか」
「……兄様はいじわる」
三人の顔を順番に眺めたセンは、最後にトリスの顔を見て笑みを浮かべながら言うと、不満そうにトリスが頬を膨らませた。
「センさんが正しいんです!さぁ、トリス!早くめくって!」
逆にセンの言葉に、我が意を得たりといった様子のラーニャがトリスを責める。
そのままゲームは続けられ……結局、のんびりとした様子で姉妹の事を見ていたニコルが優勝した。
(こうして見ていると、それぞれの得意な分野がはっきりと見えてきて面白いな)
ラーニャは計算、分析系が得意で、トリスは発想やひらめき系。そしてニコルは記憶や論理辺りが得意な様だった。
(ラーニャが理系でニコルが文系、トリスは……芸術系か?)
今回三人が遊んでいたのはニコルが得意としている神経衰弱だが、センはこれ以外にもいくつかおもちゃを与えている。タングラムパズルはトリスが得意としていて、ナンバークロスのような数字パズルはラーニャが得意としていた。
ちなみにババ抜きはトリスが強く、ラーニャがダントツで弱かった。
セン達のババ抜きは一対一、それぞれ手持ちが二枚と一枚の状態からスタートするので、勝負は一瞬で決着することが多い。カードを沢山作るのが面倒だったセンが三枚だけで出来る遊びとして提案したのだ。
それぞれの特徴を思い返しながらセンが楽しんでいると、カードを片付けたラーニャがセンに声を掛けてきた。
「お待たせしました、センさん」
「あぁ。三人とも色々出来るようになって来たな」
「勉強以外は教えて貰ったゲームをやって遊んでいるだけですけど……」
「ゲームで遊ぶのも勉強の一つだからな。これはこれで色々と力となって身につく……と言われているな」
「言われている……?」
センが少し曖昧な言い方をしたところに引っかかったらしく、ラーニャが首を傾げる。
「ゲームをやるときは色々と考えながら遊ぶだろ?そうやって考える力を強くしたりしているって感じらしいな。まぁ、ゲームに限らず、頭を使っていれば鍛えられていくものだけどな。でも楽しみながら鍛えられるならそれに越した事は無いだろ?」
「そういう物ですか……まぁ、楽しいのはいいのですが……最近お手伝いを出来ていないのが……」
ラーニャがそう言うとニコルやトリスも少し表情を曇らせる。
先日の誘拐事件以降、センはまだ三人の外出を殆ど許しておらず、お使いや荷物運びの手伝いが出来ていないことをラーニャ達は気に病んでいた。
「まぁ、ちょっと嫌な事件があったからな。俺が三人だけで外に出したくなかったんだ、すまない」
そう言って三人に頭を下げるセンに対して三人が少し慌てる。
「センさんが私達の事を心配してくれているのは分かっています。でもそろそろ私達も外に出てセンさんのお手伝いをしたいです」
「……そうだな。確かに慎重になり過ぎたきらいはあるかも知れない。それで窮屈な思いをさせたのは本当にすまないと思う。それでだ……その辺りの事も含めて少し話をしようと思う」
そう言ってセンは三人が遊んでいたテーブルに近づき椅子に座った。
正面にはラーニャ、隣にニコル、斜め向かいにトリスがいる。
三人は少し不安げで……しかし、しっかりとセンの顔を見つめセンの言葉を待つ。
「最初、お前達三人に会った時、俺は色々な物が不足していた。だからその足りない部分を助けて欲しいと思って協力してもらうように頼んだ。その対価として安全な寝床や食料、服を用意した」
「……はい」
センがゆっくりと話を始め、ラーニャが緊張した面持ちで相槌を打つ。
「前ニコルには話したんだが、俺は体が弱くてな。病気って意味じゃないぞ?まぁ、力とかが極端に弱いって思ってくれ。ハーケルさんの所に色々と持って行ったり、買い物をした時は荷物を持ってもらっていただろ?今までは俺が一緒に居たけど、最終的にはハーケルさんの所へ納品には三人だけで行って貰うつもりだったんだ」
話を真剣な表情で聞く三人を見ながら、センは言葉を続ける。
「だが、あの誘拐事件があって……俺が失敗したことに気付いたんだ」
「に、兄さんは失敗なんかしません!」
センが失敗したと言った瞬間、ニコルが大きな声でその言葉を否定する。
「いや、すまん、ニコル。お前が信じてくれるのは嬉しいが、俺は普通に色々失敗するぞ?だがまぁ、失敗を失敗で終わらせない様には努力するがな?」
隣に座るニコルの頭を撫でながらセンは苦笑するようにして言う。
「失敗を失敗で終わらせない努力?」
「あぁ、人間誰しも失敗はするものだ。だが失敗したからと、そこで止めてしまえば本当に失敗しただけになってしまう。失敗をしたらそれを次に生かすのも大事かもしれないが……それじゃ遅い。失敗その物を利用する方法を考えるんだ」
「失敗その物を利用……」
ニコルが考え込むようにセンの言葉を反芻する。
(まぁ、世の中には取り返しのつかない失敗ってのもあるが……だからってそこで諦めればどん詰まりだからな。全てを利用する気概で臨まなければ、俺はこの世界で生きていくことは出来ない)
「今回の俺の失敗は、俺の事情にお前たちを巻き込んでしまったことだ。俺の因縁にしろ、財布に目をつけられたにしろ……どちらにせよ、お前たちが誘拐された原因は俺にある。本当にすまない」
(もっとこの子達の安全に配慮すべきだった。最初の拠点を出てすぐの俺はそこまで考えていたはずだ……だが、宿のおっさんやハーケル殿、ケリオスと出会って……その人柄に触れ少し気が緩んでいた)
「……兄さんの言う失敗は……僕にはよく分かりませんが……その失敗をどう利用したのですか?」
(……心なしか、ニコルの目が輝いている気がする。危険な目に合わせたのは俺のせいって話をしているのだが……)
ニコルのワクワクした表情に首を傾げながら、センは質問に答える。
「あー、その組織を捕まえて背後関係を調べているんだ。もしそいつらが俺に因縁のある相手と繋がっているなら、少しでもそいつに関して情報を得られる。もし俺の財布を狙っただけの犯罪だったのなら、少なくともただのアホが相手だったと安心できるってところかな?」
(ケリオスが追いかけている犯罪組織を捕まえるのに役に立つかもしれないってのもあるが、それは俺自身にはあまり関係ないからな)
センの説明に何度も頷くニコル。
慕ってくれるのは嬉しいが……ニコルのその様子に、何か悪影響を与えているような気がして若干不安を覚えるセン。
しかし、今は話を進めなければならないので、ニコルの様子には目を瞑る。
「まぁ、その辺の話はいいとしてだ。俺にはやらなければならないことがある。そしてそれは安全とは言い難いもので、当然俺の近くにいる人間にも危険が及ぶ」
センの言葉を聞き、熱に浮かされていたようなニコルも含め、子供達が表情を硬くする。
「幸い、ハーケルさんやライオネルさんはお前たちの事を知っているし、エミリさんとは仲良くやっているだろ?特にライオネルさんやエミリさんはお前たちの事を絶対に放っておかない」
穏やかな口調で話すセンの言葉を聞き、三人の表情が緊張をはらんだ硬い物から険しい物へと変わっていく。
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